妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

『古い聖槍』ミディール戦
第一形態


古い聖槍 中篇

 

片鎌槍という武器は、十文字槍の派生と考えるとわかりやすいやもしれない。厳密に言えばその双方に構造上違いがあるものの、切ることも突く事もできる長柄の槍に片刃の「枝」というのを穂の根元に取り付けるのが基本形となる。それが両側にある場合は十文字槍、片側にのみ存在するものを片鎌槍と呼ぶのだそうだ。

 

槍一本のみとなったミディールはしかしその槍捌きもまた精緻なものがある。隙を生じさせ難い鋭さのある突きと太刀に比べれば緩慢ながら広い範囲を薙ぎ払うほか、片鎌の枝で白狼の刀を絡め刃を払うなど多彩な動きと激しい攻撃の中での緩急に霊夢などや白狼の多くが振り回されていたのだ。

 

 

「白狼部隊、固まらないように散開しろ!攻撃を途切れさせるなよ!」

 

「射線は通りやすくなったわ、ただ重ねて言うようだけど誤射には気をつけなさい。」

 

 

褐色の白狼が白狼部隊へと注意を飛ばしつつ妖力弾を放ち。その後方では霊夢を中心に弾幕を展開していく。レミリアのグングニルはあれ以降警戒されているのもあり、またレミリア自身の消耗から決定打には至らず槍に払われてばかりだった。

 

 

「なぁレミリア、またさっきの槍は出せないのかよ。」

 

 

霊夢よりさらに後方でパチュリーから施術を受けて戦闘に復帰した魔理沙がそう言った。なおパチュリーはといえば槍兵の跪く銅像が左右に数体並ぶ、大扉を潜ってすぐの踊り場で全身火傷を負った白狼の治療にまわっているため戦いの場には居ない。

 

 

「作れはするけれど当てるとなると無理ね…()が思うように掴めないのもあるけど、第一は相手がこちらを警戒しているから。」

 

 

その言葉通りに、今し方投げられた緋色の槍は先程のような光線のように鋭いものではありながらもミディールの繰る穂先にいとも容易く阻まれて消えてしまった。

 

そうしているうちに一際大きな金属音が聖堂を響き渡る。見れば褐色の白狼の大斧が刃先を槍にいなされて床へと叩きつけられているところであった。

 

 

「くぅ…ッ」

 

「…」

 

 

特にこれといった表情も現さずただ淡々と、白狼部隊が果敢に浴びせる白刃を槍で弾いては追撃を加えじりじりと焦がすように彼らを圧迫しまた消耗を強いていく。聖堂の床面には破損した盾の破片や大小様々な傷が散在してその攻防の凄まじさを物語っていた。

それは幾度目かの白狼たちの攻勢の折についに体勢を崩された白狼の一人を盾ごと槍の枝で掛け引き寄せて、その白狼が逃げようと踠いたすえに盾が力に負けて割れてしまった時のものである。その白狼は既にミディールの掌で燃え尽き、薄暗い魂を喰われた後だ。

 

ただその際かの黒紫色の騎士が溜めた息を吐きながら少し目蓋を重くしたのを、パチュリーや紫は見逃さなかった。

 

 

(魂を喰らうこと自体の負担か…)

(あの纏わりついた暗いナニカを喰らうことの負担…或いはその両方かしら?)

 

 

刀の鞘にある罅割れから漏れ出る黒い火の粉もまたその勢いをわずかながら増している。

ミディールは今し方黒い火の粉を舞わせてまた一人白狼の命を断ち、その遺骸を燃やし尽くした太刀を器用に片手で鞘へと納めた。使命を負った彼ら教会の槍の、強いてはミディール自身との同体たるかの太刀は暗い血を吸ってその持ち主と共に重いモノを蓄積させていく。

 

 

「ッぐ」

 

 

白狼の一人と槍の柄で鍔迫り合いになりかの白狼を強い力で押しのけたと思いきや、不意にミディールは片膝をつき俯いた。

 

 

「、ゲホッゴホッ…ゴホッ」

 

 

骨ばった喉から何かが溯ってきているように詰まった息遣いをしたと思いきや、激しく咳き込み出してますますうつむくがなお槍は手にしたままである。

ミディールの異様さにひるんだ椛であったがしかしこれを好機と見るや否やすぐさまこれを遠慮なく斬りつける。

 

 

「隙あり、です!」

 

 

ステップで勢いよくミディールの右手側から至近距離に立ち向かった椛は二刀斬りつけることに成功し、二振り目で斬り上げた刀を返して攻撃を重ねんとする。

途端に甲高い金属音が鳴り、見れば椛の勢いよく振り下ろされた刀はいつの間にやら動いていた左手に握られた片鎌槍に阻まれてその刃先を滑らし片鎌にからめとられているのである。

 

 

「な…!?」

 

 

椛は刀を瞬時に手放すことは出来ず取り乱してミディールのなすがままに腕を持って行かれる。その時にはすでにゆらりとソレが立ち上がった後だった。弱弱しく喉を震わせた彼はおおよそ人とは思えない聲を発して槍を振るう。

 

 

「————ル——ルくぐぁあぁぁぁぁぁぁア」

 

 

大振りに振るわれた槍はからめとった椛を放り投げその反動を左を軸脚に半回転することで殺し切ったミディールは、更に続けて翼膜を広げ声にならない音を発しながらそれを羽ばたいて背面に飛び上がると空中で身を翻す。

その瞬間にミディールを目で追い睨んでいた者は気が付いたであろうか。

彼は泣いているのだと。

 

 

「—— ァァァァァァ」

 

 

金切り声に近い絶叫をあげながら吹き飛ばされた椛へ急降下するミディールはその手に持ったもはや鈍らの片鎌槍を空中から振りかぶった。未だ椛は背を強く打ったことから立ち上がれずにいたのだ。褐色の白狼が叫ぶ。

 

 

「椛!!!!立て!!」

 

 

左足から着地した彼はそれを軸に左手の槍を滑空の勢いそのままに振り下ろし、その頸まで寸のところで魔法陣に阻まれた。

 

 

「あんまり…無理させないでくれな…い?」

 

 

椛のすぐそばで浮遊する魔女が言った。パチュリーである。みれば椛の首を守るように、ちょうど小円盾ほどのサイズの魔法陣が空中に現れておりじりじりという音を立てて震えていた。当の魔女は全身から汗が噴き出していて全く以て余裕が生じていないことが分かるほどだ。

 

 

「こん……ッのぉ!」

 

 

それでも力を振り絞り椛の首のすぐ前へと手を伸ばした魔女に呼応して、魔法陣は一瞬強く発光し衝撃を以て槍を弾き返すに至った。

 

 

「シィ——ッ」

 

「——大人しく、死になさい。」

 

 

槍を弾かれ体勢を崩したミディールの背後にスキマが開き、冷酷な声を伴ってその背中を迎えたのは槍衾である。槍を取り落とした彼の体からぐしゃりと生々しい肉の潰れ貫かれる音が響き、彼の口から声の代わりにどす黒い血が吐き出されて噎せ返るような濃い血の匂いがあたりを漂う。

 

 

「死になさい。」

 

 

しかし見れば槍は翼にそのほとんどを阻まれて胴体へと達したのはたったの一本であることが分かるとすぐに、紫はそのままその槍衾を上へと掲げた。憎悪の込められたその槍は無慈悲にも西洋甲冑の隙間を縫って血肉に達し鎖帷子もなすすべなく幾本もの槍がミディールを刺し貫いた。藻掻くのをやめた彼の肢体が赤黒く彩られて、しかしなおも口が動き血があふれ出すのを見るにいまだなお息絶えていないのが分かるのだ。

 

 

「——うっ、紫…?」

 

「うぷ、…」

 

 

あまりにも残虐で、また衝撃的なその光景に刹那の間に怖気づいた霊夢は怯え気味に名前を呼ぶ。そのあまりにもな様相に魔理沙は嘔吐いて、レミリアやパチュリーは顔を顰めていた。ただ一人、褐色の白狼だけは彼女の得物の柄をぐっと握りしめて睨みつけるのだが。

 

翼に阻まれた槍がスキマへと消え残った数本は勢いよく突き刺さった彼を軽々と払い飛ばすと、真っすぐな血しぶきの跡を残して教会から出されたミディールは階段を転がり落ちて扇形の広場へ仰向けに倒れた。黒い血はなおも流れ落ちて赤い花々がそれを吸い取るように溶け込んでいる。そばにはあの二本の特大剣を繰った騎士の亡骸があった。

 

 

「ぁ、が」

 

 

呻きながら目を開きぼやける視界の中で捉え、煙が形を成すようにはっきりと眼と脳に焼き付いたのは黄金色の陽の光を受ける教会の尖塔であった。

 

 

「はが、ぁく」

 

 

あれほど滅多刺しにされたにも関わらずその槍傷を気に留めず、しかしぼたりぼたりと半ば固まった血を落としながらミディールは猫背気味に二本の足にて立ち上がる。

 

 

「そう…まだ立つの。」

 

 

背に陽の光を浴びるミディールの表情は紫色に虚ろな瞳があるばかりで窺えないが、左手を鍔へ伸ばし親指を遣るのが見えた。槍によって傷つきまた穴が開いた黒い上衣は見るうちに細い血管のようなものが脈打つ、まさに蝙蝠か伝説の中の竜のような翼となりそこに無数の傷や穴が浮き彫りとなって暗い火の粉と黒い血を舞わせ、また右頬にあった鱗は顔の右側を多く占めるように見えて黒い結晶を大小さまざまに生やしているのだ。

 

 

「な…なんだよ…アレ?」

 

 

禍々しく変じたその姿に驚きを隠せない魔理沙はそう漏らした。それと同時に立ち上がったミディールの足元に広がった黒い血がまるで湯が沸くように気泡を伴って沸き立ちはじめ、ミディールは前屈みに頭を抱えて泣くとも呻くとも判別のつかない呼吸音とともに何かにあらがうかのような足掻きを見せる。

 

 

「!!血が、奴に集まって…?————備えなさい!」

 

 

そう叫んだのはレミリアであった。「備えよ」と言葉を選んだことで上手く意味が伝わったのであろう、椛がさっと立ち上がって盾を構えパチュリーは再び魔法陣を組み上げて教会の大扉を塞ぐように唱え出す。

 

黒い血は気化するように黒い靄と暗い火の粉に姿を変えて、ミディールの足から吸い込まれるようにあるいは意志をもっているかのように這い上がり彼の体内へ一挙に流入する。

 

 

「——が あ ぁ」

 

 

とぎれとぎれに喘鳴を発するミディールは流入するそれらを受け入れるしかないかのように抵抗は示さず、しかし彼の体が本能的にあるいは流入するナニカの性質に苛まれて激しい動悸と痙攣を引き起こす。

 

 

しっかりと掴んで離さない無数の手が暗い場所へと引き入れて、視覚も聴覚も触覚ももはや碌な役には立たなくなった。感じるのは刺すような血と花と陽の匂いと、見えるのはソウルの位置とそれらの性質だけで。

 

 

()()()()()()世界を受け入れ切ったミディールは感触を確かめるようにしながら腰の刀に右手で触れ、握り方を確かめながらそれを抜刀すると黒く暗い衝撃波を周囲へ発した。

 

ミディールが立ち直り刀を抜いたその瞬間に生じた大爆発は、教会の大扉へやっとのことで組みあがった結界に衝突しあのビームを撃った時とは比べ物にならないほどの負荷がパチュリーへ大挙する。しかし結界に阻まれた魔力攻撃はあったものの暗く黒い靄は冷たいとも温かいともつかない不気味な気を発して悠々と結界を通り抜け、中にいるすべての内側へと侵入した。

 

 

「ぁあ、え ぎ——————ッ!?」

 

 

困惑とともにそれを内側へ入れてしまった各人は、その内側で突如として沸き立った怒りと哀しみに流され、またいきなり生じては消えていく人々の声や人格に冷たさや温かさを感じ、またそのため白狼の中にはあまりにも大きな思考と精神への負荷に発狂して血を吐き血涙を流して斃れ伏すものが出たほどだった。

 

何とか正気に戻った者たちが見たのは、一振りの刀を手にする彼の姿と頭部から夥しく血を流して斃れ伏した白狼の遺体と、もはや浮けもしなくなったパチュリーが倒れこむ様であった。

 




 
ええっと…お久しぶりです。最近こればかりですね、申し訳ありません。いえ敢えて言い訳をするならば、元レイブンの同志である方が個人制作していらっしゃる「Project six」というArmored Core likeなゲームにどハマりしまして。

——前回分の評価者様——

東方三笠様、Ice coffee様、白鬚の宦官様、冥想塵製様、katakou様、ますまい様、評価ありがとうございます。
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