妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

双大剣をボスに据え直した。
この先連戦に注意(深淵の微笑み)。

今回の注意
あまり気にしないかもしれませんが、Darksouls IIIから表記を加筆・変更した箇所があります。誤植ではありませんのでご注意下さい。



古い聖槍 前篇

 

「さてと…漸くここまで来たわね。」

 

 

教会の大扉を潜り、静謐なる聖堂へと足を踏み入れる。左右のステンドグラスから規則的に並ぶ柱越しに入るのは、黄金のものではなく静かで薄暗い白光である。外部の光と見比べればその光の筋があまりにも不自然であると、一目瞭然であろうが誰一人としてそれには至れない。

 

蝋燭の光もない聖堂の最奥に両手をだらりと垂らして佇む巨人の姿がある。それはまるで口を開いた深淵のように暗かった。

 

 

「あんたが異変の首謀者?何にせよ堪忍なさい。」

 

 

聖堂の雰囲気や巨人の姿やその見下ろす視線は、気味が悪いと言う風には不思議と感じない。むしろ神聖な、高潔なそう言った空間に感じるのは何の故あってのものであろうか。

 

巨人が両の手を胸に重ねるような独特の構えを取り再び詠唱を始めた。

 

 

古い聖槍、王女フィリアノールを守る契約者よ

君を呼ぶ声に、耳を澄ますが良い!

 

 

詠唱を区切ると同時に教会の鐘の音が脳を響き渡り、姿かたちの見えぬ聖歌隊が静かでそれでいて力強く語りかけるように唄う。その意味は()()()理解できた。

 

 

———

行け、行け

行け、お前の意のままに

槍兵よ

———

 

 

巨人の足下に紫色に光る巨大な魔法陣がその存在をあらわにし、ゆっくりとしたコーラスに呼応して明滅する。それは誰かを呼んでいるように感じられ、またそれはゆっくりとした心臓の鼓動のようでもあった。その正体をいち早く突き止めたパチュリーが声を荒げる。

 

 

「っ!これは、召喚魔術…ッ!離れなさい!!」

 

 

魔法陣の外側へ全員が急いで退がり逃れると同時に魔法陣と同じ深紫色の渦が巨人の目の前で形成され、更には床から突如突き上げて現れた黄金色の槍がその渦を取り囲む。巨人の()はその時点で光の中へ薄れて消えた。

 

渦からゆっくりと人影が立ち上がり形を成していく。長身のそれは黒い上衣や黒紫色の西洋式甲冑を頭以外身に纏い、なによりも特徴的なあの酷く窶れた太刀を佩いている。腰には先程の騎士が持っていたような金糸の布が飾りについた、穂先までのみの独特な儀式槍が腰回りのチェーンに下がっていてこちらはひどく冷たい輝きを発していた。

 

 

———

行け、行け

行け、意のままに

槍兵よ

———

 

実体「古い聖槍 闇喰らいのミディール」

が召喚されました。

 

———

行け、槍兵よ

———

 

 

 

コーラスと同じく脳内に響きそして彼女らが理解させられた男の名は『ミディール』。

パチュリーや紫、レミリアなどはその名からアイルランド神話に於ける地下の神を思い浮かべたが、かの者から神性は感じられず然れどもそれに酷似したより古い性質を感じ取っていた。

 

しかしそれが彼自身のものでは無いと気づけた者は、この場にいなかったのであった。

 

 

古い聖槍よ

法の元、王女を守りたまえ…

 

 

すでに聖堂内にその姿はないはずの、あの黒い巨人の声がどこからともなくミディールへそう告げる。召喚されてから瞑目したままであったミディールがその命を聞きそして紫色の双眼を開いた瞬間戦闘の幕が上がったのだ。

 

先手を打ったのはミディールである。左手に生じさせた炎を以ってして薙ぎ払いつつ地を蹴って一直線に、霊夢や白狼天狗などが横並びになった列を強行突破して背後へ回り込む。そして即座に、辛うじて視界へミディールを収めたばかりの白狼の一人へ向かって火の奔流を放った。

 

 

「——ッ?!背後だ、相手の出方を見て迎撃しろ!妖力弾は自信がないなら控えよ!」

 

 

褐色の白狼が叫び、それによって驚愕から回復した白狼部隊は得物を手に盾を構える。ミディールから攻撃を受けた一人は奔流を紙一重の差で回避に成功した。

 

 

「撃つなら味方撃ちに注意しなさいっ!『夢想天生』」

 

「んな無茶言ってくれるな…。」

 

 

霊夢は城内に入る際にも使用した半透明の状態へと入り、神札や妖力弾を放ちながらミディールへと接近する。魔理沙、レミリア、紫もそれに続いていきパチュリーは戦闘から距離をとりつつ妖力弾での援護に回った。無論放たれる札や妖力弾はミディールを追尾するものに限られるために「弾幕」というほどの数と密度は無い。

 

ミディールは左手から再度火炎を以ってして白狼部隊を薙ぎつつ、振り向きざまに抜刀した太刀の一刀で背後に迫る妖力弾と札の殆どを両断し返す刀は霊夢越しに()()()()斬りつける。

 

 

「とあぶねっ」

 

 

霊夢越しであったとはいえ半透明であるために視認できていた魔理沙は慌てて立ち止まることで刃を受けずに済んだもののそこに生じた隙を見逃されるわけもなく、太刀を片手に霊夢を通り抜けて突っ込んできたミディールの大発火を目の前にして——視界の端で開いたスキマを見た。

 

 

「させないわ。」

 

 

スキマから飛び出した道路標識が魔理沙を火から守る。あまりの瞬間火力に標識板が赤熱してしまうが、間もなくそれは引っ込めた。

 

 

「魔理沙、余所見しないようにして頂戴。いつでも助けられるとは限らないのよ。」

 

「ありがとだぜ、スキマ。」

 

 

一方ミディールはその身に向かい来る緋色の槍と大玉の妖力弾を視認すると翼膜を広げて軽く飛び、霊夢をすり抜けて背後へある程度の距離を取って着地した。それは聖堂の最奥、巨人の()があったあたりである。

 

 

「すばしっこいわね…ッ!」

 

 

そう言ったのは追い縋って引き剥がされた霊夢であったかレミリアであったか、はたまたパチュリーであったか。

 

ミディールを追いきれず空中で破裂した大玉の妖力弾と違い、彼を追ってその弾道を曲げた緋色の槍はしかし彼が着地してすぐに太刀を片手で振り、真っ二つに斬られてしまった。

 

ミディールは太刀を持った右手をだらりと自然体にして腰に下がったあの儀式槍を左手に取り、それを前へと掲げて握り締めた。するとミディールの立つ目の前から一直線に、丁度霊夢や魔理沙などと白狼天狗たちを分断するようにして黄金色の光り輝く槍が——ミディールが召喚された際のものに同じく——地から突き出して壁を形成していく。教会の端まで達した槍の壁は有刺鉄線のように同じく黄金色の雷を発しており、それは霊夢の投げた神札をさも当然のように無力化するほどの力を有していた。

 

 

「くっ…このッ、うざったいわね…。」

 

 

霊夢がそうぼやくのと同時に再び翼膜を広げたミディールは、いつの間にか腰へと戻された儀式槍の代わりと左手に大火を熾して飛び立つ。そして彼から見て槍によって区切られた左側を、大きな翼膜とその左手より発される奔流を持ってして焼き払わんとするのだ。

 

 

「——ッ!は、柱の影へ退避!!!」

 

 

豪雨と聞き紛うほどの轟音を発して上空から迫り来る炎に対し一拍遅れてそう叫んだのは椛であった。すぐ様白狼たちは応えて柱の影へと炎を避けるべく隠れるも、それだけで防ぎ切れるほど易しいものではないのだ。

 

 

「助け——あああづっっぃあづいぃぃぃ…ッ!かひュ、」

 

 

柱へ逃げ遅れた白狼の一人が炎の中に飲み込まれて姿が消えた途端にその悲鳴が響き渡り、黒い影上空を過ぎ去るとそこにはうつ伏せに倒れ込んだ白狼の姿があった。白い髪が焼け肌は爛れてみるも無惨であるが、尚息はあるようで喘鳴が伏せて見えない口から発せられ続けている。

 

 

「そんな……」

 

 

業火に晒されて倒れ伏す白狼の仲間の姿から目を離せず、怯えて得物を持つ手が震えだす椛に対して褐色の白狼は叫ぶ。

 

 

「椛!正気を保てよ!!全員構え、来るぞ!!!」

 

 

火焔放射を終えたミディールは聖堂の大扉前で旋回すると、今もまだ立ち並ぶ槍の壁を飛び越え避けるように微調整をしながら翼膜で空を煽り勢いづけて吶喊する。狙いは、火焔に巻き込まれた白狼であることが明白であった。

 

 

「おいパチュリーッ!この槍どうにかならないのかよ…!」

 

 

槍に阻まれて助けに向かうこともできず、また聖堂内であり低空飛行であるとはいえその最中にあっても容易く弾幕を斬り伏せるミディールに手出しもできずにただ目の前で白狼たちが炎に襲われる様を見る魔理沙をはじめとした三名は何もできない現実に歯噛みする思いだった。

 

 

「ダメよ魔理沙、強制力が強すぎるわ。それにもし破壊できたとしても調節をうまくやらないとあっちを巻き込んでしまうもの、それじゃ元も子もないわよ…っ!」

 

「くそっそれじゃマスタースパークも使えないぞ…。」

 

 

霊夢の使う夢想天生ならば火焔や槍襖も構うことはないのであるが、それは「あらゆる接触から()()」という方向性での彼女の能力の応用方でありそれはつまり霊夢側からも接触ができないことを意味している。

 

それは承知の上で槍を越え炎の名残が尚も燻る白狼へ向かった霊夢は、能力を解いて白狼とミディールの間に立つ。爛れた右腕は神札を持つに留めて、その代わりに御祓い棒を左手に持っていた。

 

 

「——止まりなさい…!」

 

 

霊夢が御祓い棒をミディールへ向けて言い放った。無論止まるとは思っていないのであるが。

 

そこにミディールの横合いから突如開く空間があった。聖堂の大扉付近から高速で滑空する彼を待ち伏せていたかのように開いたそのスキマに流石のミディールも一瞬反応が遅れると、そこから現れた紫の繰る片鎌槍が彼を襲う。

完全な不意をついたその一撃はしかし彼の身を守る西洋甲冑の胸甲によって穂先を逸らされることと相成った。またその長柄を太刀の持っていない左手で掴み取ったミディールはそれを空中で自分の左脇を支点に振り返し、スキマから紫を引き摺り出して聖堂の向かって左側へと飛ばし落とした。

 

 

「な——何が起きてんだよ…っ」

 

 

あまりにも早く展開されていく混戦に目を回すのは魔理沙に限った話ではないが、それらを待つほど酔っているわけもなくミディールが困惑して紫を見やっていた魔理沙の真後ろに舞い降りた。槍ごと紫を回し彼女を飛ばすのに翼を大きく横へと広げて抵抗を生み出す必要があり、急減速を強いられた彼は仕方もなく空中から降りたのである。その手にはつい先程紫より奪い取った槍が握られており、なんとも奇怪な二刀流の(てい)を成している。

 

 

「あっ…——」

 

 

真後ろへと着地したミディールに気づかぬ魔理沙ではなかったものの、どうにも呆けて状況判断の遅れていた彼女は弾幕を展開する動きも見せずただ目の前に現れた闇がその太刀を左の腰のあたりへと擬似的な居合の構えを取るのを見つめていたのだった。そこは十分に居合の間合いであるにも関わらず。

 

 

「——何してんのよ魔理沙ぁッ!!」

 

 

叫ぶに近いほどの声量でそう発した霊夢の音に漸く我へ帰った魔理沙はすぐさま背後へ飛び退いた。がしかしそれを見越して一歩踏み込んだミディールの間合いからは切っ先分のみ逃れること叶わず、刹那の内に過ぎ去った刀身は魔理沙の右横腹より血を吹かせた。

 

 

「——ぁっがッ、は ッアああぁぁ」

 

 

抑えても尚血を出し続ける腹を抱えて膝をついた魔理沙はもはや動けず、居合を振り抜いたミディールはその太刀を魔理沙の頸へ持ってゆかんとした時鋭い金属音が二つ鳴り響いた。彼はその内の御払い棒を右腕に受けると同時に相反した力を一挙に加えてこれを弾き飛ばし、また二方左右を無言で睨みつける。

 

 

「…。」

 

 

左手に持っていた御払い棒を弾かれた霊夢は不意に喰らった衝撃にただの一度で体幹を崩し、向かった頃には目と鼻の先に太刀を突きつけられて舌を打った。

 

 

「チィッ、このぉ——っ!!」

 

 

対して片鎌槍の長柄で受けた深紅の槍は互いにぎりぎりと不快音を発したものの、霊夢が舌を打つと同時にミディールが長物の片鎌槍にもかかわらず軽々と振り払ってレミリアを大扉の方へと遠ざける。しかし流石に吸血鬼たるレミリアまでをも体幹を崩させるには至れず、直ぐに体勢を整えた彼女はその深紅の槍をぐっと腰を捻って溜め込んだ力と共に投げた。

 

鏡面反射をするほど綺麗に磨かれた聖堂の床に対して水平に真っ直ぐと()をたどるようにまた紅い光線と化して飛翔したグングニル(運命の槍)は、それを叩き落とさんと再度振われた槍の穂先と枝に払われつつも儚い一条の光となってミディールの左胸を撃ち貫いた。

 

 

「ぐぅッ——!!」

 

 

仰け反るミディールの口から漏れた呻きと共に、貫かれた胸やその口から溢れたのは血であった。しかしその血は肉片と称した方が正しいとすら思えるほどの粘性をもち、また騎士たちから流れ出でたそれよりも遙かに黒く暗いのである。

 

 

「ハアッ——ァア」

 

 

そのまま倒れ込むかに見えた彼はしかし左手の槍を床に突き立て、これを中心にぐるりとレミリアへ背を向けるように回ると右足を一歩踏み出して、そのまま引き抜かれた片鎌槍の枝は霊夢の脇を過ぎ白狼のうち一人に引っ掛けこれを引き寄せた。

あくまでも狙いは白狼に——強いては白狼を拠り所とした暗いモノに——他ならないのだ。

 

 

「なっぁ カ——こぷ」

 

 

引き寄せられた白狼の頸へ太刀をあてがったミディールは槍を手放して左手を峰に添えるとそのまま引き斬り、更に左手を(しのぎ)に沿わせて真っ直ぐに首を突き貫く。

 

悲鳴をあげようと口を開閉した白狼の頸から、口から、鼻から、斬られた断面からごぽごぽと水音を発して流れ出たのもまた血であった。ミディールや騎士のそれに比べれば静脈血に近い色合いであるそれはしかし確かに独特の黒く暗い光沢を発していて、その不気味な血が刀身を伝って太刀の綻びへと流れ込むと黒い火の粉がぼうっと噴出し、暗い血に引火した黒炎がその血を辿って白狼へと遡り忽ちに白狼は黒い火達磨と化す。

 

遺骸の一片を遺すことも許さず灰塵と化すまで燃やし尽くしたミディールは、左胸に開いた風穴を気に留めることなく刀身を伝った血すらも燃やした太刀を一度払って鞘へと仕舞い取り落とした槍を拾って再度構え直した。

 




 
「教会の槍」ハーフライト…ではなく「古い聖槍」闇喰らいのミディール戦です。絵画守りさんたちですか?彼らについてはよくわからないので出しません。わからないものは出さないスタンスです。

——前回分の評価者様——

manblack様、血に渇いたレミリア様、評価ありがとうございます。

戦人様、誤字報告ありがとうございます。


お久しぶりですね、あけましておめでとうございます。
プロットは既に定まっているのですが、そこから自分の満足のいく描写に落とし込めずにいます。スランプだなんて言うには、仕事としてやっているわけではない私には大そびれた言葉ですから「調子が悪い」とさせていただきます。

しかし打ち切る気は毛頭ないのです。ですからどうか次の話も——少々都合の良い言い方になってしまいますが——ゆっくりとお待ちいただければと思います。
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