妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ
ミディール第二形態へ。



古い聖槍 後篇

 

流麗であったであろう黒い、ほころびた刀身が風を切る。空をも焦がすような爆炎が吹き荒れ、しかしその炎をものともしない赤い花がそよ風に揺れる。そんな中で彼は咽び泣くような声をあげてなお刀を振るっているのだ。半ば気の狂ったように翼を用いて縦横無尽に空を駆け炎をまき散らしながら、去れども精緻さを失することのない刃が妖力弾を切り裂き休むことなく誰かを斬りつけまた退く。

その一連の動きは正気の沙汰と見えない。

 

 

「『封魔陣』」

 

「『スターダストレヴァリエ』ッ!」

 

「…『夢と現の呪』。」

 

 

ミディールが黒い結晶片を散らしつつ空へ距離を取ったのを機に一斉にスペルカードを発動させる中、レミリアや椛はパチュリーを介助しつつ前線から距離を取るように聖堂へと退く。褐色の白狼はというと彼女自身はスペルカードとして体系化された妖力弾のパターンは特に持っていないために、大斧を握りなおしつつ反撃の機会をうかがうのだ。

 

ここで放たれるスペルカードは、無論ながら弾幕ごっこで使用されるものと全く同一というわけではない。妖怪を相手にするのであれば当たれば概ね致命傷となるかあるいは行動不能、場合によっては死につながるほどの高威力な妖力弾の集団であり、また美しさはかなぐり捨てて相手の動きを制限しながら追い込むように組み直されている。

しかし彼は空中でそれらの相当に濃密な弾幕をひらりひらりとかわし、またよけきれないものは刀身にて両断するなどして無傷のまま空に在るのだ。また全身から溢れる闇が空からまき散らされ、魔理沙たちの足元では新たな赤い花が芽吹いて一瞬で育ちその花弁を揺らし始めるのだ。

 

 

「な…っなんだよ、これ!」

 

 

魔理沙がそう言った。一度意識してしまえばまき散らされた闇から赤い花が芽吹くのを自然に視界の中で捉えてしまう自分がいるのである。不気味でそれでいて可憐な赤い花が瞼の裏にすらその貌を残して脳に刷り込まれるようですらあるのだ。

 

 

「パチェの予想、あたったかしらね…闇の出どころが何かはわからないけれどあの夥しい数の声と感情……それが間違いなく誰かの死体を暗示するもの、つまり花は彼らの墓標。」

 

「うぇ……どんだけ殺したんだよ…ッ!?」

 

「下手すると万単位かもしれないわ……ねッ。」

 

 

教会から階段を下りて再び前線へ復帰したレミリアが魔理沙とそう受け答えを行った。と同時に放たれた()()()()は一筋の紅い光線となって、空を駆ける()をとらえ彼が身を守るように姿を覆い隠した翼ごと穿ってそれを空中に一時繫ぎ止めることに成功する。高音に胎へ響くような重低音が混ざったような————絶叫が山中へ轟いた。

 

 

「成…功!今よありったけの弾幕を叩き込みなさい!」

 

「おぉ!ナイスだぜレミリア!」

 

 

空中に磔となり制止させらえたそれに向けて空を埋め尽くすほどの弾幕が、日の光と見紛うほどの眩さをもって殺到する。一発残らずその黒い肢体へ命中し黒い血しぶきが止め処なく空を染め上げる。

そんな凄惨な場面を見ながら深紅の槍の正体に気づいた霊夢が口を開いた。

 

 

「…封印術式。」

 

 

それに対して霊夢に振り返ることなくレミリアが答える。

 

 

「そうよ、封印。でも私一人の力じゃ長くはアレを抑えきれないわ。」

 

 

本来封印とは複数人の人間か或いは神といった封印者が対象との大きな力の差を持って行使するものである。されども一介の吸血鬼とはいえ幻想郷においてそれなりのパワーバランスを担う者がそう表するほどということはそれほどに力の差は僅かであるか若しくは劣っているということになるのだ。その思惟があってか否か定かでないが魔理沙は「弾幕ごっこで使わないのが救いだな…」と独り呟いた。

 

そんな中で早くも闇喰らいは腹を貫いた槍に手をかけそれを破壊しようと藻掻き、また施術者(レミリア)の発言通り瞬時にそれを無効化したのだ。半ば竜と一体化するように、黒く変色して彼の刀のように綻び黒い結晶が生え出す。しかし地に落ちるのでもなく大きな翼を以て滞空しながらそれは天を陽を、そして教会の尖塔を暗く濁った瞳に移したそれは甲高い声を上げた。

 

 

「——くっぅ…。」

 

 

その叫びを教会の中で聞いたパチュリーは目を覚まし、そして闇を体現したようなソレの背に広がる巨大な両翼から暗い靄に小さな光の目を二つ持つナニカが無数に現れて地表へ降り注ぐのを見たのだ。呼応するように教会前の赤い花の一部が一気に枯れ、その中から同様の暗い人影を現して人間である霊夢や魔理沙へと大挙するのである。その道すがらにいる紫やレミリア、褐色の白狼など目もくれず。

 

 

「!!霊夢っ魔理沙!避けなさい」

 

 

パチュリーは考える間もなく咄嗟に声を出した。

 

 

「魔理沙!私の後ろに!」

 

「おう、今度こそは頼んだぜ。」

 

 

焼け爛れた右手に札を携え、それを高く掲げて前面に大きな障壁を成した霊夢の背後に魔理沙が隠れる。

 

そして二人へと猛進してきたそれら暗いナニカはしかしその障壁を前に二人へ届くことなく霧散し障壁の前にくっきりと線を作るほど大量の花を咲かせた。神の意志に則らないそれらであれば霊夢の障壁で十分に対応が可能なのだ。

 

囲むように放たれたナニカの群衆の不発を認めるや否や今度は()は地表すれすれに左手を向け火焔を熾しながら、一直線に教会の大扉へ急降下へ転じる。何の脈絡もなく。

 

 

「っ私は良いから、あなたは離れなさい。」

 

 

未だ眩暈のするなかパチュリーは防護陣を引き、側についていた白狼————椛にそう告げた。

 

 

「っ、すみませ————」

 

 

そう返す間にすぐそこまで来ていた竜の翼からは先ほどと同様に大量のナニカが放出され続けており、急降下に直撃はせずとも闇の奔流に周囲が巻き込まれることとなった。

 

 

「くっ面倒な…。」

 

 

褐色の白狼がぼやく。幸いにして回避行動を行えば追尾を半ば撒くことができるためにまだどうとでもなる範疇ではあるものの、不発となったそれらは再び足元で花となることを考えれば安心することもままならないのだ。

 

一方でパチュリーの防護陣に達した黒い刀身は四度にわたってその狂刃を差し向けそしてそれを振り直す間を埋めるように放たれた薄暗い大発火は、立ち直ったとはいえ尚衰弱していることに変わりはないパチュリーの陣形を打ち破るのに十全の火力を発揮し鋭さと速さそしてリーチを誇る突きが彼女の喉元に迫る————

 

 

「————させてたまるものですかッ!」

 

 

椛はその震えて仕方がなかった足を力強く前へ踏み込むとパチュリーの右脇を通って()とパチュリーの間に強引に割り込み、黒い刀身を自らの鎬に滑らせて刃先を逸らすことに成功する。これ好機とばかりに椛は刀で三度斬りつけた。

 

しかしさすがに相手も騎士である。

二度の斬撃を喰らいながらも三度目を浴びる前に背後へ低く飛び、三度目の斬撃が空を切るのとほぼ同時に踏み込んで突きの構えを見せる。

 

 

「同じ手には乗りません……よ————」

 

 

咄嗟に盾を構え防御を試みる椛。しかし踏み込みすでに間合いにあるにもかかわらずすぐには襲わず遅れてやって来た強烈な突き(強攻撃)はすでに持久を消耗していた椛の盾を捲るのに十分であった。

 

 

「何——!?」

 

 

盾を捲られたことで大きく体勢を崩した椛やその勢いに押される背後のパチュリーが見たのは、刀身を一度鞘に納めた居合の構えそしてその鞘の亀裂から放出される眩いまでの黒い閃光である。その閃光に覚えのあったパチュリーやその他博麗方面から攻略にやってきた面々は瞬時にその攻撃が「不味い」ものであると直感した。

 

 

「パチェ!!」

 

 

瞬時に手に槍を生成したレミリアや針と札をもってして制止を試みようとした霊夢に対して紫は極めて冷静に言った。

 

 

「大丈夫よ私が対処するから。」

 

 

そう言うと拡張されたスキマ空間に半ば上体を入れるような形で手仕草をし、椛に押されて倒れ掛かるパチュリーの背面————パチュリーと床との隙間————にスキマを開いてその対を紫の正面に開くことに成功する。

 

 

「————え、?」

 

 

背後に倒れたと思っていたにもかかわらず紫の正面に立ち上がることとなったパチュリーや椛の顔には困惑と同時に不快な表情が拭えない。がしかしそれにかまう間もなく隙間の変化に勘付いた黒衣の騎士は、居合の構えを崩さぬままにぐるりと向きを変え紫色の眼で睨む。そしてそのままに姿勢を低く前傾姿勢を取ると、暗くなるほどの光を伴って————

 

————四筋の光線を発し薙ぎ払った————

 

————否、一筋の光線を伴って四度の斬撃を瞬時に放ちそののちに再び納刀したのである。

 

騎士を起点に放射された個別に薙ぎ払う光線は呆気に取られていた一部の面々に有効打となる。

褐色の白狼はその時騎士との距離が一番近かったのであるが、怯んだことが功を奏して一撃目の光線を避けることに成功するも追ってやって来た四撃目の光線が彼女の左腕を爆発と共に吹き飛ばす。

体勢を崩したままであった椛はしかしその背後にいるパチュリーが一撃ごとに相殺するように四つの陣を引いたことで難を逃れたが、他の回避に成功したレミリアや寸度のところでスキマを用いて逸らした紫、障壁を用いて耐えた霊夢やその背後の魔理沙に比べて消耗が激しいのは火を見るよりも明らかであった。

 

 

「ぁ、ぐ…げほッこほっぁが」

 

 

そして辛うじて四撃目を退けたパチュリーであったが遂にこれまで堪え続けてきた反発が襲う。激しい咳が喉奥から突いて出て止まらないのだ。

 

 

「喘息が…ッ!パチェ!?」

 

 

目の前の脅威も忘れるほどに、レミリアがすぐさまパチュリーへ駆け寄るがタイミングが最悪そのものと言っても過言ではなかった。

 

()の再度納刀されていたあの刀が素早く抜刀され、今度は渾身の一撃となって上段から叩き伏せるが如く一閃したのだ。それはあの森林ごと焼いた黒炎や、先ほどの連撃とは比べ物にならないほどの気迫でありまたそれに値する威力を叩き出す。

 

その一閃にすら対応を示せた者は、もはや奇跡に等しいやもしれない。

 

 

「————『マスタースパーク』ッッ!!」

 

 

黒い刀身が振り下ろされんとするさなかに()を横合いから撃ちぬいたのは虹色の魔力の塊であった。

 

 

「グッぁ、」

 

 

俄かに発せられた喘鳴が、ミニ八卦炉の発する独特の放出音にかき消され、またぶつかった強い衝撃に()が突き飛ばされるような形で崩される。手をつき四足歩行のような形になって翼を広げそうしてようやく留まったが、そこはすでに玄武の沢からの法撃で蒸発した城壁の淵。一歩下がればそこはすでに深淵にも思えるほどの深い底の見えない峡谷である。

 

 

「ガ、カ————ァァァァァァァァ」

 

 

生物の発せる音階には思えぬほどに甲高い叫び声を挙げるそのモノの止めを刺したのは、片腕を完全に失って赤黒い血の道を作りながら大斧を手に立ち向かった褐色の白狼であったか、あるいは誓約と酷使の果てに砕け長く黒い刀身のうち半ばのみとなった刀であったのか。

 

片腕で振るわれた大斧が()の胴当てを捉えるとほぼ同時に褐色の白狼を両断する光も、あったという。

 

仰け反った騎士はそのままに谷底へ落ち、向かい合っていた褐色の白狼は腹を大きく捌き開かれて絶命した。青銅のような何とも形容しがたい青緑色の光かあるいはその粒子が両者の間にほんの刹那、名残のように舞っていたことを知るものは少ない。

 

 




 
中篇をわざわざ書いたのにそこでのんびりしすぎたかなと反省しております。人間性です。まぁミディールの絶望感を少しでも演出できていたのなら幸いですね。

——前回分の評価者様——

ヒトリババヌキ様、エラド様、lecthin(レクチン)様、gonndai(ゴンダイ)様、通りすがり一般愉悦部様、ボンボコボン様、黒鷹商業組合様、漆塗り様、評価ありがとうございます。
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