前回のあらすじ
遠征隊と合流
深淵は未だ深い。何者も、主の眠りを妨げること
許されぬ。
教会の巨大な扉の前へ立った一行は重々しく告げられた言葉に眉を顰める。幻影を召喚する際の特異な間延びしたようなそれでいて底冷えする声が聖堂の中から響くが、この言葉は教会そのものから発せられるようですらあった。幻術の類を応用したものであろう。
これは王の法であるぞ。
「…へぇ、高度な術式ね。声自体というよりも音を触媒とした幻術と言ったところかしら。どんな組み方しているのか是非とも研究したいところだけれど、それよりも『引き返せ』だそうよ。」
パチュリーは感心したようにそう言った。霊夢が扉に手をかける。
「引き返すわけ……ないでしょうがぁっ!!!」
重い大扉を両開きにした霊夢。押せば鉄の軋む音を上げるがしかし意外にもすんなりと開いたその扉には、術式はおろか施錠すらされていなかったのである。
法官アルゴーが、その方に報いを与えよう。
「てっ、あれ?引き返せなんて言う割に——……は?」
扉を押し開けた霊夢は前触れもなく当てられた強い殺気に反応しすぐさま背後へと飛び退く。すると先程まで霊夢の居た位置へ鉄を熔かさんばかりの高熱を帯びた重い斬撃が凪ぎ、それを振るう者は体を宙でくるりと回すとその勢いを利用して再び叩きつけられた。見ればそれは槍や剣を持った騎士たちと同一の見た目であり体格ながら刃渡りだけで身の丈程はある特大の、片刃で左右非対称な剣を二本左右の手に携えて、それを軽い身のこなしで振るってみせるのである。
教会の槍、王女フィリアノールを守る契約者よ
法の下、王女を護り給え
…
右の特大剣を肩へと担ぎ上げた騎士が霊夢の開けた扉から重くされどしっかりとした歩みで日の下へと出で来た。腰につけた金糸の細かい刺繍の入った布が日に当たって誇らしいとばかりに輝いている。
そしてその背後の教会の中には黒い法衣姿の巨大な影があった。
霊夢は咄嗟に神札を投げ、それらは二本の大剣に防がれその刀身で威力を発揮する——かに見えたもののチリチリと音を立てて燃えやがて灰になった。
「このっ…相変わらずね、あんた達一体何者よ…っ!」
二刀を持ってして為される斬撃はしかし鈍重であるために避けるだけならば容易いものである。背後へ飛び退いて騎士を広場へと誘導した霊夢へ即座に白狼天狗が呼応してその背後を囲むように回り込んで分散する。
「おっし試作スペカをありったけくれてやるぜっ!」
霊夢が飛び退き着地したすぐ隣で魔理沙は懐中から小さなメモ帳を取り出すと、そのページを一枚破り取り手元に落とした。するとメモ帳のページが空中に浮遊しそれを中心に六つの魔法陣が円を描くようにあらわれ、それらが回転して順に威力の強い弾幕を発し始めた。外界で用いられる兵器の一つからインスピレーションを得たというそれは一周のうちに魔法陣が冷却を終えて次の射撃へ移れるように調整されている。
「弾幕ごっこ用に調整していなくてよかったな…!」
ほんのりと緑掛かったレーザー状の弾が連発されるとさすがの騎士も怯み体勢を崩す。すかさずレミリアが手に錬成した神の槍——正確にはその模造品であるが——を投げ、騎士の右肩を貫いた。だが槍は瞬く間に残り火のようなか弱くしかしそのために掴みどころがなく強かな火勢に押し負けて灰塵となり微風に舞って消えてしまうのだった。
「はあっ!?なによ…っ」
レミリアは狼狽しつつも仕方なく、残滓が尾のようにもしくは長槍の柄のように小球の続く独特な紅い妖力弾を魔理沙と並んで撃ち込むに留まった。至近距離へ接近してこれまで別の騎士にしていたのと同じようにグングニルへ手から直接に妖力を注ぎ続ければ問題なく突き入れることが出来るのであるが、ここまで数人の騎士を相手にして分かったことがあるためにそうはしなかったのだ。
騎士は、背後が弱い。
逆に言えば前側への火力は計り知れないのである。即座に騎士の背面へ展開した白狼天狗を見れば、同様に会敵したことがあったのであろうと分かる。ならばこそ耐久力の低い白狼は背面を、それ以外は前面から攻撃を加えて注意を惹きつつ隙を作るのが最適解なのだ。
「魔理沙あんた、今そんなやって妖力に余裕はあるんでしょうね、っ?」
「あるにはあるけど…ジリ貧だな。」
「霊夢、騎士がまた立ち上がったわ。神札で防御して頂戴。」
「紫あんたもすこしはっ!戦いなさいよ!」
二刀を利用した六連撃を霊夢の防御陣が食い止めんとするものの、一撃一撃の重さと例の残り火によって守り切る前に札が燃え始め陣が揺らぐ。
「アっっつ、また——」
神力の込められた札が燃え尽きると同時に霊夢へと迫った二連撃は、紫が即座に開いたスキマから出た道路標識——無論ながら
前衛を張る三人の後ろに紫と並んでいて、弾道に若干追尾しつつ飛ぶ大玉の妖力弾を発していたパチュリーが思い至ったように口を開く。
「……あぁそうか、もしかしたら…。」
「どうしたのパチェ。」
「…レミィや他の妖力の影響をまともに受けてもものともしないし、霊夢のお札も効力が弱いとすると……相手もまた神力を付与されているのかもしれないわね。それも巫女が扱える域ではないものが。」
「えっパチェそれってどういぅ——」
「——神の一柱に君臨する者がそれほどまでの力を掛けないといけなかった物事柄といえば…封印とかかしら。でもさっきあの法衣巨人が言っていた『誓約』というのも気になるわね………もしそれが神もしくはそれに連なる神族との誓約であったなら……いや——」
「おいパチュリーっ!?お前何暢気な——っとあっぶね」
思索の海へどんどん沈み込んでいくパチュリーであるが相変わらず大玉は発している。手動で制御はされていないのであろう。一方で魔理沙と霊夢は神札を四枚も重ね掛けした防御陣を以てして、残り火を激しく燃やした大剣の連続攻撃を退けようとしていた。
「——誓約なら騎士を雇うためにそこまでの神力は使わないはず。ならもしかすると封印の方が先に掛けられていて、あとから誓約を施した?封印するほどのものを傘下に招き入れるなんてこと……もしくは封印のためにだとしたら?……いや誓約が先であとから封印した可能性もあるわね……うぅん。」
「なぁおいパチュリー………レミリアアイツどうにか…」
「無理よ…ちょっとやそっとじゃ」
とんでもない早口で思考を纏めようと言葉を発するパチュリーであるがお陰で外部の音や衝撃をも打ち消してしまって彼女の耳へ届かないのだ。
「お、おい霊夢これ大丈夫なのかよ…。」
目の前ではこれまで見たこともないほどの熱を以って溜められる二振りの大剣が巨大な焔の光波を伴った横薙ぎの斬撃を繰り出して、霊夢の神札のうち三枚を一度に焼き切ってしまった。陣の残機はあと一枚しかない。
「……ごめん魔理沙、まずいかも…。」
「はあっ!?ゆ、紫!!パチュリー!!レミリアでもいいっだれか!」
魔理沙の叫びに応えた紫が陣の前に三重からなる防御結界を敷く。しかし対してレミリアは『運命』から垣間見えた『結果』に目を見開き、パチュリーはといえば先程目の前に迫っていた焔の光波と今まさに興らんとしている残り火へただ思索を向けていた。
騎士が二刀を振るう勢いそのままに飛び上がり、その身を翻して炎に包まれた双大剣を地に打ちつける。熾るは大火と言い表すにも拙いほどの、大噴火であった。
瞬間的に破られた結界たちに紫はすぐさま追加の結界を張り直しなんとか耐えられるかと見たものの、当初と合して六重には重ねられたはずの防御結界が砕け散った。防御結界で減衰した熱衝撃は霊夢の神札へと到達し——神札から霊夢の右腕ごと猛烈な余波が駆け巡った。
「づあッ——!?あがっああぁぁ———ッ!!」
霊夢は湧きあがる叫びをなんとか歯を食いしばって耐えようとしながら、右腕を抱えるようにして屈み込む。痛みを我慢しようとして漏れる呻きと荒い息が彼女を襲う劇痛を表して酷く痛々しい。
「ぅ———っ!!ふグ——ッ!」
「おい霊夢!?なあ!!あぁ——くそッ!ほら霊夢、これ噛めよ…ホラッ!」
魔理沙は手拭いを口に含める大きさに裂くと霊夢の口へ押し込むようにして噛ませる。霊夢の固く閉ざされた瞼から涙が滲んでいた。
「パチェ!!霊夢の治療に…」
「分かったわ…、!待ってレミィ騎士がもう立つわ!」
「くっ…そんなもう!」
パチュリーに言われて直ぐ振り向いたレミリアの視線の先で。騎士はつい先程の大技後の硬直から立ち直って左足を踏みしめた刹那、その右脇腹は岩盤から削り出したかのような異質な大斧を
「——このォっっ!!!」
大斧の今の持ち主たる褐色の白狼は斬撃に身を崩した騎士へ大斧を両手で掲げるように振り上げ叩きつける。それは嘗て巨軀の鎧が用いたように、何条もの黄金色の
僅かも残さず命を削り切ったその一撃に、騎士が立ち上がることはなかった。
「あなた何処でそんな…?」
愕きを隠せなかったのは此れを為した本人を除いて全員であったが、唯一言葉を発したのは紫であった。霊夢へ魔術で処置を行うパチュリーもまたその落雷には違和を感じ、その行使者が白狼天狗であったことを知ると一瞬処置の手を止めるほどである。
(今のは妖術ではなくて魔術…?構成しているのは間違いなく妖力ではなく魔力だけれど術の形式は魔術というよりも——まるで物語を読み聞かせるような——…奇蹟?でも白狼天狗に
魔術を発動する道具となれば八卦炉のような魔法具が数多く存在するものの、神の御業を代行するもしくはそれを讃え
(信仰は無いはずの白狼天狗でもあの威力…信仰者ならどれほどかしら?…もしくはあの『物語』が大斧自体かそれの持ち主について讃えるものであるとしたら?——どうしても、気になる研究したい研究したい研きゅ)
「ちょっ、とぉ?早くっ終わらせなさい…よ。」
「——…あぁ、ごめんなさいね。今終わるわ。」
「しっかり、しなさい…よ。」
「えぇ。ただ傷跡がひどく残ってしまうわね。こればっかりは魔女にはどうしようもないわ…それと神経の再生も早めさせているけれどしばらくは右腕で戦うのを避けなさい。」
「いっ…つ…あく、ぅわかっ…たわ。」
霊夢の右腕に残った大火傷の爛れた痕が痛々しく残ってしまい、またパチュリーは自身の考察が正しければ炎の由来が由来であるために完全な治療にはそれこそ奇蹟でなければならないと分かっているのだった。つまるところもう彼女にはなす
御祓棒を左手に持った霊夢が立ち上がる一方で紫と褐色の白狼の問答はなお続いていた。曰く術の由来がとか、白狼自身の魔力適正の有無の確認だとかと話があるのだがこれと言って進展がない。
遂には紫がその大斧を取り上げるだとかという話になって、霊夢が割り込んだ。
「待ちなさい、紫。」
「っ!霊夢!?や、火傷は大丈夫なの?ああこんなに酷い傷跡が残って…。」
「大丈夫よ、傷跡は消えなかったけどそのうち治るでしょ。それよりも大斧についてだけど。」
「、そうね。私天狗にはあまりに過ぎた力だと思うの、だから取り上げようかしらって。」
「必要ないわ。」
「…え?」
「取り上げる必要が無い、使い熟せるなら問題ないわ。特に今は戦力が欲しいのよ。私は右腕が動かせないし妖力弾と神札は効き目が薄い。あんたが出せる障害物も意味をなさないし、グングニルに頼るには妖力の効率が悪すぎるわ。…改めて、協力してくれるかしら?異変の解決まで。」
答えるのに考えるべき余地もないとでも言うように、定まっていたらしい答えをハッキリと口にした。
「勿論です。我々でよろしければお供しましょう、博麗の巫女。」
口元を一瞬微笑ませた霊夢に褐色の白狼を中心とした白狼部隊が新たに連なって、再度教会内へと足を踏み入れた。影を纏ったかのように暗く黒く見える法衣の巨人がその喉を震わせるのが響き渡っていた。
キリトくんが輪の双大剣でスターバーストストリームをするにはまず脳筋アンバサマンにならないといけない、と同僚の人間性から何気なく言われ「なぜ今それを言うんだ」と言う疑問と「筋バサキリトという絵面」を想像して吹き出してしまいました。
関係のないはなしですが、Demon’s soulsの二次創作ってかなり少ないのですね。RemakeはPS5が手に入りにくいため仕方ないかなとは思いましたが、まさか此処までとは。あとはAssassin’s creedシリーズも少ないようで、SyndicateとかBlackFlagとか好きな私としては残念なところですね…。