妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

椛と河童


疫病

 

 

「で、魂の変質ってどういうことよ」

 

「そうねぇ…」

 

 

 

所戻って博麗神社。

縁側は肌寒く、色づきかけた葉が落ちていく。

時は河童が気圧されている頃である。

 

妖怪の山中を威圧したそれはこの博麗神社までは余波も届かず、未だ大妖怪と巫女は神社の余り物ゆえに季節外れ*1の麦茶を飲みながら「異変」の談話を続けていた。

 

 

 

「概念が存在を規定するって言う話はさっきしたじゃない?世界線云々の話をしたときにね。」

 

「覚えてるわよ。」

 

「じゃ話を進めるとね…要は『郷に入っては郷に従え』ってことよ」

 

「…は?」

 

「まぁまぁそんな怖い顔しないで頂戴よ、霊夢。順を追って説明するから。世界線によっては存在できるカタチがある程度決まっているのよ。かなり大雑把だけれどね。」

 

「人間がヒトガタとしてあるような事?」

 

「そう。つまりは『常識』ね。もちろん幻想郷ならそういう意味での『常識』はないのだから概念がそのままのカタチで存在できるのだけど、一度でも元いた世界と幻想郷以外の『常識』のフィルターがかかるとその通りに変換し直されちゃうってこと。わかったかしら?」

 

「つまり今回の連中はここの前に何処かの世界線で存在したことがあるってことで良い?」

 

「そうね、その通りよ霊夢。でも考えても見なさい。そうだとしたらなぜ彼らは再び概念として彷徨っていたのかしらね…って。」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——-なんちゃってね。もしかすると紅魔館と一緒に外界を通したからかもしれないし……つまりまだこれといってわかってないわよ。」

 

「ああっ!弄ばないでくれない?!…その胡散臭さはあんたらしいけど。」

 

「ふふ、褒め言葉として受け取っておくわね。」

 

 

 

このスキマはいつまでここに居座るつもりだろうか、という思いと共に呆れた目を向ける霊夢は湯呑みに三杯目の麦茶を注ぎ足した。紫は動くつもりがないようで、また煎餅に手を出そうとするも遂に霊夢がそれを阻止する。

 

この麦茶の茶会もこののち半刻と待たずにお開きとなるのであった。

 

 

 

 

 

〜〜〜数日後〜〜〜

 

 

 

 

 

以前の文々。新聞の一面に載った「洋城」の記事は人里の世間話も大いに賑わせた。とはいえ紅霧異変とは異なって妖怪の山は天狗の領域であり、麓から多少距離のある人里ではそうした異変の気配など対岸の火事であると言えるであろう。

 

それとは異なった()()が人里では発生しているために、対岸の火事を野次る(いとま)はないのであるが。

 

 

 

紙をめくる音の響く書斎。

所狭しと史料が床や壁を埋め尽くす小部屋に一人の少女。

 

——稗田家九代目阿求——

 

齢は僅か十三。されども侮ることなかれ。

稗田家の御阿礼の子、その九代目は代々阿礼の生まれ変わりとして受け継ぎ続けてきた「能力」を以ってしてその当主を務め、また人里の管理を一任されているのであるから。

 

 

彼女の手元には人里についての文々。新聞号外が握られている。

曰く

 

 

『人里、疫病が発生!!』

椎骨の痛みを訴え、また高熱を発する謎の疫病が感染者数を伸ばしている。原因は不明。異変と騒ぐ声も…

 

 

と。またこの患者の数は次第に増えており、先日は人里の警護隊から三名、人里の祭事運営に携わる年配の男女五名、農家でも若人が幾人か、などの発症が確認され発症者は年齢層が幅が広いのである。

 

 

 

「全く…冗談にもならないですよ…」

 

 

 

加えて例の「洋城」の出現以来曇天が続くなどして民草の気はどうにも落ち、また記事にもあるようにその曇天と幻術などを結びつけて異変だなどと騒がれている始末である。

 

 

 

「縁起でもない…確かに関係がないとは言い切れないけど…」

 

 

 

先代の御阿礼の子で衛生環境を整えた人里であるから疫病が発生するのは些か不自然ではあるものの、無いわけではないのだ。

 

 

 

「とりあえず都市インフラの再確認と感染者同士の繋がりを、かな。寺子屋への対処はその後に回して…。感染者は今のところ全員人間で、初期症状は椎骨の激痛。後者に至ってはギックリ腰と区別がつかないのだけど…。」

 

 

 

またこの疫病、既に死者が出ている。

 

遺族の承諾を得たため、遺体は現在竹林の診療所で解剖が進められている真っ最中であるが曰く

 

 

死因は椎骨の激痛によるショック死であり、また奇妙なことにその遺体は()()()()()()()

 

 

のだという。

遺体が生まれながらの奇形でない事は人里の戸籍帳簿から確認済みであり、その遺体——女性であった——の子にはなんの異常も現状では見受けられない。

どのような要因でどのような過程を経て椎骨が増えるなどという奇怪な状態に至ったのかは定かではないが、その上下両側を挟む椎骨の接触部は酷く圧迫され罅割れてひしゃげ、筋肉や皮膚には無理矢理に引き伸ばされたとみえる傷があるなど「増えた」ことによる影響が色濃くまた鮮明に遺されているという。

 

 

その様や痛みを想像して思わずブルリと細い体を震わせた阿求はこの奇妙な疫病のようなものへの対処に再び頭を悩ませ始めた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

整えられた碁盤の目状の広大な人間のための市街。平時ならば活気に満ち溢れた大通り、路地を駆けて遊ぶ子供の声がするはずであったが。

件の疫病が流行り出し日射時間が空を覆う薄気味悪い厚い雲によって極端に減り出してからというもの、人里はその街並みに似合わぬ陰鬱とした空気に包まれている。

 

 

 

「…」

 

 

 

活気の無くなった人里を至極詰まらなさそうに、その口の煙草を燻らせて歩く白髪の少女——藤原 妹紅——は物思いに耽っていた。

 

それは此処までくる道中に人里の農民の爺から聞いた「太陽」についての話である。

曰く

 

 

厚い雲もこの時期にゃおかしいがその遮る陽が、なぜだかあの熱く刺すような懐かしい日差しが今では恐ろしくてかなわねぇ。

 

 

と。妹紅にはこれがどうもただの爺の妄言とは思えず聞いてからというもの引っかかり続けているのである。

 

 

 

「日が…ねぇ」

 

 

 

無意識に寺子屋へと向いていた足は通りを入ってその通用口もすぐというところまで来ていた。それに気づいた妹紅は一旦思考を切り替えて、寺子屋から出てきた妖精や人の子に声を掛ける。

 

 

 

「よう、ちびっ子。もう終わったのか?まだだいぶ早いが」

 

『終わったよ、もこー!また遊んでくれるの?!』

 

「はは、いやすまんな今日は慧音に用があるんだ。中にいるのかい?」

 

 

 

一応用立てがある様に見せかける妹紅であるがその実はあまりない。強いて言えば暇つぶしの一つである。

 

 

 

『…もこー知らないの?』

 

「何がだ?」

 

 

 

ソワソワと真ん中に立っていた子どもが言い辛そうにすると後ろに助けを求めるように振り返る。そしてその背後の子達もまた困った顔をしてざわざわとし始めた。

 

その寺子屋の子供達の反応をみた妹紅は嫌な雰囲気を感じ取って疑念を抱き、また強い不安感から焦りながら問いかけた。

 

 

 

「慧音に何かあったのか…っ?」

 

 

 

尚更にざわざわとし始めた子供たちは困って、しかしついにその中の妖精——チルノと大妖精——が口を開いた。

 

 

 

「みんな言わないならあたいがいうよッ!けーねせんせーがえきび——むぐっ」

 

「チルノちゃん!!言っちゃダメって散々言われたでしょっ!?——……あっ」

 

 

 

一瞬。ほんの刹那。

大妖精にチルノが口を塞がれるまでに言い掛けた単語は確と妹紅の耳に入り、足りない部分を知見から補った妹紅の脳は途端に思考を放り出した。

 

 

 

「…慧音…が?」

 

「あのっ その…チルノちゃんが——というか私たちは……」

 

「ぇ 『疫病』に…? って」

 

 

 

考えるよりも先に湧き上がった感情の波が妹紅を衝き動かし、妹紅は寺子屋の中へと駆け込んだ。彼女の平時ならばあり得ぬほどの烈しいそれは裏口を使うなどの考えもつかず強引にも入りこんでいく。

 

その背後からは寺子屋の生徒たちが制止しようと必死に追いかけて言葉を発するがそれはもはや彼女には届かなかった。

寺子屋の教室の裏手、教材室の次の障子を勢いよく開けた妹紅が叫ぶように言う。

 

 

 

「慧音ッ?!大丈夫か…っ んん?」

 

 

 

そこに居たのは件の青っぽい銀髪の少女——上白沢 慧音————であるがその本人は酷く怪訝な顔をして妹紅を見上げていた。

 

 

 

「何事ですか……私はこれから稗田邸に行くんですが。」

 

 

 

座布団から立ち上がった慧音に立ち塞がる形の妹紅の背後へようやっと追いついた妖精二人が慌てながら弁明を始めた。

 

 

 

「ごめんなさい慧音先生っ!慧音先生は『疫病の事で稗田邸に行くのは言い広めないように』って言ってたのにチルノちゃんがですね——」

 

「…あぁ、わかったわ。大妖精さんたちはもう結構です。早くお帰りなさい。で、妹紅はその最初の一言だけ聞いて慌てていたということで良いですか?」

 

「〜〜〜…ッ!」

 

「まぁ…私もハクタクとはいえ半人なので感染する可能性がないわけではないですが、早とちりでしたね。ご苦労様です。」

 

「…」

 

「それにおそらくあれは人に対する呪いの類でしょうけれど。とそれはこの後お話しに行く話でしたか。そこを退いていただけますか?」

 

「すまん…」

 

「いいですよ。それではこれで。」

 

 

 

慧音はそう言うと脇に退いた妹紅の前を通って足早に裏口へと消えた。途中、まだ居たらしい妖精の2人組に注意を飛ばしながら(頭突きのジェスチャーをしながら)

 

その場に一人置いて行かれる形となった妹紅は少し頭を冷やそうと、寺子屋を後にすると来た道をそのままに田圃道に座る爺の元まで戻った。

 

 

 

「…なんだ、用は済んだのか?」

 

「あぁ、まぁそんなところだ。」

 

 

 

妹紅は爺の言葉の違和感に、爺への違和感に気付いたのだった。

 

確かに洋城の記事から連日曇りが続いているはずであってその間に陽をみる機会などなかった。しかしこの違和感はそこではない。

 

藤原 妹紅、人里はおろか幻想郷全体で名の知れた不死者に対して臆することもなくただ平然と口を開くこの爺は()()であるのかと。人ならば妖の類に関わらず、しかしこの爺に人の気はない。

そこに座す老体には恐れもなく畏れもない。

 

 

 

「なぁ…あんた何もんだ?」

 

「なぁに、しがない爺さんじゃ。老骨にして田圃を養うだけのな。」

 

 

 

田圃道から見渡す爺は溜息ひとつ吐いて言った。

 

 

 

「マァしかし継ぐ子がおらなんだ、この田圃も儂がおらねば直ぐに荒れちまう。まったく、老人には辛いもんよな。節々が痛うなるのは是のせいなのか病なのかすら知れんときた。」

 

 

 

()の言う病とは疫病のことであろう。

 

 

 

「それに加えて昨今の里の暗さよ、まぁったく面白くないじゃ——ぁ———」

 

「…? おい———ッ!」

 

 

 

不自然に途切れた言葉と息に妹紅が目を向けるとそこに居たのはまるで骨格に皮をかぶせたような凡そ人とは言い難い容姿に、見えているのかも定かでない虚な穴を穿っただけの目。

 

 

 

「なっ、妖か……ぃ?」

 

 

 

これがただの妖ならば話は早かったであろうが。

 

突如地面から跳ね上げられたように立ち上がったその骨は途端に頭を抱えて踠きだし、また声帯を壊してもなお止まらぬ金切り声を上げた。

そして体の穴という穴から、口や目鼻の至るところから暗い膿を吐き出してそれを纏う。肥大化した頭部は蛇のようで真っ赤に発光する目玉を擁し、樹木に纏わり付かれた手足が不気味に蠢く理性なき怪物がそこにはあった。

 

 

 

 

*1
紅霧異変は八月で本作は十月






偽りの太陽に照らされて人の存在が歪んでいきます。


でもそういえばコイツらって序盤と最後にしか出ない謎キャラでしたね。…えっ戦闘描写はどうしたって?…ヴっ (YOU DIED)

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