妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

アルゴー、再び

■今回の注意
フランの口調がイメージと違うかもしれませんが…拙作の仕様であるとご理解ください。あと今回ちょっと長くなりました。



白い閃光

 

「来客」以来に騒がしくなった玄武の沢は、今日より一層に騒がしさと物資運搬用のエレベーターと発電機の音に塗れている。研究所で組み上げられた魔力炉の改良機材を一度分割して地上とつながる物資用昇降機へレールから載せ、二人の河童も伴って乗り込んだ。頭上には地表までの縦穴とそれを覆う鉄製のドーム屋根が蛍光灯に照らされている。

 

 

「うぅ…やめろって言ったじゃないかぁ、馬鹿ぁ。」

 

「やめろと言われてやめるわけが無い。それと馬鹿は褒め言葉だよ。」

 

「…でも私たちに利益なんてこれっぽっちもないじゃ無いかぁっ!君たちは怖くないのかぁ…?」

 

「利益はあるね。にとりの言う利益が実利であるならあまりにも短略的と言わざるを得ないよ。きみはあの黒衣が怖いだけだろうが。」

 

 

薄暗い地の底から昇るにつれて日の光と見紛うばかりの白い光に包まれていくのだが、二人の河童の内一方の様子はそれと反比例している。涙声なのが普段の彼女の雰囲気からは想像できないであろう。

 

 

「…——ないからなぁっ…」

 

「なんだって?」

 

「どうなっても!知らないからなぁっ!」

 

「ハハ、それで結構だ。…そう言いつつも様子を見にくる君も争えないね。」

 

「くぅ…。」

 

「それなら城の情報もくれたってよかったじゃないか。」

 

「それは………。」

 

「…責める気はないよ。」

 

 

ツナギの河童が腕時計を見て、紫の式から伝えられた開始時刻から数時間の余裕があることを確認した。

 

 

「間に合いそうだな。」

 

「…またこんなギリギリで改良なんて加えようとしてるのか?」

 

「諦めが悪いって?」

 

「諦めが悪い、往生際が悪いぃっ!」

 

「まこと残念なことにまだ負けてすらいないが、『諦めが悪い』については褒め言葉だねありがとう。」

 

 

それからも「褒め言葉が多過ぎる」から「馬鹿」「阿呆」とかと言った——少々頭の悪い——罵詈雑言を浴びせかけるにとりであったがそれに対して彼は軽くあしらって交わしながら地上へ出るのを待つのであった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

博麗神社側と紅魔館側が合流する「開始時刻」の一時間ほど前。玄武の沢へ咲夜に伴われたレミリアの妹であるフランドールが到着した。その時点で魔力炉の改良を終えていた河童たちは早速、フランドールにその魔力炉へ魔力の充填を頼んで計器を睨み始める。

 

改良の内容は極単純である。

信号弾に対して即応射するために外部装置へ魔力を溜めておき、引き金で放出するようにしたのだ。

 

急造されたコンクリート製の土台に完全に固定されたそれは通信機器だと言えばそれで納得してしまえるやもしれない、そんな形をしている。パラボラの皿型アンテナに魔法陣が書き込まれているのを見なければの話ではあるが。

 

充填装置へは一定以下の魔力量を込め続けなければならないために、多大な集中力と魔力自体の操作能力を用する。だからこそ魔力の扱いに慣れておくべきフランドールを行かせることにしたと言うのもまた理由の一つだと、大図書館の魔女が話していたのを思い出しながらその様をみる咲夜。時折りブザー音が鳴るのは一定以上の魔力を流した証なのであるが、それもすでに聞こえなくなっている。

 

 

「大丈夫みたいですね、妹様。もう少しですよ。」

 

 

フランドールに聞こえてはいないであろうが、見守る咲夜としては声をかけずにはいられない。充填率を示す電光掲示板には百分率で八二・六と表示されていた。もうすでにかなり疲れてきているはずであるが、フランドールはひと時も休まずに魔力を流し続けている。

 

 

「…お嬢様やパチュリー様から期待の言葉を掛けられたのですから、当たり前ですか…。」

 

 

昨晩にフランドールへ異変解決についての話をした当初、彼女はあまり乗り気ではなかった上にレミリアについて行くと言って聞かなかったのであった。

しかし日頃の様子に比べれば珍しいことにパチュリーが素直にフランドールへ期待している旨を伝えたときは、驚きからか嬉しさからかは知れないもののフランドールは目を丸くしていた。続けてパチュリーから茶化されながらもそれと同じ思いを告げたレミリアを見て、嬉しさでむず痒そうな笑みを浮かべていたのであった。

 

『…ッ、わかった任せてよっ!わたし目一杯頑張るから!そのかわり…ヘマしないでよねっ。』

 

その笑顔がひどく嬉しかった咲夜はその光景を想起しながら微笑みを漏らす。そこで高い機械音が鳴った。幼い男の子の——容姿だけで言えばフランドールより一、二歳は下にみえる——河童が計器を見て言う。

 

 

「…よし、溜まり切りましたね。お疲れ様です。」

 

「やった…やったっ!やりましたわ!わたしはやったんだぁっ!」

 

「お疲れ様です妹様、よくがんばりましたよ。」

 

「あとは魔理沙から青い玉が上がるのを待つだけってことよね、さぁもういつでも来なさいよ!…できれば早くね…っ!」

 

 

そう言って先程まで魔力を流し込んでいたコントローラーのトリガー位置を確認したフランドールは、山の上の霞が掛かったむこうの立派な城塞を睨んだ。

 

オレンジ色の陽炎が距離の離れた玄武の沢からもみえている。もう既に戦いは始まっていた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

一方で洋城内部へ侵入に成功した霊夢と他の四人は城外とは比べ物にならないほどの苛烈な迎撃に足止めを食らっていた。城壁の上や正面の尖塔から浴びせられる矢はもちろんであるがそれ以上に厄介なものがいたのである。

魔理沙が叫んだ。

 

 

「パチュリー!早く前に進めないのかよ…ッ!」

 

「うるっさいわね!次の再詠唱まで待たないと無理よ!」

 

「そうは言ったってそうなったらなったでまたアイツ来るんだろ!」

 

「そっちこそ弾幕張りなさいよ……噂をすればなんとやらね、もう曲がり角から次の騎士が来るみたい。」

 

「アイツらなぜか弾幕効かないんだよな…おい霊夢!レミリア!次が来るぞ!」

 

 

尖塔の手前の曲がり角からはすでに相手の黒い騎士が手にする槍の穂先が見え出していた。足音の数からして次は三人いるはずである。

 

背後ではグングニルを騎士の背面から貫き通したレミリアが居た。かの串刺し公の如く刺した槍を無理矢理に上へと掲げると、静脈血よりも暗い血が貫かれた甲冑から大量に流れ出してレミリアはそれを頭から浴び、深々と突き刺した槍を払って貫いた騎士を放り出す。

 

 

「はぁっ、何よこの血…人の血にしても黒過ぎないかしら?」

 

「それよりも気にすべきものがあると思うのだけど…」

 

「そうね…。」

 

「——…いれ…夢!?」

 

 

黒い血を浴びて赤黒く全身を染めたレミリアを引きながら見る紫と霊夢は引き攣った顔をして頷く。

 

 

「しかもこいつ元から胸に穴空いてるじゃない。…これはグングニルとは違うわね。」

 

「…ゆかりんもう何も言わないわね。」

 

「…こいつら只の人間なら一発で死ぬはずの強さの妖力弾で怯みすらしないのよね…はぁーめんどくさ。」

 

「——なぁ、おいってば!」

 

 

レミリアは奇妙な血に汚れたグングニルを再度形成し直しながら先程から聞こえる悲痛な叫びの主人を見た。太陽の光のように眩いほどの濃い弾幕を発する魔理沙がいるが、件の騎士たちは怯む様子もなくどんどんとその歩みを進めてきており魔理沙が短いレーザーを固めて放つことでなんとかその槍の間合いから脱している状況だ。

 

 

「巫女。またさっきのやつお願いするわ。」

 

「うわ三人も来てるじゃないの。いいわ私の神札や弾幕じゃ怯みもしないし、ただし手早くやりなさいよ?」

 

「…そうしたいけど私のグングニルの威力じゃ力の限りに突き出しても鎧を一枚通す程度で奴らの致命傷には至らないのよ。だからスキマ妖怪も頑張って頂戴。」

 

「……いいわ、やってやるわよ。」

 

 

そうこうしている内、遂に魔理沙のレーザーではどうにも弾き返せないほどまで間合いを詰めた騎士がその槍を突き出した。

 

 

「おい早くッ!——っとこの!」

 

 

目を逸らしていた魔理沙であったが、その穂先を左回りに回り込んで避けた。彼女は騎士の側頭部を目掛けて二十は纏めたレーザーの塊を放ちそれを地へ転がすことに成功するも、騎士は燃える頭部や目隠しを気にも留めずに再び立ち上がる。

 

 

「こんの化け物が!!」

 

 

喚きながら魔理沙は間髪入れずに懐からいくつかの小さな缶詰と瓶を投げる。缶詰は見た目より軽いらしく騎士のすぐそこまで飛ぶが、中身のかなり詰まった瓶は二人のちょうど真ん中あたりまで行って叩き割れた。

缶詰の方は内部に強力な妖力弾を込めたもので、地面に叩きつけられた衝撃と共に炸裂し内部の妖力弾を散弾のように放出した。全弾の直撃を受けるも怯まず直進した騎士は右手の槍を振り被り大火を伴う剣槍へと形を変える。これが振るわれれば魔理沙の腹には軽く届くであろう。

 

 

「ハハ危ねぇかもだったけど、…食らえ試作品!」

 

 

魔理沙がそう言い終えるかどうかという時、瓶の割れたあたりへ踏み込んだ騎士の足下から太いレーザーが撃ち出され重い肢体を貫いてとどめを刺した。

 

 

「いよっしゃ!」

 

 

小さくガッツポーズをした魔理沙がすぐに周囲見回せば既に紫、レミリアと霊夢が追いついて騎士への対処へ回っている。

 

半透明になった霊夢が弾幕を放ちながら槍の騎士の気を引き、攻撃の当たらない霊夢へ騎士が槍を突き出すとその背後を狙っていたレミリアが真紅の槍でもって背を突き通す。

 

 

「このっぉ!!」

 

 

そのまま槍を杭のように頭上へと掲げて命を刈り取り、先程と同じようにして死体と血を払う。霊夢はまた実体化していた。

 

 

「あんたよくあの死体を払い飛ばせるわね…人間の大人より大きいし甲冑着込んでるのに。」

 

「私の力が強いのかしらね?…でもアレ息絶えるとすぐになんていうか、軽くなるのよ。中身がなくなったぬいぐるみみたいな感じにね。」

 

「そしたら普通は重いんだけど。」

 

「そこが不思議よね…まるで魂に重さがあるみたいで。」

 

「…不思議なこと言うわね。」

 

 

一方で紫はその内に秘める激情を抑えてか、もしくはそれが作用してか淡々と騎士を処理するために動いていた。

 

紫が相対するは剣の騎士である。

騎士は紫を見留むるや否やその剣を両手持ちにして右上に向かって掲げる奇妙な構えを見せた。すると忽ち剣は炎に包まれ、大剣というに相応しいほどの刃渡りへと変わる。騎士は構えから飛びかかり振るう大剣が紫の首を捉える間合いへ一挙に詰めんとする。紫は粛々としてスキマから道路標識を幾本も突き出しこれを守り——切れなかった。標識に触れた大剣はその勢いを殺すことなくその看板もろとも熱し斬るのである。

 

 

「…ッ」

 

 

顔を顰めた紫はすぐさま大型の妖力弾を——そこらの妖怪では耐え切れずに体を崩壊させてしまうほどの力を持つそれを放ち、騎士の目を眩ませつつ背後へ倒れるように退がる。

 

騎士はその妖力弾を狙って(ロックして)、振り払った大剣の返す刀でこれを真正面から叩き斬った。

破裂する妖力弾、埋め尽くされる視界、されど問題はない。ゆっくりと溜まる呪死にさえ気をつければ痛くない虚仮威しに過ぎないのだから。ソウルを狙え(ロック)さえすれば居場所などすぐに割れるのだから。そう思考した直後に背後から無数の武具に貫かれ意識を取り落とした。

 

紫は大型の妖力弾を放ち背後へ()()()()に倒れる。既に背後では妖力弾が叩き斬られる音と気配がしていた。

 

 

(もちろんよ、だってそれは虚仮威しに過ぎないもの。)

 

 

万能に感じるスキマの能力には、実は落とし穴がある。それは当人が向いている方向にしかスキマを開けないことだ。

 

地面に開いたスキマへ倒れるとすぐに騎士の背後へ開いたスキマで()()()()()()。重力の働く方向が突然にして前から下方へと変わる、なんとも気持ちの悪い心地がするものの彼女は今だけならば気にも留めない。ガラ空きになった騎士の背後へむけて新たなスキマを開くと、無数の槍・薙刀・刀剣でもってそれを貫いたのであった。

 

三人目の騎士が斃れ、またタイミングの良い事に幻影の効果切れによりパチュリーが声を上げる。

 

 

「今よ!前に詰めなさい!!」

 

 

パチュリーは前方の尖塔のある角を曲がった先に次の防御陣を張り直し、尖塔の手前を全員が通り過ぎた後からさらに別の防御陣を敷く。背後撃ちを避けるためだ。

 

角を曲がった先の次の防御陣へと進んだ五人は、その先の地獄を目にした。待っていましたと言わんばかりに広い通路の端から端まで騎士、幻影弓兵の順に陣形を組み、なおかつ右方向の城壁上には更なる幻影弓兵が立ち並んでいるのである。

 

 

「っ、あの化け物どれだけいるのよ…ッ!」

 

 

ズラリと並んだ槍騎士や剣騎士がその得物に炎を纏わせ、さらにその背後やはるか上方で幻影が矢を番え、左前には太陽の金色の光に輝く教会が見えているのだ。そんな絶望的な光景を前にした中で一人、飄々とした者がいるのであるが。

 

 

「なぁに、簡単な事だぜ。コレを使う時が来たってことだ。」

 

 

魔理沙が高らかに掲げた、太陽の光が反射して一層強く光ったその筒銃の引き金を引く。

 

天高く撃ちあがった青い星は白昼にも関わらず人里からも見えるほどで、その強い輝きに呼応して玄武の沢から白い閃光が煌めいた。

 

 

 





題名はWhite Glint(白い閃光)つまりArmored Coreが元ネタです。…えっ?フランが一瞬アルフレートになったって?…えっと、そのあの…気のせいですよ。

——前回分の評価者様——

山山山田様評価ありがとうございます。
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