妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

巨躯の鎧と白狼と

今回の注意
今回も長めです。
(遠征隊の記は総じて長めかもです)


二、

 

スリットに突き入れた刀はギリギリギリという鉄の軋む音を上げ、褐色の白狼がこれを引き抜くと終にその刀身は砕け散ってしまった。

 

見れば鎧は糸の切れた操り人形のように関節をあり得ない方へ曲げ、また中身を失った甲冑がガラガラと音を立ててその場に崩れ落ちる。斧や大楯もまたその場に残されて行った。

 

 

そしてかの鎧を討ち倒した白狼の部隊もまた緊張の糸が切れたようで、膝をついている者の他に啜り泣く声が聞こえている。

 

 

この一戦で仲間の内から既に三名の戦死者が出た。

全身を強打した者は身体中の内出血が痛々しく最期まで苦しみ、『落雷』の直撃を受けた者や他に風の刃を受けた一人がその命を散らせたのである。

その上大多数は傷を負ったために万全とはいえない状態となり、敵と命をかけて対峙する恐怖で体が震えている者もまた多い。

 

 

一方で引き抜いた反動のまま鎧を蹴って着地していた褐色の白狼は踞って踠いていた。

 

 

身体の中をかき回す熱いナニカが()()のである。

それは戦闘時の興奮によるアドレナリンのせいでは無い。

 

引き抜かれた刀にぼんやりと纏まりついた黒く暗くそれでいて暖かかったナニカが、彼女の刀身を振る間に指先、腕、胸元から首そして口へと這い上がるようにして入り込みその体を犯し尽くすのである。

 

 

「んぐっ ぁあぎ、 ぁ あ」

 

 

()()()しかしそれでいて()()()()ソレが彼女の中を引っ掻き回り侵食して、誰かに対する()()()()()()()()()()()を抱いたナニカが入り込む気味の悪い感覚に苛まれるのだ。

 

 

「あっ つぅっぅく、あ"あ"っ…うっ フゥッ フッくぅ…」

 

 

しまいに彼女の内側へと溶け込んだナニカが語りかけるように頭痛を発させる。まるで「動け、動け、動け!」とでも頭蓋を内側から叩いて訴えかけるようであった。

熱い目頭から流れるのを堪えながらゆっくりとしかし確かにしっかりと立ち上がった彼女は息を整えた。すると途端に件の頭痛がその鳴りを潜める。

 

痛みが引いて深呼吸をしていたところに負傷者の手当てへ自発的に回っていた白狼が走り寄って来た。

 

 

「負傷者の手当ては一通り終えましたが…隊長は大丈夫ですか?」

 

 

酷く心配しているようで、流れそうになっている目には合わせなかった。それでようやく気づいた褐色の白狼は手でそれを拭うと応える。

 

 

「…あぁ、すまん大丈夫だ。もう先に進まなければならない。負傷者の様子はどうだ?歩けそうか?」

 

「…えぇ。武器を持てないほどという者も居ません。…あの三人が引き受けてくれたのかもしれませんね…彼女たちは如何しますか?」

 

 

彼女たちとは、戦死者のことである。

 

 

「…すまないが、遺体は持っていくことができないだろう…。ドッグタグは回収して帰還した時に本部へ伝えるように。」

 

「はっ。装備の類は」

 

「装備と共に簡単に弔ってやるのがいいだろう。死んでも尚辱める必要は、ない…。」

 

「…分かりました。ではそのように。」

 

「…。」

 

 

次ぐ言葉が思いつかず、斃れ臥した彼女たちを一瞥するとその白狼はまだ動ける仲間たちに呼びかけるべく離れて行った。

 

 

「ああ、はぁ〜…」

 

 

顔を逸らして目元を両手で覆う褐色の白狼。

 

 

「ははは…ぁ 見られるわけにはいかないじゃないか…」

 

 

しかし涙はもう流れなかった。

 

ふと鞘へ戻した刀の柄を握り引き抜いた。半ばから折れた歪な刀身がそこにはあるのであるが、それが刀故にもはや使い物にはならない。そしてあの鎧が得物の大斧を見た。

主人を()()()()それは巨軀の鎧のものより一回りか二回りも小さくなってそこにあった。妖刀の類であるのかもしれない。

 

 

「…貰うぞ、鎧。」

 

 

その柄に触れ、妙に馴染むのに不思議な感を覚えながら持ち上げてその重さを確かめる。片手で十分に持ち上げた彼女は一度地へと刃先を衝いて言った。

 

 

「鎧ほど熟達はしていないが…何、死ぬまで使うさ…ゆえに返せんぞ。」

 

 

相手は空き殻となった鎧かそれとも。

 

頭痛は、なかった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「…隊長それ使うんですか…」

 

 

それとは無論、褐色の白狼が肩に乗せている大斧である。仲間を三人屠ったその得物を手にする姿を見るのはなんとも言えないものがあろう。

 

 

「…うむ。俺は盾と刀が使い物にならなくなってしまったし、これでも片腕で振るえるからな…」

 

「…そうは言ってもですね…」

 

「彼女らの物は彼女らの物だよ。俺にそれを奪う権利はないしもとよりそのつもりはない。…それにこれなら彼女たちのことも鎧のことも一挙に背負っていられるだろう…?」

 

 

そう言って彼女はいかにも重厚な大斧を片手で持って斬り上げる動きをして見せた。哀しさが拭えない目でも笑って見せる彼女が先導して、再び大階段を目指し進み始めた別働隊は沼地を縦断する。

 

左手奥には沼地に沈み込んで傾いた教会のような建物が見え、何やら火の粉が舞って魔法の残滓か青い光がその向こうから発せられている。

 

 

「戦闘でしょうか…?」

 

「…椛だろうな…下手を打ったらしい。……無事だといいが……。」

 

「救援へ向かわれますか?」

 

「……いいや、このまま大階段を目指そう。椛には悪いがどうやら彼女のおかげで敵はかなり掃けたようだからな。先ずは我々の任を進める。」

 

 

事実、沼地には蠅の姿でさえも疎らである。

しかし会敵を最小限にするためにと褐色の白狼は隊へ指示を出して右側の岸壁や建造物へ寄って進むようにさせた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

黒い結晶が所々にある他、脂の浮いた変に黒く暗い沼の水、そして目が虚な人の顔を持つ蠅は魔術を使うなど魔境も魔境であるこの地はしかしはっきりとしてわかった事があった。

 

 

話は通じない

 

 

という事である。

単に言葉が通じていないと言うのではなく、話す能がないというわけでもない。事実なにか呟く声や祈りを捧げる声がそこかしこから聞こえるのであるから話せないわけではないのであろう。

 

ではなぜか。

端的にいえば気が違っているのである。

 

見ればすぐに敵意を示して攻撃を行うその姿は人というより獣か、ナニカに飢えた餓鬼や生ける亡者のようなものなのであろうと推察できる。

 

 

「…」

 

 

叩き潰された、甲羅のようなものを背にした翁もそうであったのだ。

低い鈴の音と共に詠唱した彼らが隊列の足元に出現させていた結界陣はその中に立ち入った者の体内から剣で貫かれるような激痛を発させるといったものであった。これのために隊員のうち数名が休憩を要して、一旦進行を停止している。

 

褐色の白狼はその大斧を亀のようなそれへ振り下ろす度に手に感じる、殻を破るようなそして骨や肉を断つような生々しい感覚に顔を顰めながらトドメを刺した。

ふと休憩していた隊員の様子を見れば結界陣の痛みからは立ち直れたらしく、彼女は安心して軽く胸を撫で下ろしていた。

 

 

「…処理が終わりました。次へいきましょう。」

 

 

白狼のうち一人がそう彼女へ告げる。

頰についた返り血に気付いていないのか拭わない。

 

 

「…お前…殺めるのに慣れるなよ?我々が振り下ろす刃が奪うのは、仲間となにも違わないのだからな…」

 

 

たとえ姿形がかわっても、とそう含んで。

ハッとさせられたらしいその白狼は慌てて頰を拭い答えた。

 

 

「っ!…失礼しました。肝に銘じます。」

 

「なにもお前一人に言えた話じゃないが…な」

 

 

他の隊員のみならずそれは自らへの戒めなのだと、柄を握り直して斧を肩へやりながら褐色の白狼はそう思ったのであった。

 

しばらく集ってくる人面蠅をその都度排除しつつ沼地を進むが、あの鎧以来の強敵は現れておらず気が緩む。しかし同時に褐色の白狼は自身の勘がけたゝましく警鐘を鳴らすのを感じ続けていた。

 

 

「…もうすぐ大階段だ気を引き締めなおせ。」

 

 

ズシリズシリという重く不気味な歩行音が岸壁を挟んだ向こう側の階段から聞こえているのである。それに気づいた白狼たちは直ぐに気を張ってその足音から様子を探り始めた。

全身甲冑の敵は少なくとも三体で階段の上方を往復しているのだと予測を付けた褐色の白狼は指示を出す。

 

 

「次相手が上へと登り始めたら大階段を挟んだ反対側へ行って制圧を行う。大階段自体の制圧は危険だろう。」

 

「そろそろ椛さんの部隊と合流できるといいのですが。」

 

「その辺りも含めて探索するとしよう。ここは分散していくには危険過ぎた。」

 

 

そう話すうちに足音は階段を降り終え、しばらく歩き回ったのちに再び階段を登り始めた。彼らに意思というものはあまり存在しないのであろう。

 

 

「よし、今のうちだ急げッ!———」

 

 

両側を街に挟まれ緩やかなカーブを描く大階段が姿を現す。上方には間隔をおいて幾本かの巨大なアーチ橋が架かっておりそこから垂れる蔦や細部の苔、階段の擦り減り具合がこの都の古さを示す。

 

しかしその景色に見惚れている場合では無い彼ら白狼部隊は終段が沼地に没した階段の前を横断しようとし———

 

 

 

———水面下から突如現れた者たちによって押し上げられ、阻まれた。

 

 

 

ザアァァァッという大きな水音と木の根を断つようなブチブチという音とともに水面の下、水底の奥深くから立ち上がったのはあの鎧に負けずとも劣らぬ巨軀の甲冑。

 

木の根によって甲冑同士をつなぎとめ、丸く大きな胴体には擦り切れ破れた赤いサーコートの残骸が垂れた騎士。その手には一振りの人の身ほどの大きさもある曲剣が握られており、何より目を引くのは彼には頭が存在せず鎧のような黒い靄が首の虚な穴から溢れ出ているのである。

 

 

そしてそれが二体。

階段を巡回する者を合わせると五体にも登る

が不幸中の幸いか巡回する者には、他と巡回のタイミングがズレていた一体を引き付けてしまったことを除いては気付かれていないようである。

 

 

「——チィッ散開!弾幕も怯ませるくらいはできるッ、使えるものは全て使って応戦しろ!うち一人は俺が引き受ける!」

 

「「「「「「はいッ!」」」」」」

 

 

褐色の白狼が一人で騎士一人を相手取ると他六名は半々になって他の二人へと対応すべく分かれた。それぞれ弾幕が一名に前衛が二名の白狼部隊として戦い慣れた形式へと移行して冷静に対処している。

 

 

「ふむ、よろしい。さて俺はこいつを倒さなければな…ッ」

 

 

騎士が大きく振るった大曲剣は力強くされど精密さは失わない、かなりの技量と見て取れる。これを彼女はバックステップで避けると次いで振り下ろしを紙一重に躱す。

 

 

「恐ろしい精度、しかし隙は あるッ!」

 

 

水底に曲剣の先が沈み込むほどの振り下ろしはしかし次に持ち直すまでに通常より時間を要する物なのだ。加えて白狼天狗の踝程度まである水深では鎧の戦った場所よりも深く余計に遅れが出るであろう。

 

 

「食らえッ」

 

 

鎧の振るったほどではなくとも片手で二度横凪に振るわれた大斧は、その重い刃と微弱ながら帯びた雷で騎士を怯ませまた一撃一撃を着実に中身へと与えた。

 

良い手応えを感じながら褐色の白狼は一度後退して距離を取る。

 

褐色の白狼が再び機を見るべく騎士の薙ぎ払いを回避する頃、別の騎士と対峙している方向が弾幕の光に包まれた。戦況の気になった彼女がチラリと横目に確認すると、騎士の溜めを弾幕で阻止しその隙を攻撃する姿が見えた。

 

 

(うまくやっているようだな…)

「っと 危ねぇッ」

 

 

彼女が隊員へと意識を逸らしたほんの瞬間に曲剣特有の滑らかな連続攻撃が繰り出され、それに気付いた褐色の白狼は目の前まで迫っていた鋒に身を翻してこれを避けた。

 

 

「まだだ——なぁッ」

 

 

不意に大曲剣の両端を掴んだ騎士は乱暴にもこれを大ジャンプからの落下攻撃に繋げて連続で振り下ろす。急に飛び上がった騎士を警戒して距離を取った彼女はしかしその乱暴ながらも精密な刃に捉えられ———

 

 

「不味———

 

 

 

 

 

 

 

「———援護しますッ!!」

 

 

横あいから騎士へ浴びせかけられた大量の弾幕にまたしても助けられた。

 

驚いて回避してから見ると階段の向こうにある建造物のアーチ口から白狼天狗十数名が、褐色の白狼が相手取る騎士へ放っているのである。その位置から弾幕を撃てる部隊は一つしかないであろう。

 

 

「!!椛か…っ!」

 

 

椛隊との合流が、ここに成った。

 

 

「すまないっ!俺より先に部下の方へ回ってくれ!!助かったぞ!!」

 

「分かりましたっ!」

 

 

返事した方を見るとそれは

測量隊の副隊長であった。

 

 

「——ッ!」

 

 

情を気取られぬようにと目を背けるが、彼女の中にはハッキリと()()()()の暗い影が浮かび上がっていた。

 

 

騎士が褐色の白狼へと進みでながら腰を捻り右手を振り上げる。

これを瞬時に見とめた彼女はかの鎧を模して居合のような構えを取り、曲剣の振り下ろしより一瞬早いかどうかで大斧を両の手を使い全力で斬り上げた。

 

 

これが上手いことに騎士の大曲剣を胴当てを切り裂いたのちに払い上げ(パリィし)、騎士は体勢を崩して首の穴を前に手を付く形で倒れ込む。これを見た彼女は空かさず大斧を首の穴目掛けて振り下ろしこれによって相手の命を刈り取った。

 

 

「よしッ!——と……ぁ——ッ!?!」

 

 

糸の切れた敵を確認して隊員の救援へ向かおうとした時、彼女の目は最悪のタイミングで最悪の事象を見てしまった。

 

 

 

 

 

階段上方へ巡回して戻ってきたあの騎士が

 

全くの新手として階段を急ぎ降ってきているのだ。

 

 

 

 

 

階段の下方でこれだけの騒ぎ(戦い)を起こしていれば気づかない方が難しいであろうという考えに至ったがしかし彼女はそれを見る事しかできなかった。

 

そしてそれら二体の騎士が奥の一際高い橋の下に差し掛かった時。

 

 

 

 

二つの白い影が橋から下りてその甲冑の首を貫き通したのだ。

 

 

 

 

 





前回で合計文字数が22222字、平均が4444字のゾロ目となりなぜか喜んでいた作者、人間性です。こういう至極くだらない内容でもなぜか嬉しい事ってありますよね。

それはさておき、DLC2で人間性の沼地に本来配置されている量産型アルゴーには居なくなってもらいました。私はヤサシイので。


さて次回は椛側つまり沼地の外から見て左側を攻略していく方のお話となります。
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