前回までのあらすじ
博麗神社方面の攻略組は拙作独自の「要塞戦」を、白狼天狗の遠征隊は都を沼から登りそれぞれが教会で合流。「教会の槍」と「古き聖槍」を打ち倒した。
今回はながぁいブランクからのリハビリ回ですのでいつも短い私にしてはまた極めて短いお話です。
その日は「
文字通りに空に浮かんでいた太陽と思われていたものや幻想郷の広域を鍋の蓋か傘のように覆っていた分厚い雲が、霧のようでいてしかし湿度はなく温度もない滓となって地上に降り注いだのである。
驚くべきはそののちに地上を照らしたのは太陽ではなく月であったということだろう。ほんの数日の間に、誰も気づかぬほどゆっくりと、しかし着実に日照時間を延ばしまた贋作の太陽へと置き換えられていたのだ。突如として空が暗くなりふわりと浮かんだ月を見てそれが現実とは思わずにまだ異変が続いているのだと大きな混乱を催したことは何も不思議な事ではない。
空を覆った巨大な幻影が消え去りその傘の下にあった呪いが地面へ
また今日に語られる異変の物語はあまり多くない。
玄武の沢から放たれた魔力の奔流が誰の発案であったとは知れず、ただ河童によるものであったと。そしてその奔流の出どころが吸血鬼姉妹の片割れであったということもまた知られていない。
異変解決に大きく貢献した白狼天狗の遠征隊は隊長格を犬走椛に据え替えられ、またその部隊規模も実際よりも半分の数となって公表された。それが天狗の里やそこの上層部で行われた合議の体裁を保つため対外的に行われた処置であったことを知るものは当事者たちを除いては数が限られる。
対して博麗の巫女を中心とした異変解決までの動きは大きく取り上げられむしろこちらが本筋であるという見方が人里をはじめとした人外をも含めた民衆のなかでは主となっている。たしかにこちらの物語はおおむね事実であり、ただ「一つの相違」を残してはこちらが正史であると言えよう。
相違とは、知られてはならないために大賢者と慧音によって秘匿された事実である。————それは未だなお妖怪の山が夢を見ているということに他ならない。
〜〜〜
幻想郷の地下にはかつて罪人の魂を罰したもう一つの世界が存在する。単に旧地獄と呼ばれるそこは洋城異変を通して唯一、妖怪の山の下にありながらほぼ損害を被らなかった地帯であった。
とはいえ何の変化もなかったかといえばそうでは無い。旧地獄の一角、血の池地獄のさらに奥に新たな地下世界が発見されたのだから。
「…っ」
見渡す限り広がる地下の湖。天井に開いた裂け目からは遠い月の光が差し込むので幻想的な風景である。
しかしその鏡面反射するほどに波の立たない水面から骨張った先を出すのみに止まっている黒い物体をふと目にしただけでそれが何であるかは分からないであろう。よく見ればそれらは黒く焦げて炭化した手足であって、水底とそのさらに底までをも埋め尽くすほどの夥しい量の焼死体がこの地下水層を生み出していることに気がつくはずだ。
「これは…。」
水に浸かっていながら腐敗していないという点が不可思議ではあるものの、ここ数十年内に殺されたものではなくそれら死体が幻想郷の住民というわけではないと見える。
そこまで見て、第三の目を側に引き寄せながら薄紅色の髪をした少女——古明地さとり——は連れてきた従者というよりもペットのうち一羽に帰ることを告げた。反応は予想通りその決定に反感を持つものであったが反論する前に付け足す。
「ここの主の目を覚まさせてはいけないですから。さぁ帰りますよ、お空。」
足が濡れましたし、と付け足しつつもその濡れたはずの足に水の冷たさは感じないためにさとりは「これは水ですらないのかもしれませんが」と呟く。なお背後に渋々といった調子でついてくる鴉は気づいていないようだった。
「貴方がどのような夢を見ているのか、興味はありますが。」
月の光があたる水面に黒紫色の塊がある。息をしているのかどうか、第三の目が開いたことを考えれば意識はあると言ったほうが近いかもしれないという考察もほどほどにその場から立ち去った。
「ちょっとさとり様ー?『貴方』って誰ですか?私は寝てないですよ。」
どうも察しの悪い鴉に苛立ちながら。
生きていますよ、Humanityです。
異変の渦中という大筋の中では一区切りつける最終話でしたから当たり前ですが、当初は引き続き霊夢たちのあとをついていく形にする予定でした。しかし、まあこちらのほうがよりそれらしいかもしれないなと考えを改めたのでまた書き直すこととなってしまったのです。
今回は前書きで、まだ少し章を変えて続きます。
歌姫と硝子が好き様、スティレット様、ヒトリババヌキ様、若葉イナヨ様、評価ありがとうございます。