学園本棟地下の一室に2人の人物が居た。1人は、姿勢正しかったが腕を組み無遠慮に腰掛けていた。もう1人は、氷のような視線で静かに見下ろしていた。1人はライトグレーのISスーツ姿。もう1人はライトグレーのジャケットとパンツ姿。1人は銀髪の少女。もう1人は金髪の女性。ラウラとディアナである。
白い壁に白い天井、オリーブ色と色あせたパステルイエローであしらわれたタイルの床。8畳ほどで、窓は無く、有るであろう天井の照明は灯されていない。板とパイプで作られた簡素なテーブルには、熱を意図的に発生させるデスクライトと水の入った紙コップが、置かれていた。
暗がりに置かれた白いテーブル、その上に金色と銀色が浮かんでいた。
薄暗く、聞こえてくるのは空調の音。遙か遠くから響く何かの機械音。そして二つの呼吸と二つの鼓動。2つあるパイプ椅子の1つに腰掛けてラウラは、内心で悪態をついた。
(この手の部屋は何処も同じだな)
彼女は、熊の人形や観葉植物やカラフルに装飾された尋問部屋を想像し、僅かに口元を歪ませた。そして彼女自身、その無駄な思考に驚き、新鮮さを感じていた。それはつい先日、僅か12時間前までラウラが持っていなかった物である。
「目隠しをしても拘束しない、か。私にそう言う事をさせたいのか? ストリングス(糸使い)」
ディアナは両手を腰に添え、殺意を隠さず威圧を掛けている。ラウラは恐怖するはずのディアナの威圧を軽く受け流していた。
「そのアイマスクは私の精神的衛生マスクよ。その苛立たしい眼を見ずに済むから。自由にしているのは私を襲わせる為。そうすれば貴女を切り刻めるから。そうよね? そうそうマスクを外しても切り刻むわ」
ラウラは眼に巻かれた黒い帯に手を伸ばし、止め、降ろした。ディアナはタブレットに指を走らせた。壁に映像が映し出される。
それは第3アリーナの風景。地に伏すシュヴァルツェア・レーゲンの装甲の隙間から、白銀の光沢をもつ半固形スポンジが吹き出した。それは、雷と黒い雲を吹き出しながら人の形になる。その後映像が切り替わり、回収されたシュヴァルツェア・レーゲンと多数の硝子片、それらの解析結果が次々流れた。それはアレテーの解析結果である。時間の都合上暫定の物だったが尋問に支障は無かった。部屋に流れる説明の音声がその事実を告げる。
「ふむ。情報伝達齟齬の少ない的確な報告だ。学園のメイン・フレームは我が軍の同型より随分と優秀とみえる。どのようなカスタムを行った?」
「早く吐きなさい。目的は何? 言わなくても理解していると思うけれど、ドイツ軍将校様の特権がまだ有効だと思わないで頂戴」
「カテゴリー3のナノマシンがここに存在すると漏れれば世界規模での一大事だからな」
それが意味するところは学園の存続問題では終わらない、と言う事だ。部屋の空気が僅かに揺らぐとラウラの首にミクロの輪が走った。沈黙が訪れた。
「最後よ。目的は何? 日本政府との密約は何? ナノマシンの入手経路は?」
「ナノマシンの事は私も知らなかった」
「そんな言い訳が―」
「考えても見るが良い。ドイツ軍に学園を壊滅させるメリットはない。明るみになれば軍どころか本国にも影響が出る。仮にそうだったとしても1部隊で所持管理出来るものではない。あれはそれ程の物だろう?」
「……言いなさい」
「今から一週間前、情報提供者が現れた。学園の、男子適正者の事を知りたくないか? とな」
「それを真に受けたの? 随分とお気楽だわ」
「軍のセキリュティを抜け、我が隊"シュヴァルツェ・ハーゼ"に直接連絡を取ってきた以上無視も出来なかった」
「得た情報とは?」
「対抗戦での戦闘データ。学園外での所属不明機襲撃のデータ。男子適正者のデータ、これは"学園の学生記録データ"だった」
ラウラがこう告げた時、ディアナ眼を細めた。映し出されていた映像が僅かに止まった。彼女の心当たりはM襲撃時のアレテーハッキングである。だがあの時は損害報告は無かった筈だ。そう考えに至った時、欺瞞かと確信した。アレテーは高度の意識を持つ情報処理体だ。それ故に自分の記憶が正しいかとは通常考えない。思慮するディアナを確認するとラウラはゆっくりと眼帯を取る。そこにはワインレッドと金色の瞳が輝いていた。
「当初私たちも真偽を疑ったがな。だが機密度最高レベルである筈のアレテー級コンピュータとデータ記録方式と同じ。更に学園を卒業したドイツ人生徒のデータと本国保管を比較すると同じ。男子適正者の調査を進めていた我が軍はそれに一定の信頼を置く事にした」
「政府とは?」
「日本政府とは得たデータ提供の代わりに私の来日を了承させた。そんなところだ。連中は喉から手が出る程欲しがっていたようだからな。もっとも重要なところは渡さなかったが」
「情報提供者の身許は?」
「身長172cm、体重70kg、黒髪の白人でスーツ姿。それ以外は不明だ。追跡中にジャミングされ取り逃がした。高度な情報戦能力が提供されたデータに評価を与える事になった」
「取引条件は?」
「男子適正者との戦闘記録を渡す事。及び2人にプレートを手渡す事だ」
「プレート? 所持品に有ったかしら?」
「クレジット・カードサイズ。軍の調査ではプラチナ製。教官と会った時までは所在を確認していたが、今無いというのならそれがナノマシンであった可能性を考慮するべきだろう。そしてそのカードには"プロメテウス"と刻印されていた」
「神から火を盗み人間に文明と争いを与えた、か。ナノマシンに掛けたのなら嫌らしい奴だわ。これ以上の皮肉は無いわね」ディアナが忌々しく言うと「ギリシャ神話は詳しくない」と、ラウラは風一つ無い水面の如く言う。
「アイスキュロスの悲劇よ、覚えておきなさい」
「それにしてもカテゴリー3のナノマシンを制御するなど、何処の誰だろうな。いや問題はそれを無効化した方法か?」
ディアナから表情が消えた。それを見たラウラは初めて表情を動かした。
「ISか? それとも搭乗者か?」
「最後よ、目的はなに?」
「答えたはずだが」
「違うわ。ラウラ、貴女の目的よ。何故危険を冒してまで襲撃したのかしら?」
「決まっているだろう。あれほどの力を持った者が誰か不明。情報を隠していると思われた学園にもデータが無い。実際に会ってみれば、血なまぐさい手練れ。更にどこかの誰かの様に摩訶不思議な力を持つときている。その様な者が教官の側に居るのだ。あの時の私にとって十分な理由だった」
「そう。軍人らしからぬ迅速なご協力感謝するわね。そしてさようなら」
死体となって証拠(詳細なデータ)と一緒に帰国すればいい、ディアナの金髪が銀色に青い眼が赤色に変わる。彼女の指先から殺意の振動が伝わる瞬間、ラウラの首が落ちる瞬間である。ラウラの見透かす様な、憐憫の眼差しはディアナの手を止めた。
「隠しても意味が無いからな」
「……どういう意味かしら?」
蜘蛛の糸より細いそれが僅かに揺らぐ。
「自己を否定し、力を求めた兵士の末路。それは正に私が歩いていた道だ。実感を伴う教訓を目の当たりにし、繰り返すほど私は愚かでは無い。アメリカ海兵隊 第3海兵遠征軍 第2海兵師団 第13海兵連隊所属 特殊任務部隊 部隊コード2135 通称"エリニュエス"副隊長 マチルダ・レノックス上級曹長」
ディアナは声を震わし、知っている理由を必死に問い掛けた。
「青崎真少尉は私の全て知った。私もまた彼の全てを知った。知った理由はナノマシンの影響だろう。便宜上ディアナ・リーブスと呼ばせて貰うが、私はもう敵対行動は取らない。信じる信じないは自由だが、取れるはずが無いだろう。教官の為にも」
彼は全て思い出したのか、ディアナはそう震える声で問うた。ラウラはただ静かに見つめ返していた。
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彼の見る夢は何だろうか。どんな夢を見ているのか。窓から射し込む夕日を浴びて、医務室のベッドに身を横たえる真を見る。セシリアは彼の額に左手をそっと添えた。
彼が医務室に運び込まれ24時間経過した。ナノマシンの巨人が現れ丸一日経った今も、彼は一向に眼を覚まさなかった。"身体に異常が無い"のにもかかわらず。
一報を受け、慌てて駆け込んだが良いが精密検査で面会出来ず。眠れぬ夜を過ごし、顔を見られたと思えば、今朝、昼休み、そして放課後。変わらぬ、穏やかな様相で寝息を立てていた。
(単に疲れが出たのでしょうけれど……)
彼女の胸裏に浮かぶのは、対抗戦の事。M襲撃の事。フランスでの事。また無茶をしたのだろう。もう大丈夫だ、こう言う度にこれだ。こんな事だから一向に気が休まらないのだ。身体は比較的丈夫な方とは言え、今の状況が続けば蓄積し、いずれ反動が確実に現れる。だが言ったところで聞き入れはしまい。何より彼自身の有り様、取り巻く状況はそれを許さない。
(聞き出そうにも、一夏さんは部屋に閉じこもり、あのドイツ人は行方知れず、第3アリーナの機密保護……)
「今度は何に巻き込まれましたの?」
「また来ていたのか」
白い扉を開閉させるアクチュエータの音が鳴り、現れたのは黒いスーツ姿の千冬であった。セシリアは千冬を一瞥すると、また真に視線を下ろした。千冬は僅かに目を逸らしそのまま近寄った。
「また、とは随分な言い様ですわね。織斑先生」
「先生と呼ぶならもう少し敬意を払え……容体は?」
「相変わらず。眠ったままですわ」
「そうか」
一体何が、そう聞こうとしてセシリアは口をつぐんだ。千冬に聞いたところで教えてはくれまい。真に聞いても同様だろう。今はそう言う状況でありそう言う立場だ。記憶が心をよぎる。屋上での決闘、射撃場での訓練、アリーナでのIS訓練、人目を忍んでのお茶会、すれ違いで別れを告げられた夜、意地で一夏の腕を取った事、本国経由で知ったMの襲撃、シャルロットから聞かされたフランスでの出来事、そしてもう一度銃を手渡した事。
代表候補としての責務、オルコット家長としての務め、それらの反動から劇的な恋愛に相応の憧れは有ったが、もう十分だ。今後は地に足を付けた恋愛をしよう。そう思った時彼の寝顔が目に入った。私がそうしている時、彼は何をしているのか。きっと何も変わらず今のままだろう。そして今度は身体を削ってゆく。その考えに至った時、セシリアはゆっくりと口を開いた。
「他にありませんの?」
「どういう意味だ」
「彼がこの状況になって他に言う事は無いのか、と聞いております」
「蒼月がこうなったのは職務の結果だ。労いはするさ」
あくまで体裁を語る千冬にセシリアは面を上げた。両手を組み背筋を伸ばし千冬を、見定めた。
「織斑先生、いえ織斑千冬さん良いでしょうか? 今まで黙って見ておりましたけれど、再び何か起りましたら彼を本国に連れて行きます」
「何を言っている」
「この様な事が続くのであれば、私にも相応の覚悟があると申し上げております」
「ほう。どのような権利でだ?」
「私、記憶が無い事を本人から告白されておりますの。織斑さんは前の彼を知っているご様子ですが、彼は今や社会人。仕事上の関係だとおっしゃるのであれば、問題有りませんわよね?」
「家はどうする?」
「執事をご存じ?」
「蒼月を縛るというのか」
「枷はオルコットでも用意出来ます。ここに居て危険に身を曝すぐらいなら彼に恨まれる事など大した事ではありませんわ。彼は争い事に向く人ではありません。それはご存じでしょう?」
「だめだ。学園は男子適正者を手放さない」
「織斑さん、貴女に聞いておりますの。貴女にとって彼はなんですの?」
千冬は答えず押し黙った。
「それにお答え出来ないのであれば、問題有りませんわよね?」
くれぐれもお忘れ無きよう、そう言い捨てるとセシリアはその場を後にした。扉を開き廊下をしばらく歩けば、腕と足を組み、壁に背を預ける鈴が居た。彼女は愉快そうに唇を動かすと白い歯を見せた。
「アンタも良くやるわね。ブリュンヒルデにふっかけるなんて」
「盗み聞きとは……育ちを疑われますわよ」
「実際良くないけどねー」
セシリアは足を止める事無く一瞥を鈴に投げ、その前を通り過ぎた。鈴は腕を頭に組み変えるとセシリアの後を追った。
「アンタ、さっきのアレ。本気?」
「さぁ。どうでしょうか」
「ふーん。まぁいいけどね」
「随分と冷静ですわね。真に告白していた筈ですけれど?」
「止めたわ」
「……は?」
「一夏の事は好き。でも真も同じ。でも片方捨ててどちらかだけなんて無理、2人を放っておけない。なら"そう言うの"無理じゃない」
鈴は右腕の甲龍をそっと撫でると、じっと見つめるセシリアにこう言った。
「出来る事が多いってさ、良い事だけだと思ったけれど、そうじゃないわよね」
「それは得てして選択すること。それは何かを捨てなくてはならない事。権利と義務は表裏一体。力を持つ者の定めですわ。ところで一夏さんは?」
「荒れてたわ。部屋中ひっくり返してる」
近くに居なくて良いのか、セシリアは意外そうにそう問い掛けた。
「きっと一夏には静寐みたいなのが向いてんのよ」
自嘲気味に笑う鈴の手を取ると、セシリアは笑顔を向け食堂に誘った。
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数名の少女たちが柊の、706号室の前を通りかかった時である。部屋の中から聞こえてきた扉を突き破らんばかりの大音で、ある者は飛び退き、ある者は腰を抜かした。最初はクッションのような柔らかい物が床に当たる音。次は椅子のような堅い物が急に動き、壁か机に当たるような音。扉一枚隔てた少女たちは顔を見合わした後、そのまま駆け足で立ち去った。
夕日で焼けるその部屋の中は散らかっていた。荒れ果てていたの方が正しいかもしれない。衣類、文房具、日用品、書籍、ゲーム機が、部屋の一面に、棚の至る所に、机のあちらこちらに乱雑に置かれていた。
一夏はISスーツ姿のまま鞄を持ち上げると、床に叩きつけた。埃とゴミが秋風に翻弄される木の葉の様に部屋を舞う。彼の脳裏には“知らない記憶”が暴風のように暴れていた。彼は、焦点の定まらないまま部屋を、しばらく見渡すと崩れ落ちた。両手を床に付き、歯を食いしばった。目と眉を歪め、開いた両手をきつく結ぶ。
扉が開いた。
「授業休んで毛布の中に引き籠もっていたと思ったら、今度は物に八つ当たり? いい加減にして」
静寐である。膝下まである多少長めのスカートだが薄手の生地。半袖に白い靴下。ライム色のスリッパを履いていた。
「……なんであいつに勝てない」
「一夏より真が強いから」
「俺だって努力してきた」
「ならそれ以上に苦労したんじゃない? そんな事より片付けて。シャルが戻って来たら雷が落ちるから」
静寐は夕日を浴びてオレンジと黒の強いコントラストを放つステンレスマグカップを手に取ると机の上に置いた。タオル、下着、学生服。歯ブラシ、テキスト次々掴んでは元有った場所においていった。
「……シャルは?」
「リーブス先生のところ。なにか色々あるみたい」
「ダセェな、俺。静寐も帰った方がいいぜ。ダセェのがうつっちまう」
いまだ立ち上がらない一夏に、静寐はこう言った。
「私は。一夏を勝たしてしまった、私の目的の為だけに一夏を汚してしまったの」
「……してしまった?」
「一夏は普通じゃ無いの。一夏の身体能力は医学で説明が出来ない。生物学的な脳神経速度と戦闘時の反応速度が辻褄が合わない。筋繊維の太さと腕力は一致しない。しかもそれが徐々に上がるのではなくて、心理的に大きな影響を受けた時に飛躍的に上がる……その時私はこう考えた。一夏を使えばセシリアに勝てるって」
彼は黙って聞いていた。
「私は一夏を人の理から外れた人って考えた。誰にでも優しい、皆の上に立つ、人を越えた人じゃないかって。でも私は、そんな一夏に私は勝利という目的を、勝利の優越感を与えてしまった」
「俺は負ければ良かったってのか」
「違うの。目的を持つというのは誰かを蹴り落とす事。私たちの勝利の影に泣いた娘が居るように。それは一夏から一夏を奪う事。だから私は、一夏になじられなければいけないの。だから、一夏の気が済むまでここに居ます」
少年はあぐらを組んだ。少女はただ静かに立っていた。雲が途切れ、部屋の中が夕焼けに染まる。
「聞きたかった事がある。どうして真を振った?」
「振ってなんかいない」
「嘘だ。お前は真の事が好きだっただろ」
「そう。私は真の事が好きだった。でも真は違った。だから違う。私が諦めただけ」
「……なんで諦めた」
「覚えてる? 対抗戦のあと一夏が私に言った事」
彼は暫しの沈黙の後、一言済まないと言った。
「だろうと思った。一夏はね私にこう言ったの『静寐、飯にしようぜ。腹減ってると碌な事考えない。こういう時は食って寝るのが一番だ。前向きなときに前向きに考えようぜ』って」
「……それが?」
「そう、そんな些細な事で私は揺らいでしまった。対抗戦の時、シールドが開いた時、荒れ果てたアリーナのフィールドで立つ真を見て怖いと感じてしまった私は、一夏に優しくされて揺らいでしまった。そんな弱い自分に気づいてそれを認めたくなかった。だから―」
「セシリアに決闘か」
彼女は両腕で顔を覆うと黙って頷いた。紡いだ声は震えていた。
「セシリアと終わった、そう聞いた時スカッとした。落ち込んでいる真を見てざまあ見ろって思った。だって信じられる? 真は私の気持ちに気づいていたのに、私が何も言わない事を良い事に、セシリアを追いかけて、落ち込んでいる私を見てその気も無いのに優しくして、私ばっかみたい。自分だけで舞い上がって、私のこと友達としか見ていないって分かっていたのに私はどうにもできなくて。それで、自分を試した。セシリアに勝てれば真の隣に立てる、そうすれば振り向いてくれるって」
少女は起き上がると彼の肩を掴んだ。大粒の涙を流していた。
「でも私は負けた! セシリアに勝てなかった! ……訓練すればするほど真が違う人だって分かった……だから箒にお願いしたの、私たちの代わりに真を守ってって。私たち3人の中で唯一人箒にはそれが出来るから。だから嬉しかった事も悲しかった事も、全部箒にあげた。その代わりに一夏の全てを私は箒から受け取った……交換なんて、復讐なんて馬鹿な事をしていると気づいた時にはもう何もかも手遅れだった」
「箒は、真の事が好きなのか」
彼女は黙って頷いた。
「箒も揺らいでいた。けれど、本音と私が真の事を話してばかりいたから。対抗戦のあと箒の様子がおかしかったよね? あれは箒がそれを認めたくなかったから、でも私たちが箒にお願いしたから。だから箒は一夏を裏切ってなんかいない。全部私たちの、ちがう。私のせい。だから、だから、本当に、」
ごめん、最後の少女の言葉は意味を成さなかった。ただの嗚咽。
夕日を浴びて濃い2つの人影が落ちるその部屋には、少年の腕の中で泣きじゃくる少女の姿があった。一夏は静寐を強く抱きしめると、その瞳に再び炎を灯した。