前回のあらすじ
カァッぱの技術力はぁぁッ
セェ界イチィィィィッ!!
■今回の注意
洋城異変の章が後半に入りましたので、この先戦闘・残酷な表現・ダクソ要素・独自設定等に注意。
「これ……は、ちょっと……っ。」
背後を守るように貼られた魔法陣へ雨風が如く降り注ぐのは、ゆらりと立った橙色の幻影が放つ
時は遡る。
城塞からは死角となる、洋城を頂点に降る山肌のなかの切り通しで無事合流した博麗神社側と紅魔館側はその切り通しから城壁を目指して進んでいた。本来ならばスキマ妖怪の能力で直接城内に侵入するつもりであった。しかしいざ実際に開いたスキマが見せたのは「虚空」だったのである。
虚空というのは間違っていないが同時に正確でもないか。
正確には認識している空間とそうでない空間の狭間にスキマが開いたのである。だがそれは「いしのなかにいる」のではなく、振り返れば城壁を囲う谷を岸壁の内側から見、見上げれば地面を通して高い城壁をが見え、下には旧地獄の天井を通して旧地獄がみえている、そんな奇妙な状態であった。
ゲームのバグみたいなものであろう。
もう一度開き直せばうまくいった可能性はあるが、そのよくわからない空間に宙ぶらりんになった紫はスキマの使用を拒否し、結局徒歩で城へと向かうことになったのだった。
パチュリーの推測は、洋城の影響下においてはそう言った「スキマ」は何か別のもので代用されているかもしくはかなり曖昧なものなのかもしれないとしている。その結果「城の内側と外側のスキマ」に開こうとした紫はその代用として「(
要は言葉遊びである。
ちなみに中と外の狭間がはっきりしないものには実例がある。日本家屋がそれに当たるのだ。もしかしたら、見た目が違うだけで根本にあるのは同じ日本的な思想であるかもしれない。
閑話休題。
斯くして森に紛れて城に接近する方策を取ったのであるが、それを阻むものがはやくも現れてしまった。今なお無数の木々があるにもかかわらずひどく正確に射抜かんと降り注ぐ矢雨であり、それを放つ幻影がそれである。
「ねぇ紫しめじ、どうせ幻影なら突っ切れば良いんじゃないの?」
ふわふわと両の足を浮かせた状態でいるパチュリーのすぐ後ろからそう言ったのは霊夢である。
「そうは、いかない……っわ。これ多分…魔…術の矢よっ!」
幻影であれば、魔法陣にそうあれと込めた魔力の強制力に負けて消えるはずであるがその矢は盾にしている魔法陣の魔力を削って行くのである。それはつまり魔術による攻撃であることを意味していた。
「全くもってデタラメね…幻影が魔術を使えるなんて。」
忌々しそうにレミリアが呟いた。先程投げたグングニルは幻影たる弓兵をすり抜けてしまいその反対側の洋城の壁にぶつかって消滅した。しかも当たる間にすらその幻影は矢を放つので手に負えないのである。
「でもそうは言ったってこれが城内に入っても続くのに今足止めを食らうんじゃ、ジリ貧だぞ!」
「分かってる……わよッ、こんの白黒うるさいわねッ!」
数枚重ねた防御陣を一枚破られては内側へ張り直すパチュリーはしかしこの状況が続くわけでもないことが分かっていた。
「でもあれが、幻術ならっ ずっとは出せないはずよ…。」
彼女がそう言う間によくよく城壁を見れば、術者がいると思われる城塞の奥から順々に幻影の兵士達のオレンジ色に光る造形が崩れ始めているのだ。そうして遂には最前列までもがその姿を陽炎に変えて消え失せた。
「今よ!早く、相手の術者が張り直す前に!」
パチュリーがそう言うと五人は切り通しを抜け、そこから左正面へ樹木を障害物にしつつ正門へ距離を詰める。が、正門の跳ね橋はやはり既に上がっているのだ。
「あぁっクソッ忘れてたぜ…ブン屋にも書いてあったじゃねぇか。」
この時既に城塞の奥では通る声でしかし低く重く胎に響くような詠唱が発せられていた。崩れてぼうっと消えた幻影が再び形を成して立ち上がる。詠唱が響き渡って消えると同時に城壁の弓兵達は矢を番え終えていて、一斉にそれらを放った。
すぐ様身をかがめて射線を切るために岩の後ろへと入った
「…ぁ」
「パチェッ!?」
慌てたパチュリーは防御陣と浮遊魔術の両方に魔力のリソースを割き、矢に向けて盾を構えつつ浮遊移動の速度を上げようと試みた。しかしながら相手の矢は先程の防御結界をも——幻術に対策した物ではあったものの——物量で容易く破壊する力を持つ魔術だ。
それを
矢を受けた魔術の盾は一秒で軋みをあげ、また次の一秒で脆くも砕け散ったのだ。
肌を貫く刹那、パチュリーの左手を強く掴みまた彼女を引き寄せんと引く手があった。レミリアである。
「パチェ何やって———ッ!!」
レミリアが矢の大群からパチュリーを半ば逸させることに成功した丁度そのとき、一本の矢が大群から離れていた。
「な——あがッ!?」
突如走った鋭い痛みに一瞬怯んだレミリア。その一瞬でパチュリーは右肩から矢雨に晒されて掠れた悲鳴をあげる。親しい友人の苦痛に耐える声に正気を取り戻したレミリアはその手を離さずもう一度と力を込めてパチュリーを勢いよく岩の影へと引き入れその体を受け止めた。
「ァ——がひぃ あぁ ぐぅレ、ミィ?」
「ぅ…っ、だ大丈夫よ。それよりパチェは——」
左手を貫いた魔術の矢の姿が消えそこから流れ出る血と釘を打ち込んだような矢創が痛むものの、レミリアは友人の身を見る。するとパチュリーの左腕や右肩から先へハリネズミのように痛々しく突き刺さった魔術の矢が、パチュリーの体内へと溶け出して消えるのを目撃した。
息の荒いパチュリーが遂に浮遊魔術をすら解いて屈み胸を両の掌で押さえて喘ぎ出す。
「え…ちょ、ちょっとパチェ!?」
パチュリーは右手を制すように出してから深呼吸を始めた。全身から酷く汗が噴き出して整えようとする息も過呼吸一歩手前となる。
この様子をパチュリーは言葉を発さないために他は固唾を飲んで見守るしかないのである。レミリアが背をさすろうとするも、彼女はその手を遠ざけるように再び右手を動かすのだ。
「はぁっ ぁああ、んくぐぬぅぅぅ…」
この時パチュリーの体に対して術者の仕込んだ趣味の悪い魔術が働いていた。
肌を貫いた魔術の矢は血管を通じて体内へと流れ込み溶け出してその奥の臓腑を、いやもっとより根幹にあるものを目指して突き進むのである。矢の一本一本に込められた魔力の様はまるで猛毒のようでありまた人を食い散らかす寄生生物かのようで、それを押し止めそのまま押し出そうとパチュリーは体内の魔力を操っているのだ。そのためには接触による魔力の摩耗を避け、痛覚を遮断しながら集中力を最大限に高める必要があったのである。
但しその体内を逆流する矢の魔力は、針山のようなものが両手の末端から中心に向かって血管や細胞、組織、神経の悉くを削りながらやってくるような劇しい痛みを伴う。
「はがっ…ァ はっ はぁ アだが」
体内での魔力同士の攻防の末に優勢を勝ち取ったパチュリーはそこから相手の魔力を押し出すために更なる圧力を掛けていく。針山が後退して、更なる気が狂わんばかりの痛みを発するために呼吸が乱れていくが集中だけは切らさない。
パチュリーの傷から血が滲み出し特徴的な紫色の装束の右半面が赤黒い血の色に染まっていくが、一方でその出血が増せば増すほどパチュリー自身の表情と声や息遣いは余裕を得るようだった。
「ぁあ、はぁ はぁ うぅ…」
遂には片手を着いて伏したがそこで漸く出血が止まり、呻きながらゆらりと背を曲げて立ち上がり仰向けに倒れ込むようにして再び浮遊魔術を展開した。柔らかい椅子に深く座るような姿勢でふわふわと浮いている彼女の顔はもうすでに大分調子を取り戻したようだ。
「パチェもう大丈夫なの…?」
「…えぇ大丈夫よ、レミィ。まったく悪趣味な魔術を組んだものね…」
あまりの大出血を目の前にしたためか引き攣った表情を見せる魔理沙が聞いた。
「…何があったんだよ…。」
「、ふふひどい顔ね。あの矢は一本もかすり傷でも負ってはダメよ。体に当たったら魔術が自壊して相手の体の中を、もしくはもっと根源的なモノを破壊しようと動き始めるわ。…あれは何を狙って来たのかしらね…心臓とか脳とかそれとは違った意思を感じたのだけど…もしかしたら——」
「おいおいおい待て待て、考えるなよ。大丈夫なんだな?戦えるんだよな?」
「——概念?魂?違うそれとも?まぁ良いわ、後で研究すれば。大丈夫よ私はね、手や指がなくても魔術は使えるから。ただ…魔理沙あなたではあの勢いを押し戻すことは愚か留められもしないわよ。注意なさい。」
「無理か?」
「言い切りたくはないのだけど、不可能よ。」
パチュリーは自分の体験した激痛を魔理沙に淡々としかしかなり細密に説明した。本人はただ事実を整理するためであったのかもしれないが、その様を想像した魔理沙や霊夢は身震いするのであった。
「…とにかく、パチェはもう大丈夫なのね?」
「大丈夫よ。」
「本当に?」
「えぇ。」
「…そう、分かったわ。貴女を信じるわね。」
「レミィったら心配症ね。」
クスクスと笑いながらそう言ったパチュリーはふと射撃を一旦辞めているらしい城壁の様子を窺う。そんなパチュリーをジト目で見たレミリアは尋ねる。
「でも、どうやってあの正門を潜ろうかしらね?スキマが使えればよかったけどそんな調子じゃ使わないでしょう?」
城壁の上は影一つなく、どうやら術者は詠唱をやめたらしいことが分かる。件の詠唱が変に耳に残っていたパチュリーはまさか聞こえないだろうかと聞き耳を立てていた。
紫はというとかなり困ったような——されどわざとらしい——顔をして。
「…霊夢ぅ、どうにかして?」
霊夢に縋りついた。
「あんたねぇ、私は秘密道具なんて出せないんだけど?」
「そこはホラ、霊夢ちゃんの能力でこう…ちょちょっと。」
「はぁ………いやでも確かに出来るわね。」
あらゆる干渉を断ち、ありとあらゆるものから浮く
名を『夢想天生』という。
本来はスペルカードではない、単なる能力の応用法の一端であるが他に呼び名はないためにスペルカードより引用する。そして今この異変に於いてそのスペルカードルールは機能していない。それはつまり
「そういえばそうじゃないの。…なぁんだ簡単だったわ、じゃもうみんな帰って良いわよ。私だけで充分だから。」
なおそれを人は慢心という、とは何故か誰も言わないので人間性が代弁した。無論誰にも聞こえてすらいないのであるが。
「——いやいやおい待てよ霊夢。」
「待たないわよ。じゃ行ってくるから。」
両目を閉じた彼女は目を凝らせば見える程度の半透明となるとそのまま正門の方へ飛んでいってしまった。普段の飛行に比べれば、走ったほうが早いというくらいの低速ではあったが確かに矢はすり抜けているので効果はあるらしい。
そんな様子を見ながら呆れ返るようにしてレミリアが言った。
「…いや、なんの解決にもならないじゃないの…。私たちはどうするのよ…スキマやっぱり使ってみるしかないんじゃないかしら?」
「レミィ、それで開いたら私たちの怪我の意味はなんだったのよ。」
「パチェそれは…相手の魔術の形態が分かったとか…?」
対して紫は大したことじゃないといった様子で正門を見ながら言う。
「大丈夫よ、あの子なら。なんだかんだ言ってあの橋を下ろしてくれるわ。」
「本当かよ…。」
霊夢が城壁内に入ったらしく幻影はその出現位置を変更して城壁の上に確認できなくなった。しかし下手に動いてヘイトを移されるのを避けるため、残った四人は動くこともせず岩の影に居続ける。
そうこうしていると正門から鎖やそれを巻く絡繰の動く音がして、ゆっくりと跳ね橋が下がったのだった。
「ねぇ、言ったでしょう?」
拙作には「力の強制力」による上下関係という独自の設定を導入しています。力の形態ごとに大体で分かれたものなので術者の力量やその能力によって上下はありますが。
並べると「幻術<魔術=妖術≦呪術<奇蹟」となり、つまりパチュリーの防御結界にシラが奇蹟『雷の矢』を放つと陣を破壊し更には貫通することになります。怖いですね。
なお「運命」は不定的な存在なので時と場合によっては幻術にすら劣り、しかし又は奇蹟にも勝る力を持ちえます。
まぁしかしあれですね、
法官アルゴー強すぎですね。
和田正樹様、評価ありがとうございます。
■
・クロスオーバータグを付け忘れていたことに気づき、訂正しました。
・赤頭巾様、誤字報告ありがとうございました。