Purgaturium/英雄 elegia   作:トラロック

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†04† アストルフォ

 三日月の紋章(エンブレム)である【シン・ファミリア】に加入した冒険者アストルフォはダンジョン攻略に行き詰っていた。――理由は単純に単独踏破が辛くなっただけだ。

 天真爛漫な笑顔で周りを明るくする彼も命の危機を感じていた。

 無理せず戦闘を切り上げて地上に戻る度に生きている事に感謝する。

 

「よーし、今日も無事に帰れたー!」

 

 当初は一〇階層くらい降りるのは簡単だ、と思っていた。それが蓋を開けてみれば一か月かかってもたどり着けない事態に。

 モンスターは倒せている。それなのに下に降りられないのは数が多すぎて対処が間に合わないからだ。

 苦戦を強いられているお陰で【ステイタス】の伸びが良い。それでも未だに攻略が(はかど)らない。

 

(戦闘続きでろくに眠れやしない。皆簡単に攻略していると思ったら……、案外そうでもなかった)

 

 探索系【ファミリア】がかなり多いはずなのに攻略が捗らない理由が今まで分からなかった。

 敵が膨大なら冒険者も膨大に投入すればいい。

 アストルフォでもそう思うほどに。

 しかし、ダンジョンはそれらすら容易に許容し、彼ら以上の数の暴力という悪意をもって出迎える。

 ボロボロの状態で本拠(ホーム)に戻り、主神シンに報告する。

 男神であるシンは眷族を温かく迎え、苦戦している事や攻略が芳しくない事に怒りを見せない。

 生きて帰ってきたことを褒める。

 

「この地にダンジョンが確認されて長い年月が経っている。昨日今日の問題じゃない」

 

 神が下界に降り始めてからも結構な年月が経過している。それでも朗報と呼べるものは未だに無い。

 眷属に力を与えても捗らないのだからアストルフォ一人が断念したとしても仕方が無い事だ。

 

          

 

 桃色の髪に女性と見紛う美貌の剣士アストルフォ。

 迷宮都市オラリオの噂を聞きつけてやってきた冒険者の一人だ。

 可愛い見た目のお陰で何人もの神様に勧誘され、自分の直感を信じて【シン・ファミリア】に決定した。

 狙っていたところは特になく、ダンジョンに行ければどこでもよかった。

 子供っぽい可愛らしさを持つが【ランクアップ】を控えている実力者だ。

 彼の『能力値(アビリティ)』は『魔力』を除けば満遍なく伸びている。

 

「神様ー。みんなで一致団結して潜れば攻略出来るんじゃないの?」

 

 ボロボロになった戦闘衣(バトル・クロス)を脱ぎ捨て、新しい衣服に袖を通す。

 今では服を取り換える為にダンジョンに潜り、稼ぎの大半は衣服に費やされているのでは、と。

 彼の疑問(一致団結すれば)に主神はそれが出来てたら既に攻略済みになっている、といつものように答える。

 オラリオのダンジョンは序盤の攻略が捗るので(らく)そうに思える。しかし、アストルフォも体感したように急に様相が変わり、凶悪さが増すのがダンジョンだ。

 神が下界に降り立ってから攻略された階層は四〇を超えるが、それでも一つ乗り越えるのに一か月以上かかってしまう。

 一定階層ごとに現れるボスモンスターともいうべき『階層主』の存在も多くの冒険者の行く手を阻む。

 

「帰還を諦めて一気に潜るだけなら可能かもしれないが……。それをやれと言われて出来る奴がどれだけ居ると思う? 冒険者は命を簡単に捨てられるほど自己犠牲に溢れていると思うか?」

「……うーん」

 

 主神の言葉に唸りつつ考えてみるも居そうで居ない、としか言えない。

 それとダンジョンは踏破するだけで終わりではない。

 本来の目的は無限に湧き出るモンスターの完全なる殲滅だ。それを成し遂げる事が全冒険者の悲願である。

 

「無限に出るなら無理じゃない?」

「出来ないと証明した奴は居ない。どの道、ダンジョンを放置する事も出来ない。人類は地上進出してきたモンスターに滅ぼされかけたのだから」

 

 今度こそ殲滅してやる、というのが古くから続く人類の目的だ。

 神はそんな人類の足掻く姿を眺め、娯楽の種にしている。時には『試練』という名目で色々と迷惑をかける事もあるけれど、人類の完全なる粛清は神の目的に含まれていない。

 

          

 

 休みを挟んでダンジョンに挑戦し、ズタボロになって帰ってくるアストルフォ。

 一見すると無謀な挑戦をしているように思われるが彼なりに考えて行動した結果である。

 一人で戦うには技術が圧倒的に足りない。視野を今以上に広げる事も難しい。であればパーティを組めばいい。

 

(……【ランクアップ】するには僕個人が神の試練を突破しなければならないってことだ。だから……、一人で頑張るしかない)

 

 それが正しいのかは分からない。けれども、やらないわけにはいかない。

 無茶な行軍によって少なくとも【ステイタス】は上がり続けている。後は戦闘経験だけだ、と思う。

 自分を極限状態にまで追い詰める。それは分かっていてもなかなかできる事ではない。

 俎板(まないた)に腕を乗せて切断する覚悟を決めるようなものだ。

 

(痛い事は分かっているし、だからといって平然と出来る訳が無い。……そんな試練は嫌だけど……、それくらいじゃなきゃ【ランクアップ】が出来ない……)

 

 多くの冒険者は強大なモンスターを倒して【ランクアップ】する事が多い。その時、重症を負う者が多いので、大怪我も含まれるのではないかと思ってしまった。

 それが本当かどうか、実際に試してみるのが一番の早道だ。そして――

 

「神様ー。これから腕を切り落としたら【ランクアップ】するかな?」

「……するかもしれないが……。試練と認められなければ無駄な行為だ。……それにそれは冒険者とは関係ないだろう」

 

 台所で腕まくりし、俎板に左腕を乗せるアストルフォ。

 言葉は軽いが本人は至って大真面目。だが、神シンはきっと出来ないと高をくくっている。

 

(そこまで追い詰められていたのか、アストルフォ……。……()に嘘は通じないと知っているはずだ)

 

 何度もダンジョンに行き、ズタボロになって帰ってくる彼は他の方法というものを見つけられなかった。

 【ランクアップ】に必要な条件の一つは達成している。後は天界が定める試練を突破するだけ。そして、そこまで努力をしてきたことにシンは何も言わなかったことに気付いた。

 見た目は子供っぽいが凶暴なモンスターに怯むことなくダンジョンに挑戦し続けていた。それに対していつもの日常のように流してしまった事にシンは心が()()()痛んだ。

 

(……やめろ。……やめろ、アストルフォ。……自分を傷つける行為は英雄とは……)

 

 声に出して止めればいいものを。シンはどうしてか何も言えずに黙って見つめてしまった。

 (アストルフォ)は本気だ。それが分かってしまった。

 どうせ出来ない。出来っこない、とは思わなかった。

 

(……いつからだ? アストルフォの精神がこれほど疲弊していたなんて……。俺は……全く気付かなかった)

 

 かろうじて手を伸ばすも言葉はやはり何も出てこない。

 下界の人類が自らを傷つける。毒抜きとはわけが違う。

 もし、神であれば致命傷を負っただけで天界に強制送還される。それゆえに神は大きな怪我を負うことが許されていない。

 かすり傷や打撲程度は問題にならないとしても。アストルフォの行動は完全に『アウト』である。

 

          

 

 生物というのは自制が利く生き物である。だが、自切りして危機を回避する生き物も居る。

 人類はその点、自制が出来て安易に自切りしない。再生生物ではないと知っているからだ。

 オラリオに存在する様々な医療技術や魔法道具(アイテム)を駆使すれば手足の再生を可能にすることがある。だからといって安易にそれらを使用できるわけではない。

 高い回復機能を持つ回復薬(ポーション)は恐ろしく高額だ。

 魔法による治癒も限度がある。

 借金を覚悟すればギリギリ――そんなことがシンの脳裏に過った。

 それでも――目の前で(おこな)われようとする凶行を許す材料にはならない。

 

「……ギャン」

「……あ」

 

 濁った瞳。薄ら笑いを浮かべた眷族が何のためらいも無く包丁を振り落とした。

 止める暇も無く、ただそれを見ているだけしかできない。

 どういう心境状態にあったのか分からないが、ただの一刀で彼の左腕があっさりと断ち切れる。

 気の抜けた叫びがかえって現実味を帯びさせない。本当に斬ったのか、それともフリなのか、と思わせるほど。

 シンは茫然と見ていた。痛みに耐えるアストルフォを。

 持ち前の『耐久(アビリティ)』のお陰か、荒い息を吐きつつも痛みに悶えることなく、成功した事に喜びを感じているようだった。少なくとも彼の表情は狂気嗤いを湛えているように見えた。

 問題があるとすれば後先考えずに切り離したために、接合方法について全く考えていなかったことだ。すぐに気が付いた――当然のように――アストルフォはどうやって繋げたらいいのか、血が垂れる左腕の事などすっかり忘れて思い悩む。だが、深刻というには顔がにやけていたが。

 一息で切断した腕の断面の様子に感心したり、遠目で見る分には興味深そうに眺める子供と変わらないのが()()()()()()

 

「か、神様ー。どうやって繋げたらいいの? 後、血が止まらない。痛くなってきたよー」

 

 言葉だけ聞くと危機感の薄れた声だが表情はとっても逼迫していた。いや、目の前の現実をあまり受け入れていないためだ。

 疲弊した精神状態にあるアストルフォは冷めた思考に囚われている。それが逆に恐慌状態を抑制している。そうでなければ――部屋中のた打ち回っていてもおかしくない。

 

(……そ、そうだ。腕を繋げないと……。エリクサーで……治るわけないか……。クソ、俺は何してんだ)

 

 現実を直視する前にアストルフォに止血を指示し、切断された腕の傷跡を冷水で軽く洗うように言っておく。その間、シンは急いで外に出て応援を呼んだ。

 この時の(シン)の行動は恥も外聞も投げ捨てた者だった。どんなにみっともない姿を晒したのか自覚できなかったが、きっと相当ひどい姿だったのだろうと、後々の噂で知ることになる。だが、それらはアストルフォの無事に比べれば何の問題も無い。

 シンはアストルフォを大切な眷属(子供)だとこの時、再認識した。

 

          

 

 自身の【ファミリア】で起きた凶行についてギルドからお小言はあったものの罰則は受けなかった。そもそも自己責任だ。

 怪我をした眷属(アストルフォ)を様々な人づてに頼りまくって気絶させ、療養所に送って拘束した。そこで腕の接合は可能という言葉に心の底から感謝した。自覚は無いが号泣したかもしれない。

 天界に居た時には思いもよらない畏敬の念を神自ら吐き出す事になるとは、と驚いた。だが、後悔はしていない。

 

(……俺は神だぞ。誰に感謝するっていうんだ。……そりゃあ多くの治療師(ヒーラー)だろうよ)

 

 それにしてもいとも簡単に腕を切り落とし、その様子を見る事になってしまい――何も食べなくていいとはいえ――食欲が湧かない。

 可愛い子供(眷属)が狂気に陥る様は正直に言えば見たくない。そんな気持ちを抱かせた。

 この事件の影響からか、神々は眷族に対し【ランクアップ】の方法を伝えるべきか、議論が交わされ始めた。

 強くなりたい眷属()が多く居るのは知っている。それら全てに平等性を持たせることは難しい。

 それぞれの方法でもって試練を越えなければならない。正解は一つではない、という事だ。

 外で思い悩んでいると大量の荷物を載せた荷車を()く華奢な亜人(デミ・ヒューマン)を見かけた。

 緑を基調とする戦闘衣(バトル・クロス)を身に着けている所から冒険者のようだ。

 

(……外で活動している冒険者か。ダンジョンとは違い、【経験値(エクセリア)】が稼ぎ辛い環境なのにしっかり働いているようで感心する)

 

 衣服のどこかに紋章(エンブレム)があればどこの【ファミリア】か分かるが遠目なので分からなかった。

 神の全てが何でも見通すわけではない。出来ない事も多い。というか出来る事が少なすぎる。

 下界に降りた神はすべからく『全知零能』となる。シンもゼウスもそれ以外の神々も。

 

          

 

 精神的な疲労も相まってアストルフォの回復には時間がかかると担当医から通告され、しばらくは面会謝絶であるとも。

 今以上の悪化が無ければそれで充分だと判断し、彼らに任せて帰宅する。

 【シン・ファミリア】は彼だけが眷族ではない。少数だが面倒を見る者はまだ居る。

 眷族一人に神経を使うのは(いささ)か不平等のような気がした。――神なので我儘を通しても文句しか受けないけれど。

 どの零細【ファミリア】も同じだと思うけれど、眷族の増強は簡単ではない。まして【ランクアップ】は本当に当人にとって試練ともいうべき障害に打ち勝って初めて得られるものだ。

 神が懇切丁寧に教授すれば必ず達成する、という保証は全くない。

 

(……眷属()も色々と悩んでいたりするのかな? 悩まない者など居やしないか……)

 

 神としてありがたいご高説でも()けばいいところ――だが、シンにとって眷族を失う事は思いのほか響いてしまった。

 残っている眷族たちも神の落胆ぶりに心配の眼差しを向けていた。

 彼の眷族はそれぞれ各地で名を()せた勇者や英雄に近しい者たちだ。騎士団ともいうべき戦闘の熟達者(マスター)で構成されている。

 そんな彼らでも迷宮都市オラリオのダンジョンは毛色が違っていた。今までの常識がまるで通じない、というもの。

 アストルフォもモンスターに怖気づかずに戦えるのはオラリオで鍛えられたからではない。故郷でしっかりと研鑽を積んできた本物の戦士だからだ。

 歴戦の戦士だからこそ功を焦る傾向にある。

 

「……俺は無理()いしない。言いたいことはそれだけだ」

 

 神として言える事は確かにそれくらいだ。

 眷属達の戸惑う表情に対して申し訳ない気持ちを抱くが期待されても困る。シンに出来る事は可能性を広げるきっかけ作りであり、行動するのは眷族達だ。だから、神は何もできない。

 それからシンは酒場に向かい、他の神々と飲み会なる催しを始めた。

 どの神もシンと同様に【ランクアップ】に悩む眷族の扱いに四苦八苦している様子だった。――ほぼ愚痴に近い形で。

 

「……みんな同じ境遇なんだな……」

「こっちはあのアストルフォちゃんが怪我したって聞いて驚いたぜ」

「腕落としたんだってな。……あんな可愛い顔してすげーや」

 

 噂の伝播は興味が強いほど早く広まりやすい。特にアストルフォは神々の中でも人気のある眷族だ。特に見た目が少女然とした可愛らしさがあるので。

 そのおかげか、協力体制を早期に敷けた。回復も順調と聞いている。そうでなければ義手一択だ。――借金はさすがに回避できないけれど。

 

「……ああ、強いモンスターと戦えばいいとか、なんか言いようがないものかな?」

「無いな」

「だからこそ他の神達も頭を悩ませている。お前だけじゃないぞ」

 

 今まで傍観者だった神々が下界に降りてから眷族に親身にするようになり、彼らとの付き合い方に戸惑うのも無理からぬこと。そもそも親身になろうとすらしなかったし、そんな気持ちも抱いてこなかった。

 因果応報、という言葉がある。正しく、今の神々は実に人間的だ。そんな神々が下界の住民達のすぐ近くに居る。

 見た目は単なるおじさん連中の飲み会だ。だが、彼らはれっきとした神である。その身から僅かばかり発せられる『神の意志(アルカナム)』の影響で見る人を魅了、または(とりこ)にし、畏敬の念を抱かせる。

 逆に『神の意志(アルカナム)』が無ければ誰も注目しない。

 

          

 

 それからしばらく経ち、面会謝絶の制限が無くなり久方ぶりにアストルフォと会えることにシンは嬉しさを感じた。

 不治の病ではないとしても眷族の様子を逐一知ることが出来る訳ではないし、ご飯を食べているのか、何か欲しいものは無いかとほぼ毎日のように診療所(アスクラピア)――【アスクレピオス・ファミリア】の本拠(ホーム)――に通った。

 これが他の眷族であったとしても同様に心配する。シンは自分の眷属達(家族)を差別しない。

 担当看護師(イアソ)と共に彼の部屋に向かうと変貌した姿が――というおかしな事態は無く、元気そうなアストルフォの顔があった。

 腕は無事に接合し、動かせるようにまで回復しているという。問題は精神面だ。

 

「……あ、ああ。神様……、その……。ごめんなさい」

 

 口元を震わせながらベッドの上でアストルフォは言った。

 正気に戻った彼は己の所業を酷く後悔している、というのは数日前から聞いていた。

 神として言うべきことは怒鳴り散らす事か、それとも無事を喜ぶ事か。シンは迷っていた。しかし、咄嗟に出たのは小さな一言――

 少し痩せたな、と呟くのが精々だ。

 髪が抜け落ちる事も無く、見た目の感想で言えばどこにも異常はない。腕を布巾で首から吊るされている事を除けば。

 

「……アストルフォ」

「は、はい」

「叱ってほしいか? それとも慰めてほしいか?」

 

 本来なら叱るべきところだ。だが――回復した彼の姿を見た瞬間に思った。

 

 ――ああ、無事で何よりだ。

 

 安心した。神の目から見てそう思えるほどの確信もある。

 休んでいる間に反省も充分にしたのかもしれない、と。

 

(……ボクは神様の前でとんでもないことを……。叱ってもらった方がいいんだけど、嫌だな……。でも、心配かけちゃったし……)

 

 アストルフォは意外と(したた)かで叱られたくない気持ちの方が強かった。

 悩んでいたのは事実だし、方法も良くなかった。反省もした。けれども、それらは全て【ランクアップ】の為だ。多少の犠牲は致し方ない。

 何より故郷では、それが当たり前だった。

 共についてきた仲間達もきっと同意してくれるはずだ。いや、しないかもしれない。と、即座に否定する。

 本当に腕を切り落とす莫迦が居るか。

 自分でも思った。本当にやっちゃった、どうしよう――

 冷静になって考えればどうしてそんなことをしたのか、というより本当にするとは思いもよらなかった。

 

(腕が繋がって良かったー、でも、仲間達から怒られそう。これで無事でよかったねって言われるとは……、さすがにボクも思わないな。……うん、ここは素直に怒られた方がマシかもしれない)

 

 それに主神が本当に心配して駆けずり回っていたことをアストルフォはしっかりと聞いていた。

 普段は頼りないオッサンだと思っていたけれど――自分の眷族を(ないがし)ろにするような悪神というわけではなかった。――実際、やる気があまりにも無いから疑っていたけれど。

 

(叱られたくないって顔してるな。……元より()に嘘は通じない)

(……本音しか通じないなら選択肢なんか意味ないじゃん)

 

 しばし無言で見つめ合う(シン)眷属(アストルフォ)

 アストルフォの目が泳ぎ出したところを見て、深刻さからは脱したな、とシンは思った。

 その後は無理に選ばせる事なく、今後も冒険者として働く気があるのか、など聞いてみた。

 もう嫌だと言えば脱退してもいいし、続けるならば応援する。

 退院できたのはそれから半月ほど経ってからだ。

 

          

 

 腕の包帯はまだ取れず、冒険者家業が今少し休業状態のアストルフォは鍛錬だけ続けた。

 見た目はひ弱そうだが故郷では聖騎士(パラティン)を務める実力者だ。

 特別な才能に恵まれているわけではないが着実に【ステイタス】を伸ばし、【ファミリア】内で頭角を現してきた。

 冒険者として見るならば何も問題は無い。見た目が可愛い事を除けば文句なしである。

 顔以外はしっかりと筋肉がついている。引き締まっている為に細身で頼りなさそうな印象を持たれてしまう。

 戦闘スタイルは中衛。武器は剣と槍。魔法の才はまだ無し。

 

「死に物狂いの鍛錬しても【ステイタス】が全然増えないの、なんでー?」

 

 汗(まみ)れのアストルフォが仲間と神に愚痴をこぼす。

 人並み以上の努力を重ねても【ステイタス】は微増。これは彼だけの問題ではない。

 人によって差異はあるが概ね微増が一般的だ。

 

「自己鍛錬より強いモンスターと戦う方がいいってことじゃないか? 神が数値を自在に操るわけじゃないんだし」

「鍛錬が無駄だとは言わないが……。実戦に勝るものは無し」

 

 この言葉に仲間達が総じて頷いた。

 楽して【ステイタス】が伸びるなら全員が凄い冒険者になれる。けれども、そうすると何の楽しみも無い、と神は言う。

 眷属一人一人が様々な努力を重ね、強くなっていく方が絶対に良い、と。

 個人に見合った特別な『スキル』が身につく可能性がある事を伝える。

 

「何が現れるのか……」

 

 発現する『スキル』が複数の場合もあるが全てを選べるわけではない。

 【ランクアップ】時に得られるのは一つずつ。魔法も無限に使えるわけではなく制限数が決まっている。

 時には眷族同士で争う場合もある。

 下界を騒乱の渦に巻き込まない為に厳格な規則(ルール)が定められていた。もし、その枠組みから外れてしまえば天界はその者、または所属する【ファミリア】をモンスター同様に滅ぼすべき敵と認定するかもしれない。

 そうならないでほしいと神は思う。

 アストルフォはそんな神の苦悩など全く(かえり)みずに鍛錬を再開する。彼個人は【ランクアップ】してシンや仲間達を喜ばせたい、ただその一心しかなかった。

 

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