蒼月真16歳。精神年齢は基本16歳、本作"HEROES"の少し変わった主人公であります。
何処が変わっているか。
陰険な目つきもさる事ながら"セシリア・オルコット5"から延々"分岐"まで、未練がましく引き摺った主人公というのもそうは居ないでしょう。1次作なら兎も角2次作で、本人はその都度、吹っ切ったと思っているのがまた滑稽です。ぶり返したこともありました。一夏が呆れるのも無理はありません。
だがしかし、生みの親としてこの一点だけは念を押しておかねばならないとペン(?)を取りました。この真、決して鈍いという訳では無いのです。落ち着いて下さい。今からご説明いたします。
物好き、失礼。心が広い静寐と本音、真がこの2人の少女と出会ったのは入学式でありました。その真が2人の気持ちに気づいたのは作中で"真と、"そう、箒が真をデートに誘ったあの話です。その日は5月中旬、締めて一月半。どうでしょうか、早いとは言えませんが、遅くは無いと私は思う次第です。この2人もアピールらしいアピールしてませんでしたし。
つまり、他人の色恋沙汰に関して一夏には劣るものの、自身への鈍感さは一夏よりはマシ、と言う事であります。ただ残念なことに、真は少しズレておりました。
本日は、あり得たかもしれない、彼女ら彼らが織りなすもう一つの日常を一つご披露いたします。
お題"対抗戦の後STN3人娘が変わらず仲が良かったら?"
2次作でif話もねーだろ、と言うツッコミはご容赦くださいませ。
外伝 とある真のズレた一日
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時は対抗戦が終わり、真がおやっさんと呼ぶ蒔岡宗治邸を訪問して暫く経った頃。
眼光鋭く、腕と足を大きく振り、柊の廊下をずんずんと歩く姿は、野を駆け抜ける戦車の様。ご存じ現代に生きるサムライ娘、篠ノ之箒。直実、頑固。頭に血が上ると周囲が見えなくなり、困ったことにその血が上り易い。少々人騒がせな気質でありますが、古風で純情。根は良い少女でありましょう。だがしかし。古風設定の割に学生服のスカートは短すぎないか、と思うのは私だけでは無い筈。
「真! 居るなっ!?」ばばん、と箒が扉を開ければ目の前には真。但しトランクス一枚。この時既に鈴はおりません、念のため。
「「……」」見合う2人、止まる世界。
「……はしたないぞ」
「~~~~~~~~~~!!!」
部屋に響くのは、手刀を打ち下ろす音と呻き声でありました。
「どうして裸なんだ……」
「ノックを忘れたからじゃないかなー」
顔赤くぶつくさ言いつつ手際よく、絆創膏を貼る箒に、流石の真もあきれ顔です。箒はこほんと一つ咳払い。其処に座れと指さすのはベッドの上。正座で見合うのは箒と真。なんか良くない状況だと、冷や汗を垂らすのは真であります。
彼の不安を他所に、箒がむっすりと突きつけたのは紙ぺら3枚。
「これは?」
「水族館のチケットだ。見て分からないのか」
「3枚有るけど」
「うむ」
「……まさか2人を誘えと?」
「うむ」
「あのさ箒、俺は……」
「聞かん」
「えっと、」
「却下だ」
「勘違いして欲しくないのだが、セシリアに未練があるからと言う訳では無く―」
べしん、と手刀一発。頭をさする真に、詰め寄る箒は鬼のよう。
「真! もうすぐ2ヶ月だぞ! 何時まで引っ張るつもりだ!」
「だ、か、ら、違うって! 俺は誰とも付き合うつもりは無い―」
違う違わない。箒は最近暴力的だ、私は前からこうだ。馬鹿も休み休み言え、俺は馬鹿じゃ無くて阿保だ。言い争うこと30分。息も切れ切れ水を飲み、向かい合うのはやはりベッドで正座。
「真」
「何?」
「知っての通り、あの2人はお前を好いている」
「あぁ」
「お前は日ごろあの2人に迷惑を掛けているな?」
「確かにそうだけど、それならば贈り物でも良いだろ。それは理論の飛きゃくう゛ぇ」
「好いている者から誘われれば嬉しいだろう?」
「……そーだな」
「私とお前と、あの2人の付き合いはほぼ同時だ」
「知ってる」
「共に居る時間ならお前より多い」
「だろうな」
「私の知る限り、お前はあの2人に報いた事は無い。違うなら言ってみろ」
部屋に響くのは折れた溜息一つ。真は腕を組み渋々と。
「箒」
「なんだ」
「セシリアも鈴も大変だったけど箒が一番大変だよ。要求がとても難しい」
「難しくなど無い、お前は難しく考えすぎなだけだ。それで返答は?」
「分かった、誘うよ」
「ふん、まぁ今回はそれで手を打とう」
「で、あの2人には?」
「勿論言っていない。男なら自力で誘うのだ」
(やっぱり難しい)
とこんな事があり、真は平然と誘いました。もちろん2人同時です。ズレ1。「顔色一つ変えてないよー」、「なんか手慣れてない?」。本音と静寐の2人は不満たらたらでしたが、是非にと頭を下げる真をみてまぁ良いかと、顔を綻ばせました。
現場を目撃した清香は語る「なんか中間管理職みたい」何とも泣ける話であります。
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ほのぼのほんわか娘、高Luk本音に、幸薄い真が勝てるはずも無く、当日は、梅雨の晴れ間の良い天気でした。紆余曲折有りましたが、2人にとって漸くこぎ着けた初デート。気合いも入ろうものです。
「本音の髪飾り新しい奴?」
「うん♪」
「静寐は今日ヘアピン無いんだ。ヘアースタイル何時もと違う」
「ん」
「2人ともよく似合ってて可愛いと思うぞ、なら行こうか」
ズレ2。大勢の通行人が何事かと注目します。その視線の先にはぷんすかと歩く静寐と本音。理解していないのは必死に謝る真。
そして彼女らを見ていたのはもう1人。
(ならとはなんだ、ならとは、あの馬鹿……)
木陰から見守るのは箒でした。声を掛けてきたナンパ男が腰を抜かすほどの怒りようです。やはり捨ててはおけん監視せねば、と追跡を続けます。またの名をストーキング、残念な事に箒はそれに気づいておりませんでした。
清香に似てるよ、いや鈴じゃない? マンボウやらペンギンやら水族館で水棲生物を堪能し、イタリアレストランで昼食を済ませ、ウィンドウショッピングをぶらぶらと。
「航法装置はやっぱりハニウェル社が良いと思うよ」これは本音。
「アビオニクスは未だ欧州が強いしな」とは真。
「スラスター類はロシアに一歩リードされてると思うの。格闘戦が想定されるISならリューリカ社製スラスターのタフさは一目置かれるべき」静寐だったりします。
特にドラマティックな出来事があった訳ではありませんが、静かながらも楽しいデート。至福な時間を満喫しておりました。そうです、過去形です。
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それは3人が、ブティックの前を通りかかった時の事でありました。ウィンドウ越しに、ティーンズ向けファッションドールが、暇そうに突っ立っております。真は左右に居るクラスメイトと見比べて、
「2人はもう少し活動的なオシャレをしてはどうかと思うんだ。鮮やかな色彩は10代の特権なんだからさ」と平然と言いやがりました。ズレ3
あぁなんと言う事でしょう。右や左のクラスメイトらに頭を下げ、色々借りまくり、結局自前の服に落ち着いたのですが、悩みに悩み抜いた2人の苦労が台無しです。
2人とも、何処かしっとりとした重みを感じるモノトーンカラーのシンプル&質素&シックな、露出の少ない出で立ちです。静寐は丈の長いホワイトグレーのワンピース。本音は白のパンツ、襟付きシャツの上に紺のカーディガンを着ておりました。まぁ、真の言いたい事は分からなくも無く。
「たとえばー?」
抑揚なく疲れ切った様な静寐の声であります。どん底を突き破り、もはや達観した様でした。因みに本音はフリーズ中です。笑顔のまま声も出せません。
「服買いに行こうか」
「「プレゼントっ!?」」
「あ、うん」
実はこのIS学園都市。高級店舗が多く、力量高くとも財布が普通の娘にとっては悩みの種でありました。一部生徒の所為により、学園の生徒=金持ちと言う先入観も頭が痛い。買えもしないのにブティックに入り、やっぱり良いわと見栄を張る生徒も居る始末。
でもそこは元社会人の真です。元々給与の良い蒔岡機械株式会社。オーディオ機器はおやっさんからの貰い物、買うものは書籍とCD程度。消費先などたかが知れ、その蓄えなんと驚きの7桁。服の1着や2着訳もありません。高校生のくせに生意気です。
あれでも無いこれでも無いと、手にとっては胸に当て、これはどうかと聞いては戻る。生き生きと目を輝かせる2人でありました。真は手慣れた様に待っています。既に1時間経過。
「何時ものお嬢さんと違いますね」ブティックの店員さんにさらりと探りを入れられましたが「日頃世話になっている娘達なんですよ」と真は素で涼しい顔です。何時もとは違うと言いたい様子。
「不憫」
「俺は気にしませんが?」
当然真の事ではありません。ズレ4。
(何時ものだと……)
ぐぬぬと試着室から睨み挙げる眼光二つ。セシリアか上級生か、はたまた鈴か。竹刀を持ってくるのであったと箒のボルテージはストップ高です。因みにちゃっかり試着しておりました。首筋から値札がいきり立っております。
どれ程頭に血が上っていたのか、気がつけば3人の姿を見失いました。しまったと、カーテン越しから慌てて姿を探しても見つからず。そのカーテンがじゃらりと音を立てて開けば、見合うのは3人と1人。あ、いやこれはと、一転顔青くしどろもどろの箒に、真は溜息一つ。
「店員さん、もう1着」
「まいどー」
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本音は淡い黄色のスモック・ブラウスに白のクロップト・パンツ。静寐は白のバタフライ・スリーブブラウスに黒のレザーミニ。箒は淡い紅のチュニックにショートデニム。
場所は変わり喫茶店の中。可憐に着飾った3人の少女たちを見て真はご満悦でした。昨年卒業した先輩たちの教育の賜です。
「済まない。こんな事になってしまって」
そんな真を他所に、沈痛な面持ちで謝罪するのは箒でした。デートが成功する様、真が2人に良からぬ事をしでかさない様、その筈が台無しにしてしまったと心底悔いております。しかも。2人にとって記念になった筈のプレゼントを、自分まで貰ってしまっては、と己の身を引き裂かんばかりの悔やみっぷり、今にも泣き出しそうです。
「気にしないで、箒の取り成しなんだから」
静寐にはお見通しでした。
「私は3人一緒の方が嬉しいよ」
ケーキ交換しよ、と本音。
気の良い友人2人に慰められ漸く箒にも笑顔が戻りました。
窓には、深い緑の葉を惜しげも無く茂らせる樹木。
笑顔で行き交う恋人たち。
見上げれば強くも清々しい6月の太陽が、自慢げに浮かんでおります。
2人の言うとおりだ、逆に箒に感謝しないとな。今日はデート出来て良かったと真はそう静かに見守っておりました。
「真くん。お洋服ありがとう、嬉しかったよ」
本音は華を咲かせんばかりの喜びようです。
「一応お礼は言っておきます」
静寐は仕方なさそうに、けど頬を染めておりました。
「真にしては上々だな、うむ」
流石の箒も今日ばかりは褒めてやろうと満足顔です。
「皆にそう言われるとむず痒い」
気恥ずかしくなり、会計済ませてくると立ち上がれば、財布から名刺がパサリと落ちました。
そう、過去形です。
「ティファニー学園前店……」
わなわなと読み上げる静寐の声は閻魔の如く。
「そういえばブティックの店員と顔見知りの様だったな……」
ゆらりと立ち上がる箒の姿は抜き身の如く。
「真くん、どこの誰に?」
ざわり、本音の笑顔は黒百合の如く。
「いやちょっと待って! 同級生から"ン十万の"プレゼントなんて親御さんが知れば不安がるから!」
あぁ哀れ真。言っている事は尤もですが、差を付けていると言う事に全く気づいておりません。致命的です。ズレ5。
「ばかっ! 嫌い! だいっ嫌いっ!」静寐は涙目で引っぱたき。
「お前という奴は! お前という奴は!」箒は眼を釣り上げて手刀を打ち下ろす。
かりかり、かりかりかり、と聞こえる音は本音。笑顔でテーブルをひっかいております。怖いどころではありません。
真はずぶずぶと椅子の隙間に沈んでいきました。
息を潜める店内で、ぷんすかと立ち去るのは3人娘。一人残されたのは、理解出来ぬと頭を抱える真。呆れ顔で歩み寄るのは店の主人。
「お客さん、店内で騒いでもらっては困りますなぁ」
「……どうして叩かれている時に言ってくれなかったんです」
「ざまぁ♪」
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とまぁこう言う主人公でありますが、皆様生暖かい眼で見守ってやって下さいますよう、宜しくお願いします。とある読者の方から一夏専用"身代わり不動"とまで呼ばれる程の不幸っぷりです。多分まだ落ちます。
それではまたネタが思いついたときに外伝にてお会いいたしましょう。
さようなら。
石をちりばめた耳飾り。それを手にする白い指は、水面を走る波紋の如く小刻みに。
「嫌がらせにしては手が込んでおりますこと……」
ブルー・ティアーズを外すなどと、いやしかし。彼女はよよよと崩れ落ちた。
2012/09/16