真剣でKUKIに恋しなさい!   作:chemi

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従者らの昔については勝手に妄想してます。マープルとヒュームは元恋人だったということでよろしくお願いします。


34話『気になる2人』

 

 共用スペースの一つである談話室に3人の従者の姿があった。木の丸テーブルを囲む彼らの前には紅茶の注がれたカップが置いてあり、湯気の立つ様を見るに淹れたてであることがわかる。

 その内の一人であるマープルはカップを手に取りまず香りを楽しんだ。波紋をつくる水面は天井のレトロな照明の光を柔らかく反射している。それからゆっくりとカップへと口をつけた。

 紅茶は淹れる者によって味が変わる繊細なものだが、さすがクラウディオと言うべきかその旨さを余すことなく引き出している。

 昔は紅茶の味でも負けなかったが、今のクラウディオに勝てるとしたら知識くらいかね。マープルはそれを懐かしく思った。何をやらせても軽々とこなし、いつからか完璧執事などと呼ばれるようになったクラウディオだが、若き頃は自分も負けず劣らずの力を見せていたのだ。穏やかな性格は相変わらずで、恋人だったヒュームの愚痴も色々と聞いてもらったものだった。

 横目にその元恋人を見れば「中々だな」と辛口コメントをしているが、お前は自分とクラウディオから紅茶の淹れ方を学んだ口だろうと言いたい。

 ロンドンでの生活から行き着いた先は日本。場所は変わっても、こうして3人一緒でいるのも腐れ縁というものだろうか。熱く鮮烈な日々は今も瞳を閉じれば容易に思い出すことができる。それは燃えるような恋をしていたのも関係しているだろう。

 征士郎と静初の交際。既にマープルら3人のもとにもその情報は届いていた。

 ヒュームが口を開く。

 

「しかし、李と征士郎様が交際とはな……」

「不思議ではないでしょう。李は以前からずっと征士郎様のことを慕っていたのですから。まさかこんな早く事が進むとは思いませんでしたが」

 

 そう言うクラウディオの表情は喜びが隠しきれないようで目じりのシワも一段と深い。

 弟子であり娘のような感覚でもあるのだろう。マープルは2人の関係をそう見ていた。3人とも既に結婚という年齢ではない。それでもクラウディオには静初がいるように、ヒュームにはステイシー、そして自分には桐山鯉という弟子がいる。感覚的に大変不本意であるが息子あるいは孫がいればこんな感じなのかもしれないと思ったこともあるのだ。マザコンの変態であるという部分を除けば可愛いものである。

 それに静初と接する機会が増えた中で彼女のことをより知ったが、純粋で向上心が強く礼儀を弁えているため好感を持ちやすい。クラウディオがより思い入れが強くなるのも頷けるというもの。

 そしてその相棒と称しているステイシーはじゃじゃ馬ではあるが、あれはあれで可愛げがある。手のかかる子ほどというやつで、ヒュームがしごくのも気に入っているが故であろう。

 そのヒュームがクラウディオへと視線を向けた。

 

「お前は知っていたのか、李が征士郎様を好きだったと?」

「もちろんです。李は私の弟子ですよ? それに征士郎様を見ていてもいつかこういう時が来るのではと思っていました」

 

 それを受けてマープルが問いかける。

 

「なんだい? それじゃあれかい? 征士郎様も李のことを好きだったって言いたいのかい?」

「ええ。まぁマープルが気づかないのも当然です。征士郎様もご自分でお気づきなっていなかったでしょうが、李が傍にいるときといないときでは少し違うのですよ」

 

 クラウディオのメガネがキラリと光る。

 観察眼も超一級。執事になるために生まれてきた男。マープルの脳裏にそんな考えが浮かぶ。それに反してため息をつきたくなるのがヒュームの言葉。

 

「李が忠誠を誓っているのは承知しているが、恋心を抱いていたとはな」

 

 この元恋人は色々と突き抜けた超人であるが、色恋沙汰だけはそこらの凡人にも劣るのではないかというのがマープルの偽りなき本心である。鈍感なところがあり、そのことが原因で激しく衝突したことも数えきれない。その度にクラウディオが間にたってヨリを戻すというのがパターン化していた。

 2人の間で起こる口喧嘩では、さすがに世界最強と謂われたヒュームであってもマープルには敵わなかった。若い頃のヒュームは今よりも断然凶暴さが全面に出ており、そこらの人間では言葉を交わす前にその雰囲気に呑まれてしまうのだが、マープルはそれに怯えたことは一度としてなく真正面からぶつかる女性であった。そしてヒュームもなんの理由もなく暴力を振るう人間ではなかったため、お互いがぶつかるときは口が物を言うのだが、その土俵ではマープルのほうが一枚も二枚も上だったのだ。

 マープルが冷たく言い放ちヒュームが言葉に詰まる。そんな光景を今の従者達が見ればどう思うだろう。そう考えると意地悪な笑みを隠せないマープルであった。

 

「いや李のことはあたしも分かっていたが、まさか征士郎様がねえ……」

 

 その事実を知って、なぜクラウディオが征士郎の見合いについてあまり話題に出さなかったのかも納得がいった。完璧執事は征士郎本人も気づいていない気持ちを感じ取っていたのだから。

 かゆいところまで手の届く細やかな気遣いのできる男。そのため彼に想いを寄せる女も数多く、それこそモデルや女優といった世界のトップを走るような者もその中にはいた。しかし彼の「ふくよかな女性が好き」という性癖がそれらの煌めく女達をことごとくシャットアウトしてきたのだ。逆にその好みに合致した女性がいたこともあったが、こちらはクラウディオの容姿にコンプレックスを抱くようで彼の恋は一筋縄ではいかなかった。

 

「アンタもつくづく恐ろしい男だ」

「マープルに褒めて頂けるとは長生きはするものですね」

「別に褒めてはいないよ」

 

 そこへヒュームが口を挟む。

 

「おい、マープルも李のことを知っていたのか?」

「当たり前だろ。アンタと一緒にしないでおくれ」

「まぁまぁ、ヒュームも紅茶のおかわりはいかがです?」

 

 ヒュームは出鼻をくじかれたのか憮然とした表情で「もらおう」と短く言った。

 

「でもつい最近、紋様の専属……直江とか言ったね? それとできてるって噂を耳に挟んでいたけど、あれは何だったんだい?」

「人から人へ話が伝わるとともに変わっていったのではないでしょうか?」

「あのボーイも入って早々大変だねえ。李の仮初の相手にされたと思ったら、競い相手は征士郎様ときたもんだ」

「どうやら先ほどもその事で走りまわっていたようですよ」

 

 そんな事まで把握しているのか驚くところであるが、マープルなどは既に慣れている。

 

「で、アンタがそれをフォローしてやったのかい?」

「大した事はしていませんよ」

 

 クラウディオはいつもと変わらぬ笑みを浮かべた。彼が動いたということはその出鱈目な噂も明日には根も葉もないものだと知れ渡り、やがて完全に消え去るだろう。

 

「物好きだねえ」

 

 マープルはそう言いながらもクラウディオが動いた理由も察しがついていた。そこに静初も関わっていたからだろう。噂はどこで変化するかわからないため、早めに処理できるに越したことはないのだ。

 

「直江大和は巻き込まれただけですからね。それにこういうことの処理は慣れていますので」

 

 誰の事でとは明言しなかったが、マープルはこれ以上は藪蛇だと判断した。ヒュームも心なしか気まずげに紅茶を飲んでいる。

 噂は噂と割り切っていても、それが愛する人の事でさらに浮気に関する事とあれば見過ごすわけにもいかない。マープルの同期であったジェームズはクラウディオの取り成しがなければ地獄を見せられていたかもしれない。金髪の不良も見た目に反して理性の人であったが、恋では自制が利きにくかったと見える。

 

「ま、ともかくこれで九鬼の次世代にも目途がついたってもんだ。あとは早いとこ婚約あるいは結婚してもらって子を成してもらえれば言うことないね」

 

 長女の揚羽に未だ恋人がおらず結婚の予定もないため、征士郎らの交際は喜ぶべきものであった。今まで長女長男とも見合いもせず恋愛もせず、行うことといえば武術あるいは経営でそれはそれで良いことではあるが、老従者達は何かと気を揉んでいたのも確かである。

 

「マープルも気が早いですね。恋人同士になったばかりだというのに……」

「しかしクラウディオ、マープルの言っていることも一理あるぞ。婚約者あるいは妻という立場になれば李にも専属を与えることができ、より身の安全を図れるというもの。今の状態でもある程度はカバーできるが万全を期しておくほうが良い」

 

 征士郎の身分は九鬼の次期当主。その恋人とあらば狙われる可能性は一気に高くなる。静初自身高い戦闘能力をもっているとは言え、従者達からすればリスクは最小限にしておきたいのだ。

 

「その気持ちは分かりますが、こればかりは征士郎様と李が決めることでしょう。それまでは私達が見守ってあげればよいのでは? 幸い、若手の者達も多くこちらに滞在しているのです。それで十分カバーが可能でしょう」

 

 ヒュームは顎髭を一撫でする。

 

「ふむ。ならばステイシーの下に付ける者を少し増やすか……」

「それなら桐山のところからも持っていくといい。最近清楚も落ち着いてきたと報告にもあるし、街の浄化の成果も上々。多少の余裕ができているからね」

 

 マープルは序列を落とされたとはいえ集まる情報は以前とあまり変わりなく、それは桐山の献身のおかげでもあった。この場で即座に決断を下すことはできないが、それは代わりにヒュームやクラウディオがやればいいだけのこと。

 マープルは背もたれに背を預ける。

 

「征士郎様が恋人を持たれる、か……。英雄様が恋をしていると知ったときも思ったが、時間がたつのは早いねえ」

 

 揚羽の後ろを付いて回る小さな男の子だったのが、今では見上げるほど大きくなり恋を知る年齢となった。幼い頃から見てきた者としては感慨深いものがある。

 帝と共に世界を駆け巡り、荒々しく世を渡ってきたことが遠い昔に思えた。

 そしてどうやらヒュームも似たようなことを考えていたらしい。

 

「赤子であった征士郎様を抱かせてもらったときがついこの前のように思えるな」

 

 局の出産時、彼らは帝とともに揃って病院に出向いていた。そのとき生まれたばかりの征士郎をその腕に抱かせてもらったことがあった。

 クラウディオも少し遠い目をしながら当時を思い返す。

 

「最初の男の子ということもあって皆の喜びようも一入でしたね。揚羽様がそれを見て拗ねられて……」

「そんなこともあったねえ。その後に英雄様がお生まれになられて……」

「紋様のことが発覚したときは驚いたものです――」

 

 3人の老従者たちはしばらく思い出話に花を咲かせる。

 過去にもロンドンの老舗カフェにて、彼らは共にこうして会話を交わしていた。若かりし頃のヒュームは髭もなく絶世の美男といった容貌でありながら、人を寄せ付けないオーラを纏っていた。クラウディオも負けず劣らずの眉目秀麗、その頃からメガネをかけていたが鋭い目つきと相まって氷のような冷たさを印象付けることもしばしばあった。その2人の間にいたマープルは十人中十人が振り返る麗人であり、ミスロンドンにも選ばれるほどであった。

 時は流れても、昔と変わらない3人の姿がそこにはあった。

 

 

 ◇

 

 

 一方、別の場所でも征士郎らの交際は伝わっていた。

 

「なんだとッ!? 兄上と李が!?」

 

 紋白は大和からその報告を受け、勢いよくソファから飛びあがった。その勢いが強すぎたのか、前に置かれたテーブルの角で脛をぶつけてしまう。

 

「――――ッ」

 

 紋白は突如襲いかかる激痛に顔を真っ赤にして固まった。それを見た大和も慌てて彼女に駆け寄るが、それ以上どうすることもなくオロオロするばかり。

 

「へ、平気だ。しかし一体どういう経緯でそうなったのだ?」

 

 目をウルウルさせる紋白はぶつけた脛をさすりながら大和に先を促した。しかしそれに対する確かな回答を彼自身持ち合わせていなかったため言葉に詰まる。

 紋白もそんな大和の態度を察したようで、むむっと眉にシワを作ると沈黙した。と思ったらすぐに顔を上げ、

 

「分からないならば直接聞くまで!」

 

 そう言って部屋を飛び出した。後ろから大和の声が飛んでくるがそれはひとまず後である。

 

(うーむ。まさか李の奴が兄上の恋人になるとは……我が直々に評価してやろうと思っていたが)

 

 器量良し。性格良し。顔も良し。おまけに専属として兄の傍に仕え、もしかせずとも自分以上に兄のことを知りつくしている。バレンタインのときもその情報を元にチョコレートを作ったのも記憶に新しい。

 そこで紋白はある事に気付いた。

 

(そうだ、バレンタイン! あのとき李はやたら気合の入ったチョコを毎年作っていたではないか!)

 

 その出来栄えに紋白も感嘆し絶賛したのだ。これをもらえる兄上は幸せ者だと。

 専属として、また紋白の手前でもあったため下手なものを渡すわけにはいかないから、あそこまでの熱の入れようだと思っていた。

 

(あの出来栄えになるのも当たり前だ。何せ自分の想い人へと渡す品なのだから)

 

 もし自分がその立場ならと考えると同じようにしただろう。そこにありったけの気持ちを込めて。

 

「李も嬉しかっただろうな。兄上の笑顔と賞賛の言葉をもらえて」

 

 紋白はそれに加えて頭を撫でてもらったのを覚えている。誕生日のときも同様、静初は紋白がプレゼントに悩むであろうと考え、事前にこっそりと情報収集をしてくれたこともあった。

 早足だった紋白は一旦その足をとめた。そして妹アイによる観察から得た膨大なデータを妹分析器にかけ、今までのところを総合的に評価する。その結果、

 

「文句のつけ所がないッ!?」

 

 妹目線からの辛口チェックを容易にクリアしていた。というかほぼ満点である。それは兄だけでなくその周囲に対するきめ細かい対応なども含めてだった。

 また、どこからどう考えても静初が征士郎をしっかりと支える姿以外思い浮かべることができない。改めて思い直すと李静初という女性は恋人としても、また妻としても死角というものが存在しない。唯一ギャグが寒いという点があるとはいえ、これは死角と呼べるほどのものではないだろう。

 自分が男であったらと仮定しても、静初を恋人に選んでしまいそうな気がする。主をたてるその姿はまさに日本人男性が憧れる大和撫子そのものである。

 そして考えれば考えるほど兄にふさわしい女性なのではと思えてくるのであった。

 そうこうしている内に征士郎の部屋の前に着いていた。

 

 

 □

 

 

「なるほど。我が鍛錬に励んでいる間にそんなことが……」

 

 紋白は征士郎の口より一通りの経緯を聞きだし頷いた。紋白が訪れた際、彼らはソファに座ってゼリーを食べているところだったので、話を聞くついでにご相伴に預かっていた。

 居ても立ってもいられず飛び出した紋白であったが、ノックしてしまってから急に押しかけては迷惑だったかもと一抹の不安を抱いていたため、くつろいでいる征士郎を見たときはほっとしていた。

 その紋白が座っている場所は征士郎の隣。これは彼女が進んでそこに座ったわけではなく、征士郎が手招いたからであった。恋云々には疎いようだが、妹の機微にはそれなりに敏感らしい。

 静初も征士郎の隣。そしてテーブルを挟んだ向かい側には大和の姿もある。紋白を追いかけてきたからだった。傍から見れば3対1という人の配置的にバランスが悪いと思えるが、今はこれがベストなのだと彼も分かっていた。

 大和はゼリーにぱくつきながらチラリと静初を盗み見る。経緯を赤裸々に告白された彼女はうっすらと朱がさしており、紋白からの質問にも「はい」「いいえ」と言ったような短い回答を行うのみ。

 クールな上司の意外な一面は可愛らしいとしか言えない。そして次に思ったのは自分の姉貴分とはえらく違うということであった。見習ったほうが良いのではと思うが、こんなことを口走ろうものなら何をされるか分かったものではない。

 

(それにしても紋様の容赦ない質問が李さんを追い詰めていく)

 

 我が主はコイバナに夢中になっているようで、キラキラとした瞳で静初に質問攻めを行っている。廊下を歩いているときは何やら難しい顔をしてブツブツと呟いていたが、それもどうやら解消されたらしい。

 

(さすがと言うか、紋様を一瞥しただけで「俺はこれからもお前の兄に変わりない故、いつでも甘えに来い」だもんなぁ)

 

 紋白は静初を認めてはいたが、寂しさまで消すことはできなかったのだろう。その一言が彼女を安心させたことは間違いない。今も無意識かどうかわからないが征士郎にべったりである。

 ちなみに、その台詞を共に聞いていた静初は征士郎の優しさに微笑みながらも、ちょっぴり嫉妬してしまっていた。これは彼女だけの秘密である。

 紋白は征士郎の腿に手をつきながら身を乗り出し、その分静初は背を反らせた。その間にいる征士郎も当事者であるのだが、余程図太い神経をしているのか恥ずかしがる仕草が一切ない。今もゼリーを口へと運んでいる。

 

(妹と彼女から好かれて……ってなんかこんなエロゲをヨンパチが話してた気がするなぁ)

 

 その内容は妹と彼女が対立しており主人公はその板挟み。そして妹は義理の妹だと発覚したことでなんとか保たれていた一線は崩壊し、淫慾の日々へと堕ちていくというものだった気がする。

大和も男である以上、目の前に広がる光景を羨ましいと思わずにはいられなかった。

 そこへ新たなる客人が訪れる。

 

「も……申し訳ありませんでしたあぁぁぁ!」

 

 その客人、久信は静初が扉を開けるなり見事なジャンピング土下座を披露してみせた。猫のようにしなやかな身のこなしは一介の技術者とは思えないほどだ。

 ごっと鈍い音を立てる久信はどうやら着地に失敗し、頭を激しく床にぶつけたらしい。

 しかし久信も余程切羽詰まっているのだろう。その痛みを気にすることなく土下座を続ける。

 征士郎がすぐさま声をかけた。

 

「久信、面をあげよ。大和、久信を起こせ」

 

 はいと良い返事をした大和は久信の肩を掴むと強引に体を起こさせた。

余談だが、ここを訪れた際に征士郎が大和を直江と呼ぶことが紋白には気になったらしい。それ故呼び方が改められていた。

 名字で呼ばれることと名前で呼ばれること。気にしない人間も中にはいるだろうが、大和は人脈形成に力を入れる人間だけあって他人との距離間が気になるタイプであった。

 どちらも大和を指しているが、ずっと名字呼びだったのが気がかりでもあったため紋白の一言には感謝していた。まさか「できれば名前で呼んでほしい」と男に、しかも目上の人に向かって言うわけにもいかなかったからだ。可愛い女の子から言われるならまだしも、男が男になど気味悪がられるのがオチである。

 話は戻って、立ち上がらせた久信は大和の隣の椅子へと導かれ腰を下ろした。

 

「今回の一件について、俺はお前を責めるつもりはない」

「でも……」

「確かにお前の勘違いによってイザコザが起きたが、別の面から見ればお前は俺と静初をくっつける切っ掛けとなったと言えるだろう。もちろんこれは結果が良いほうに出たからこそ言えることだ」

 

 もしこれが静初の恋の終わりを告げていたら、彼女は久信を許しただろうか。そこに葛藤はあっただろうがきっと許しただろう。いつかはこうなると分かっていた。それが早まっただけだと自分に言い聞かせて。彼女はそういう女性なのだ。それから持ち直すことに時間はかかろうとも主従の関係を続けたはずだ。

 だがこれは仮定の話であり、征士郎は自信満々の笑みを浮かべる。

 

「しかし俺は何度生まれ変わってどのような状況であってもこの結果を選び取る。だから気にするな」

 

 さらりとなんでもないように放たれた言葉。それは誰が聞いてもノロケにしか聞こえない。

 ぽかんとする3人とは反対に1人かあっと顔を赤くする静初の姿がそこにはあった。どんな状況であろうとお前を迎えにいくと宣言されたのだから当然の反応であろう。

 責められることがないとわかって安堵した久信だが、その一言と仲睦まじい様子の2人が地味に大きなダメージを与えていたことを征士郎は知らない。

 




長くなったので区切ります。お風呂回希望してた方申し訳ない。
それと活動報告のほうで皆さまのお力を借りたいことがあるので一度目を通していただけると幸いです。お風呂回に関係あることなのでぜひよろしくお願いします。

今回老従者達の過去書いたけど、ヒュームとかクラウディオも若い頃滅茶苦茶男前だったんだろうな。ヒュームは黄金の獣殿の如く(ゲームの内容は詳しく知らないけどあくまでイメージ)。クラウディオは誰だろう?でもこの3人がいる光景は絶対絵になったと思う。
あとブラコンを発揮した紋白が認めざるを得ない李さんの嫁力に驚いた。
最後に征士郎様と李さんが結ばれたことを喜んでくださった従者達(読者の皆さま)が多くてびっくりと嬉しさでいっぱいでした。宴じゃー!!

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