IS Heroes   作:D1198

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ご無沙汰しておりました。
2週間ほど頭から綺麗に消したら、彼らが中々降りてきてくれず手間が。
更にトーナメントで各チームの設定を考える必要があり、これまた手間が。
……とにもかくにもまたお付き合いの程お願いいたします。



学年別トーナメント1

 7月最初の月曜日は突き抜けたような晴天だった。空に浮かぶ夏の太陽は第3アリーナを容赦なく照らし、外壁は目玉焼きが出来そうなほどに熱くなっていた。空調が効いている筈のアリーナの中もまた負けんばかりに熱く、歓声やら叱咤激励やらの人の声、はたまた楽器の声で満たされていた。

 

 その満ちる活気の中、今回使用されていない第2ピットで学生服姿の人影が動く。ささくれ立った黒い髪に、見る者を萎縮させんばかりに釣り上がり、見開く双眸はただ黒く塗りつぶされ、銃口の様である。真であった。彼は既に学生では無かったが、背広姿では目立つと処分直前の物を引っ張り出したのである。

 

 彼がピットの甲板に立ち見上げれば、彼の目の前を一機のカーキ色のリヴァイヴが駆け抜ける。空の左袖がはためき、頭部に部分展開されたの黒いリヴァイヴの黒いハイパーセンサーが低い唸りを上げた。アリーナを対流する活気の中、頼もしさと不安さを織り交ぜて、少女たちを見守っていた。

 

 

 3年操縦課主席、白井優子の宣誓で始まった学年別トーナメントも既に3試合目である。試合は1年生から始まり、順次2年、3年となり各学年で2日、計6日行われる。選手は試合が終わればそれまでだが、警備する者はそうはいかない。6日間の長丁場だと彼は意識を研ぎ澄ます。

 

 彼の頭上にはリヴァイヴが2機のチームが、もう1つはリヴァイヴと打鉄のチームが、一瞬でも2対1に持ち込もうと右や左や上や下に甲高い機動音を響かせ、戦火を交わしている。

 

 今のところ何もない、せめてトーナメントが終わるまで、出来る事なら永遠に何もなければ、と彼は見知った4機をじっと見つめていた。そんな彼の後ろに漂う暗がりから軽快な足音が響く。彼の過ぎる不安に苦笑しながら近寄るのは同じく制服姿のシャルロットであった。サイズこそ違えどもちろん男子用である。

 

 彼女は「真は誰を応援するのかな? やっぱりオルコットさん?」と言うとペットボトルの水を彼に手渡した。

 

「全員」

「真がそんな好色家だとは思わなかったよ」

 

 水を飲み真顔で答える彼に、彼女は屈託無く笑う。

 

「酷いぞ、それ……敢えて言えば鈴かな。セシリアは俺の応援がなくても勝つさ」

「告白されたもんね」

「それとは関係無い」

 

 ぽりぽりと彼の右頬を掻く彼の右人差し指は忙しない。

 

「それで、どうするのさ?」

「前から感じていたけれど、シャルは少し干渉しすぎじゃないか?」

「ど、う、す、る、の?」

 

 陰るシャルロットの笑顔に、思わず明後日のほうを見る真だった。彼女が大きな溜息をつくと、彼の額から汗が一粒流れた。彼女には彼がどうするか察したようである。あのね、と続ける彼女の言葉を遮って彼は言う。

 

「そう言えばまだ言ってなかった」

「……何をかな?」

「助けてくれてありがとう」

 

 頬を膨らませていたシャルロットは言葉に詰まる。壁に掛けられたディスプレイに試合終了と次の対戦相手が表示される。彼女がピットから覗くアリーナは明るく、声援を送る少女たちで埋め尽くされていた。刃を交わす少女たちの真剣な面持ちは生命力に溢れていた。彼女がいなければ彼は目の前の光景を見る事は叶わなかっただろう。

 

(この誤魔化し方は卑怯だよ)

 

 シャルロットは組んだ両肘を両手の平の中に収め、澄まし顔だ。ただ、ほんのりと頬を染めている。ならば、とこう言った。

 

「なら言葉だけじゃなく態度で示して欲しいかな」

「言う相手が間違ってるぞ」

「間違ってない」

「なら、ご要望は何?」

 

 真は思った、女の子との駆け引きはもっと慎重に当たろうと。

 

「ママって呼んで良いんだよ♪」

 

 彼の目の前に立つのは、組んだ両手は胸の前に、懇願するように、眼を輝かせるシャルロットの姿だった。真はまたこうも思った、女の子はどうして居て欲しくない時に居るのかと。

 

「どういうことか説明して貰おう」

 

 彼の背後に立つのは、腕を組んで仁王立ち。不審を隠すことなく露わにする箒の姿であった。

 

「なんでかな」

 

 彼の嘆きに答えてくれる者は誰も居なかった。

 

 

-----

 

 

 第3試合が始まった時、俺は静寐に連れられて第1ピットに向かった。俺らは4試合目で次が出番だけれど、少し早すぎないか? そう静寐に言ったら、

 

「準備は早く動けば動くほど良いの。何かあっても時間があれば選択肢が多いから」

「何かってなんだよ」

「それが分かれば苦労しません」

 

 ごもっとも。

 

 今年の学年別トーナメントは例年と色々異なっている。例えばお偉いさんが来ていないとか。その代わりに中継されているとか。4機のIS、これは3年の先生が乗っているらしいのだけれど警備のため学園の四方で警戒しているとか。来賓がないのに例年以上に警備が厳重なのは、対抗戦と不明機襲撃に寄るものらしい。真耶先生が「先生の名誉挽回のチャンスです!」って息巻いてた。でもまた襲撃されるとそれはそれで困る。

 

 他にもある。専用機持ちにはハンデが課せられ、そして専用機持ち同士のペアは禁止となった。専用機持ちは例年では多くても2人で、プライドから同じ代表候補同士ツルむことはなかったので問題にはならなかったのだが、今年は1年生だけでも俺、セシリア、鈴、シャルに真の5人も居る。更にそれなりに仲が良いからそれの対策らしい。もっともシャルはドクターストップ、真は……まぁいいや。

 

 もう一つのハンデは装備制限かエネルギー制限のどちらかを選ぶこと。セシリアのブルー・ティアーズなら子機を外すか、スターライトMk3を外すか、エネルギーを制限するかそんな具合。白式のばあい雪片弐型を外すと素手になってしまうので選択の余地無くエネルギー制限をくらった。600から450へのダウン。ただでさえ燃費の悪い白式だからこれはかなり厳しい。当初千冬ねぇは半分にするつもりだったらしいけれど、リーブス先生がやり過ぎだと止めたのだそうだ。

 

 なんてゆーか、美人で強くて優しいなんて同じモンドグロッソ優勝者でどうしてこうも違うのかね。弟の立場としては少しでいいから見習って欲しいと思う。でないと永遠に独り身だ。俺が言いたいのは優しさだけであって、美人のことではない。うん、千冬ねぇが美人でないとは言ってない。

 

 そしてこうなった理由なのだけれど、少し前に専用機持ちの代表候補と一般生徒がハンデ込みで決闘して、それを知った先生たちがとても気に入ったからなのだそうだ。考えてみれば千冬ねぇが好きそうなシチュエーションではある。

 

 その一般生徒とは、何を隠そう俺の目の前でディスプレイを見上げる静寐の事だ。このどちらかと言えば温和な静寐があのセシリアとやり合ったとは今でもピンと来ない。いまだってこうして右手をお尻に添えISスーツの乱れを直している……あれ?

 

「一夏」

 

 条件反射でつい謝ってしまった。何かアレだ偶々見ると偶々こう言うシーンが多いのだ。特に静寐は最近多い。ワザとじゃないんだよ、ですからその眼止めて下さい。

 

「一夏って本当にそういうタイミングを狙うの天才的」

「だからワザとじゃねぇ」

「シャルもそうやって心の隙間につけ込んだんだ……」

「だから違うっての、そもそもなんでシャルが出てくるんだよ」

「親身になって相談して心の不安を吐露させて優しい言葉と頼もしい言葉を掛けた?」

「励ましたと言ってくれ、なんか女の敵っぽい言い方だぜ、それ。そもそも男の子の目の前でそう言う事するのは無防備だって」

「女の子のせいにするなんて男らしくないよね」

 

 うわ、これは責任転換というのではないだろうか。ミニスカート穿いてるのにじろじろ見るなとかアレだ。見られたくないなら穿かなきゃ良いのに、と男は思うのだが女の子はそう思わないらしい。

 

 ……やっぱり静寐は何処かおかしいままだ。少なくとも対抗戦前の静寐ならこんな事言わない。そうだよな。これがその辺の見知らぬ娘ならともかく、勝手知ったる何とやら、少なくとも俺らはトーナメントのパートナーであるし、心配事があるなら助け合うべきだ。

 

「らしくないのは静寐じゃねーか。この際だから聞くけどよ、一体何があった? 箒とか本音とか真とかセ―」

 

 セシリアとか、俺はそう言い切ることが出来なかった。自分の唇に感じた柔らかい感覚。何かにひびの入る音が聞こえて、そのひびから何かが漏れ出すような、それは初めての感覚だった。いや、少し前に感じていたもやもやのそれに似ていた。

 

 呆気に取られていた俺はおかしな事に次第に怒りが沸いてきた。こんな軽はずみなことするなと言おうと思った。けれど言えなかった。その時の静寐の目は虚で、声に抑揚無く、唇も真っ青で、

 

「一夏、勝ちたい?」

「あ、当たり前だろ」

「なら、私の言うとおりに動いて。そうしたら勝たせてあげる」

 

 何故か泣いているように見えたから。

 

 

-----

 

 

「ディマに向かってママとはどういうことだ!」

「秘密です、といいますか言ってませんし、言いませんし」

「ひどいよ真! 呼んでくれないなんて!」

「シャル、すこし空気読んでくれ」

「見損なったぞ! 真! お前がその様な極めて特殊な性的嗜好だったとは!」

「……どの辺が?」

「年下の男に対して母親的執着を持つとは訳が分からん!」

「俺も分からない」

「リーブス先生の事と言い、お前は金髪なら何でも良いのか!?」

「ちょ、箒それ禁句!」

「……そう、そう、そう。そうだよ、真。ディアナ様とのこと今日という今日ははっきりさせてくれるかな?」

「箒、俺の13時間返してくれ」

「……前から気になっているのだが、今お前どこに住んでいる? 学園外ではないな?」

「真、まさか、」

「ほら、次お待ちかねの一夏登場だぞー」

((……))

 

『続いて第4試合を行います。"ノーブル・スカーレット"と"花水木"の両チームは入場して下さい』

 

 入場を促すアナウンスと共に歓声が上がる。最初に第3ピットから3組チーム、少し遅れて静寐と一夏が現われた。チーム ノーブル・スカーレットは両機ともリヴァイヴ、チーム 花水木はリヴァイヴと白式である。もちろんリヴァイヴは静寐、白式は一夏だ。

 

 今回のトーナメントは準勝ち抜き式にて運営される。準というのは試合の組み合わせをランダムではなく、各チームの実力・資質を加味した上で決めている。特に一年生の一試合目においては勝敗よりも試合時間が長くなるよう、実力が拮抗するチーム同士が当たるよう設定された。

 

 例えば静寐の提案した戦術、一夏が切り込み静寐がそれの援護をするという戦術は運営側も予想し、機動性に富みコンビネーションが優れるチームが選ばれた。零落白夜の前に装甲など無意味な為、一夏の機動力に1対1で対応出来る者は限られている為だ。尚、チーム名は自由申請であり一夏の初期案"カイザー・ストライク"は静寐に却下されたことは付け加えねばなるまい。

 

 高度30m、対戦チームと相対するその一夏は第2ピットをぼぅっと見ていた。彼の目にはシャルと真と、その真に詰め寄る箒の姿があった。

 

『一夏、集中して』

『お、おう』

 

 一夏の意識内にマーカーが浮かび上がる。向かって右側のリヴァイヴが"A"が左側のリヴァイヴに"B"だ。その"A"ノーブル・スカーレット分隊の編隊長機(リーダー)が一夏に言う。

 

「織斑君、手加減無しだからね」

「望むところだぜ。手を抜くのも抜かれるのも嫌いなんだ」

 

 僚機(ウィングマン)の"B"が懇願するように言う。

 

「でも初めてだから優しくしてくれると嬉しいなー」

 

 上げて落とす物言いに、たじろぐ一夏。

 

(捨てられた子犬の様な目は反則だろ……)

 

「一夏、演技だから騙されないで」と静寐が言うと相対する2人の少女が静寐を睨む。

 

「なに? もう女房気取り?」とAが言い。

「チームで考えれば当然の発言です」

「ちょっと強いからって増長よくない!」とBが言う。

「安易な駆け引きは通用しないから」

 

 Aが右手を腰に当てこう言った。その眼は細く蔑まんばかりであった。

 

「ふーん。織斑君を利用して八つ当たり? 相手にされなかったからって惨めなもんね」

「憶測に過ぎない発言は控えるべきだと思う。それに、それ以前の貴女に言われたくないの」

 

 睨みを利かせる3人の少女を目の前に、一夏は俺を利用するとはどういう事だと戸惑い、また相手のチームに原因不明の苛立ちを感じていた。

 

 試合開始の笛が鳴り4機が動くとアリーナが歓声で満たされた。

 

 無造作に距離を詰める白式に敵機2機は絶えず一定の距離を置く。白式が上昇すれば2機も上昇し、白式がAに距離を詰めればAは離れ、Bが接近する。前を見れば後ろ、右を見れば左、切り込む瞬間に逆方向から弾丸を浴びせられ一夏は攻めあぐねていた。二方向からのサブマシンガンによる攻撃を受け、白式被弾。残エネルギー400。

 

(そうするよね、やっぱり)

 

 上空の一夏を翻弄する敵機に静寐は眼を細める。クラス代表戦にしろ、対抗戦にしろ、多数の敵と同時に戦うのは一夏にとって初めてであった。この場合、静寐が接近し援護の回るのが定石だ。だが静寐は局地的な状況把握に優れるが射撃能力は並より良い程度、高機動の白式に迂闊に近づけば返って足を引っ張りかねない。

 

 こちらの特性を見通して一番手間の掛る相手を初戦でぶつけてくるとは、と静寐は自分の担任に文句と尊敬の念を贈る。白式被弾、360。でも調子に乗って動きを見せすぎたよね、静寐の眼が光る。手にするサブマシンガンに初弾を銃身に装填、彼女が一夏に通信を開こうとしたその矢先であった。めんどくせぇな、と逆に通信が入る。

 

『何が?』

『静寐。悪いけどよ、今回は俺のやりたいようにして良いか?』

『馬鹿な事を言わないで。その2人の連携は相当のレベルだから慎重に当たらないと負ける』

『いや大丈夫だ』

 

 静寐の心を染みこみ満たす一夏の根拠の無い言葉に自信。静寐の脳裏に流れるのは彼と出会ってからの3ヶ月間。

 

『……派手に決めるなら』

『サンキュー』

 

 その判断に彼女自身も驚いていた。

 

 

-----

 

 

 ノーブル・スカーレット分隊の編隊長は肩すかしを食らった格好だ。翻弄する白式と、援護の為近づくリヴァイヴを交互に挟撃し徐々に削る。これが彼女たちの基本プランだった。彼は性格も太刀筋も身体捌きも単調だ。如何に第3世代だろうと、ブリュンヒルデの弟だろうと動きが読めるなら御しやすい。焦らし冷静さを失わせれば勝機は十分にある。

 

 不確定要素だったのはリヴァイヴである。静寐は抜け目がない。何らかの戦術を仕掛けてくると踏んでいたのだがリヴァイヴは一向に近づかず、下方30m程の足下を回るように飛ぶだけだ。一度動きを見せたが、それきりである。彼女はなんだと鼻を鳴らす。静寐がイギリス代表候補に食い込んだというのは誇張に違いない。織斑君も案外だったな、でも仕方ないか、やっぱりブレード1本というのは難しいんだろう。

 

 高度120m、距離80。白式の肩越しに僚機が見える。彼女が手にするのは"H&K MP5i"であった。サブマシンガンにも拘わらず7.62mmのライフル弾を連射するじゃじゃ馬だ。姿勢が崩れやすい機動中に狙いを付けるのは相応の練度を要する。私たちだってがんばってきたんだから、相手が誰であろうとも勝ちに行く。

 

 僚機と白式とのタイミングを計り、新しい弾倉を量子展開。空の弾倉を投棄、初弾を装填する。照準を付け、引き金に人差し指を掛けた時である。目の前の白式が忽然と消えた。

 

 間もなく激しい衝撃に襲われ、姿勢を崩し落下する。彼女が思い出す映像は、睨み上げる白式パイロットの僅かな視線と、目の前を覆う青白い光だった。被ダメージ500、零落白夜の直撃である。彼女は悲鳴を上げた。一瞬に83%に達するエネルギーを奪われた事ではない。反応すら叶わず肉薄され、攻撃されたと言う事実。

 

(あの連中って何なのよ!)

 

 体勢を立て直す間もなく、落下中に静寐のグレネードで撃墜。残った僚機も果敢に攻めるも一夏の二振りで落とされた。

 

 

-----

 

 

 歓声に沸く第3アリーナ。観客席にいる普通の者が見れば一夏は加速し切り込んだだけである。すこし優れた者なら速いと気づいただろう。とても優れたものならその速さが異常と気づくはずだ。第2ピットに居る3人はその異常さに気づいた。その異常とは白式の爆発的な加速力と、それを御する肉体と反応速度である。

 

 3人にはチーム"花水木"の勝利に言葉がない。真が口を開いたのは、ゲートから見える遠くの第1ピットに静寐と一夏が帰投してからである。静寐に話し掛ける一夏は雪片弐型を掲げ得意げだ。

 

「箒、一夏は何時から?」静かに問い掛ける真に、箒も見開き驚愕の態だった。

「私もしばらくは戦っていないから何とも言えない。しかし、少なくとも先週の金曜日、最後の授業では"ああ"ではなかった」

 

「一夏、桁違いに速くなってるね。真っ向勝負じゃ勝てないかもしれない」シャルロットの我が目を疑う言葉に、箒は「一夏があれほど敵意をむき出しにしたのは初めてだ」とも抑揚無く付け加える。

 

(強い感情で脈絡無く上がる実力か……対抗戦直前の模擬戦で奇襲してきた時そっくりだ)

 

 今頃専用機持ちの少女2人も黒の人も眼を剥いていることだろう、違う意味で荒れそうだと彼は溜息をついた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 3機の奏でる和音に混じり、一際甲高い機動音が鳴り響く。その音は限りなど感じさせないほどに何処までも伸び、天の陽に届かんばかりであった。

 

『A!』

『あいよ!』

 

 藍の少女の声に呼応するように、白の鎧が描く白い軌跡はアリーナの空を切り裂く彗星である。

 

 トーナメント2日目。静寐、一夏のチーム"花水木"は快進撃を続けていた。一夏の、白式の機動力を活かす戦術は非常に明快であり、試合開始以来誰もがその対策を行った。だが、その機動力が余りにも高く、誰もがその対応を取れないでいた。単純な速度の暴力である。

 

 アリーナを駆けるその2人を、鈴は油断の無い目で追っていた。何時もは柔らかさすら感じる花びらのような、2つの黄色い結い布が鋭く見えるのは気のせいでないだろう。次の試合を控え、第3ピットに立つ鈴に清香は何時もの様に明るく話し掛ける。

 

「鈴が見ても凄い?」

 

 すんっと鈴は小さく鼻を鳴らすと腕を組んだ。

 

「楽勝って言いたいけど、かなり手こずりそうね。正直気が抜けないわ。一夏って相変わらずデタラメよ。いや拍車が掛ってるカンジ」

「そうか~」

 

 組んだ両手を頭の上に、ぐいっと上肢を伸ばす清香であった。

 

「清香、アンタね。もう少し緊張感持ちなさいよ。アタシまで気が抜けるじゃない」

「ここまで来たらジタバタしても仕方ないって。当たって砕けろってね♪」

「時々清香が分からないわ」と鈴は先日の詰問を思い出し頭を垂れた。

 

 清香は基本的にこの調子である。良く言えばマイペース、悪く言えば危機感がない。ただ絶えずリラックスしており初陣とは思えないほどの戦果を上げていた。鈴もその強靭なまでに安定したリズムで、このトーナメントでは少なからず助けられてきた。そのため強く言えないのである。

 

「このまま進めば決勝であの2人と当たることになるね、来るかな?」

「多分ね。こう言ったら本音に悪いけれど、素直なあの娘には分が悪い」

「静寐って本当に抜け目ないからね」

 

 鈴は気づいてたんだと眼で言うと、清香は明るくもちろんだと笑顔で答えた。

 

 静寐はただ一夏に指示を出していただけでは無い。3機の動きを絶えず把握し、一夏が追い込みを掛ける瞬間を狙い、その逃げ場を防ぐようにある時は位置を変え、有る時は牽制の射撃を行いプレッシャーを掛けているのである。

 

「鈴が一夏を押さえている間に私が静寐を倒せるかってところだね」

「そんな心配無用よ。アタシが一夏を倒すから」

「そうこなくちゃ♪」

「話がまとまったところで目の前の敵を倒すわよ」

「らじゃー」

 

 笑いながら敬礼する清香に鈴は笑って甲龍を展開する。清香が打鉄を展開した時、試合の終えたチームがゲートに現われた。2人が挑む試合は準決勝、チーム"NATO"との対戦である。

 

 

-----

 

 

 鈴は眼を瞑り澄まし顔でこう言った。

 

「こういうシチュエーションは初めてね」

 

 セシリアは微笑を湛えてそれにこう答えた。

 

「そうですわね、授業でも自主練でも殆ど交流はありませんでした」

「そうね、アタシは2人の世話で大変だったから」

「ええ、一夏さんも真も大変だったようですわね。後から来たおばかさんの世話で」

 

 鈴は双天牙月をぎりぎりと何度も握り直した。

 

「……知ってる? 入学早々、高飛車な奴が大騒動起こしたらしいわよ。物騒よねー」

 

 スターライトmk3のトリガーから僅かに浮くセシリアの人差し指はぴくりぴくりと動いていた。

 

「もちろんですわ、口より先に手が出る気の短い方がおられるとか? ご存じ?」

「ちょっと前、同室だった奴が居てさー 話してみれば結構良い奴だったんだけど、悪趣味なのが玉に瑕なのよねー」

「全く同感ですわね、お人好しにも程がありますわ」

「「……」」

 

 アリーナの空で火花を散らす青と赤紫。1年ワンツーの2人を見て清香は思った。

 

(真が居なかったらこの2人仲良かったのかな)

 

 清香はむーと腕を組む。そしてティナは思った。

 

(2人は正反対、正しく火と水の関係……いえ、火と火で炎?)

 

 ティナは苦悩しつつ右人差し指を眉間に当てた。

 

 ウィングマン(僚機)の2人が見守るのは自身のリーダー(編隊長機)である。セシリア、ティナのチーム"NATO"と鈴、清香のチーム"清鈴"、色々な意味で学園中の注目を集めている一戦であった。

 

 2人の威圧に押しつぶされて声さえ出せない観客席が見守る中、鈴が口を開く。本人は冷静な心理戦を仕掛けているつもりだったが、徐々に口元が歪みつつある。清香はそれを言うタイミングを逃し、バツが悪いと頭を掻いていた。

 

「ね、ぇ、知、って、た? アタシはーアンタのことー好きじゃーないのー」

「それは残念ですわ」

 

 何を言っているんだと眉を寄せる鈴にセシリアは右手の甲を口元に添えてこう言い切ったのである。

 

「小さくて可愛らしい方と思っておりましたのよ」

(こ、殺す!)

 

 鈴を除く3人の、平均以上の胸が揺れたのは気のせいではないだろう。

 

 試合開始を告げる笛の音が鳴り、青空に展開するのは異様な気配を漂わせる編隊長機と微妙な気配を漂わせるその僚機。真は神妙な表情で腕を組む。

 

「2人とも知ってたか? セシリアは"ドレッドノート"ティナは"エンタープライズ" チーム名で揉めてたところを、織斑先生が"いい加減にしろこのNATO共!"って怒ってこうなったらしいぞ。それでさ、一夏のやつ2人に面と向かって"納豆?"って言って怒られたらしいんだ。ばかだよなー」

 

「篠ノ之さん、どう思う?」

「オルコットと凰、不仲の原因を誤魔化しているだけだな」

 

 2人の少女から冷水の視線を浴びせられ、冷や汗を垂らす真であった。

 

 

-----

 

 

 俺達が居るのは選手用控え室で、パイプ椅子に腰掛け静寐と一緒にディスプレイを見上げている。それに映るのは鈴とセシリアの試合だ。一進一退の攻防とでも言えば良いのか、片方が押せば押しきれず押し返される、その繰り返しだ。

 

 セシリアとティナのチーム"ナトー"はティナが牽制し、セシリアがとどめを刺す。鈴と清香のチーム"清鈴"は鈴が切り込み、清香がその援護を行う戦法をとっていた。

 

 もう少し具体的に言うと、セシリアは子機の使用を止めレーザーライフルを選択した。その代わりがティナである。両手にサブマシンガンを持ちひっきりなしにバラ巻いている。両手に一挺ずつ持つと弾切れのとき困るはずなのだが―この時ティナの手元がひかり弾倉が入れ替わる。量子格納と展開による弾倉交換 ――撃ちっぱなしだ。その交換速度は真より随分遅いのだが、それでも左右交互に途切れることなく撃ち続けられるのは強みだろう。そこで、怯んだり動きが止まったところをセシリアが狙撃する。流石の鈴も中々切り込めないでいた。

 

 その鈴は龍砲を封じ、双天牙月を分離状態で左右一刀ずつ持ち奮っている。封じた龍砲の代わりが清香だ。ナトーと少し違うのは、清香の狙撃が牽制なのである。それにしてもこの鈴には驚いた。エネルギーを我慢してまでも龍砲を使ってくると思ったんだけどな。当然だけど連結状態での投擲は全くしてこない。二振りを小刻みに奮い、有る時は弾を受け止め受け流し、防御を。また有る時は左右2方向から打ち挟んだり、左手で突き右手は薙いだりと変幻自在な攻撃だ。いや丁寧な攻撃。

 

 俺の見たところ連携は清鈴の方が上だ。セシリアが清香を狙おうとしたら、タイミング良く鈴の影に隠れたり、一転鈴がティナを畳みかける攻撃の時は、セシリアを牽制したりと清香の狙撃は鈴の動きによく追従している。なるほど、鈴が龍砲を捨ててエネルギーを選択した理由はこれか。アリーナでは身を隠す障害物がないから、どうしても回避せざるを得ない。けれど機動中の狙撃は難しい。鈴は機動を抑え、攻防に適した構えを取ることにより清香の狙撃をもサポートしている、と言うことだろう。

 

 方や、狙撃能力も威力もセシリアの方が上なんだけれど、元々相性が良くないのか狙撃タイミングが僅かに遅れ、精度も良くない。その代わり異なる性質の銃撃でそれを補うのがナトーって感じだ。

 

 すごい。何かよく分からんけど、すごい。こんな感想しか出なかった。

 

 

 空調で寒いのか無意識に腕をさする静寐を見て、俺は暖かいスポーツドリンクを差し出し、その肩にジャケットを掛けた。

 

「どっちが勝つと思う?」

 

 小さく礼を言う静寐の眼には油断の色がない、どちらか勝ち進んだ方と決勝で当たることになる。最も俺らも次の準決勝を勝たなくてはいけないのだけれど。

 

「多分、セシリアたちが来る」

「俺は鈴たちの方が有利だと思うぜ?」

「鈴は疲労の色が濃いから。そのうち息切れする」

 

 言われて見れば確かにそうだった。鈴は唇を強く結んでいた。甲龍の支援で汗は掻いていないけれど徐々に反応が遅くなっていた。極端なことを言えば撃ちっぱなしのティナと神経を使うとは言え遠距離からの狙撃に徹するセシリア。でも鈴は絶えず銃撃に曝され、自身の攻撃と防御、更には清香との連携を取らなくてはならない。

 

「たぶんセシリアはそれを狙っていた」

 

 多分という静寐の言葉は過去形だった。恐らくその推測に自信があったんだろう。その数分後、実際に俺は清鈴の敗北でそれを確信した。




次回学年別トーナメント3を予定。トーナメントは次で終わる予定です。

清香が狙撃ではなく、サブマシンガンなどで牽制に徹していたらどうなっていたか? でもその場合、鈴の影に隠れての防御など、鈴との連携が取りにくくなる、そうすると清鈴としての強みが弱まる。そんな感じです。清香は狙撃属性ですし。

因みに"清鈴"は"せいりん"です。きよりんではありません。


にしても、ちゅーで強くなるなんてまるで一夏は○○○○のようですね。それにしてもまた静寐の株が落ちる。



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