妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

太陽の畑に人の花

■今回のHumanity(?)
評価の力を感じた一週間でした。
特に週末の伸びが私個人では驚異的でしたね。前回投稿日のUA数値を土曜日の0:00〜9:00で超えたのですから。うれしみが深淵ですね、ハイ。



金剛石は砕けない

 

〜〜〜会合の翌日〜〜〜

 

 

 

小さな神社を囲む木々も徐々に色付いて、枯れ葉が境内と参道にちらほら落ちるようになって来た秋先の頃である。紅葉には未だ遠いか。

葉がまだ少ないのでさっさと掃き終えた霊夢は箒を仕舞って茶を煎れに台所へ向かった。漸く夏から余っていた麦茶を飲み終えたのである。彼女は薬罐で湯を沸かして、煎茶へ使った余りを魔法瓶に注ぎ入れる。

 

魔法瓶は香霖堂から霊夢が持って来たものだった。森近 霖之助が紫に頼んでいた外界の品の一つであり、香霖堂の商品にしては有用性の高い品と言える。後に河童が構造を調べて幻想郷内で複製し、かなりの儲けを出したのだとか。

 

霊夢がその魔法瓶を置いて、煎餅を五枚と湯呑みの用意をしてから居間まで戻ると待ってましたと言わんばかりの先客が居た。今度はスキマ妖怪でも烏天狗の何かでもなく、モノクロカラーリングの『普通の魔法使い』——霧雨 魔理沙——である。

 

 

「よっ霊夢お茶もらうぜ。」

 

「はいはい知ってた。湯呑みは四つ持ってきたから。」

 

「なんだわかってたのかよ…でも四人も居ないぞ?」

 

「そのうち来るわ。」

 

 

納得したような様子で湯呑みに茶が注がれるのを眺め、また当然のように煎餅を齧り出す魔理沙に半ば諦めながら霊夢は予想していた本題を先に切り出す。

 

 

「『ダメ』だそうよ。」

 

「まだ何も言ってないじゃんか…ま何かはわかるけどよ。」

 

 

昨日の魅魔の伝言である。

 

 

「でも諦めない。絶対に行ってやるからな。」

 

「なんでムキになってるのよ。」

 

「だって今回のほど大規模なものはそうそうないはずだぜ?」

 

「『大規模な』ってあんたねぇ。」

 

 

霊夢は魔理沙が異変を祭事か何かと勘違いしているのではないかと考えた。が今に始まったことではないかと諦観に至る。

しかし今回ばかりは笑える冗談にはならないのであるから霊夢は止めにかかった。

 

 

「人が死んでいるのよ?それに文屋がまったくもって正しいとは言いきれないけど、紅霧異変とは明らかに違うの。スペルカードルールなんて甘えたもの存在しないし、手加減なんてする気はないはずよ。それでも行くの?」

 

「行くね。」

 

「はぁ〜?」

 

 

霊夢は溜め息と疑問とそれに呆れの混じったものを吐き出しつつ魔理沙を睨む。対して魔理沙はけろっとしていた。

 

 

「スペルカードルールだって言っても紅魔館の件からだろ?それ以前に戻るってだけの話じゃないか。紫は……まぁ…ご愁傷様だが。」

 

「憤死してないわよ。むしろ怒り狂って一周して冷静になってるわ。」

 

「まじかよ…余計付け入る隙がないな。」

 

「付け入るってあんたねぇ…今回は諦めなさい。紫のことだからあなたが行くって言っても止やしないけれど危険なものは危険なのよ。」

 

「いつも通りだぜそれ。」

 

「あーもう!ほんとあんたほんと魔理沙。」

 

 

霊夢自身も何を言ったのか理解に苦しむようなそんな文句を口にした時、縁側にまた一羽の来訪者がやってきた。

 

 

「あややぁ〜?苦労しているようですね霊夢さん。」

 

 

愉悦に浸りきった顔の射命丸 文である。

 

 

「でも私の新聞からなんの対応も打たなかった『裁定者』殿に貸す()()はないもので。」

 

「…なによ、嫌味を言いに来たわけ?」

 

「そうかもしれないです。お茶貰いますね。」

 

 

魔理沙の隣に坐った文は湯呑みを一つ寄せて自ら茶を注ぐ。

 

 

「おっブン屋か。リーチだな。」

 

「?…魔理沙さん何の話ですか?」

 

「こっちのハナシだぜ。気にすんな。」

 

「そうですか?」

 

 

そしてまた煎餅を手に取った文。つられて霊夢も煎餅を齧り出しこちらは残り二枚である。

 

 

「んでもブン屋は今こんなことしてる暇あるのか?昨日の『会合』に行ったんだろ?」

 

「よく知ってますね、でも心配は無用ですよっ!昨日のうちに原稿を仕上げて今は部下たちが活版印刷機の準備をしていますから。あとは私がいなくてもいいんですっ!素晴らしいですね。」

 

 

胸を張ってそう答えた文は一度茶を啜って場を切り替えた。

 

 

「でですね霊夢さん。私実は茶化しに来たのではないんですよ。」

 

「本当でしょうね?」

 

「えぇもちろんです。」

 

「で何かご用?」

 

「それがですねー、霊夢さんへ幾らか情報を流すように命じられまして。」

 

「天魔あたりからかしら。」

 

「——一つは霊夢さんには余り関係がなさそうなハナシですが、遠征隊は白狼部隊から選出されて天魔様の予測通りあと三日後に出発するみたいですね。選出は極秘で本人へのみ通達みたいですけど。」

 

「それは私じゃなくてスキマに言うべきじゃない?」

 

「聞いてらっしゃるかと思いますけどね。」

 

 

文がそう言い切るかどうかと言うタイミングで縁側の空間が音もなく()()()。ぽっかりと開いた口から紫が目だけを覗かせて、スルリとそこから出てきた。

 

 

「来ちゃった。」

 

「はい湯呑みね。」

 

「おっ丁度四人か、やったな霊夢。ビンゴだ。」

 

「…あぁ湯呑みのハナシでしたか。」

 

「これ以上人が増えなきゃ大丈夫でしょ。」

 

 

霊夢が残り一つの湯呑みに茶を注ぎ紫に渡す。紫の方はひょいと煎餅を齧りながら呟いた。声の調子のわりに顔色は良くない。

 

 

「にしてもあと三日ね…もう少しくらい待ってくれればいいのに。」

 

「いやぁ〜天狗の里では『私が撃墜されたこと』と『天狗の縄張りの危機』がかなり大きく騒がれていましてね、それがかなり好戦的な雰囲気を煽っているんです。」

 

 

霊夢は文を睨みながら言う。

 

 

「それあんたも一端を担ってるじゃないの…」

 

「全くその通りですね。ただまぁ紅霧異変よりも反応があるあたりを見ると、妖怪の山で起きたという事実が大きい気がします。とはいえこの清く正しい射命丸 文は思うところがあったので天魔様の情報伝達役を買って出たんですがね。」

 

「…あっそ。」

 

 

本当に彼女が悪く思っているかは察した通りであろう。多少煩わしく感じつつも霊夢は文に更なる情報をと急かした。

 

 

「で他に情報は?」

 

「まぁまぁそう急がないでくださいよ…私は逃げても情報がなくなるわけではありませんから。では…例の洋城ですがどうやら河童が、事の大小はわかりかねますが『接触』したようです。」

 

「接触したことはわかるのにその内容はわからないワケ?」

 

「えぇ。最初に河童と接触したのは白狼で、ひどい恐慌状態に陥っていたそうでした。その後天狗の里から私と他の烏天狗で玄武の沢へ向かって情報提供を求めたのですが拒絶されて、今に至ります。」

 

「ふぅんなるほどねぇ」

 

 

茶を啜りながら答えた霊夢に文は身を乗り出すようにして重ねて言う。

 

 

「河童と交渉をするなら早いうちがいいかと思いますよ。」

 

「わかったわ。まぁ…今日明日には行くわよ。」

 

 

曖昧な返答を残して、きゅうすを手に立った霊夢は台所へ消える。それを見送った文は——彼女の柄にも無く——不安げな声を漏らした。

 

 

「…大丈夫でしょうか?」

 

 

対して紫は極めて冷静に——努めて——返す。

 

 

「…大丈夫よ、今日は河童の方に行こうと思ってここに来たから。それと魔理沙。」

 

「なんだよ。」

 

「来るなら歓迎するわよ?」

 

「…なんだ気味悪いな…。」

 

「まぁ聞いて頂戴。今の妖怪の山のパワーバランスを見るにたとえ河童を懐柔できても、洋城に対しての戦力不足は否めないわ。だからむしろ頼みたいくらいなの。頼まれてくれるかしら?」

 

 

魔理沙はふぅんといった調子に少し考える仕草をする。そんなところに霊夢が新たに湯を入れた急須を手にして戻ってきた。魔理沙が考えるというよりも悩むに近い様相であったために霊夢は訝しむ。

 

 

「どうしたのよ魔理沙…紫あんた何か言ったんじゃないでしょうね?」

 

「さぁどうかしら?」

 

「あんたねぇ——」

 

 

紫へ詰め寄りに掛かろうとしていた霊夢を遮って魔理沙が紫へと言う。

 

 

「——その頼み聞いてやるぜ。」

 

「あらぁ。」

 

 

一変して明るい表情となった紫に対してその一方、霊夢は何のことかわからず魔理沙の顔を凝視するかたちとなった。

 

 

「…………は?」

 

「あらあらぁ嬉しいわねぇ。貸しにしてもらっても良くてよ?」

 

「ますます乗ったぜ。ならこうしちゃいられないよな。よしっ!霊夢、玄武の沢に行くぞ!」

 

「…………え?」

 

 

霊夢は事の整理を終えきらぬままに腕を魔理沙に掴まれ、引き摺られるようにして母屋から出た。しかしそこで一旦思考を切り替えた霊夢は魔理沙を問いただすことで留めることにしたようだった。

 

 

「待ちなさい魔理沙、あんた妖怪の山への立ち入りはどうするのよ。私は博麗神社の巫女なんだから異変解決を盾にすればいけるけど。」

 

「あー………そこは霊夢がなんとか頼むぜ?紫でもいいけどな。」

 

「ちょっ——」

 

 

再び霊夢を遮るように今度は二人を追って外へ出て来た文が告げた。

 

 

「そこはご心配いりませんよっ!天魔様が緊急合議で主導になって立ち入り制限を一時的に撤廃したので、魔理沙さんも妖怪の山で警邏の天狗たちにつかまることはありません。」

 

「おぉ!やったぜ、さぁ行くぞ霊夢。」

 

 

そう言いつつミニ八卦炉を取り出した魔理沙にふと嫌な予感がした霊夢は、魔理沙に掴まれた手でその八卦炉を弄る左手を取った。

 

 

「おいなにするんだよ霊夢。」

 

「それはこっちの台詞よ魔理沙。ミニ八卦炉なんて取り出してどうするつもり?」

 

「ん?…あぁ、最近箒の調子が悪くてな。飛ぶのもままならないから最近は八卦炉で風を作って下向きに噴射させながら飛んでるんだ。わかったか?」

 

 

魔理沙の「箒の調子が悪い」というのは、洋城の雲の下にいる影響で発生した『機能不全』の一種である。因みに件の曇り空に関して言えば、翼を有する烏天狗や翅のある妖精に対して生じた影響は霊夢のものと同一だ。

 

 

「…でもちょっと…いやとっても怖いから紫にスキマ開けてもらわない?いやそうするわ。ねーぇ紫ーっ?」

 

「なんだよ私の操縦じゃ不満かよ。というか霊夢は飛べるんじゃないのか?」

 

「そうだけどそれでも飛びにくいのよ、なんかこう引っ張られる感じが強くて。」

 

 

そう話すうちに外へと紫が出て来ていた。

 

 

「呼んだかしら?」

 

「玄武の沢に行くから、スキマを開いて頂戴。どうせ紫も来るんでしょ?」

 

「それはそうだけど。」

 

「だけど?」

 

 

紫が魔理沙の左隣へと目を向ける。釣られて魔理沙と霊夢もまた目を向けるとそこにいるのは射命丸 文だった。

 

 

「あや?どうかいたしましたか?」

 

「貴女も行くでしょう?」

 

「大丈夫です、私は自前のアシがありますからね。」

 

「あらそう、ならいいわ。」

 

「ブン屋も来るならスキマ使えばいいじゃない。」

 

 

そう疑問を投げた霊夢に対して文はどこか誇らしげに、また少しうざったく言った。

 

 

()()()()()()()ならそうしますがね、私は今()()()()()()()()()ですから。上司への報告義務があるのですよ、ではお先に失礼します。また玄武の沢でお会いしましょうっ!」

 

 

言い終えてから飛び立ち半円を描いて緩やかに高度を上げた文は、ある程度の高さから一気に加速してさながら外界の巡航ミサイルのように一直線に天狗の里へと向かった。

それを残った三人は見送り、また紫に付いてスキマを通る。行き先は河童の里、玄武の沢だ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「分かってはいたけど、止められなかったかい…」

 

 

人のいなくなった母屋。卓上には残された煎餅が一枚と湯呑みが四つに急須があるばかりであったが、そこに靄がかかるようにしてから発せられたその声はどこか楽しげですらある。

 

 

「まぁそうだろうねぇ。紫もらしくない、いらん借りなんて作るくらいはなかなかに焦っているようだねぇ。」

 

 

卓上に残った一枚の煎餅をひょいと取って食みながら悪霊は弟子擬き(もどき)を思う。

 

 

「マァ、()()()()空気感は幻想郷じゃあそうそう味わえないだろうし良い経験さね。そう思うとしようか。私はあの花妖怪と同じように振る舞うだけさな。」

 

 

煎餅ごと掻き消えたその声は、憂うようであった。

 

 





文の言う「他の烏天狗」には姫海堂 はたてなどの他の情報誌関連が主となっています。前回さらっと登場した花果子念報はにとりとの面識を作ったはたてが念写して製作したものですが、その能力の性質のために『接触』の内容は不明でした。

——前回分の評価者様——

黒猫街夜様 おんせん様 No_46様 ボンボコボン様 アルマ・アップル様 秋刀魚ブレード様 街泡星様 Dither様
評価ありがとうございます。


今の「洋城異変」については前半は東方projectパートとなり、後半まで一部の例外を除いて基本的にはDarksoulsの要素が顔を覗かせることはありません。
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