前回のあらすじ
話し合わない『会合』
今回の注意
どことなく閑話。
■操作ミスでこの話が執筆段階で投稿され、その瞬間に削除したなんてことがあったとかなかったとか
会合が開かれるのと時を同じくして、幻想郷の外れでは一人の大妖怪が烏天狗の新聞を巡る。白いガーデンテーブルに椅子を
夏の葉色を彷彿とさせる深緑色の髪が肩上まで切り揃えられており、それと赤いチェック柄のロングスカート、フリルを風に揺らされながら紅茶を飲む。そうしてから再度机上の新聞へ目を移しその上をなぞる様に軽く読み返した。
一方の新聞の項には『疫病異変』とあり、またもう一方の花果子念報の見出しには『彷徨う剣客?紫眼にご用心』とあった。
「…紫には悪いけど」
ぼんやりと脳裏に浮かんだのは、先日彼女の元へとやって来たスキマ妖怪であった。その時はやんわりと返してハッキリとした返答は先送りにさせたのであるが、今度の会合に出るという悪霊に言伝を頼んで返答を持たせたのである。
「今回は降りるわよ。」
彼女は誰もいない椅子の、虚空に向かってそう口に出した。件の悪霊が伝え損ねることはないだろうとは彼女自身も思っているが、心配なのとはまた別の感情があるのかもしれない。会合はもう既に始まったはずである。
彼女は先程読んだ紙面の内容を頭の中で整理し、またそれをもとに考察しておそらく例のスキマ妖怪も辿り着いたであろう答えを一瞥する。
「——…河童が接触して気圧されるだけならまだしも、彼らが畏怖の対象にする天狗の
「そうよね。」
思索の海から意識を浮上させた花妖怪——風見 幽香——が目を上げると、テーブルを挟んだ向こう側のあらかじめ用意されていた椅子にスキマ妖怪が座っていた。
「もちろん貴女の返答は魅魔から聞いたわよ。でも…。」
幽香は一瞬疑ったもののあの悪霊はお使いを全うしたらしいと理解して、目の前のスキマ妖怪が言わんとしていることを分かっていながら続きを催促するようにティーカップへ紅茶を注ぐ。
「…相手が厄介だからこそ、貴女の助けが欲しいのよ。考え直してくれないかしら?」
「駄目。」
迷うこともなく、即答である。
「もう少し考えてくれたっていいじゃないの。」
「もう結論は出たの、私は観客席から観る事にするわ。ああいうのは舞台の外から観ていた方が楽しいもの。そういう意味での興味ならあるわよ?」
「貴女までそんな…もう…貴女
「…その様子だと魅魔も断ったみたいね。賢明だと思うわ。」
ムスリとした顔つきで幽香に差し出された紅茶を飲んだ紫はさらに不満を撒き散らし始める。
「それにあの悪霊、魔理沙にまでストップ掛けたのよ?」
「魔理沙?…あぁあの『ただの魔法使い』ね。まぁあの子なら魅魔の待ったをゴーサインとして捉えるくらいはしそうだけどね。私はあまり関わったことがないんだけど。」
ちなみに彼女の人物評の情報源は、新聞二誌とたまに訪れる人里での評判そして香霖堂である。
「そう…そうよね。そうだと信じることにするわ。…でも天狗の里は洋城に向けて派兵するし、人里は人里で他人事じゃないのに他力本願だし…。」
「人里について言えば、普通の人間ならそうするってことを紫は忘れてるんじゃないかな。それより天狗が動くのね、興味深い。」
幽香は、紫の口を噤ませることはできないと半ば諦めて、紫の話し相手として努めることにしたようだ。
「そう、私が大天狗と里長にも根回しを試みたのだけど全くもって聞く耳を持たなかったわ。纏まりがなさ過ぎると思わないかしら?自分以上に幻想郷としての危機なのに。」
「それはそうだけど…参加しないことにした私が言えることではなさそうだね。」
「まったくね。あぁ〜明日は霊夢と河童のところに行ってなんとしてでも協力を取り付けたいわよね…。紅魔館は乗り気みたいだからそれだけは確実だけど。」
「紅魔館…レミリア・スカーレットから明確に返答があったのか?」
「会合に本人が来たわけではなかったけど、魔女が出張ってきたなら
「なるほどな、それは確かに。」
そういいつつ幽香は視線を太陽の畑の外へと向ける。広大な向日葵畑の果てに、くっきりとその影を落とす不気味な分厚い雲が鎮座しているのが見えるのだ。幽香は件の曇りが出てから人里へ足を運んではいないためにその下に降り注ぐ偽りの陽には気付いていないが、ともかくその雲が尋常では無いことは感じ取っていた。
幽香がふと目を紫へと戻すと彼女はスキマの中へ半ば入りかけており帰ろうとしていた。
「なんだ紫、もう帰るのか?」
「えぇもう眠いのよ。んぅ…今日はいつもより起きるのが早かったから。じゃ、さようなら幽香。」
会合は昼前からだというのを紫本人から前もって聞いていた幽香は呆れた様子でスキマが閉じるのを見送った。
ティーポットとカップそして新聞の束をトレーに移し、席を立った幽香はそれを手に向日葵畑の中の道を歩いて帰路につく。太陽の畑のちょうど真ん中にポツリと建つ白い壁と黒い屋根を持った洋式の家が一応は彼女の家である——そも妖怪に家は要らないのであるが——。
幽香はソファに新聞を放り、トレーを片付けると再度日傘をさして太陽の畑の見回りへと繰り出した。とはいえ毎度のことながら異変の影響が薄いこの幻想郷の辺境ではそうそう変化は訪れない。
「そういえば最近雨が降ってないわね…ちょっと水をあげようかしら?」
とは言っても如雨露で水遣りをして回るわけでは無い。幽香は日傘の下で少しの妖力を操るとそれを太陽の畑の上方へ広げてパチりと小気味良く指を弾き鳴らす。するとどうだろう、空で降らせるに足るくらいの小さな水滴が形作られてさあっと小雨が降り注いだ。
葉から露が集まって雫をつくるその様を、鼻歌交じりに眺める。
歌は香霖堂で聴いた外界のレコードであったか。
「…——
降らせた小雨の落ち着く迄は見廻りを控えようと考えた彼女は、家の周辺に集めた花の様子を見に向かいそして見慣れないモノを見つけた。それは家のすぐそばに根を張った、黒い放射状の葉が特徴的である。
「あらこんなところに…黒法師?植えた記憶はないのだけど。」
黒法師、サンシモン、アエオニウム。多肉植物の一種であり乾燥した土壌を好む。
「——花言葉は『いい予感』『永久』それと……」
———『永遠の命』。
「でもなぜここに?」
周りを囲んだ花の声が騒ぎ立てる。しかしながら異質なその黒法師は平然として、その黒紫に色づいた葉を揺らす。断片的にしか発されないはずの『声』、だがその花はゆっくりと確かに話していた。
———わからない、けれど確かなことがある。私は人
「わからない?人
———そうとしか言えないけど。
人であったただそれだけが分かるその植物は首を傾げるように葉を揺らす。黒紫色の葉に日が照って白く不揃いな目があるように見えるだろう。
「…まぁいいわ、妙なことしないなら。ちょっと待ってね。」
———なにもできないよ。
そんな言葉を呟くのを聞くより先に幽香は家の裏へと消えた。木製の戸が軋む音が聞こえ、さらに小さく物音がしてからしばらくすると彼女は植木鉢とスコップを手にして戻ってきた。
「ちょうど家に多肉植物が欲しかったのよ。植え替えてあげるから感謝して頂戴?」
なにも返答はなかったがどことなくその黒い葉が嬉しげに見えた幽香はスコップを慎重に入れた。
二月から蕾を開き始め、四ヶ月にわたって咲く
その様は
前回の会合で紫が出席者と議論を深めなかったのは、今回で彼女が吐露した不満があったからかも知れませんね。ちなみに幽香の家は完全オリジナルです。原作にその描写はなかったハズですから。
血に渇いたレミリア様
お陰様で拙作の評価バーが赤になりました!評価ありがとうございます。
■以下
河童の皆さんには少し暴れて欲しいなぁと思いまして。詳しくは言えませんが、少し無茶するくらいなら反撃としてちょうどいいかなって。
…良いですかね?
(追記 2020/10/29)
タグにThe Ringed Cityを追加しました。
念のためです。