妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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洋城

 

 

鬼が去り代わって天狗が統べ、幾つかの例外を除いては余人の侵入を拒む妖怪の山。天を衝くように聳え立ち険しい嶺を連ねて恐ろしいばかりの威厳を示すその妖しい山はしかし、いつからか『人』知れず洋城が建っていたという。

 

 

 

 

紅霧異変の過ぎた頃のこと。

それは静かに、粛々と、何の違和もなくそこに()()()という。

目撃した若い警邏の天狗曰く

 

 

ロマネスク建築やゴシック建築、ルネサンス建築に山肌側にはロココ建築を取り入れた洋館が連なり豪華絢爛で、長きに渡る時代の積み重ねとともに繰り返された改築増築修築の歴史を見せつける。

また天高くから、その高く厚い壁から地上を睨む尖塔と銃眼の数々に加えて重厚な二重の城門、その手前に横たわる深い谷は外堀を為すなど、強硬な要塞の体も顕著に見られる。

 

 

それ程の城塞がさも当然のように佇んでいるのだと。

 

 

朝方の霞の中から突如されど極めて自然に現れた洋城は文字通りに「楽園中」を大いに驚かせた。

 

 

 

 

 

〜〜〜数日前〜〜〜

 

 

 

 

 

「あやややややっ!これはっ!これはスゴイノを見つけましたね!でかしましたよ!」

 

「はっはぁ…」

 

 

 

第一発見者を伴って洋城へ訪れた烏天狗はカメラを片手に燥ぎながらそう言った。警邏の天狗の方は困惑気味である。

 

 

 

「新たな異変の予感っっ!!紅魔館の件から続けてこんな大スクープにまみえるなんて思わなかったですよっ!大手柄です大手柄!!」

 

「はぁ…ありがとう…ございます?」

 

「さて外観は十分に撮り終わりましたし…」

 

 

 

目を輝かせて警邏の肩をバシバシ叩いた烏天狗は城門の方向を指差した。

 

 

 

「…まさか入るだなんて仰ったりは…」

 

「もちろんです!!入らない訳にいきませんよっ!」

 

「えぇ……でも門が閉まっているようですが?」

 

「何のために我々烏天狗には立派な黒い羽が生えていると思っているんですか!?!飛んで入れば壁なんてあってもなくても変わらないですよっ!さっ行きましょう!」

 

「えぇ…紅魔館の件をお忘れですか?【文】様…」

 

 

 

ご機嫌にその翼を広げた烏天狗の少女——射命丸 文——は胸を張って答えた。

 

 

 

「もちろん覚えていますとも。———入ったらわかる物もあるということをですがね!ハイハイ行きます行きますよ!」

 

「あっちょっと待ってくださ——」

 

 

 

警邏天狗の言い切る前に城壁を飛び越えた記者烏。しかし洋城の敷地内に入って直ぐその「異変」を感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

オオォォォ——

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんでしょうかこの——声は…っ!?」

 

 

 

低いながらもよく響くその声——詠唱——。それを合図に地面からオレンジ色の影が、二本の鎖となって射命丸に襲い掛かった。

しかし楽園最速をなのる彼女は直ぐ様城壁の外へ後退しそれを回避しようと試みる。

 

 

 

「っ その手には乗りません……よ?」

 

 

 

城から離れようと背を向けて羽ばたいたその時、腹部に強い圧迫を感じた射命丸は視線を落とす。

 

 

 

「——え?」

 

 

 

鎖は射命丸が飛び退いた先で待ち構えていたかのように彼女を絡め取り、まばたく隙もなく瞬間移動と見紛うほどの速度でそのまま城壁の内側へ引っ張って叩きつけた。

 

 

 

「ぁがあっ!?」

 

 

 

酷く腰を打ちつけ凄まじい衝撃を脳に受けた彼女はすぐには立てず、城壁に寄りかかるようにして何とか立ち上がって明滅を繰り返す思考と視界の中で必死に考えを巡らせた。

 

 

 

「ぁ くっぅ ——

 

 

 

 

 

 

 

オォォォ——

 

 

 

 

 

 

 

——っっ!! なに……が……?!」

 

 

 

再び響く詠唱。

見上げた射命丸はまたあの影の揺らぎを見とめた。

 

 

それは洋城の中の銃眼に、高く囲んだ城壁に、遙か高い尖塔に。

無数の陽炎を生み、オレンジ色のそれらが固まって形をなしたと思えば次の瞬間には無数の弓兵を配置して、その全員が城門の内側に叩きつけられた烏天狗の少女を弓や弩で照準しているのであった。

 

 

 

「——ぇ ぁ? え???」

 

 

 

ありとあらゆる思考が吹き飛んだ彼女は、脳に残った情報と目の前の光景からただ一つの解を導き出した。

 

 

重く動かせない翼

まともに動かず、立ってもいられない体

 

そして弓兵弩兵。

 

 

 

「ぁ…………」

 

 

 

 

之即ち死である。

 

 

 

 

時既に遅し。その小さな肉体に注ぎ込まれた無数のオレンジ色に光る半透明の矢は鋭い痛みの後に堪え難い鈍い痛みとなって一斉に襲い、その()()()膝を崩して四つん這いに屈み込んでからパタリと仰向けに倒れた。

 

 

 

「ぁっ あがッ あぁぁぁあ いだい、ぃだいぃぃぃぃ」

 

 

 

「痛い」と。

それ以上に言葉で言い表すほかない鈍痛が全身の骨の髄から臓腑へ皮膚へ、まるで熱されてドロリとした鉄が流れてゆくようである。

 

 

 

 

 

 

 

オオォォォ—-オオォ——

 

 

 

 

 

 

 

詠唱。

死神の声。

地獄の再来。

 

 

 

「ぃあ…いや 嫌 嫌!もうやめで、ゆるじで…っ!」

 

 

 

射命丸は我を忘れて、天狗という身でありながらもそれをも超越した圧倒的な力と振り撒かれる絶望を前に泣きじゃくりながら赦しを乞う。

 

射手が消え、がらんとした城砦に倒れ伏す彼女の目の前に影が立った。ガチャガチャと鎖帷子とプレートアーマーが重なりぶつかり合って金属音が鳴り、全身鎧の騎士が一人。

物言わぬ()()は少女の手首を強く掴むと無理矢理に引き摺り連れて行く。

 

 

 

「嫌! 嫌!やめて!もう嫌!謝ります、謝りますから!ゆるして…赦してっ」

 

 

 

ジタバタと暴れるが鬼もかくやという程の騎士の力は天狗たる少女でもびくともせず、翼は動かせないので飛ぶ事もできず一介の小娘に成り下がった射命丸はそのまま騎士によって城壁内の階段を登った。

 

 

 

「ぅ ぅぐっ うぅ…」

 

 

 

少女のか細い手が鬱血するほどに強く握られた腕を振り払う事もできずズルズルと城壁の上へと辿り着く。そして騎士は少女を抱えると

 

 

 

 

城壁の縁から口を広げる深い谷底へと投げ入れた。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「で、いま目の前にいるブン屋がその烏天狗って訳?」

 

「その通りでございますよ〜!!いやぁもう大変だったんですから!」

 

 

 

場所は博麗神社。

文々。新聞を片手に話を聞いていた巫女——博麗 霊夢——は怪訝な顔をしながら射命丸を見る。

 

 

 

「まぁブン屋にしてはよくできた御伽噺だったわよー」

 

「御伽噺だなんてせっしょうなぁ〜」

 

「フン…でもあんたの話じゃ『弓や弩に射られた』みたいだけど、随分元気そうじゃない」

 

 

 

射命丸はあっこれですかーとでも言うようにその腰に巻いたコルセットを撫でて返す。

 

 

 

「いやそれがですね、城外で止まっていた警邏の天狗にキャッチされて永林さんのところまで行ったらですね、無かったんですよ!」

 

「…なかった?」

 

「私の体深くにまで刺さったハズの矢が、無かったんですよ。」

 

「…なによそんな真っ昼間に夢でも見てたわけ?警邏は何て言ってたのよ。」

 

「彼女曰く『お医者様に診てもらう迄は確かに矢が刺さっていて、大量に出血していた』んだそうで」

 

「……幻術…」

 

「えぇえぇ!私はアレは高度な幻術とか何かそう言う物だと思うんです。どうです?異変の匂いプンプンしますよねっ!?」

 

 

 

ジトリとした目で射命丸を睨む霊夢は淡々と言い放つ。

 

 

 

「まっ天狗が二人して狸に化かされたんでしょ。良い笑い話だわ。ご苦労様。」

 

「ひぃ〜ぐすっぐす…、信じてくださいよ〜…私がッ!この清く正しい射命丸 文がッ!楽園の巫女たる霊夢様にこの『異変』を解決してほしいのです!」

 

 

 

もちろん嘘泣きであるが、これを解決してほしいという本心は揺るぎないモノである。

 

 

 

「あんたねぇ…例の忌々しい紅魔館の件からまだふた月と経ってないの。それなのに新しい異変だからって少しは休ませなさいよ。」

 

「あやややっ!この射命丸という犠牲が出ているのにですか?」

 

「そこよ。異変なんて言っても犠牲はまだあなた一人だし、それも幻術だし、だいたいその城が実際にあるのかもわからないじゃない。まだ動くわけにはいかないわ。わかったらとっとと帰んなさい。」

 

「分かりましたよ〜…。いつか絶対に、必ず、後悔しますからねっ!?」

 

「はいはい、帰った帰った。」

 

 

 

ブツクサという声が天へと遠ざかるのを涼しげに聞きつつ新聞を片手に内へと入ると直ぐ、煎餅をかじりながら居候然とする大妖怪が座っていた。

 

 

 

「あら霊夢ちゃんおかえり〜」

 

「あぁもう朝からブン屋にスキマに…ここはあんたたちの家でも溜まり場でもないわよ、さっさと出て行って。」

 

「あらあらぁ、反抗期かしらねぇ」

 

「はぁ〜…」

 

 

 

ふふふと扇子の内側で笑う大妖怪——八雲 紫——は新たな煎餅を手に取って、できればお茶も欲しいなどとのたまいながら溜息がちに話し出す。

 

 

 

「それはさておき…例の城、貴女が思うより厄介そうよ…?」

 

「さておきって。でも何もしてないでしょ?なら良いじゃない。ブン屋は自業自得だし」

 

「まぁあの子の場合はちょっと…擁護できないけれど。勝手に入られたら誰だってねぇ?」

 

 

 

件の新聞記者の烏天狗を思った霊夢はすこし哀れに感じつつも話を続ける。

 

 

 

「とはいえ紫でも『厄介だ』なんて言うのははっきり言って異常ね。それだけで異変たりえるわ。何がどう厄介なのよ。そもあんたの差し金だったりしないでしょうね?」

 

「ひどいわ。…それがね、アレについては心当たりがないのよ。」

 

 

 

「アレについては」と言う言い回しに多少の引っ掛かりを覚えつつも霊夢は湯呑みに麦茶を注いで出し、話を進めさせる。

 

 

 

「心当たりがない?」

 

「そう、基本的にこの幻想郷に入るには私が大結界への干渉を一時的に許さないといけないのだけど、あの洋城についてはその主人に会った事もなければ『何』なのかすらわからないの。」

 

「…『何』?」

 

「おそらくはスカーレットに大結界への干渉を許した時、隙間風みたく入り込んだのだと思うのだけど。その存在を規定する『概念』に近い物が長い長い年月を経て変質してしまっているせいで其れ等が一体全体『何』なのかがわからないのよ。」

 

 

 

概念の変質。

その文の異常性に気づけない霊夢ではない。

 

 

 

「待ちなさい、それってそもそも…人とか妖怪とかそう言う話ではなくなってくるんじゃないの」

 

「一概にそうとは言えないわ。だってそもそも『こちら』ではあり得なくとも『あちら』では普通な事かもしれないのよ?それに概念というと小難しいかもだけれど()なら『こちら』としては分かりやすいんじゃないかしら?」

 

 

 

どう?と首を傾げて見せる紫に苛つきつつ霊夢が答えた。

 

 

 

「でもそれでも異常なことに変わりはないじゃない。それにそれってつまりは——」

 

「「現世還り」」

 

「——っ …厄介ね」

 

「そう、厄介よ。」

 

 

 




 

思いついてしまったなら、書くしかない

そんな訳で始まってしまいました行き当たりばったりの新作小説。
後悔はまだありませんが不安はいっぱいで、しかし反省はありません。


射命丸好きの皆様には大変申し訳なく思っておりますが、この方が話が書きやすかったのでございます…赦してくれ…赦してくれ…。

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