妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

ダクソ式世紀末

今回の注意
ちょっと長くなりました。
 


遠征隊の記
一、


 

天魔、天狗の里長に大天狗による合議は三日三晩行われ、漸くと結論が打ち出された。

 

時は文々。新聞が人里の「疫病異変」を報じた二日後となる。

疫病異変では人里の全域に件の疫病が蔓延し、しかもその末期症状の幾つかも明らかとなって人里中が疑心暗鬼と阿鼻叫喚の渦中となった。

誌面曰く

 

 

初期症状に椎骨の痛みがあることは共通するが、末期症状には奇怪なことに樹木と化す者もいれば黒き怪物となるも様々で予防の術があるかは依然として不明である

 

 

と。また怪物には火が効くというのが藤原妹紅への射命丸の取材などで明らかとなるが、この報道が原因で人里では大火事が熾るなど大惨事を生んだ。

 

閑話休題。

 

 

 

人里の騒動を鑑みた天魔が反対していた、測量隊に白狼天狗の部隊を含む「遠征隊」の派遣は大天狗と里長によって推し進められる形となり今に至る。

 

編成された部隊構成は白狼天狗総勢二十五人、うち測量隊が五人の大部隊である。

洋城勢力を危険視するのは合議内で共通の意識であったものの、だからこその不干渉を掲げた天魔に対し他は強硬論を掲げ、不満を抱えた里の支持を得た。そのために妖精大戦争以来の挙兵となったのである。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

ようやく博麗の巫女が動くらしいという噂を余所に里の門を出た遠征隊は山を下ってその向こう側の盆地から洋城裏を目指す。

 

妖怪の山の向こう側は未開拓の地域で、この盆地は鬱蒼とした森が広がり反対側の山には大結界の端があると言った幻想郷の中でも辺境にあたる地区である。

そしてその中に突如現れる天まで届くような霧の壁はその異様さをありありと示しているのだ。

 

早朝に出立した遠征隊が霧の壁に辿り着いたのは正午前。ご丁寧にも境界を可視化した状態であるかの壁を前にして慎重に、万全を期しての突入とするため隊列を再確認した上で正午まで小休止とともに早めながら昼食を摂った。

 

 

当然ながらとてつもない緊迫感に包まれたなかでの小休止で休まる者もないのであるが、ともかく遠征隊の隊長—— 白狼天狗には珍しく褐色肌に白髪で黒い革防具を着込むが()()()()()のある人物——がその懐中時計で時刻を確認して号令を出す。

 

 

 

「よし、時間だ。小休止終了!これより突入する!」

 

 

 

測量隊を中心に五・五の方陣を組み、前から霧へと踏み込んでは消えてゆくその光景はまるで巨大な怪物に喰われていくようで酷く不気味であった。

後方列に組み込まれた椛でさえもがそう感じたほどに。

 

 

 

濃霧に吸い込まれるように踏み込んだ途端、椛やその他全員を包み込んだのは水平感覚もなくなるような暗闇であった。またその周囲には他の隊員の何れも見えず、何故か独りで暗闇に立たされるのである。

しかし不思議と不安はなく、またこの暗闇も寒々しい深淵というよりかは陽当たりでの微睡みのようなふわりとした心地のいい感覚を呼び起こす。

 

しかしそれも刹那のこと。

次の一歩を踏み込んだ途端に得体の知れない重圧を全身に受け、また次の一歩を踏み出すと眩いばかりの光を浴びてその空間を抜けた。

 

 

 

 

霧を抜けた先はまるで異世界であった。

 

 

 

 

灰を思わせるような砂塵によって覆われた荒寥とした地が広がるが、右手の妖怪の山方面に()が見える。

 

洋城に同じドーム建築に尖塔、そして見上げるほど高層の城壁が最奥に聳り立つ。そのさらに向こう側には先ほどよりも薄く、影が揺らぐ程度の霧の壁が洋城の大聖堂の薄っすらとした姿をみせている。

また街の立つ急斜面を城壁へ向けて登る大階段が確認出来たがその間には不気味な黒く暗い沼が広く横たわって行手を阻んでいるのだ。

 

 

 

「再集合だ。椛はこっちに、方針を決めるので測量隊の方とも話をしたい」

 

「わかりました」

 

「了解しました。方陣は維持させます」

 

 

 

境界を抜けると、バラ付きはあるものの周囲に現れた遠征隊の隊員たちを再度集めなおし方陣を再編させた。

椛は遠征隊の隊長格二名と測量隊の隊長によって方針を決める会議に参加する。ちなみに椛は遠征隊に属する白狼天狗二隊のうちひとつを任されているのである。

 

 

 

「先ず測量隊からですが、事前調査の際に報告した地形から大幅な変更はありません。あそこに市街地ができているというのは驚きですが」

 

「とはいえ市街地の構造までもがわかるわけではあるまい。一先ずはあの大階段を目指すしかないだろう」

 

「ですが沼地が横たわる関係上、前進にはかなりの時間を要するかと思います。砂漠側から沼地を迂回できないでしょうか」

 

 

 

椛の発案に頷く隊長の横から返答が入る。測量隊だ。

 

 

 

「それは最もでしょう。しかし右回りと左回りがありますがどちらに進みますか」

 

「最短は右回りか」

 

「恐らくは」

 

「白狼天狗部隊はもとより二隊で分割できるから問題はない。しかしその場合測量隊はどちらから回るのかね」

 

「沼地の広さを大体で測りたいので左回りが良いかと思いますが、どちらにどちらの部隊が向かうのでしょうか」

 

 

 

褐色肌の隊長がいの一番に声を上げた。

 

 

 

「なら俺の部隊が右回りを買って出よう。先に大階段の制圧を行っておく」

 

 

 

褐色の肌に白髪が良く映えている。

女天狗の教練部隊を本来任せられている彼女は新人天狗たちからは白狼・烏で違わぬ「鬼教官」として知られる一方で、男性天狗からの人気も厚いのだとか。

 

そんなことを思い出しつつも椛は返事をした。

 

 

 

「助かります。では次の合流地点は大階段ということでよろしいですね」

 

「うむ、問題ない」

 

「わかりました。測量隊は私の部隊を五-五で分けますからその間に入ってください」

 

「了解です」

 

 

 

褐色の白狼が懐から再び懐中時計を取り出した。

よく磨かれ整備された金の西洋式懐中時計は寸分違わず時を刻み続けている。

 

 

 

「もう十二時半…つまり正刻半ば過ぎか。こちらはすぐに出発する」

 

「では私たちも隊列を組みなおし次第出発します。御武運を」

 

「——そちらこそ武運を」

 

 

 

別れ際に振り向いてにこりと笑い盾を掲げて返す姿に、椛は付き合いが長いながらも彼女の魅力を感じて微笑みを返した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

椛隊が隊列を組みなおして出発、沼を左回りに迂回し出した頃。

もう一方面——右回りの部隊——では早速会敵した。

 

岩を削ったかのような独特の全身鎧がその頭部から垂らす赤い飾り糸を揺らし、巨躯に見合った大楯と大斧を手に立ち上がる。

 

 

対話の余地は、無い。

 

 

鎧が侵入者を認識してすぐそのズシリとした大楯を振り上げんとするより早いかどうか、褐色の白狼が指示を出した。

 

 

 

「———ッ! 散開!!!」

 

 

 

彼女の練度高い部隊はすぐさまこれに応じて五列横陣から鎧を囲うように散開した。しかしもはや鎧の動きは止まらない。振り上げられた大楯は彼女に向かって勢いよく振り下ろされた。

 

 

——ズガァン—ッ——

 

「く、フンッ!」

 

 

 

何とか盾で受けた彼女は続く大斧を前へステップを踏み背中側へ股を潜り抜けて回避、すぐに体勢を立て直して刃を振るう。が、鎧に阻まれて思うようにはいかずまた鎧は腰を捻って盾をつくことで対応した。

盾をついたそれだけの衝撃でも軽い体が吹き飛ばされる。

 

 

 

「あがっ ぐぅ」

 

 

 

自重任せに盾をついた鎧の隙を逃さず散開陣形を取った白狼天狗が各々にタイミングを図りながら攻撃を加える。

一見して鎧の硬度に弾かれていくようなその斬撃であるが隊員のうち一人が鎧に対して深く斬り込んで言った。

 

 

 

「血?!鎧に対しても深く切り込めば出血を強いれます!脚部を集中的に攻撃して脆弱化を狙っても良いかも知れません——うぐ———あッ」

 

 

 

他方を向いた隙であったが振り下ろされた斧に斬り付けられ、その胸にばっくりと大きな傷を受けてしまう。

 

 

 

「あ がぃだっあ」

 

「大丈夫かッ!?ダメならすぐに退け!」

 

 

 

しかし歯を食いしばって痛みに耐え、刀を構え直して返す。

 

 

 

「大丈夫…です…ッ!」

 

「…無理はするなよ」

 

「はいッ」

 

 

 

再び戦闘に加わった白狼を見つつも、また一人と鎧を前にして負傷者が出る。斧の振り下ろしを避けきれず盾受けを試みるもあまりの力に盾を剥がされ、続くシールドバッシュを生身に受けて吹き飛ばされ背を砂に強く打ち付けた。全身と臓腑の尽くを襲う鈍痛にただもがいて上体を起こせずにいる。

 

 

追撃に鎧が向かうのを止めにかかるようにして白狼の数人が脚部へ斬り込みをかけた。

先程攻撃を喰らった白狼もそれに加わって懸命に斬りつける。

 

 

そして鎧がそちらへ振り向いた丁度その時——傷を負った白狼がその切っ先を鎧の左膝にあたる可動部に空いた隙間へ深くザクリと刺し入れると、今度は後ろへ重心をやってステップの要領でこれを引き抜いた。

 

暗い血飛沫が上がり鎧は堪らず片膝をつく。

 

これ好機と白刃を並べて追撃に出る。

 

が、それを一歩退いて見た白狼の隊長は鎧の動きに気づけたのだった。

 

 

 

 

 

「ッ退け!!!罠だ!!」

 

 

 

それに反応してすぐさま距離を明けるなかただ一人、その場から動けなかった者がいた。

あの傷を負った白狼。

 

 

渾身の一撃を繰り出してすぐ追撃に乗った彼女は持久力を読み違えた(息を切らせた)のである。

 

 

片膝をつきされども振り上げられていた鎧の大斧は雷を帯びて叩きつけられ、落雷を思わせる音と共に砂や沼の液体が舞い上がるほどの衝撃波を生んでその尋常では無い威力を示した。

 

 

即座に距離を取った白狼たちでさえもがその余波に吹き飛ばされたその一撃が、直撃すればどうなるかなど想像するに容易いものであった。

しかし同時にそれは希望的な思いを孕んでいて、砂埃が晴れた後の光景によってそれらは完全に否定されることとなった。

 

 

 

「!ぁ…あぁ、———ッ」

 

 

 

膝に受けた一撃を物ともせず立ち上がった鎧の、その足元。

引き抜かれた大斧の分厚い刃によって無惨にも貫かれたそれは喘鳴を一つあげることも叶わず、骸となってそこにあったのだ。

 

 

その姿を見たことで隊内に喪失感が広がり、膠着した者がまたさらに鎧の重い斬撃を喰らう。ただ一人を除いては。

 

 

 

「剣を持ってしっかりしろ!」

 

 

 

褐色の白狼がそう隊員に言いながら繰り返し斬り込んで敵の意識を逸らす。大楯の横凪ぎを姿勢を低く腕の下に滑り込んだ彼女は肘の関節部から刀身を突き入れ、弾性を利用して自分の体を打ち上げると勢いそのままに刃で腕の周囲を切り裂き地に降り立つ。

中身が()()のだとすれば軽く腕が取れるであろうがビクともしない。

 

途中ピキリと厭な音がその刀身から発せられ、薄いながらまず壊れることはないと言われていたその刀に罅が入ったが気にしてはいられなかった。

 

 

 

「立て!貴様らッ!死にたいのか?!」

 

 

そう言う間にも彼女の左腕にあった盾が鎧の攻撃を受けた拍子にひしゃげて砕け散る。

しかし彼女の心は折れなかった。繰り返し部下へ檄を飛ばしつつ攻撃をすんでの所でヒラりと躱し、反撃を出す機を窺う。

 

ジリジリと盾を構えそれぞれに得物を構えて睨み合いが続き、鎧が武器を振るう予備動作に入った時双方の視界が光に塗れた。

なんとか持ち直した白狼たちが弾幕で牽制をしたのである。

いち早く状況を理解した褐色の白狼は怯み垂れた鎧の首の継ぎ目を目掛けて刀を突く。これがトドメのつもりで強く突き入れたのだが。

 

 

 

首では死なぬ鎧は首の刀が抜ける前に背を伸ばして立ち上がり、それによって刀を抜かんとしていた褐色白狼が振り落とされてしまった。

 

 

 

鎧は突如入った横槍がよほど癇に障ったらしい。大楯を背にして不意に居合抜きのような独特の構えを白狼たちへ取る。

 

しかしそれは明らかに大斧とは間合いが違い、弾幕の間合いとすら言える中距離にである。

物を言わぬ鎧はその両の手でもって大斧を切り上げると突風を巻き起こし大きな刃を為して白狼たちに殺到、一挙に薙ぎ倒して見せたのであった。

 

 

 

 

 

 

しかしそれ(結果)を見とむるより先に、脚を動かした白狼がいた。

見ずともわかるような来たる惨劇に、その先に転がるであろう骸の山を認めたくないというただその一心で。

結果は変わらないと分かっていながらも、ただその自分勝手なエゴイズムで。

 

 

 

 

 

 

白い光と黒い影の一塊になったそれは悲しきかな時すでに遅くとも構わず振り切られた大斧、背の大楯と飛び移って首に手を回し、刺さった刀を引き抜いて再度鎧のスリットへと其れを滑り込ませ、これを致命の一撃とした。

 

 

 




 
輪の都を人間性の沼から入って階段を登っていく逆走ルートですイヒーヒヒヒヒヒ。ただその関係上、敵の配置が一部変わります。

また体力的に一話にはまとめられないので、今回の「遠征隊の記」は何話かに分かれます。


■以降は関係のない戯言ですので、読み飛ばして頂いて構いません。

エヴァンゲリオンとアーマードコアのクロスとか面白そうですよね。
どなたか書いてくださったり…あっいや別にいいんですよ?無理にとはいいませんので。ただ私はエヴァ知識あまり無いもので…ね。
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