妖怪の山は洋城の夢を見る   作:Humanity

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前回のあらすじ

落下攻撃が有効




五、

此方を覗き窺うようなその黒く暗い穴へ、真っ直ぐに刀身を突き入れた椛はただの空間であるはずのその甲冑のなかに()()()()()()()()()()かのような手応えがしたために快くは無いといった表情を呈す。

 

深く刺さってしまった刀を無理矢理に抜き、また再度トドメにと突き刺すと前に傾いた重心のままに鎧は力をなくし崩れ落ちた。

戦士を斃すと同時にナニカが入り込み自身の内側に溶け込むような奇妙な感覚が褐色の白狼と同様に椛やそばの槍の白狼を襲うも、彼女らはそれに構ってはいられない。

 

合流を果たした褐色の白狼が遠巻きながら椛に声をかける。

その横では二体の戦士が弾幕に覆われ、白刃に囲まれて討ち倒されていた。

 

 

「椛!無事だったか?」

 

「えぇ、…負傷はしましたが戦うのに支障はありません。」

 

「私も大丈夫ですよ。隊長さんの得物もなかなか()()になりましたねっ!」

 

 

大斧を指差してそう測量隊の隊長が言うと、褐色の白狼は少し気まずそうな顔をしてからなんとか苦笑いをして返す。

 

 

「ふふっ…槍にしたのだな。槍術に優れていたのはよく覚えているよ、天狗の性質上槍兵が好んで運用されないのが実に惜しかったが…ここに来て役立ったな。」

 

「えぇ、覚えていらしたんですね。」

 

「もちろんね…君のタイプは珍しいからだが。」

 

 

燃え盛り剣槍のようになっている槍に目を奪われた褐色の白狼はしかし切り替えて、遠征隊としての動きを再度決めなおすために一度椛隊が出てきた建物へ入るよう促した。

 

 

「で…俺の方は戦死者が二名出た。負傷は全員が大小関わらず負ったが…簡易処置はしたし治療も今受けたから戦闘に支障はない。」

 

「測量隊の人数に欠けはありません。ただ装備的にも、兵科的にも戦えるのは私一人かと。」

 

「そうか…まぁ衛生兵がいるならそれだけでもありがたい。……椛は?」

 

「私の部隊は…十名中三名が戦死、六名が負傷して内二名が…重傷です。二人とも戦う気でいるのですが私としては戦ってもらいたくありません。」

 

 

見たためにある程度状況はわかっていた褐色の白狼であるがやはり頭を悩ませる。

 

 

「むぅ…一応負傷者の内四名は快復したのかね?」

 

「先程衛生兵の一人から報告を受けましたが、前衛は厳しいと言わざるを得ません。ただし椛隊側は戦闘に弾幕を使用していなかったので妖力には大分余裕があります。」

 

「そうか…否が応でも我々が前衛を張るしか無いな…」

 

 

俯きがちだった椛が顔を上げて言った。

 

 

「…申し訳ありません…私の部隊での損失が大きいばかりに…」

 

「いや、椛や君の部下たちに非はない。…死んだ隊員のことに負傷した者の存在を気に負うのは仕方がないし負うなとは言ってやれないが、少なくとも君たちはよくやった。」

 

 

「だからといって死んでいった者たちの存在を否定なんてできないが」と付け足して褐色の白狼が辛そうながらも言うと椛は目に涙を浮かべながらそれを噛み締めた。

 

 

「…ありがとうございます。」

 

 

微笑んで頷いた褐色の白狼は一呼吸置いて再び話し始める。

 

 

「さて、それで今後の方針はどうすべきだろう?」

 

 

測量隊の隊長が口を開く。

 

 

「調査続行か、一度帰還するかですか。」

 

「うむ。」

 

「薬品の在庫はありますから続行する場合も処置は可能です。」

 

「…先程測量隊の隊長からありました通り、椛隊は妖力に余裕があるので弾幕のルールに基づかない(実戦用の)妖力弾でも後方支援が可能です。」

 

「…賢者に怒られそうだがこの際仕方があるまい…敵方は本気(真剣)だからな。命のやり取りに早くも戻る事になるとは思ってもみなかっただろうが。」

 

 

紅霧異変に於いて提示された新しい「力」の秩序は広まった後のたった二ヶ月で破られることとなったのだからままならないであろう。しかしそれだけ今回の異変がイレギュラーであることの証左であるとも言える。

 

 

「ともかく俺の方で前衛を、椛隊で妖力弾による後方支援を、測量隊は衛生兵を兼ねてさらに後方に待機するカタチを取ろう。椛は衛生兵の背後を護るようにしてもらいたい。」

 

「わかりました。」

 

「槍の間合いを考えると私も前衛に加わった方が良いですね。」

 

「あぁ、そうしてくれ。」

 

「了解しました。」

 

 

二十名に減った遠征隊が、階段を登る。

 

 

「先程の甲冑の増援は無いですかね。」

 

 

槍を持った白狼がそう言うと褐色の白狼も椛も何とは無しに安心するが、同時に不気味に感じるのである。

構造的に防衛の要衝であろうこの大階段で戦士と雷を投げる生ける亡者の他に居ないと見え、また戦士は撃破済みであるためにやけに静かなのだ。

 

椛が口を開く。

階段の中腹前である。

 

 

「雷を投げる亡者、口に出すとなんとも妙ですね。」

 

「雷を起こすのは神の御業ながらそれを発するのが亡者(妖怪)だからな…見た目通りの存在かはわからないが。」

 

「…元神事者だった場合ならあり得るんでしょうか?でも信仰する者が妖怪になると言うのもおかしいですね。」

 

「…うむ。」

 

「何より私は雷を学べないのが残念ですがね〜」

 

 

槍を持った白狼が雷を発する亡者をそれが居た脇道で倒しながらそう言うのを半ば聞き流しつつ、椛は階段を見上げる。

 

中腹に掛かっているのは先程飛び降りた橋、そして奥には聖堂と城壁が迫っていた。飛び降りた時までは高い以外に何も感じなかったはずのその橋が、下から見るのでは()のように構えるので不気味なのである。

 

 

 

——嫌な予感がする——

 

 

「この先少し注意して進みませんか?」

 

「椛の勘は怖いからな…そうしよう。」

 

「椛さんへの信頼度高いですね。同意しますが。」

 

 

そう話しつつ再度陣形を組み直して中腹を越えんと足を踏み出したその時、階段下方の沼の方面から大きな影が低く不気味な風切り音と共に飛来した。

 

 

「「「!!?」」」

 

 

両袖が裂けボロボロの黒い上衣を翼のように巧みに操り、聖堂の前に着地したソレは紫色に光る目で白狼たちを睨みつける。

 

 

「…ッ」

 

 

ソレは腰の刀から左手を離し変わって右手に大火を熾すと階段上方から白狼たちを目掛けてそれを奔流として放った。

 

言葉はない。

 

 

「——ッ不味い!脇道へ入れ!」

 

 

咄嗟に声を発したのは褐色の白狼であった。

それに反応して正気を取り戻した彼女らはすぐさま先程まで亡者のいた脇道へと入り炎の奔流を凌ぐ。

 

炎の壁の如く目の前を過ぎるそれはまるで鉄砲水のようですらあった。

 

 

「よし、直ぐに次の障害物へ行くぞ!動け動け!!」

 

奔流を避けられたのを見とめた時点でソレは次の動きを決定し、奔流の反動を左腕でも支え制御しながら()で飛び上がった。その際脇道から照射点をずらさぬようにしていたのは動きを悟らせないためでる。

 

 

「闇ハ、通せぬ。()()()まデっ…は」

 

 

奔流が途切れて直ぐ狭い通路からでて階段を駆け上り、次の橋の根元へと移動する白狼をソレは翼で滑空しつつ炎で薙ぎ払う。

 

大階段から火に焦されて泣き叫ぶ声が上がった。

するとソレは翼を翻し旋回して今度は急降下を仕掛ける。

 

 

「づッッッあぁが」

 

 

薙ぎ払いをもろに受けたのは隊列最後尾の椛であった。伸びていた白髪が灰になり、また全身に及ぶほどの火傷で嗚咽を漏らしながら必死に耐えようと、本隊に追いつこうと藻搔いていた。

 

 

「椛さんッ!!」

 

 

隊列を外れて椛の元へと疾るのは測量隊の隊長。椛のそばに膝をつく。

 

 

「おい待てやめろッ!!ヤツが来るぞ!!?」

 

 

褐色の白狼が空を見て直ぐ止めようとしたがもはや間に合わなかった。

 

 

「椛さんッ術式を、掛けてあげます…ッあ”」

 

 

術式構成と妖力を流し込むという二度の手間が仇をなしたか。

急降下から測量隊の隊長の首を掴み軽々と持ち上げたソレは紫色の瞳で射抜くように彼女を見ると掴んだ右手に力を込める。

 

 

「—————ッッカ あっぁぁ!!!—」

 

 

ソレは彼女の首の骨をいとも容易く粉砕し更には右手に溢れ出した火を以ってして一気にその全身を灼き切った。

 

 

「あぁ………」

 

 

あまりに現実味のない目の前の光景に、一気に焼き尽くされ灰塵に帰したかつて白狼だったはずの物にただ唖然とした椛は声を漏らしてそれを見つめた。

 

 

「椛ッ!椛ッ!?動け!くそッ…」

 

 

褐色の白狼は急いで駆けつけると椛を強引に抱えてその先にある建物へと入るように本隊へ命令し、また自らもそこに逃げ込んだ。

 

その間抱えられながらもその黒衣を見続けていた椛は、ソレが右手に遺った暗いナニカが纏わりついた弱々しくも輝くそれをスルリとその口に入れ黒炎をともなって喰らい尽くすのを見て彼女の存在が完全に消え去ったことを感じたのであった。

 

 

 

………

 

 

 

「…。」

 

 

ソレは口腔から失くなった暗いモノを体内に感じながら右腕を下ろし、夢とも現ともつかないような茫とした様子で階段を登った。黒衣の騎士(ソレ)は白狼が逃げ込んだ建物を睨むももはやソウルの反応はなく、走り抜けたらしいとアタリをつけて更に階段を登る。

 

窓の無い暗室の頑丈な鉄の大扉の前へと足を運んだ彼はしかし躊躇うように足を止めて踵を返す。立ち去ろうとしたとき、大扉の向こう側から声が掛かった。

 

 

「…ミディール…?」

 

「…。」

 

「……貴方は今、正気ですか?」

 

「…。」

 

「……神の名は分かりますか?」

 

「…グ ウィン、しかシッ ぁッ…ハぁ…私の主人(あるじ)は…王女のみだ。」

 

 

相手は若い——不死だが——女性である。

 

 

「…よかった…ミディール…私は貴方を、…」

 

 

未来か遠い過去かも定かで無い記憶が、しかしそれが事実であると訴えてやまないのである。

 

 

「…殺してしまいました…どうか………」

 

「…貴公はただ使命を全うしただけだった。私が友であるかどうかよりも、貴公はその仕事を成したのだからなにも言うことはない。」

 

「…赦してくれますか?」

 

「勿論だ。」

 

「……ありがとうございます…」

 

「それにもし貴公があののち後悔したのなら、私からも礼を言おう。ありがとう、私はまだ貴公の…『シラの友』でいられたのだな。」

 

「!…そうですねミディール。」

 

 

黒衣の騎士——闇喰らいのミディール——は依然として開こうとはしない大扉に向き直って言った。

 

 

「王女の眠りを妨げる無礼者共が、今アルゴー(あの老人)と戦っている。私もそこに向かうだろうが、…シラはそこを動かないでいて欲しい。」

 

「…。」

 

「アルゴーがこちら側の幻影を減らすかその力を弱めてまで尽力するような相手だからな……そこを動かれたら護れないだろう?」

 

「それは先程のですか?」

 

「いいや、()だ。」

 

「……無理はしないでください。」

 

「確約出来ない。」

 

「お願いします、ミディール。…私は貴方をまた殺めたくなどないですし、もうあんな苦しみは味わいたくないのですから…」

 

「………善処する。」

 

 

大扉から離れたミディールは()()を広げて飛ぶ準備をしつつ別れ際に言う。

 

 

「また話そう、シラ。次は扉越しでないと嬉しいが。」

 

 

返答はなく、またミディールも言い終えてすぐ飛び立った。

 

 

 

………

 

 

 

ゆっくりと意識が浮上し、感覚がどこか遠いところから戻ってくるような妙な感とともにいつの間にか閉じていた目蓋を開いた椛は石造りの天井を見た。覚めた目の目蓋の裏にはあの、黒衣の騎士の手に掛かった測量隊の隊長の姿が写って離れないのである。

 

 

「椛、起きたか。」

 

 

椛が右へ目を向けると遠征隊の隊長である褐色の白狼が地面に座っていた。

 

 

「大丈夫か?…いや大丈夫ではないか……あれが夢であったらどれだけよかったか…」

 

「……。」

 

「椛はあいつが最期に掛けた術式を、測量隊のうち一人が妖力を流し込んで起動して助かったんだ。全身酷い火傷と背中に傷を負っていただろう?」

 

「ぁ……ぁあ……」

 

 

椛はその目から止め処なく涙が流れ、静かに泣いた。

褐色の白狼は辛そうに目を逸らして黙り込む。

 

やがて状況を思い出した椛は涙を拭って、なおもそばにいた褐色の白狼に聞いた。

 

 

「…ここはどこですか…?」

 

「ここはな、城壁の中だよ。城まであと一歩のところさ。」

 

「そこまで…すみませんでした…」

 

「いや距離はそこまでなかったから大丈夫だ…ただ少し…あったがな。」

 

「……また誰か…。」

 

「あぁ、…石化した。そう石化したんだよ、結晶化したと言うのが正しいかもしれないが…」

 

 

涙を流さない彼女はただため息をついて俯き呟いた。

 

 

「…なにも感じないわけじゃない……。」

 

 

椛には聞き取れなかったその叫びは誰に対する言い訳か。

 

 

「なにか……?」

 

「いや、いい。独り言だ。椛は落ち着いたか?」

 

「…今は大丈夫です。」

 

「そうか…。我々は先に進むことになった。つまり相手の城の裏口から入るわけだが先行して偵察してきてくれた測量隊の隊員曰く『黒い巨人』が聖堂へ繋がる階段の上にいるらしい。」

 

「…おそらく幻影遣いですね…分かりました。」

 

「あぁ。…すまない、大階段で引き上げればよかったかも知れないが…付き合ってくれるか?」

 

「行くしかありません。」

 

「そうだな…では行こう。城壁上の構造物内に部隊を待機させている。」

 

「ここの上ですか?」

 

「あぁ。」

 

「分かりました。行きましょう。」

 

 

カーブを描く輪の内壁は夥しい数の花に覆われており、内壁最奥の階段の巨人と()()()()()()()さらに上には洋城の本体である聖堂が佇んでいた。

 

 

 





今回で遠征隊の記は終わりです。
以降も遠征隊は登場しますが一先ずは彼らの章を〆るということと理解してくだされば。また次回からはいよいよ異変解決へと動く博麗の巫女と隙間妖怪あとその他の話となります。時系列は遠征隊の記の一の少し前スタートですのでご注意下さい。


以下、閑話(わたしのはなし)

黒龍ミラボレアスをDarksouls攻略メンバーで行ってきました。アルバトリオンは彼ら風に言えば「強めの聖獣」でしたが、やはり黒龍はソロもさることながらマルチもまたミディール、ゲール以来の激戦でしたね。シュレイドの暗い雰囲気に全員銀騎士の重ね着でフロム感を演出してみたりと楽しめました。
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