IS Heroes   作:D1198

47 / 69
予兆

 あの3人娘は相変わらず仲が悪く、箒は余所余所しい。

 

 シャルは言えないの一点張りだったし。

 

 真が生徒じゃ無くなる。

 

 千冬ねぇは何か隠してる。

 

 皆がみな、真がまことがと言う。

 

 なんだか気に入らない。よく分からないけど気に入らない。

 

 

 陽も落ちた午後8時。机に向かっていた俺はテキストとシャープペンを放り出した。椅子の背もたれに体重を預けふんぞり返る。腕は頭の後ろで組み上げ、足は机の上に投げ出した。

 

「あーーーー」

 

 と、声を出してみた。"あ"と言う音が身体を震わす。意外と心地良い。この発声による振動が身体に良い影響あたえるらしい。練習すると某漫画の退魔師みたく呪文を使えるとか。いやしらんけど。

 

「あーーーーー」

 

 真の通達があったのは一昨日だ。その話題は瞬く間に学園中に広がった。ある娘は休み時間にまたある娘は食事時に、また授業中。帰ってきたらまたからかいに行こうとか、ご飯を奢らせようとか盛り上がっている。ふと思えば皆の扱いが俺らと違っていた。俺ら、俺とシャルは何故か迫られたり追いかけられたりするが、真は普通に話している。相談を受けたり、冗談を言い合ったりしている。前に俺はこんな風に聞いた事があった。

 

『なんかずりーぞ』

『有名税だろ、諦めろ。イケメン』

 

 何かむかつくな。気がついたら扉を叩く音が鳴っていた。身を起こし立ち上がり、扉を開けると其処に鈴が居た。鈴はノースリーブのゆったりとした白いワンピースを着ていた。ウェスト周りで少し絞り、ひらひらのスカートが華咲いている。室内着にしては少しよそ行き風の装いだった。

 

「よー というかなんか久しぶり?」

「そ、そうね。最近余り話してなかったし……」

「何時以来だっけ?」

「イチカにおんぶされた辺り……じゃない?」

 

 あーあの時か。鈴が言うのは真に持ち上げられて俺がおんぶした日のことだ。そう言えばあの時の鈴も変だったもんな。俯いたまま一言も話さなかったし。

 

 何か用か、そう言おうと鈴を見たら両手を後ろで組み上目遣い。ほんのりと頬を染め、らしくなくもじもじと身体を揺すっていた。響き合うかの様に、波打つスカートとツインテール。俺は正直面食らっていた。転校当初の鈴は良く言えばハツラツ、悪く言えばガサツ。だが今俺の目の前に居るその女の子はそう言った感じが消え、暖かみというか、しっとりとした雰囲気を纏っていた。こいつこんなに可愛かったっけ?

 

 落ち着かないと言わんばかりに、視線が泳いでいた鈴は、1つ大きな息を吸うと決意した様に俺を見上げた。なんだ?

 

「ねぇイチカ……アタシのことどう思ってる?」

「セカンド幼なじみ」

「……そうじゃなくてさ、ほら外見とか仕草とか。昔と比べてどうとか。可愛くなったとか」

 

 鈴は両手を挙げると、ツインテールの黄色い結い布にほらほらと手を添えていた。

 

「うん可愛いと思うぜ」

「ほ、ホント?!」

「ホント。弾に写真を送るから一枚撮らせてくれ、きっと面食らう」

 

 鈴はぴくりと頬を引きつらせた。

 

「そーじゃなくってっ!」

「まだ8時だけど大声出すなよ、ご近所迷惑になる」

 

 ほらみろ、遠くで女の子2人がひそひそと話してるじゃ無いか。噂は怖いんだぞ、真の時みたく。

 

「ねぇ……」

 

 そういう鈴は一転俯いて小さく呟いていた。よく聞き取れない。

 

「らしくねぇな、何時もみたいにばしっと言えよ」

「……気にならなかった?」

「なにが?」

「ほら、アタシ真と一緒の部屋だったじゃ無い? 一ヶ月間も」

「おぉう、また古い話を」

 

 "古い"に鈴の肩がぴくりと揺れた。あれ? 何か地雷踏んだか?

 

「不安にならなかった?」

「そりゃーしたさ。あんな大騒ぎがあったからな」

 

 1年生中から責められたり、リーブス先生が怒ったり、静寐と喧嘩したり、真の首が切られたりしたからな。因みに真は死んでない、念のため。

 

「……心配にならかった?」

「だからしたって」

「アタシ16の男の子と一緒に暮らしてた」

「おう」

「バスタオル姿見せた」

「あー扉を開けたら2人で睨み合ってた事あったよな。どういう状況か少し迷ったんだぜ」

「……全部みられた」

 

 なんと。だがシャルのを全部見た俺としてはどうこう言える立場でも無い……いや少しむかつく。真の野郎、人のセカンド幼なじみにそんな不届きなことしやがったのか。

 

「よし分かった。任せとけ」

「……何がよ」

「戻って来たらぶん殴っとく」

「ほんとに?」

 

 少し顔を上げた鈴の眼は潤んでいた。そうか、そんなにむかつくか。よく分かるぜ鈴、真はむかつく。しかしだ。

 

「気持ちはよく分かる。でもあれだぜ? そもそも真と同室になったのは鈴が本来のルームメイトと喧嘩したからだから鈴も2,3発で勘弁―」

 

 その時右の平手がゆっくりと飛んでくる事に気がついた。俺は避けようか、それともその手を掴もうか迷った。どちらもしなかったのは鈴の顔を見たからだ。パシンッと鋭い音が夜の廊下に響き渡り、左頬に鋭い痛みが走る。

 

 理解出来ないと数回瞬きした。目の前の鈴は肩を小刻みに振わせ、怒りを滾らせて俺を睨み上げていた。けれど、瞳には大粒の涙がぼろぼろと溢れ、唇は強く結ばれていた。

 

「あ、あのさ、りん」

 

 鈴は何も言わず振り返ると足早に立ち去った。

 

 

-----

 

 

「はぁ」

 

 溜息しか出ない。何が何だかよく分からない。腹の底にあるもやもやが今やごろごろだ。ただまぁ鈴に関して言えば、

 

「俺が悪いんだろうな……」

 

 明日謝ろう。でも理由も告げず引っぱたくのは納得いかない。じくじくと痛む左頬にそっと手を添えた。これ明日までには消えるんだろうか。

 

 頬の痛みと夜明けと共にやってくるであろう憂鬱な時間を考えると頭が痛い。クラスメイトからの質問攻撃だけは、何度されても慣れるもんじゃないぞ。テキストの文字がまったく頭に入らないし、起きていても碌なことが無さそうだ。9時前だけれどもう寝ようと席を立ったその時だった。

 

「一夏、ただいま」

 

 がちゃりと扉を開けて現われたのはシャルだった。黒の襟付き半袖シャツに、白いハーフパンツ姿で、キャリーケースを転がしながら目の前を通り過ぎる、事は無く、

 

「日本のこの時期は蒸し暑いね。日本は好きだけれどここだけは辛いかな……って一夏、その左頬どうしたのさ?」

 

 目の前で立ち止まった。俺はジト眼で睨むシャルの二の腕を両手で掴んだ。

 

「い、いちかっ?」

 

 シャルが居る、帰ってきた。つまり真も戻って来たと言うことだ。今までため込んでいた全部が一気に吹き出した。

 

「真はどこだ! 一緒じゃ無いのか! 部屋か?! あいつに聞きたい事が! 言いたいことが!」

「痛い! 一夏痛いよ! 離してっ!」

 

 シャルは顔を赤くして端正な表情を苦痛に歪めていた。大袈裟だろ、殆ど力は入れてない。シャルは何とか逃れようと身体を動かしていたが、意味が無かった。あれ? シャルの足が浮いてる、いくら何でも軽すぎないか? 小さい子供並だぞ。

 

 呆然としていたら手刀で頭を叩かれた。思わず両手を離しシャルがとすんと尻餅をつく。

 

「何だよ箒……静寐?」

 

 振り向いたら静寐が立っていた。タンクトップに折り目の付いたショートパンツ姿だ。とても珍しい。静寐は肌を露出する服装を滅多に着ないからだ。いやいやそうじゃない。

 

「何しやがる!」

 

 思わず声を荒らげてしまった。しまったと罰悪く、恐る恐るみれば静寐は涼しい顔で、それどころか両手を腰に添えて睨み上げきた。

 

「それはこっちのセリフ。一夏は、最近力が強くなってるから気をつけて」

「……おう?」

 

 訓練の成果か? イマイチ実感が無いけど。

 

「それで、これはどういうこと?」

「へ?」

 

 静寐がぴっと指さした其処にシャルが身体を抱きかかえてしゃがみ込んでいた。シャツが背中側からぐるりと破れ、胸を押さえている淡いピンクのサポーターがその姿を覗かせていた。しまった弁償しないと、いや先に謝罪だ……違うだろ。静寐にシャルのことがバレた。

 

 ゆっくりと振り向いた其処に、採光を欠いた眼で静寐が睨んでいる。一年最強は鈴だけれど、最凶は静寐だと俺は常々思っている。すっげー怖い。俺は無言でかくかくと頷くだけだった。もちろん白状するという意思表示。

 

 

-----

 

 

「と、言う訳なんだ」

 

 シャルに謝り倒し、静寐のツッコミ込みで今度服を買いに行く事にして、取りあえずその場は収めて貰い、ココアで一息入れたあと静寐の尋問が始まった。シャルが本当は女の子と言う事、デュノア社の関係者で、俺らを調査しに来たこと。そうしないとリヴァイヴの保守に問題が出ること。要所要所誤魔化すつもりだったが、静寐の鋭いツッコミで結局俺は殆ど吐いてしまった。

 

 恐る恐る見上げれば、静寐が眼を瞑って座っている。どうして見上げているかと言えば静寐がベッドに腰掛け、俺は床に正座だからだ。静寐って何時からこう言うキャラになったんだろう。因みにシャルは静寐の隣に座っている。

 

「つまりは、一ヶ月近くも騙していたいう事?」

 

 む。怒りは当然だが言い方ってもんがあるだろう。ほらみろシャルが凄い落ち込んでるじゃないか。だから俺はカチンときてつい睨んでしまった。

 

「違う、私が言っているのは一夏が女の子と一緒に暮らしていたと言う事。箒の事」

「何で箒がでてくるんだよ」

 

 はぁとすっごい溜息をつかれた。

 

「一夏は前からそうだったけど最近特に酷いよね、何かいらつくような事あった?」

「それ酷くないか?」

「感情にまかせて騒ぎを起こし、シャルの事が私にバレた。輪を掛けて更に変」

 

 今度は特大の溜息だ。俺は具体的な指摘にぐうの音も出なかった。いらつくか……このもやもや感の事を指しているのか俺にはよく分からなかった。

 

 静寐はリヴァイヴの保守の意味を早々に理解したみたいだ。こういう時頭の回転の速い娘は助かる。それにデュノア社との関係も聞いてこなかった。過度にカスタマイズされたリヴィアヴ、男装までして潜り込んだ、そしてシャルの性格。何となく察しは付いていたんだろうと思う、それを分かった上で聞かない。静寐ってのはそう言う娘だった。真の奴は何が不満なのかね、パスタだって美味かったのに。

 

「悪いんだけどよ、シャルのことは内密に」

「言いません。馬鹿にしないで」

「ついでに箒にも」

 

 最近余り話してないけれど、箒は他の娘と話しているだけでも不機嫌になるからな。だが静寐の回答は少し予想外の物だった。

 

「だから言いません。それに言ってももう意味がないから」

 

 どういうことだ? そう言えばおかしい。静寐ならシャルが居る時点で真も戻って来ていると分かったはずだ。けれど静寐は一向にそれを聞かない。ひょっとして真の奴本気で愛想尽かされた? それとも箒と本音と何かあったのか? そもそも静寐は何しに来た?

 

「用件忘れてた。一夏、トーナメントのことなんだけど」

 

 喉まで出かかった疑問を取りあえず納める。状況が掴めないから取りあえず聞いてからにしよう、話の腰を折ると拗れそうだったから。

 

 因みに静寐の言うトーナメントとは学年別個人トーナメントの事で、文字通り誰が最も強いか、その順位を決める試合だ。基本的に全員参加なので一週間掛けて行う。例年通りなら6月末に行われるのだけれど、今年は諸般の事情で7月に行われる事になった。理由の通達は無いけれど、あの事件の影響だろう……おもしろくねぇ。

 

 

-----

 

 

 着替え終わったシャルが脱衣所から出てきたのと、ごごごという地響きが聞こえてきたのと、静寐が口を開いたのは同時だった……地響き? バァンって扉が盛大に開くと女の子達がぞろぞろと。あっという間に俺の部屋が占領され逃げ惑う様にベッドの上に上がり込んだ。少し情けないが、目が少し血走っていてかなり怖い。

 

「織斑君!」

「お、おう?」

「あ! ディマ君も帰ってる!」

「な、なにかな?」

「「「織斑君! ディマ君! パートナーになって!」」」

 

 びしと突き付けられたプリントを読むとそれは緊急告知された申込書だった。要約するとこうだ。7月初旬に行われるトーナメントはより実戦的に行う為ペアで行う。ただし専用機持ち同士のペアは禁止とし、また公正を期すため専用機持ちは相応のハンデキャップを科す。それで申し込みは明日まで。成る程、それでこの鬼気迫る少女たちか。

 

 つまりシャルは静寐と組むしか無いわけだ。バレたら事だもんな。そしたら、

 

「みんな御免。僕は今回欠席なんだ」

「「「えーーーー」」」

 

 まじで? と俺は呆けた様にシャルを見た。シャルが言うにはドクター・ストップらしい。そう言えば顔色も少し悪く貧血っぽく見える、フランスで何かあったのか?

 

「「「なら織斑君!」」」

 

 ひぃ! 突き出された手はゾンビの如く。思わず腰が抜けそうになった。どうする……箒に頼むか? 俺のピンチを救ったのは我関せずと静観していた静寐だった。慌てること無くしっかりとした言葉と立ち振る舞い。何というか、しっかり者ここに極まりそんな感じだった。威風堂々は言いすぎで無いかもしれない。

 

「一夏これにサインしてくれる」

「え、あ?」

「ここと、ここね」

「おう」

 

 さらさらっと。あ、しまった。

 

「と、言う訳だから。皆ごめんね。一夏、これから打ち合わせしよう。部屋に来て」

「静寐! 抜け駆け!?」

「てゆーか! 乗り換え?!」

「それっていくない!」

 

 非難囂々雨あられ。だが我らが最凶静寐さんは、

 

「なに?」

 

 一睨みで黙らせた。うわ、みな真っ青だ。あの眼って女の子にも有効だったのか。慣れている俺でも怖いもんな。ほらあの娘、腰を抜かしてるぜ。ほら、と俺の手を引く静寐の行く先の、人混みは逃げ惑う様に真っ二つだ。モーゼかよ。

 

「失礼なこと考えてない?」

 

 即バレだし。

 

「あー仕方ないか、静寐ってセシリアとタメ張ったんでしょ?」

「よく分からないけど、良いところまでいったらしいよ」

 

 そんなぼやきを背に俺らは部屋を出た。俺は事態を飲め込めないまま流されてしまった。よく分からない。ただ一つ言えることは、ぐいぐいと俺の手を引く静寐は別人の様だった。こんな強引な性格だったか?

 

「なぁ静寐」

「なに?」

「セシリアと戦ったって本当か?」

「本当」

「勝ったのかよ?」

「負けた」

 

 うわ、やぶ蛇だよ。握る手がぴくりと動いた。いかん話題を変えねば。

 

「箒と組んだ方が良いんじゃ無いのか?」

「箒も欠席」

「……なんで?」

「シャルが来る前1年生は全クラスで偶数だったでしょ? シャルと真2人が抜けたから」

 

 あぁそうか。1人ハビがでる。ちょっとまて。

 

「何で箒が?」

「箒って篠ノ之博士の妹で特別扱いに理由が付けられる。だから」

 

 なんかむかつくな。いや、箒と静寐は同室だから2人でハビの対策を練ると言う事か。

 

「箒ならいま留守。それに箒は納得してる」

「……ならなんで打ち合わせを静寐の部屋なんだ? 俺の部屋で良いだろ?」

「本音からメッセ入ったの。鈴が泣いて帰ってきたって。何をしたのか、洗いざらい吐いて」

 

 この夜延々一時間行われたのは、打ち合わせ言う名の尋問と説教だった。

 

 

------

 

 

 なんだか面白くない。よく分からないけど面白くない。

 

 朝日が眩しいので目が覚めた。ベッドの上でゆっくり起き上がると、ブラインドの隙間から陽が射し込んでいるのに気がついた。

 

 時計を見たら6時だと言っている。右手で左脇の下をボリボリ掻いて、寝ているシャルを起こさない様立ち上がった。洗面台に向かい顔を洗って寝癖を直し、ゼリー飲料を飲みながらジャージに着替えた。廊下に出ると同じくジャージ姿の女の子がちらほら見える。彼女たちはこれから朝練に励むのだろう。

 

「一夏おはよう」

 

 そう軽い足取りで近寄るのは2組の清香だ。何時もの様に底抜けた笑顔でこっちまで嬉しくなる。笑顔は良いね、あの阿保に清香の爪の垢を煎じて飲ませてやりた……爽やか笑顔の真を想像したらキモいのでやっぱりやめだ。

 

「おはよう、朝練か?」

「ちちち、トーナメントが近いから部活はお休み。自主トレだよ」

 

 人差し指を振る清香は何故か得意げだった。

 

「随分気合い入ってるな」

「そりゃもちろん。3ヶ月の成果を試す良い機会だしね」

「鈴と組むのか?」

「もちろん♪」

 

 その鈴だけれど、落ち着くまで様子を見る様にと静寐に釘を刺された。そこまで怒ることは無いと思うんだけどな。よくわかんねぇ。

 

 因みにトーナメントは1クラス30名、1年生だけで120名も居るから相当な規模となる。上級生も参加するけど、2年3年では1クラス分つまり整備課の人は参加しないからまだマシだ。その分整備課の先輩たちは訓練機の整備でてんてこ舞いらしい。今年は特に虚先輩のグループが抜ける事になったとかで例年以上に大変なのだそうだ。

 

「それじゃ、また後でね。それと、余り鈴にイジワルしないでね」

 

 清香は釘を刺すと大きく手を振りながら立ち去った。

 

 

-----

 

 

 外に出ると晴れていて、自主トレに励む女の子たちが見えた。もちろん俺も同じだ。日々の鍛錬が重要なのである。俺は、最初にゆっくり歩いて、次は強歩。身体が温まってきたら、ストレッチ、その後腕立て伏せやスクワットなどの筋トレに移る。最後は長距離走だ。もちろんスタミナを付ける為。走っていたら5名の女の娘小隊に話しかけられた。たしか4組だっけ?

 

「織斑君一緒に走ろうよ」

「おぅ、良いぜ」

「らっきー」

「調査した甲斐あったね♪」

「調査?」

「なんでも!」

「ないよっ!!」

 

 よく分からないけど、女の子連帯感という奴だろう。しつこく聞くとひんしゅくを買うのでこういう時は触らないのに限る。

 

 流れる樹木から朝日が漏れ、射し込んだ光が歩道を模様にしていた。朝のひんやりとした空気はそろそろ終わだと言わんばかりにセミが鳴き始めた。今年は早々に梅雨明けしたらしい。最初は話ながら走っていたけれど、しばらくすると皆口を利かなくなったので俺も喋るのを止めた。やっぱり真面目にやらないとな。しばらく黙々と走り、時計を見たら7時半だったのでそろそろ上がろうと、振り向いた。

 

 みんな汗だくで息を切らしていた。あれ?

 

「お、おりむらくん、ペース早すぎ……」

「なんで汗1つ書いてないかな……」

「5キロ15分って何……」

「エルザが居なくないぃぃ?」

「さっき脱落した~」

 

 女の子だしな、体力が劣るのはしようがない。そう言えば真は男のくせにだらしないんだ、何時もゼェゼェ言っていた。その都度この体力馬鹿めと恨みがましく言うのだ……うん、すこし気分が良い。俺は女の子たちと別れ、クールダウンがてら遠回りして寮に戻った。もちろん整理体操は忘れない。

 

 部屋に戻りシャワーを浴びる。シャルは休みだというのでまだ寝ていた。とても疲れている様でぴくりともしない。俺は起こさないよう静かに制服に着替え鞄を手に食堂へ向かった。

 

 朝食を手にする女の子たちは何時も騒がしい。だけれど、何時もはISスーツのデザインだとか、休みの日どこかに行こうだとか、どこどこのケーキがおいしいとか、そういう話は無くトーナメントの話題一色だった。

 

 焼き魚に味噌汁、海苔に納豆、お新香に白いご飯。朝はこれに限る。お盆を持ち空いている席を探していたら、

 

「おりむーおはようー」

 

 そう言うのは本音だった。だぼだぼの長い袖をぶんぶんと振っている。見れば4人掛けの席に何時もの3人が居た。もちろん残りは静寐に箒で、3人とも既に身だしなみ完了の制服姿だった。静寐と箒が隣に座っていたので俺は本音の横に腰掛けた。あれ? なんか違和感が? 静寐と箒の髪が濡れているせいか?

 

 クロワッサンを千切りながら言うのは静寐だった。

 

「一夏は自主トレ?」

「おぅ、静寐達もか?」

「そう」

「そう言えば静寐達は何処でトレーニングしてるんだよ見たこと無いぜ?」

「トレーニングルーム」

 

 ぐあ。そう言えばそんな設備があった。今まですっかり忘れていたのは男が使えないからだ。総合運動設備棟、別名エステティック要塞。他にも大浴場に露天風呂、サウナにマッサージ、アロマテラピールーム、美容と健康、至れり尽くせりだ。せめてジム位解放して欲しいのだが、いかんせん更衣室が一室しか無いため"無理です"と真耶先生に笑顔で切られた。

 

「みんながんばるよね」とは本音だ。いや本音もがんばれよ。

 

 静寐が話題を入れ、本音が合いの手を入れ、箒は時々相づちを入れる。懐かしさを感じる何時もの風景。だが何かがオカシイ。そうだ、この3人が一緒に食事を取っているのは何時以来だ? それに真の話題が無いのも変だ。セシリアと静寐が模擬戦をしたという話も詳しく聞きたい。

 

 目の前には姿勢正しく座り、箸を振っている箒がいる。3人に何かあったのか、トーナメント不参加とはどういうことだ、それら聞こうとして開いた口は箒の言葉に遮られた。まるで察しが付いていたかの様なタイミングだった。

 

「一夏」そう俺を呼んだ箒は眼を合わすことなく碗に口を当てていた。

「お、おぅ。何だ?」

「訓練は順調なのか?」

「順調じゃないな。手探り状態だ」

「仕方ないな。テキストも飛び道具の戦い方しか教えていないからな」

 

 そうなのだ。"ISにおける戦術論"と言う教科書があるのだが、もちろん銃ばっかりで剣を使った戦い方など書いていない。精々アサルトナイフで更にそれは銃が使えないときの緊急用扱いだ。

 

「なぁ箒。また教えてくれよ」

 

 俺は解した魚を食べつつ言った。それは特に強い気持ちがあった訳では無い。けれど、

 

「できない」

 

 言い切られるとは思わなかった。箒は調子を崩さず箸を運んでいた。

 

「……理由を聞いて良いか?」

「私が知っている事は大地に足を付けた剣の使い方だ。トーナメントでは大半が空を飛び、銃を使う。IS戦における剣を使った戦い方、つまりIS剣法は私とて模索中だ」

「それなら尚更だろ? 1人より2人だ」

「はっきり言う一夏。生身はともかくIS戦に於いて、今では私よりお前の方が強い」

「……箒が俺より弱いって嘘だろ?」

「嘘では無い」

 

 対抗戦の時一夏の戦いを見ていた、あの時点で私より強かった。箒はそう小さく呟くと、

 

「これからは静寐に頼るんだ」

 

 先に失礼する、そう言って立ち去った。静寐はこれから放課後空けておいて、そう俺に告げると箒に続いた。呆気に取られていた俺は、戻るという本音に慌てて席を立った。ゆっくりと椅子の上を動き、立ち上がった本音は何時もの満面の笑みだったが、何かが違っていた。

 

「おりむーは目標があるのかな?」

「本音にはあるのか?」

「うん。するべき事を決めた、現実を受け入れたんだよ」

 

 とたとたと立ち去る本音を見送った俺は3人の違和感に気がついた。それは静寐がヘアピンではなくイヤリングをしていた事、本音は小動物をあしらった髪飾りをせずに、長い髪の先を結っていた事、箒の結い布が変わっていた事だ。俺は訳が分からずに呆然と立ち尽くしていた。

 

「なんなんだよこれ」

 

 仕方がない、諦め、受け入れる。纏わり付く腹が立つ雰囲気に疎外感、自分自身の理解出来ない行動、俺は何もかもが気に入らなかった。




 HEROESの一夏は原作基準です。特別だけれども、強気、正義感溢れる15歳の少年。今回の話はもちろん今後も彼を貶める気は全く無いのですが、今まで真を見てきた読者の方々にこの一夏がどのように映るか非常に不安。朴念仁具合含めて。

 因みに一夏主観は2度目のトライですが、難しいです。雰囲気は再現出来ているのでは、と思うのですが、ご意見あれば頂戴いたしたく候。


2012/10/12
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。