IS Heroes   作:D1198

44 / 69
【ご注意】
 投稿済み外伝"とある真のズレた一日"と同じ時空です。
 本編とは別空間です。
 あざとく作ってみました。キーワードは大きなむね。

 苦手だという方、本編をお待ち下さい。


外伝 ほんねのきもち

 突然ですがひまわりを想像して下さい。

 

 茶色のドーナッツを、深みのある黄色の花びらが取り囲み、大きく広げた大きな緑の葉。天まで届かんばかりの青い空、ぽつりぽつりと浮かぶ白い雲。さんさんと輝く太陽の下で、力強く大地に根付き、花咲く姿は圧倒的。ですが何処か優しい佇まいは、見る者に安心感を与えます。

 

 他の観賞用植物に比べると、色気儚さには欠けますが、逆に嫌いだという人は居ないのでは無いでしょうか。

 

 

 布仏本音、15歳。

 

 料理、洗濯、掃除好き。少々小柄ですがスタイルは良く、母方からゴッドハンドの血を引いて、父方は更識家の血縁で由緒あるお家柄。咲かせる笑顔はすさんだ心を和ませます。人呼んでモブ界のサラブレッド。これ程のハイスペック娘ですが、残念な事に男運には恵まれなかったようです。

 

 思いを寄せるその少年は普通ではありませんでした。人は言う。あぁ、好いた相手が真でなかったならば。なにより、その優しい性格が災いし、押しも気も強い娘たちのなか本音は常に一歩引いておりました。事実本音が声をかけようと思えば、強敵たちの姿が。

 

 

「真くん、あのね」

「アンタ! 美少女がこれだけ頭を下げてるに断るってワケッ!?」

「荷物持ちなら先に一夏に頼んでくれ。あと鈴は頭下げてない」

 

「真くん、良いかな」

「前々から思ってたんだけど、蒼月君って2組以外の娘には優しいよね。昨日も癒子のプリント運び手伝ってたし、これって贔屓だと思うの」

「それは静寐の誤解。2組の娘は計画的だから、手を出すような機会が無いんだよ」

 

「まこと…くん」

「あのだな、セシリア。3組のハミルトンさんとの事なんだけども、」

「あら真、いつの間に仲が良くなりましたの?」

「もう少し仲良くしてもらえないか? NATOの現加盟国同士が争っている姿は困る、ちょっと」

 

 そして当人、本音の場合。

「……」

「調子が悪い?」

「何でもないよっ」

 

 もう一歩近づきたい、でもできない。こんな調子でありました。その都度どこか寂しそうに彼を見つめております。

 

 

 さて、夜も更けた柊の一室で、集うは本音を知る少女たち。日向娘の陰る顔など見ておられん、どうにかせねばと唸っておりました。1組2組合同"ひまわりを愛でる会"、隠語もバッチリです。誰も本音の事だと気づくまい。

 

「最近2,3歩遅れてるよね」

「同感。あの娘博愛主義だから……」

「だが捨てておく事は出来ん。何とかせねばなるまいてー」

「でもどうする? 蒼月は手強いよ、知った上で接してるから」

「本音も同意の上とは言え、相変わらずの外道っぷりだわ」

「篠ノ之さんに協力を求める?」

「無理、箒は静寐との間に挟まれてる」

「「「むぅ」」」

 

「正攻法しかないわね」

 

 すっくと立ち上がったのは1組所属の鏡ナギ。黒髪ロング、左前髪にはヘアピン2つ。アニメ1話の朝食シーンにて、一夏の隣に座っていたあの娘です。そのナギの握り右拳は大地を揺るがさんばかりに震えておりました。

 

 

 所、時、変わって柊の食堂で、昼食を求めてひな鳥たちが囀っております。その一画に、良いから良いからと、静寐と箒から本音を引きはがし、大テーブルに連れ込んで、少女たちは彼女を取り囲みました。

 

 本音の右隣、ナギはストローを咥えながら自信満々です。

 

「と、言う訳だから泥舟に乗ったつもりで任せなさい」

「ナギ、それすっごく不安」

 

 押し迫る少女たちに本音は乗り気でありませんでした。

 

「私は良いよ、静寐ちゃんに悪いし」

 

「本音の馬鹿っ!」

「夢は追いかけなくちゃ掴めないのよ!」

 

 言ってる事は尤もですが、お祭り騒ぎ感が拭い切れません。意外と大きい手をパタパタと、煮え切らない本音にナギは一言ぽつり。

 

「セシリアのイヤリング、30万だって」

「やる」

 

 

-----

 

 

「まずは徹底した情報収集! 自軍戦力を把握せよ!」

「「「いぇす、あい、まむ」」」

 

 ナギの号令に敬礼するは少女たち。作戦は正攻法です。堀を埋め、門を壊し、城壁を越える。攻める城は堅くても、戦力に余裕があるなら悪くありません。如何に堅かろうとこちらは6人。3人寄れば文殊の知恵、つまり文殊様より私たちは賢い、凄い理屈です。

 

「男なんて料理でイチコロだと思います!」

「古典的だが確実だー」

 

 少女Aが本音に問う。

 

「本音、料理は?」

「んとね」

 

 翌日の食堂の大キッチン。にこにこ笑顔の本音が鍋を両手で掴んでやってきます。くまさんエプロンもキュート。

 

「びーふしちゅーだよー」

 

 一口ぱくり。

 

「うわいやだなにこれおいしい」

「ほんねおかわりー」

「本音、生徒会辞めて料理クラブ入って」

「口に入れたまま喋るのはお行儀悪いんだよ」

 

 早々に目的と手段が入れ替わった様子。口をナフキンで拭きながらナギが言う。

 

「私はこの結果に非常に満足している、して次は?」

「男は、洗濯物を畳んでいたり干している姿に、イチコロだそうです!」

「「「おー」」」

 

 皆が押し寄せたのは本音の部屋。鈴はベッドの上でチョコスティックを加えながら読書中。真の読書好きが感染ったようです。手にする書物は"人間失格"、名作ですね。だが注目すべきは其処ではない。

 

 見渡す部屋にゴミは勿論、埃一つありません。机の上もクローゼットの内側も整理整頓完璧です。洗濯物などそっちのけ、みな唖然としておりました。

 

「とても綺麗ね」と呟いたのは少女B。まるで風前の灯火。

「本音がすっごい煩いのよ。日頃の緩みが死を招くって」苦虫をかみつぶし溜息をつく鈴でした。本音を見つめるジト眼には恨み辛みも100年分です。

 

「一つ一つの丁寧な積み重ねが大事なんだよ、鈴ちゃん」

 

 えへんとおっきい胸を張る本音に問うたのは少女C。

 

「誰からの引用?」

「おじいちゃん」

 

 このおじいちゃんとは母方の祖父、つまりゴッドハンドこと蒔岡宗治。

 

「……ひょっとして蒼月の勤め先って、本音の?」

「そうだよ」

「良いカード持っているではないかー」

「真くんね、おじいちゃんに向かって絶対何もしないって言い切ったんだよ……」

 

 はらはらと嘆く本音でありました。ナギは苛立たしく叫びます。

 

「えぇい! 何という無様な陣形だ! 次の者出て参れ!」

 

 真の堅さに目眩を起こしつつ、本音に問うたのは少女D。

 

「ご趣味は?」

「針だよ」

「……裁縫?」

「うん」

「なにこの良家のお嬢様みたいな子」

 

 みたいではありません。実際そうであります。

 

「針はね、集中力に良いんだよ」

 

 本音の着ぐるみは全てお手製でした。猫やパンダやペンギンや、その縫製の見事な事。オークションに出せば一財産です。そんな事実に泣き崩れるのは少女たち。己と他人を比較するのは愚かな事だ、蒼月がそう言っていた。ナギは己のふがいなさに涙しつつ、力無く崩れ落ちこう言いました。

 

「最早これまでか……」

「まだ終わっておりません! 隊長!」

 

 えいやと立ち上がったのは少女E。

 

「人が最初に見るのは外見です。男なんて馬鹿ですから簡単に引っかかります。赤いルージュは血の弾丸、胸に詰めるパッドは核弾頭! 殲滅すら可能です!」

「「「おー」」

 

 力無く呟いたのは少女A。一回りしました。

 

「本音に必要?」

 

 本音の淡い栗色の、髪はさらさらと艶やかに。肌は瑞々しく張りがあり、琥珀の瞳は大樹のようにしっかりと。ノーメイクです。

 

「素で可愛いよね」

「うん」

 

 両手を頬に添えて、えへへと顔赤く照れ咲かす花はチューリップ。え? ひまわりじゃ無いのか? 気にするな兄弟。

 

「むねも大きいのに何が不満な訳、あのアホ」これはナギ。

「女性恐怖症? もしくはホモ?」少女A。

「大変! 織斑君がマッハでピンチ!」少女B。

「実は織斑君が……と言う噂も」少女C。

「ぬぅーーーー何処までも変化球な輩よ」少女D。

「本音ーもう織斑君にしたら? 一緒に追っかけよ?」少女E。

「みんな非道いよっ」勿論最後は本音です。

 

 

-----

 

 

 さて、作戦第2段階。自軍〈ほんね〉は最強でした。これで負ける筈はないといきり立ちます。だが奢りは禁物。敵戦力の把握に務めましょう。

 

 呟いたのは少女B。

 

「真の好みって?」

「「「金髪」」」

「だめー染めるのはだめー」と本音は頭を抱えて逃げていきました。母方の祖母、宗治の妻、蒔岡志乃譲りの大切な髪でした。ここで明かされる大真実。本音の母は布仏刹那と言います。残念ながら出番はありません。

 

「実際どうなのかねー」

「蒼月って去年学園に来てたんでしょ? 先輩に聞いてみよ?」

 

 皆が訪れたのはIS学園2年3年寮、楓。ぞろぞろと訪れた1年娘に虚は丁寧に紅茶でもてなします。その荘厳な雰囲気に皆正座でした。

 

「真の好みね……」

 

 はてさて、どうだったかしら。虚は椅子に座り宙を仰いでおりました。ゆったりとした白いワンピース、しかしだらしなさは無く厳かに。部屋に戻ったら掃除しようと心に決める少女たちでありました。虚はそうだわと彼女らを見渡します。

 

「去年卒業した私の一個上の先輩が一番仲良かったわね。よく話してたわ」

「どんな人なんですか?」

「黒之上貴子(くろのかみ たかこ)先輩と言うのだけれど、」

 

 ふむと皆が食いつきます。

 

「料理上手で、むねが大きかったわね」

 

 ここまでは本音も同じ。

 

「背が高くモデル体型」

 

 大丈夫まだ伸びる可能性があります。

 

「大人っぽい雰囲気で狐眼の鋭い美人。カーリーウェーブの長い銀髪がとても綺麗で憧れてる娘は多かったわ」

 

 懐かしむ様に宙をなぞる虚の視線は雷雲のよう。雲行きが怪しいです。ナギがそれでと恐る恐る促しました。

 

「一度に10人相手して勝ってしまう位に非常に強かった。余りの強さに織斑先生とリーブス先生しか模擬戦相手に成らなかったわ」

「……先生に勝ったんですか?」

「流石にそれは無かったわよ、貴子先輩も先生に掛っては赤子同然だったもの」

 

 少女たちは失意のまま立ち去りました。無理です。

 

「あたしーおもったんだけどぉー、まことのぉーきょうみーあることってぇーなぁにぃぃぃ」仰向けで大の字の少女Eでありました。もう疲れたと絨毯の上でジタバタしております。

「「「銃」」」

 

 IS学園の外れ、1年生では存在さえ知らない生徒も多い人用射撃場。

 

 その室内で学園指定の白ジャージ、ゴーグルとイヤープロテクタ-。指導教員立ち会いの下、本音はグロック26を構えてレーンに立ちます。560gとても軽いですね流石ポリマー・フレーム。彼女は何時になく鋭い眼差しで、狙い済ますのは10m先。どきどきはらはらと見守るのは6人の少女たち。ぱんと鋭い発砲音。

 

「わ」

 

 よろめき尻餅をつく本音でありました。勿論大外れ。重苦しい雰囲気が漂います。ブルータスお前もか、ジュリアス・シーザーもびっくりの悲壮っぷり。

 

 

-----

 

 

「総力戦よ!」

 

 最後はこれしかないと考えたのは色仕掛け。無理だよーこんな格好恥ずかしいよーと本音は天岩屋状態です。部屋から出てきません。タンクトップとホットパンツぐらいで大袈裟な、アメノタヂカラヲでも無理かな、と深い溜息。

 

 しからば、こうしようと作戦変更。何時もの黄色い猫の着ぐるみで、けれども下着は有りません。着慣れた着ぐるみが落ち着かないと、そわそわ本音。くるくる回っては着ぐるみの、皺を気にしてちまちま摘む。まるで自分のしっぽを追いかける猫みたいだと、とある少女はにやける顔を必死に隠しておりました。

 

 電撃作戦 "あててんのよ のーぶらVer."

 

 進撃速度が重要です。皆が布陣を構えるは"あのT字路"。脇で控えるは耳をぴんと張る子猫。そして、忍び寄る逞しい影。

 

(状況開始!)

 

 右親指で首を掻き切るサイン。ナギの指令に本音は覚悟を決めてわっと飛び出しました。

 

 どさり。

 

 少女たちが見た光景は、押し倒し倒された男と女。ふたり廊下の上で身体を重ね合っております。誰かが「あ」と呟きました。なんか違うよ、感じた違和感に薄目を開けた本音は、その事実に呆然です。

 

「お、おりむー?」

 

 そこには真っ赤の一夏。何故なら彼の両手は本音の2つ山を鷲掴み。その指からこぼれ落ちるのは、薄手の着ぐるみ生地越しの、こぼれ落ちそうな曲線と困惑の蕾。本音は顔を赤くして、次に青くして、最後は赤くして、

 

「……えーと、これはわざとじゃ無いんだな、うん」

 

 一夏の言い訳を聞く間もなく、

 

「やーーーーーーーん」

 

 と胸を抱き寄せ、涙目で走り去ってゆきました。顔赤く呆然とする一夏を覆ったのは、鬼気迫るぽにての影。彼の最後は敢えて語る必要もありますまい。

 

 

----

 

 

 作戦失敗で部隊解散です。ですが本音は1人、おりむーのばか、真くんのばか、ばかばかと泣きながら撃っては尻餅をつき、撃っては泣いておりました。

 

 そんな本音に忍び寄る影。

 

「本音、いきなり38口径なんて背伸びしすぎ。こっちから始めよう」

 

 真でした。打ち終わった直後、背後からゆっくりと声を掛けます。彼が手渡したのはワルサーP22。

 

「女の子が変な持ち方すると22口径でも手痛めるぞ。銃身と腕を真っ直ぐにして、手の平を介して腕全体に反動を乗せる感じ。人差し指は撃つ直前まで、トリガーに掛けない」

 

 真剣な眼差しの真の横顔に本音は心臓が張り裂けんばかりでした。因みにこの真は眼が見えます。左手もちゃんとあります。

 

「真くんって本当に鉄砲が好きなんだね」

「これしかないからね」

 

 一発、一発。筋が良いのか先生が良いのか、10mならもう完璧です。転がった薬莢を追いかける真に本音は意を決してこう言いました。

 

「おじいちゃんの会社で働いていたとき何食べてたの?」

「特に印象は無いかな。同じ物を一週間続ける事もあったし、毎日変えた事もあった。まぁカレーはよく食べたよ」

「毎日辛い物とかだと、大変だね」

 

 身体に悪いよと本音は苦笑い。

 

「あぁ、だから……」

「なに?」

 

 本音にじっと見つめられ、真はぽつり。

 

「……甘い物をよく食べた」

 

 余りに意外な回答で、思わずぽぅっと呆ける本音でありました。

 

「そう思うよな普通」

 

 おかしいかと小さく聞くと、

 

「そんな事ないよ」

 

 内緒だぞと頭を掻く真を見て、本音は嬉しそうに笑いました。彼女だけの真を見付けたようです。

 

 

 

 ……鉄砲が好きなら誰でも良い?

 

 さもありなん。




本編の悲壮っぷりに、のほほんとした話を書きたかったのです。

※劇中でナギが言っている"状況開始"は他のアニメでも使われますが演習や訓練で使う言葉らしく、有事の場合"作戦行動開始"が正しいそうです。
格好良いのでこのまま使います。


2012/10/02



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。