前回のあらすじ
怒り、黒炎、そしてビーム
■お詫びとお知らせ
スランプに陥って、スマホもろくに触れられずに過ごしていました…Humanityです。またしばらく療養を取りつつ上げていきたいので、以降は不定期更新とさせていただきます。大変申し訳ありません。
山が、森が燃えている。それも尋常ではない光線に灼かれ、黒い炎に飲み込まれて。
洋城の城壁に空いた穴からはその惨状がよく見えていた。二条の光線が玄武の沢付近で——つまりあの奔流を撃った地点で——交わり、その通りに木々が薙ぎ倒され地が抉れ、岩があらゆる場所に露出しているのだ。それは魔法の森にも及びさらに向こうの霧の湖に至っては霧をも割いて紅魔館がその姿を見せている。
それを成す一部始終を見た五人はただ茫然としていたが、ただ一人がその怒りを顕にして黒衣の騎士を睨んだ。それは呪いに近くしかし
「…」
が対して男は意にも介さない。
太刀を鞘へと戻し音もなく鯉口を締めると顔のみを紫に向けた。
紫はスキマを男へ向けて開き刀剣類のあらん限りを以て彼を滅殺せんと、彼女には珍しいほどに殺意をむき出しにして不意を打つ。刀剣、槍、薙刀の刃のことごとくに
黒衣の騎士は上衣を翼のように一度羽ばたかせそれで得た揚力のままに体を浮かせてから一度
しかし彼は大してたじろぎもせずむしろ読んでいたかのように紫の左手を右の手で受け、勢いそのままに引き寄せて左手から大発火を繰り出す。紫の右半身が衣服もろとも燃えるが彼女は呻きつつも不敵に笑った。
「ぅっぐ、ふふ掛かったわね。」
「…!」
男は左を、他の四人がいるはずの場所を振り返る。そこにあるのは城壁に空いた穴から見える黒い山火事——ではなく巨大なスキマであった。そしてそこから導かれるようにして現れたのは錆びつき規則的に窓のある鉄と木材の塊、いくつも連なるので蛇と表現するのも良いかもしれない。即ち廃列車である。それ自体に自走能力はなくただの旧式客車に過ぎないが、それは
背後は崩れた城壁の残骸で出来た山があり退路はない。なお紫は男が手を離したのでそそくさと新たに開けたスキマへ逃げて行った。
「…ふむ」
男の呟きの声が聞こえて来るのと同時に廃列車は瓦礫の山に突っ込み、その声ごと視界から掻き消す。普通ならば助かりはしないだろう。
「えっと…紫?」
霊夢がスキマで戻ってきた紫に声をかけるも、彼女はなおその列車を注視している。古い列車をぶつけたのだから無事では済まさないであろうが、あれでは当たっても男は死なずまた当たってすらいないのではないかと予感したからである。
旅客列車の扉が音もなく開いた。ふらりとそこから出てきた彼は一瞬、自身に突進してきたものへ訝しむような目を向けてから再度こちらに向き直る。どうやら当たらなかったらしい。男が為したのはごく単純に、突進してきた列車の内部に滑り込んだのであるがそれがいかに困難なことであるか。
車両から降りた男は手に火を溢れさせて臨戦態勢を取ったが、ここで教会から言葉とは言い難い声が響いた。
「っ!この声、幻術の術者ね…っ」
パチュリーがそう言って周囲を確認するが背後に張った結界もなんら反応を示さない。しかしその声に反応したもう一人は目の前の男の方であった。教会の声に耳を傾けて、すぐ上衣を翼のように広げ飛び立つ。
「っくぅ逃げられた」
紫が飛翔する彼を見上げて憎悪と後悔の混ぜられた言葉を吐いた。がすぐに彼のなさんとする動きに勘付き、紫は背後の四人へ叫ぶ。
「——!逃げなさいッ!
そして城壁に空いた穴の断面に見える通路の口を指差して続けた。
あそこなら逃げられるから、早く!」
状況を飲めない四人を紫が必死に急かして動かすと同時に、上空へと舞った男の手から大火が生じて天を焼くほどに照らし耐え難いほどの熱波を吹き付ける。これを見上げた面々はようやく事態を把握したようで、右前方にある崩れた城壁の露出した内部通路へと走り込んだ。
振り返れば炎の柱が地表面を焼き焦がしながら彼女たちの来た道を正門へ向けて逆走していき、その炎を発していた闇はそこから妖怪の山の山頂をぐるりと半周してちょうどよく洋城を見下ろせる位置に着地するのが見えた。その姿は天狗の里からも確認され、その存在感と圧に里中が戦々恐々としていたとか。
あの声の内容は定かではないが、概ね撤退を命じたのであろう。着地して洋城を見下ろす他に動くようには見えなかったため、これを確認した五人は入り込んだ城壁内から教会へ出る道がないかを探った。とはいえ一本道であった為にすぐ見つかったのであるが。
「これは…悪趣味な像ね。」
紅魔館の主人にすらそう評されたのは王冠を冠した老王が痩せ細った人間へ指輪を授ける、そんな像である。痩せ細り襤褸のみを与えられているそのヒトガタの彫像に人に対する負の感情がこれでもかと表されているようで、見ていて気持ちのいいものではない。
「黒法師かしらね。」
「紫、何がよ。」
「指輪の意匠がよ、霊夢。」
指輪を一瞥したパチュリーが言うには、測ることもできない程に古い魔術であるが何らかの効果を持った魔法具であるかもしれないとのことだった。魔法具という言葉を聞いて即座に反応する魔理沙はさすがと言うべきか。パチュリーは像の台座に足をかける魔理沙をみて呆れながらもそれを止める。
「…」
「あのねぇ魔理沙、取らないべきよそれ。」
「何でだよパチュリー。」
「貴女が使えるものではないかもしれないって言うのもあるけど、黒法師の花言葉を考えるとあまり良いとは言えないから。」
「花言葉ぁ?」
「『いい予感』はまだしも、『永久』または『永遠の命』よ。逢瀬の場ならまだ考えられるけれど状況で捉えれば良い意味で使われているとは考えにくいわ。」
「おいおいパチュリー細かいな。」
「魔理沙、特に古い魔術師や魔女はそういうのにちょっとしたメッセージを兼ねておくものよ。覚えておきなさい。」
「……わかったよ。諦める。」
「賢明な判断ね。」
うんうんと頷いて見せる紫を見て霊夢は納得したような面持ちをする。その霊夢が言った。
「それはともかくとして、この奥から教会の前へ通じているみたいよ。行きましょ。」
霊夢は魔法具に興味を持たなかったらしく、言葉の端に見え隠れする苛々とした感情にせかされて霊夢のすぐ後ろへ魔理沙が続いた。
赤く血痕のようにも見える花が一面に咲き乱れる、黄金色の太陽光に照らされた円形の広場に出た。左手奥には洋城の中心に座す白い教会が、右手には城壁が無く堀のように周囲を取り囲んでいた深い谷とそれを跨ぐ巨大な橋、それに続く新たな城壁と都と呼ぶに差し支えない美しい街が広がっている。
「おぉ…凄いな…。」
その景色に素直に見惚れる魔理沙を傍らに、霊夢や紫はこれを酷く訝しむ。
「ねぇ紫…妖怪の山の裏って森…よね?」
「えぇそのはずよ…。」
都の向こうに広がるのは荒凉とした砂漠である。そこに鬱蒼とした森の面影は無く、周囲一面が同様の灰色をした砂漠に覆われているのだ。しかし対して都はというと様々な花や蔦植物、樹木など都を苗床としたものたちの彩りが見て取れる。
「パチェ、ここには…いないわよね。」
「そうねレミィ。」
「いないって何の話よ。」
「それはね霊夢、動物が全くいないのよ。」
「動物?」
「…ちらほら魔力の反応はあるけど
それが元からいないのか後天的にいなくなったのかはわからない、と付け加えたパチュリーはさらに続けて言った。
「ただ何かを養分にして植物が育つのだからその養分に当たりそうなものと言われれば…」
「い、言われれば?」
恐る恐る尋ねた魔理沙。
「——……人、とかかしらね。厳密に言えばその遺骸で土壌微生物に分解されたものとか。」
「うぇ…。」
パチュリーのそばに屈み込んで花弁を撫でていたレミリアもまたこの考えに賛同した。
「パチェの考えには私も同感ね。この花、さっき門からすぐで戦った騎士たちと同じようなナニカを感じるもの。可能不可能は置いておいて考えられるのは、この花が彼らやそれに類する人を養分にしている場合とそのナニカを具現化したものが花になった場合の二つくらいだから。」
「…二つ目は人が花になったってことか?」
「そうよ魔理沙。」
「有り得るのか…?」
「さぁ?不老不死の研究の過程で自然物に行き着いた錬金術師や魔術師はいたかもしれないけれど、それが自然発生するとは考えにくいかしら。」
「レミィの言う通りよ魔理沙。でもレミィも魔理沙も一つ忘れているとしたら今の異変の状態ね。幻想郷とは異なる世界のあり方を無理矢理に上書きした現状だからこそのものと言えそうだから。それに前例は既に幻想郷で出現したわ。」
パチュリーのその言葉を少し考えた紫は思い出した。人里での異変を報じていた例の新聞の誌面が脳内に甦る。
「人里の疫病…その末期症状の一つは……『樹木化』だったわね。」
そういうことよと頷くパチュリーを見て、魔理沙はより一層周囲に咲き誇る赤い花を不気味がった。これらの花が人の死んだ数を表しているかもしれないなど想像すれば然もありなん。さあと風が吹く。その赤い花々が風に揺れて漣立つ血溜まりのように見えるのだ。
「なっなぁさっさと先に行かないか?」
「何よ魔理沙そんなに怖がって。」
「れ、霊夢は怖くないのかよっ!これが全部死人かもしれないんだぞ!」
「私は別に怖くないわよ。だって可能性の話じゃない。そうでしょ?」
「それはそうだけどよ…。」
「怖がりねぇ…。」
そんな会話を霊夢と魔理沙がしていた時、紫とそれに遅れてパチュリー、レミリアが広場の右奥へ視線を向けた。それは谷を跨ぐ橋の方である。パチュリーが口を開いた。
「そこの二人の痴話喧嘩は置いて、そちらはどなた?」
彼女の言葉を聞きその視線の向く先を追って初めて霊夢と魔理沙は気がついた。広場を挟んだ反対側に白い装束の人影がいくらか登ってやってきたのである。彼らの特徴的な犬耳や白い装束、同色の盾とくれば彼らが何者であるかは一目瞭然だ。
白狼天狗。
即ちそれは
「…天狗の里の白狼遠征隊だ。」
先頭を歩いてきた褐色肌の、変わった意匠をした大斧のようなものを担いだ白狼が簡潔にそう答えた。
遠征隊、その単語を聞いた紫はしかしその数を見てひどく胸を締め付けられるような思いをしたという。会合に於いて天魔から報告された遠征隊の、推定規模は二十数名。対して目の前にした彼らは十八人で、その多くはその白い装束を血に染め、また傷だらけの盾や中には腕を欠損したものなども居るのだ。
彼の遠征隊の隊長を名乗る白狼天狗が言う話——極めて簡潔な報告に過ぎない——を紫の聞くところによれば、遠征隊は二十五名から成っていたというものの此処までの道中で七名が戦死、六名が負傷し二名は欠損のために重傷であると言う。
紫は遠征隊の生き残りたちのうち負傷者を天狗の里へスキマを使用して帰投させると、残って戦うことを選んだ十二名を加えて教会の扉へ向かった。
黒法師の
宮理貴様、いゆき様、やる気マンゴスチン様、Lankas様、時空の裂け目様評価ありがとうございます。