真剣でKUKIに恋しなさい!   作:chemi

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30話『芽生え』

 

「それ以上は駄目ッ!!」

 

 清楚は自分を抑え込むように体を両腕で抱え込み、悲痛な叫び声をあげた。周りに集まっていた覇王軍の生徒達、見物人等も突然の出来事にざわついている。

 模擬戦は今日で3日目。そして、覇王軍としては今度こそという意気込みで臨んだ福本軍との戦いだった。助っ人の一人を欠き、けが人も出し始めた福本軍は6チーム中でも最も与しやすい相手のはずであり、項羽もこれまでの戦いを反省して攻めることを我慢し、全てを皆に任せるつもりであった。

 しかし、それがまたしてもできなかった。旗の守護を担う項羽に向かって飛ばされる福本軍総出の挑発。アホだの馬鹿だのといった子供じみたものから臆病者、猛将の名はハッタリかといったそれはもう多種多様の言葉の数々が投げかけられる。

 沸点が低いのは既によく知られていた項羽の弱点を上手く突いた一手。それはもう見事にひっかかってくれた彼女に対して、健在であったマントマンがまたしても単騎突撃を行う。しかし、彼女もそれを二度喰らうほど甘くなく防ごうとしたが、あと一歩届かず覇王軍の旗は無情にもポッキリと折られてしまった。

 肩を震わせる項羽に詰め寄るのは攻め上がっていた生徒達だった。今回は任せてくれるって言ったのに。あんな挑発にのるなんて。相手の目的は見え透いてたじゃん。これで3連敗ですよ。

 口ぐちに不平を漏らす生徒達はさすがに我慢の限界に達していた。マルギッテは言葉にもならない様子で大きく息を吐き出すのみ、その隣でクリスは頭を抱えている。毛利と長宗我部は助っ人という立場からか沈黙し、京は心配そうに大和を見つめていた。

 その大和は詰め寄る生徒達と項羽の間に割って入ろうとしていたが、そこで項羽もまた爆発した。お前達が弱すぎる。臨機応変に動けない癖に口答えするなと一喝する。

 ぎょっとしたのは皆を押しとどめていた大和であった。その先に続く言葉が予想できたからだ。

 

「覇王について来れない――」

 

 そこで冒頭の清楚の台詞へと戻る。

 小さなざわめきが起こる校庭で、清楚は即座に次の行動へとうつった。ゆっくりと皆へと下げられる頭。ツヤめいた黒髪が重力に負けてさらりと肩から流れ落ちる。

 

「皆……ごめんなさい」

 

 大きな声で言われたわけでもない謝罪の言葉。しかし誰の心にも届く心のこもった謝罪であった。それを受けて熱くなっていた生徒達も我に返ったようだった。

 いつまでも上がらない清楚の頭。微動だにせぬその姿勢に皆の方が圧倒されていた。

 

「清楚先輩、ですよね? まずは頭を上げてください。ここじゃなんですから場所を移しましょう。皆も少し時間をくれないか? 頼む」

 

 大和はそう言って清楚に頭を上げさせると今度は自分が頭を下げた。この機会を逃せば軍の空中分解は避けられない。軍師としてもそれをさせるわけにはいかなかった。

 生徒達が戸惑いを見せる中、マルギッテら幹部がいち早くその提案にのる。それに皆が続き覇王軍は未だざわつく校庭を速やかに去っていった。

 見物人が最後に見たのは校舎へと姿を消す前の清楚の丁寧なお辞儀だった。

 征士郎は共に見物していた冬馬を横目で見る。

 

「覇王軍の瓦解は起きそうにないな。しかし福本軍の助っ人は潰れた。冬馬の策は半分当たり半分はずれといったところか?」

「人格の切り替えがあの土壇場で行えるとは思いもよりませんでしたから。もっともあのような真似ができるなら、なぜもっと早くから行わなかったのか疑問が残りますね」

「あの切り替えには集中が必要なのは事実だ。少なくともこれまでの清楚を見ている限りではな」

 

 また清楚自身からも感情が高ぶっていると切り替えができないと聞いていた。

 

「葉桜先輩がわざわざそんな嘘をつくとも思えませんし、今回のことは偶然でしょうか?」

「かもしれん。しかし項羽は当分大将を務めることはできんな。今日の出来事で完全に信頼が地に落ちた」

「ですが覇王軍は元より優秀な駒が揃っていますから油断なりませんよ」

「もちろんだ。指揮権は完全に直江へと移るだろう。冬馬としてはその方が楽しめるのではないか?」

「ふふっ……大和君からは時折熱い視線を送られる仲ですから。楽しみではありますね。そういう士郎先輩こそ楽しそうに見えますよ?」

「冬馬や燕の裏の行動をとやかく言うわけではないが、策にかかり潰れて終了ではさすがに味気ないだろう? ここからどういった巻き返しを図ってくれるのかと思ってな」

「いいですね、士郎先輩のその顔……ゾクゾクします」

「お前は本当にどうしようもない奴だな」

 

 征士郎は冬馬を引き連れその場を後にした。

 

 

 ◇

 

 

 昼間の暑さの余韻を残した夕暮れ。英雄は川の流れる音を聞きながらランニングを行っていた。うっすらと汗をかいているものの、昨日の昼の暑さに比べれば大分マシであり楽である。昨日行われた地区大会決勝、そこで見事勝利を手にした川神学園は夏の甲子園への切符を手に入れた。その立役者となったのはもちろん英雄、それに加え2本のホームランで彼を援護した山田である。英雄の陰に隠れがちだが、この山田という男も攻守に定評がありスカウトから目を付けられたりしていた。躍進を続ける野球部で有名となっていくのは何も英雄だけではない。

 試合の翌日ということもあってか、英雄はこのランニングが終わればあとは帰ってゆっくりとストレッチを行うのみであった。

 その英雄の後ろより何かを引きずる音が近づいてくる。

 

「あれ? 英雄君?」

 

 英雄が振り返るより先に掛けられた声。彼の振り向いた先にいたのは一子であった。

 英雄は足を止め一子へと向き直る。

 

「これは一子殿。こんなところで出会うなど奇遇ですな。鍛錬ですかな?」

「うん。英雄君こそ、昨日試合があったのに走っていたの?」

「ええ。試合翌日は毎回ランニングと決まっていますので、肩への負担もこれならかかりません」

「あ……そうなんだ」

 

 2人の間に少し沈黙が流れた。それを破ったのは英雄。

 

「一子殿さえ良ければですが……少し話をしませんか?」

 

 

 ◇

 

 

 2人は揃って河川敷の土手へと腰を下ろした。

 

「ちょっと遅れちゃったけど、英雄君甲子園出場おめでとう。ご褒美って言ったらなんだけど、はいこれ」

 

 一子が英雄に手渡したのはスポーツドリンク。英雄からの誘いに待ったをかけたのはこれを買いに行っていたからだった。

 礼を述べる英雄に、一子は苦笑する。

 

「こんな安っぽいものでごめんね」

「いえ、そのお気持ちだけで十分です。我にとっては何よりの褒美ですからな」

「相変わらず大袈裟ね、英雄君は。でも、これで目標に一歩近づけたのよね?」

「ええ。今年こそは全国の頂点に立ち、優勝旗を川神学園に持ち帰る所存」

「応援しているわ。頑張ってね」

 

 一子は両手をぐっと握り英雄を見る。「もちろんです」と彼もガッツポーズで応えた。

 

「それよりも一子殿こそ模擬戦では随分活躍なさっているご様子。我は直に拝見することは叶いませんでしたが、その活躍ぶり聞き及んでおります」

「そうかな……」

 

 それに応えた一子の声は少し元気がなかった。

 

「一子殿?」

「あははは……ごめんね。試合には勝ってるんだけど私的にはあんまり納得がいってなくって……」

「そうでしたか。我で良ければ話してみてはくれませんか? 心の内にため込むというのも精神上良くないでしょう」

「うーん……でも英雄君に悪いわ。せっかく優勝を決めて甲子園に乗り込むっていうのに、なんだか暗いお話するっていうのも」

「フッハハハ。一子殿が悩まれたままの方が我は気になります。なに、遠慮は無用。どうぞ存分に思いの丈を述べられよ」

 

 それでも悩む一子に英雄は続ける。

 

「ではこういうのはどうですかな? 先ほど頂いたスポーツドリンクのお礼として貴方は我に話を聞いてもらうというのは」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「無論わかっております。とにかく我は貴方の力になりたいのです。こういう理由を付けてでも。お聞かせ願えないでしょうか、一子殿」

 

 一子はようやく観念したのかぽつりぽつりと理由を口にする。

 武蔵軍との戦いで由紀江との力量の差を見せつけられたこと。その由紀江と互角で戦い続けた義経のこと。その義経に決闘で負けた自分のこと。そしてもう一つの大きな理由は林沖と矛を交え敗北したことだった。

 源氏軍対武蔵軍の二回目となる試合。模擬戦はクジで対戦相手が決まるので早い段階で同じチームとやり合うことが可能であった。

 その試合で一子は隊を率いて旗を取りに行ったが、全員まとめてかかったにも関わらず旗を倒すことは叶わず逆に多くの負傷者を出す始末となった。そのとき一子も多勢の中攻撃を仕掛けるも林沖にいなされ強烈な一撃をもらい膝をつく。決闘であればこの時点で勝負は決していただろう。多対1の状況でもこの体たらく。

 

「皆強いわ。私もそうなるために鍛錬を積んできた。これだけはどんなときでも手を抜かずにやってきたの……なのに」

 

 勝てない。諦めていないからこそこの言葉だけは、一子の口から出てくることはなかった。英雄はそれを何となく感じ取っており、ただ静かに彼女の思いを受け止めていた。

 

「英雄君は着実に目標に近づいているのに、私はあの日から全然変わってない」

 

 一子はそこまで語ると一転、いつもの無邪気な笑みで言い放つ。

 

「……って別に諦めたわけじゃないんだけどね。これからもガンガン修行していくのみよ! 遠い道のりだってことはこの道目指すって決めたときに爺ちゃんからも言われているし、私もそれを承知で進んだんだから!」

「光灯る街に背を向け、我が歩むは果て無き荒野……」

 

 英雄の紡ぐ言葉に一子が反応する。

 

「奇跡も無く標も無く、ただ夜が広がるのみ」

「揺るぎない意志を糧として、闇の旅を進んでいく」

「勇往邁進ッ!! うん。これからもひたすら前進あるのみよ!! ありがとう話を聞いてくれて」

 

 一子は眩しいくらいの笑顔を英雄へ向けた。

 

「構いませぬ。元はと言えば我がお願いしたこと故。そういえば話は変わりますが……4日後、剣聖黛大成殿が川神に来られるらしいのです」

「えっ!? それって確かまゆっちのお父さんよね?」

「まゆ……ああ、黛由紀江ですな。そうです。こちらで何泊かされる予定になっているので、稽古をつけてもらうのも良い機会となるのでは?」

「ほうほう。確かに……剣聖と呼ばれるほどの人だもの。ぜひ稽古をつけてもらいたいわ! ありがとう、英雄君。帰ったら爺ちゃんにも聞いてみる」

「なんのこれしき。一子殿のお力になれたのなら、この九鬼英雄望外の喜びです」

 

 太陽はもう間もなく姿を消そうとしている。

 英雄は立ち上がってそれを見つめた。その隣で一子はきょとんとしていたが、もう別れるのかと思い自身の土手から腰をあげる。

 

「一子殿!」

「どうしたの、英雄君?」

 

 2人は向き合う。燃えるような赤が彼らの横顔を照らし、土手に影を伸ばした。

 一子は相変わらず不思議そうな顔をしているが、対照的に英雄は少し緊張しているようだった。

 

「今年、我は甲子園で優勝します! 必ず! ですので……その瞬間を見ていてはくださいませんかッ!? 決勝の行われる甲子園、我の応援に来ていただきたいのですッ!!」

「もちろんよッ! 英雄君の活躍する姿、ばっちりとこの目に焼き付けるわッ!」

 

 一瞬変な間が漂った。英雄は珍しく瞳を瞬いている。その顔にはこんなに簡単に了承が得られていいのかと書かれていた。考えた末の返答がくるかと思いきやの即答。

 一方の一子も何か変なこと言ったかしらと首をかしげている。

 そしてようやく我に返った英雄が口を開く。

 

「よ、よろしいのですか?」

「うん! 皆で応援に駆け付けるわッ!」

 

 皆でかと思わなくもないが、英雄にとっては一子が来てくれることこそが重要であった。

 

「フハハハ! これで我に怖いものなどありませぬ! 鬼に金棒とはまさにこの事!」

「英雄君は九鬼だからピッタリね」

「おお、さすが一子殿……まさにその通りですな。これで優勝はもらったも同然!」

「油断大敵よ! どの相手も代表として集まって来るんだから」

 

 一子はますます意気軒高となる英雄をたしなめた。

 

「もちろんです。うーむ、しかしこの気持ちの高ぶり……今からでも投げ込みを行いたいところですが」

「ダメよ! 肩に負担をかけちゃ駄目だって英雄君が言ったんじゃない」

「えーい! ならば今からランニングの距離を倍にして……」

「だからちゃんと休まなきゃダメでしょ。ただでさえこれからの日程が厳しいんだから」

 

 一子が言えた義理ではないが、英雄にとっては無視できない言葉である。

 英雄は逸る気持ちを抑えるのに苦労したようだがやがてそれにも成功して、一子に別れの言葉を告げ去っていった。その際送る送らないという話になりそうなものだが、これに関してはとっくの昔に決着がついており、英雄もそれに言及することはない。それでも一子が家に着くまで数名の人影がついていたりするのだが、これは英雄が差し向けたのではなく征士郎の命であった。

 なぜなら英雄の想い人であるということから狙われる可能性があるからである。そしてもし狙われたなら接触する前に潰す。それは狙ったなら容赦はしないという警告と英雄に余計な心配させないという配慮からであった。

 一子はランニングを再開させた英雄の背中を見送った。

 

「あんなに喜ぶなんて……」

 

(皆が応援に来てくれることそんなに嬉しかったのかしら?)

 

 心の中でそう呟いたが本当はわかっているのだ。自分が応援に来てくれることを喜んでくれているのだと。

 1年近く経って英雄のことも色々と知ることができた。さらに尊敬できる部分も知ったし、逆に少し子供っぽいところがあるところも知った。そして唯一変わらないのが一子に対する真摯な態度である。

 一子はしばらく英雄が去っていった方向へ視線を向けていた。

 

 

 □

 

 

 それから数日後、征士郎の部屋にて。

 

「征士郎様、遂に見ちゃいましたよ。決定的瞬間を!」

 

 定期的な連絡のため訪れるようになった技術者、松永久信(まつなが・ひさのぶ)は報告を終えたところでこう切り出した。

 以前は静初が大和に気があるという噂を聞いたと征士郎に伝えていた。

 

「ほう……今度は聞いたのではなく見たのか」

「ええ!! 李さんが仲良さそうに直江君とバーで飲んでいる姿を!!」

 

 それは久信が仕事を終えて久しぶりに一杯ひっかけて帰ろうとバーに寄ったときのこと。一杯で帰るつもりがズルズルと杯を重ねていき、気づけば隅でぐでんぐでんになっていた。そのときには既に静初と大和の姿がカウンターにあったという。

 2人はこそこそと何かを話しあい親密な様子であり、別居してから長い久信にとっては見せつけられているようなものだったと憤慨する。

 実はその場所にステイシーも同行していたのだが、彼女は早々に酔いつぶれカウンターに突っ伏していた。故に久信の視界に入らず見落としてしまっていたというオチである。加えて酔っていた久信の記憶は切り取られた写真のように断片的なものでもあった。

 そんなあやふや状態であったときのことを久信は自信満々に語る。

 

「あれは間違いなくできてますよ。僕の勘がそう囁いていますから」

「ふむ。しかし、俺は静初から直江と交際していると聞いた覚えはないが?」

「そんなの当然じゃないですかッ! あの主想いで有名な李さんが征士郎様に先んじて恋人ができました……なんて報告すると思いますか?」

「つまり俺に遠慮していると?」

「そうです!! でも好きになった気持ちは止められない! それが恋ですからねッ! 僕もミサゴ……ああ僕の妻なんですけど、と出会ったときは一目で恋に落ちて、そこからは男らしく猛アタックのしまくりでしたから!」

 

 征士郎はそう語る久信の瞳をじっと見る。

 

「いえ、すいません。ちょっと見栄張りました。男らしく猛アタックするつもりだったんですけど、そのときは一発やらせてもらえませんかって懇願までしました」

「まぁそれほどまでに魅力があったということか」

「ええ、そりゃもう!! いつか……そういつか、征士郎様にもご紹介したいです。本当に……っとすいません脱線しました。それで僕が何を言いたいかと言いますと、李さんと直江君の雰囲気はまさに僕のときと瓜二つだったわけです、はい」

「そうか……」

「あれ? 征士郎様あんまり嬉しそうじゃないですね」

「いや、静初もそろそろ結婚を視野に入れ始めてもおかしくない年齢なのだと思ってな。時の流れの早さに驚いていた」

「李さんは従者の間だけでなく研究所の方でも人気ありますから」

 

 本当に綺麗な人だと久信は一人納得してうんうんと首を縦に振った。

 

「おっと……もうそろそろ時間です。僕も戻りますね」

「ああ。ご苦労」

 

 久信は扉の前で一度頭を下げ出ていった。その後ろ姿を見送った征士郎はそのまま扉を見つめ続ける。

 

「静初に恋人か……いても不思議はないな」

 

 征士郎は静初の幸せを願っている。その想いは誰よりも強いと言えるかもしれない。その彼女に好きな人ができた。当然祝福してやるのが主としての務めである。

 

(なのに……なぜだろうな。俺に恋人がいないからといって、知らず知らずのうちに静初もいないと決めつけていたのか?)

 

 征士郎は椅子に全体重を乗せ天井を見上げた。

 

(遠慮か……確かに静初ならありえそうな話だ)

 

 何事においても主である征士郎を優先する。それを専属になってからずっと続けてきたのだ。その姿勢に征士郎は感謝こそすれど疑問をもったりしたことはない。

 そして知らない内に恋人がいないという前提に立っていたためだろうか。不思議なことに思い返してみれば好きな人が云々という会話すらした覚えがない。

 

(静初のことだ。恋人ができ、やがて結婚して子を成しても専属は続けるだろう。俺もそのときには結婚し家庭を築いているはずだ。俺達の間の関係は何も変わりがない。そして俺の子を静初らの子と引き合わせ、願わくば専属として……)

 

 幼い頃より共に過ごし、同じものを見て感じて育っていけば、自分達よりも強い絆で結ばれた主従となるだろう。

 

(直江か……紋が見出した男だ。信用はできるだろう)

 

 いつ頃から付き合い始めていたのだろうか。出会ったのは高校からのはず。関わる機会はほとんどなく、可能となったのは紋白から入って来てからくらいだろう。そんな短い期間で成立するのか。

 

(いやしかし久信の言っていた通り、恋はどんな風に始まるかなど人それぞれだろう。父さんも一目ぼれだったと聞いているし……そもそも本当に付き合ってるのかどうかもわからない)

 

 久信の言っていることは勘であり、確かなことは分からないのである。しかしもし本当ならと考えてしまう。

 

「民を幸せにしてこその九鬼。ならば仕える者も幸せでなければならない。そして静初は幸せを掴もうとしている。ならば余計な遠慮をさせるわけにはいかん、か……」

 

 征士郎はそう言葉にするが、心の中ではうっすらとした靄がかかっている。もし静初に恋人がいるとして、それを紹介されたとき自分は素直に祝えるだろうか。そんな疑問が湧いてくるが、そう考えてしまうこと自体おかしい気がした。

 

(自分の物が取られそうになって焦っているのか?)

 

「不思議だな。自分の気持ちがよく分からんとは……」

 

 征士郎の呟きは誰にも届くことなく静寂へと吸い込まれていった。

 

 




英雄の口調とか大丈夫かな。あまり喋らせていないキャラを急に喋らせるとなんか不安定になる。
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