妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

ブン屋の臨時役職、魔理沙金剛の心

■今回のHumanity(?)
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……エタることはないように、と思います。



かわわっぱのヒラメキ

かつて起こったという妖怪の山の大噴火。以降鳴りを潜めた火山活動であるが、その当時の被害や環境の変化は現代も色濃く残っている。そのうちの一つが玄武の沢である。きれいな六角形の柱状になった玄武岩——これを柱状節理と呼ぶらしい——が沢の全体を覆い、また滝の裏にはその玄武岩によって形作られた洞窟がその口を潜ませているのだ。沢の周囲に見える無数の虚な洞には彼ら河童の信仰する「玄武様」の祠が作られている。

 

幻想郷における玄武の沢、または河童の里といえば一般的にその玄武岩に覆われた水系自体を指す言葉であるが厳密には滝の裏に隠された先述の洞窟を指すものである。なぜかと言えばそこに河童たちが住処を形成しているためだ。

またその洞窟の最奥は河童の研究開発施設に繋がっているが、こちらは最高機密として扱われる。

 

その滝のそばに開いたスキマから出た霊夢は久方ぶりに訪れた玄武の沢の、その薄暗さに顔を顰めた。

 

 

「曇り空のせいもあるんでしょうけど、にしたって活気がないわね。」

 

「だな。」

 

 

普段ならば灯りの入っている祠は光をなくして虚な眼をこちらに向けており、また普段ならば河童の出入りがあるはずの水系にそれらの姿がないためである。

紫は二人に再び暗い顔をして言った。

 

 

「雲による幻想郷の機能不全が色濃く影響を出したのが玄武の沢の河童たちだからよ……。」

 

 

魔理沙は、持っていないと落ち着かないからと言って今もなお手にしている箒の柄を軽く撫でた。

 

 

「私の箒の調子が悪いのと同じか。」

 

 

彼女の呟きを聞きつつ、とりあえず誰か河童のうち一人に取り合って貰わねばならないとなった三人が玄武の沢を今一度見回す。すると霊夢が河童の集団を見つけたのであった。

 

緑のキャスケットと青い服というのは変わらない。しかしそれは青いツナギを着た一人を中心にしており、その上から安全帯、肩掛けや腰など手に取りやすい位置にポーチや懐中電灯を付けて滝の上から伸びる鉄の階段を降って来ていた。青いツナギの後ろの河童の手には工具箱があり、滝の上で作業をしていたらしいことがわかる。

 

 

「あの河童にまず聞けばいいか。」

 

 

他の二人は見つけられなかったらしく霊夢に促されて視線を向け、なるほどと納得した。遠かったためによく見えなかったがどうやらその中心にいる河童だけは幼い男の子の見た目をしているようだ。

階段を降り切ったその河童へ霊夢が声をかける。

 

 

「ちょっといいかしら。」

 

 

こちらを振り向いた男の子の河童は三人組の姿を見て何か事情を察したらしく、キャスケットを被り直しつつ背後の河童たちには待つように指示してこちらへ駆け寄って来た。

 

 

「……洋城の件ですか?」

 

「話が早くて助かるわね。」

 

「しかしお話することはありませんので。先方(天狗様)にもそうお伝えください。」

 

「あー、……天狗のいう洋城の件とは少し違うけど。」

 

 

その言葉にぴくりと反応し再度霊夢を注視した彼はすぐに合点がいったらしい。

 

 

「異変解決、それもその協力を求めに交渉をしに来たということでよろしいですか。」

 

「話が早いわね。でも交渉をするほどの時間も余裕もないわ。河童もそうでしょうけど。」

 

「異変の影響で余裕がないということであれば、それについては認めましょう。しかし時間がないというのは?……いえ、これ以上は中で話しましょう。どうぞ入ってください。用意をさせますから。」

 

 

そう言って背後に待たせた数人の河童たちへ新たに指示を出しに行ったツナギの河童はそのまま集団に押されるようにして滝の裏側へと消えていった。しばらくすると岩壁に着いた電灯が点き照らされて、滝の左右を抉るようにして裏側へと通じる通路が現れた。

 

その様を見て「おぉ」と少し声を漏らした魔理沙がワクワクしたような様子で二人を促した。

 

 

「灯がついたってことは行っていいんだろ?行こうぜ。」

 

「運良くまぁまぁ地位の高い河童だったみたいね。話が通じるヤツでよかったわ。」

 

「霊夢の『見る目』に助けられたわね、いきましょ。」

 

 

本来ならば個々で好き勝手にやりたがる河童たちであるから、『地位』という単語も少しおかしくはあるのだが。ここは例のツナギの河童が他の河童たちから男女問わず人望が厚い、というくらいに理解してもらいたい。

 

やたらと嬉しそうな魔理沙を先頭に霊夢、紫と連なって滝の裏へと続く通路をはいった。広い玄武岩の空洞には滝の前から最奥へと伸びる大きな通路を挟んで滝に向かっているレール、さらに材質はレンガ・コンクリートをはじめとして日本家屋のような木材・漆喰とさまざまであるが空洞の天井まで伸びる中仕切りの壁によって建物を成していた。環境としては滝の裏だけあって湿気はあるが地中であるため肌寒いくらいである。

 

 

「こちらへどうぞ。」

 

 

先程のツナギの河童がそれら左右を挟む建物のうち一つの、周囲のものと比べてかなり大きな所から出てきてそう言った。

建物内は幻想郷ではとても珍しいものではあるが、電灯に照らされた廊下と規則的に並ぶ扉そしてその手前右側にエレベーターの格子戸が見える。ツナギの河童はそのエレベーターに三人を案内し、それを稼働させた。

といってもただ、一階から二階へ昇ったというだけであるが。拍子抜けしたような顔をした霊夢が一人ごちる。

 

 

「……これそこまでする必要あったわけ…?」

 

 

それに対してツナギの河童は自嘲気味に言った。

 

 

「無いですね。二階に昇るだけの昇降機を作るよりは階段にしたほうが現実的です。」

 

 

しかし繋げて、そのエレベーターの由来を説明した。

 

 

「元は我々の研究施設用に私が作った昇降機の一号機なんですが、より電力効率の良いものが開発されたので交換されたのです。そこにあるのはそれをこちらに移設したものですね。」

 

 

自慢げであった。

 

エレベーターから降りて右手の廊下から一つの扉をくぐると会議室と言った風の広い部屋に入った。既に席は用意されていて、他の河童もまた里に居る大多数がその席に着くか又はその周りを囲むようにして立っている。紫の姿を見て顔を顰めるものや声を上げる者、反応すらしないものと様々だ。

席を勧められて霊夢らが座ると、ツナギの河童が口を開く。

 

 

「こんなところで申し訳ありません。しかし協力的な者全員を集める必要がありますから、ここしかありませんでした。」

 

 

対して霊夢が応えた。

 

 

「それは問題ないわ。それで、その口ぶりからするとここに居る面子が異変解決に協力するってことで良いわよね?」

 

「その通りです。……天狗様の探りがある河童(にとり)は、協力に対して否定的だったためこの場には呼んでおりませんがよろしかったでしょうか?」

 

「それも別に良いわよ。あとから射命丸って言う煩い天狗がくるけど、それも探りに来るわけではないから来たら通してあげて。」

 

「あぁ、文々。新聞の…わかりました。ではまず状況の説明をお願いできますか。」

 

 

これに対しては紫が口を開く。

 

 

「そこからは私が説明するわね。」

 

 

わざわざ大妖怪が出張って来たそのことに対して騒めきが戻りかけるも、その刹那にツナギの河童が手で制することでその声はパタリと止んだ。

 

 

「助かるわ。…それで現状だけれど、かなり急を要するわ。三日後には例の洋城に向けて天狗の里が部隊を派遣することになっているの。でも私は幻想郷全体のバランスとこれまでの損失を顧みて、これ以上の犠牲を払うわけにはいかない。となると異変解決のためには天狗の部隊派遣より早いか、遅くて同日中に行動を起こす必要があるのよ。」

 

「——タイムリミットは三日もしくは二日ですか。」

 

「その通りよ。」

 

 

その瞬間、会議室がどよめいた。

 

協力を惜しまないという姿勢は今更取り下げるつもりがないが、驚くべきはその計画を最低二日以内に実行へ移せるようにせねばならないという点である。

 

 

「…大変難しいかと思いますが。」

 

「出来ないとは言わないのね?聞いたわよ?」

 

 

俯き唸った彼はしかし、周囲の河童たちと顔を合わせ目配せして言った。

 

 

「『不可能』とはそう易々と口にして良い言葉ではありませんから。」

 

 

紫やその他二人は、そう言ってみせた彼や周りの河童たちの目に大火が宿るのを見た。

 

ツナギの河童は相手の反応を見とめると、すぐさま周囲の河童全員を机上に参加させるべく動いた。

 

 

「では妖怪の山の地図を、」

「—これだな?」

「……あぁそれだここに置け。赤鉛筆はないか?貸してくれ。」

「協力するったってどうするんだ?」

「それは今からすり合わせてその上で決めよう。…大体の形はまぁわかるだろ?」

「——……では異変解決にあたっての詳しい動きをお聞かせ願えますか?」

 

 

周囲の、机から間隔を空けていた河童たちが半ば身を乗り出すようにしながら机上に広げられた妖怪の山の全体図を囲む。天狗の測量隊が測量、作製したもの——その緻密さと正確さは目を見張るものがある——へ今判明している洋城の位置、異変解決のために向かう進行方向や玄武の沢からの情報を擦り合わせていくのだ。

 

まだ異変解決へ意欲を示す者が少なく、紫にとって詳細な動きは決まっていなかったのもあり洋城の位置と遠征隊の情報以外は何一つ確定した事実のないその机上の空論は、しかし請け負った手前引けない河童たちの雰囲気も相まってかなり紛糾したと言って良いであろう。

 

少なくとも昨日の会合よりも確かな手応えを紫は感じている。

 

ここに文が遅れて参加し、天魔から情報係を任命されたことや横流しに来た遠征隊について行程や規模などの細かい情報を伝えた。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

どうやら異変解決組とは真反対から遠征隊とかいうのが行くらしいという話だけは、目の前で行われる話し合いから理解した魔理沙だったがしかし「難しい話は苦手なんだ」と言ってその席を文に譲る。

遠慮がちに譲られた席へと着いた文を横目に、熱気が増した会議室で涼もうとミニ八卦炉を取り出した彼女は会議室の端へ進み箒をそばの壁に立てかけた。

 

 

「にしてもあっついなぁ」

 

 

その独り言を聞く余裕のある者は目の前の机に座っていないと分かった上で小声にそう愚痴っていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

河童は玄武の沢から洋城攻略へと遠距離で援護をする、という方針が固まった。理由は単純に、河童が戦闘に向いた妖怪ではないことと残り少ない日数で大移動をするのは敵からの目や高低差から考えて現実的でないということである。

 

 

「——しかし何を用いるかですね。」

 

 

河童がボヤき、またさらに検討が続く。

 

 

「日があんまりにも少ないから、今更一から何か作るのは無理だよ。」

「それはまぁそうだが…」

「兵器なんて作った試しがないぞ…?」

「いや、まてたしかあの変わり者が作っていなかったか」

「どっちにしろあれじゃ設計があんまりにも複雑じゃないかな」

 

 

と言った風に。

しかし話が進むにつれて、この期に及んで自身の功績欲しさがために案を提示するものやそれを同様の理由で否定するなど議論に私利私欲が渦巻いて混沌を極めていくなか、ただ一人ツナギの河童だけはそんな同朋たちの様子にため息を吐いていた。といっても案が浮かばないために黙っているのであるが。

 

議論が河童をメインにしたものへ切り替わり、それもだいぶ煮詰まって来たらしいと感じた霊夢はふと周りを見回す。とここで漸く隣に座っていたはずのモノクロ魔法使いが烏天狗になっていることに気がついた。振り返れば魔理沙はミニ八卦炉から風を出して会議室の隅で涼んでいる。

 

 

(ちょっと何してんのよ)

 

 

霊夢が睨むようにしてそう伝えると対して魔理沙は首を煽る仕草をしてから八卦炉を自分に向け、いかにも涼しそうにする。

 

 

(いいだろ?これ)

 

 

とでも言いたげである。

霊夢は呆れたような顔をして顔を机——主にツナギの河童——へと戻す。するとこちらもこちらで奥で涼む魔理沙を見ていたようで、霊夢は謝意を込めて軽く会釈をした。

 

 

「………。」

 

 

しかしこの河童はその会釈に目も暮れず、尚も()()()()()()()()を見ているのである。なんだ愛想が悪いなとそれを見てすぐには考えた霊夢であったがふと違和感に気がついた。

 

魔理沙を見ているのではない。

魔理沙のいる方向を見ているのである。

 

 

「……?」

 

 

河童のうち一人がふと、ツナギの河童が一切口を開いていないことで彼に話を振る。

 

 

「ねぇあんたさっきから黙ってるけどなんかあったの?」

 

「………——あった——ッ」

 

「……あったぁ?」

 

その()があった!!!

 

 

爛々と輝くその瞳は、まるで幼な子が新しい玩具を見つけたようであったという。

 

 




 
「シリアスで筆が重くなる」のではなく「戦闘じゃないから気が乗らない」Humanityはやっぱりフロムに育てられていますね。
…はやく異変解決までいかないかなぁ。

——前回分の評価者様——

ダクソ信者A様 ⑨ナインボール⑨様 篝火(いぐにす)様 あき.様 肉無しチキン様 コエムシ様
お陰様で拙作の評価バーが三マス赤になりましたっ!評価ありがとうございます。

■ダクソこーさつ
東方パートに入ってフロム脳があまり刺激されなくなった作者Humanityによる申し訳程度の且つ不定期なダクソ要素です。読まなくても構いません。
記念すべき第一回は「闇喰い ミディール」その名付けについて。そもそもMidir(ミディール)とはアイルランド神話において地下の神を指します。
同僚の人間性はこれをなんとか小難しく考えようとしていましたが、おそらくかなり簡単なネーミングだと私は捉えました。
だってミディールのボス戦エリア、描写されている侵入不可能エリア含めてすっごく広い地下世界じゃないですか。ハイそういうことです。
また補足として、エリアから見上げても星空は見えませんのでダクソ2に見られた階層世界思想にも依らない純粋な「地下」であると分かりますね。
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