前回のあらすじ
オレンジ色の幻影…『オオォォォ——』…
うっ頭が
◼︎今回の注意
この先擬人化要素
つまり「寛容な心」が有効だ。
「……」
考えるようにして少し俯いた霊夢は再び顔を上げた。
「でもそんなことが可能なわけ?冥府は何をしてるのよ。」
「そうね、本来なら不可能よ。それも魂だけの状態ではなくて接触可能な物体としてなおかつ幻術だかを行使できるような状態ではなおさらね。」
「じゃあどうやって…?」
「それはさっき言った『こちら』と『あちら』が関係してくるんじゃないかしら?わかるでしょう私の言いたいこと。」
「…世界線が違うということ…よね?でもやっぱり無理じゃないの」
「それは『あちら』がご健在なら、よ。」
「——!!!」
魂やその他存在を規定する概念がどこに所属しているのかということは、その魂や概念を管理する上で重要な項目でありそれによって冥府での審判も多様に分岐する。ではこの場合かの概念の所属していたハズの世界線はどこであったのだろうか。
「——正解は『今はない』よ、恐らくね。」
「ない…?世界線ごと消滅するだなんてそんな滅茶苦茶なこと——」
「それは『あちら』の常識ではないでしょう?『こちら』ではあり得ないけれど何らかの力が世界線をその一手に支えていたとして、その『手』が無くなってしまったら?支えられていた世界という器はどうなるのかしら?」
「……」
「そしてその時生きていたハズのものたちは?その存在を無くして概念だけで、つまりは魂だけで存在と拠り所を探して彷徨うことになるわ。」
紫が麦茶の入った湯呑みを手に乗せてそう語る中、霊夢はその湯呑みの中の麦茶を見て合点がいったらしく目を合わせて言った。
「じゃあつまり紫が『何かわからない』っていうのは…その存在の拠り所だった場所がわからないからそれ自体が何だったのか特定できないってこと?」
「そうね。」
「神なのか人なのか妖怪なのかも?」
「そうよ。」
霊夢は自分の麦茶を一気に飲み干してから紫に言った。
「確かに、厄介ね…」
「そうでしょう?わかってくれたかしら私のキモチ。」
それじゃあありがたく、と湯呑みの麦茶を飲む紫。
ほうと息を吐く霊夢。実は彼女の方としては説明の内容がどうというよりも、説明のために使われた湯呑みが「割られないかどうか」と「溢さないかどうか」が気になっていたのであったが紫は知る由もない。
〜〜〜その頃妖怪の山〜〜〜
普段から行き過ぎた誇張が目立ち嘘くさい記事の多い新聞ながら、今回は妖怪の山を住処とする有象無象の興味を引くには申し分のない内容であったと評することができるだろう。
流石に記事のなかの「烏天狗」のように城壁を越えるようなことをするものはいくら気儘な妖精であれ居ないながらも、険しい山肌に堂々と頑強に建つ城は物珍しく見物に訪れる妖怪が多いのもまた事実だ。
「ほへえぇ〜…」
跳ね橋を上げているためにすぐそばまで寄ることはできないながら、外堀のようになっている深い谷を挟んで城を臨む河童——河城 にとり——もそのひとりである。
先ほど思わず腑抜けた声を上げたのも彼女だ。
見事な幻術を騒ぐ声も一部の妖怪間ではあったものの彼女は技術屋でありそう言う類にはめっぽうよわいのであるから、記事の中で「豪華絢爛」とも「城塞」とも称されたその建築技術を目当てに来たのであった。
「これは…凄いなぁ…」
継ぎ目なく積まれた城壁は城門を中心に湾曲しており、その上の張り出し陣は壁の足元や跳ね橋を警戒、尖塔は文々。新聞の通りであれば物見櫓の他に内部を攻撃する意図があるだろう。二枚の城壁の向こうに構える大聖堂は跳び梁で上部構造を横から引っ張り支えたゴシック建築である。そのおかげか壁面には大きなステンドグラスが色とりどりに光り輝いている。
「紅魔館を見に行ったときもすごかったけどこっちもまた…。あそこまで巨大なステンドグラスは紅魔館にはなかったし、その奥の砦も凄いなぁ…言葉がうまく出てこないくらいには」
ただし彼女にとって惜しいのはこれや紅魔館が人によって作られたのかどうかが定かではないことであろう。紅魔館に関しては空間が歪んでいるのであるが、それを踏まえると建築技術としてはこの洋城の方が確かなものであるかもしれない。
にとりは大きなバックパックからスケッチブックを取り出すと簡単なスケッチを描いて城の構造を記す事にした。後で気になった部分を資料と照合すれば良いのだからこの場に長居する意味はないのである。
「まぁ見えてないだろうからいいんだけどさー」
光学迷彩、技術は偉大だよねと独り言をいいながらサッサとスケッチを描き上げていく。アーチ構造の柱を持つ外廊下に聖堂奥に見える大型の尖ったドームなど目で見て気になった箇所は特に細密に描いて、次の見物スポットへと移動する。
「あと側面を描いたら天狗の新聞にあった写真と照らし合わせて大体構造はわかるでしょ」
これほどの大きな建造物の技術が狭い幻想郷でここの他にどう役立つかは本人もわからないが、彼女は技術とは積み重ねであると誰よりも理解しているつもりだ。
「まぁそれにこういうのがいつか私の役に立つことだってあるんだし…」
誰に向けたわけでもなく強いて言えば飽き性な自分に向けたものですらあるやもしれないが、とにかくそんな独り言を呟きながらスケッチブックを手に城の向かって右側面———左側は険しい山肌である———へと到達した。
こちらは二つの角が一際飛び出ており、その上に尖塔がそれぞれ構えられている。また正面で見られた張り出し型の櫓はない。
「ふむふむ…曲がった四角形をしているのかな…?でその内部だと曲がり角に塔から狙い撃ちされると…いやぁ殺意が高い城なんだなぁ…」
文々。新聞を読み返すにとり。
新聞によると内部にも銃眼があるようだったが、恐らく建物そのものに銃眼があると言うよりも建物の土台が2枚目の城壁になっているのだろうと推測した。
「…いや益々すごい殺意だなぁ…。」
鉛筆を持つ手に力が入り、より鮮明にスケッチを行ったにとりはふと考えた。
——もしやこのスケッチ、文々。新聞と照らし合わせればかなり正確な攻略用の見取り図になるのでは?——
と。
途端ににとりの頭の中では忙しくパチパチと算盤を弾きはじめた。
「ふひ、ひひひひ——」
故ににとりは気づけなかった
「——貴公」
背後にまで来ていたその騎士に。
ビクッと肩を震わせたにとりはすぐさまスケッチブックを閉じ、ギギギと軋みをあげそうなほどゆっくりと首を後ろへ回した。その彼女は酷く緊張して引き攣った顔をしているだろう。
背後に立っているのは見上げるほどの長身の男であった。
黒いボロボロのコートを身に纏う、両袖は裂けて大きな翼が二対あるように見えるその男。
その下には黒紫色の胴当てと鎖帷子を着込んで両脚と両腕もまた胴当てと同様の西洋式甲冑をあてている。黒く長い髪を後ろで一つに束ねて、紫色の瞳が切れ目から覗いており、また後頭部から右頬にかけては黒い鱗が皮膚の代わりにある。
左手は彼の腰に佩く——容姿や防具とはうって変わって——古びた刀の鯉口に添えられていた。
「ぁ…………あの」
「…?どうした貴公。立てないのか?」
「あ えと その」
「手を貸そうか」
右手を差し出した黒衣の騎士に対してひどく照れながらその手を取り立ち上がったにとりは目の前の鱗の男に、明らかな人外に、人見知りを発現させていた。
——この人なんか…すごい人間臭いというか…人間としか思えないというか…?
「貴公大丈夫かね?先ほどからどうにも呆けているようだが。」
「——あっ あのえと、ありがとうございます。あのえぇ 大丈夫です。」
男は優しい笑みを浮かべて言った。
「そうか、なら良かった。」
「あ、はいあの ——」
「それはそうと貴公、何か描いていなかったかね」
ギクリとにとり自身でも分かりやすいと思う反応をしてしまった彼女は彼からさらなる追及を受ける。
「見せてもらえないだろうか?」
「あっ あの はぃ」
人見知りが発現したにとりは妖怪に対してよりも気弱になる。それが今まさに鱗の男に対して有利に働いているのであった。
おずおずとスケッチブックを開いたにとりは男にそれを見せた。
「ふむ、これはまた精巧な絵画ではないか」
「……ぇ あ はぃ?」
「良い絵だ。絵画の知識は私にないがそれでも、目に映った景色をそのまま切り取ったようなこれは誠に見事だ。」
責められると思いきやその出来栄えを褒められたにとりは思わず疑問形をもって答える。きょとんとしたにとりは男への警戒心も自身の危機感もその鳴りをひそめてしまった。が次に出た問いは再び発動したそれらを圧し折るのに十分であったと言えよう。
「で、貴公はそれを何に使うのかね?」
左親指を鍔に掛けた男は急激に威圧を増してそう問うのである。ただでさえ人見知りが発現しているにとりはその大妖怪に及ぶほどの重圧に気圧されて口を開いた。
「えと その 私は技師 でして…この城のですね 技術をあの まっ学ぼうか…とその…」
「うむ、よい事じゃあないか貴公。
だがそれだけではなかろう?」
背を屈めて視線を合わせた鱗の男はにこりと笑っている、がその威圧は緩まることを知らない。
にとりがその圧力によって答えを言い淀むと男は左親指に力を込めて鯉口を切った。
「ひぃっ…」
鞘から覗く刀身は解れた糸のようになっており、またその表面は黒い錆と煤で爛れたようになっている。黒く暗くそれでいて暖かい不思議な火の粉が露出した刀身から溢れ出でるなど、ただの刀ではないどころかソレが大妖怪をも屠ってしまいかねない代物であることを痛いほど肌で感じたにとりは涙を目に浮かべて叫ぼうとした。
しかし不思議なことに、たしかに声帯にありったけの空気を送ったはずが少しの喘鳴も上げられなかったのである。
「———ッ!?!?」
「私も、貴公に手を挙げようなどとは思わない。しかし
「——っ!——-っ!」
穏やかな声色でそう言う騎士に対するにとりは今にも泣きそうな顔でこくりこくりと激しく頷いた。その禍々しい刀が自分に振るわれることのないように、また相手の気を損ねることのないようにと。
「そんなことはしないと、私に誓えるかい?」
「——っ——っ」
再び頷いて見せたにとりに男は優しく笑いかけ、あの威圧を仕舞い込み右手で刀を鞘に戻して懐からハンカチを取り出すとにとりの目元に当てて涙を拭き取った。
「そうか、よろしい。貴公には怖い思いをさせてしまったね。私にはこれしか出来ないのだ。申し訳ない。」
「…」
「ではこれで。——失望させてくれるなよ…?」
「——っはぃっ!はぃ!」
鱗の男はにとりの頭を緑のキャスケット越しに優しく撫でて側を通り過ぎて行った。にとりは男の歩き去る音が聞こえなくなってから振り返りもせずに玄武の沢へ、スケッチブックを抱えて走り帰った。
絶対にスケッチブックの中やあの騎士との会話は誰が相手でも口外しないと心に決めながら。
鱗に解れた糸のように腐食した刀、全体的に黒紫色
そして「人間臭い」。さて
「洋城」サイドと絡ませたい東方キャラなどありましたら感想にお書きください。人間性が喜んで参考にいたします。
(本編は紅魔郷の2ヶ月後である10月〜妖々夢前の時期のお話となりそうです)