洋琴を奏でる少女の鬼   作:本好きの海

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三話目です。とりあえずここらで様子を見ます。好評だったら続けようかな。応援してくださる方ありがとうございます。
今話は前話と比べて内容薄いですが文字数の問題で一旦切ります。次回に詰め込みます。





Re . 調律

未だ見ぬ洋楽器に心を踊らせながら床についた翌日の早朝、私はいつものようにここ最近の取引の勘定を確認していた。すると表が何やら騒がしい。家に使用人はいないが、おそらく兄が対応するだろう。だから私が行く必要はない。

面倒ごとを避けたかった私はそう理由をつけて作業に戻った。

 

真凛明(まりあ)?』

 

私を呼ぶ母の声が聞こえる。

幼い頃から思っていたが、私の名前は少々変わっている。キリスト教の聖母の名が由来らしい。とは言っても両親共にキリスト教には入信していない。私が生まれる前、お腹が大きくなった母親が、同じく妊婦である切支丹の女性と知り合い、その時に聖母の名前を知ったそうだ。母曰く『マリア』という名は響きが可愛らしく感じられるらしい。

 

「表で兄さんがあなたを呼んでましたよ?」

 

一体なんの用だろう。今日は人を呼んだ予定はないし、こんな早朝に面会の約束もなしに訪ねてくる知り合いは思い当たらない。

 

面倒ごとの匂いに口を尖らせながら表に出ると、荷馬車で運ぶほどの大荷物が置いてあった。私の家は洋館で扉もそれなりに大きいのだがそれでも入るか入らないかくらい大きい荷物だ。特徴的なシルエットのそれを見て私は目を輝かせた。

 

まさかこんなに早く届けてくださるとは思わなかった。若旦那にはお礼の手紙を書かなければ。大きな荷物は運搬に時間も手間も掛かってしまう。もし急ぎで来るとしても飲食店が開店する来月まで掛かるものだと思っていたのだが、たったの一日で届くとは。最近は街道の整備も進んで交通の便が楽になったとはいえ、彼の商家の本家が臨む山口まで二百五十里はあるだろう。一体どうやったらこの大きさの積み荷をそんな速さで運べるのだろうか。父が言うように彼は本当に大物なのかもしれない。

そんなことを考えながら、積み荷を梱包している木箱を開いた。緩衝のために詰め込まれた布やら紙やらを取り除き、早る気を抑えながらも早鐘を打つ胸に導かれ鍵盤に触れる。

夢にまで見たその音色は如何に。

 

ボーン

 

なんとも間抜けで鈍い音が整然とした部屋に鳴り響いた。

なんだこれは。想像していたのと違う。西洋の書物で見た限り、今押している鍵盤は爽やかな高音を奏でるはずであった。おかしい。

 

ボーンボボーン

 

他の鍵盤も試しに押してみるが、どの音も期待していたような魅力は感じられなかった。期待外れだったかと思いかけたが、家にある書物たちや、気の良い薬売りのおじさんが私に法螺を吹いたことなど一度とてない。では何故だろう。

 

ボベーン

 

先程よりもさらに酷い音が聞こえる。そうして弄るうち、ふつふつと好奇心が湧き上がる。

どんな仕組みで音が出ているのか。

提琴との違いは何か。

右手側になるほど高くなるはずの音程の順番が狂っているのはなぜか。

そこまで考えたところで、私は自分の手がいつの間にか埃だらけであることに気がついた。音に夢中で鍵盤をよく見ていなかった。注意して見てみれば鍵盤の隙間にたっぷりと埃が溜まっているではないか!

きっとこれのせいだと思い、楊子を使って丁寧に掻き出してもう一度鍵盤を落とす。

 

ポローン

 

先程より鈍くはない。何かをクシッと潰すような音も聞こえなくなった。しかし、順番の違う音程は変わらない。提琴を弾いていた経験から、音程の違いは弦の長さや張り具合の違いだと知っている。だが弦が見当たらない。風琴と違って息を吹き込む楽器でもない。

視点を変えて考えようと、一度鍵盤から目を離した。何十年も蔵に仕舞われて、埃をかぶっていたのは鍵盤だけではないだろう。鍵盤の向こう側についた不思議な形の部位。ここに答えがあるに違いない。そこにはまるで開けてくださいと言っているかのようにお誂え向きの蓋があり、開閉が可能なようだ。気分は大きな宝箱を開ける冒険家。中の宝物を傷つけたくはないので恐る恐る開けて中を覗き見た。

弦だ!弦が見えた!

先ほどまでの慎重さは何処へやら。ついつい興奮して蓋を開ける手が急ぐ。その勢いで、空洞に吹き込まれた空気が中の埃を巻き上げて私を咳き込ませた。

そこで我に返って今一度咳払いをする。

楽器に熱が入ると判断を疎かにするのは私の悪い癖だ。反省しなくては。

 

今度こそ落ち着いて中を観察すると、立てたり倒したりできる棒が入っており、一定以上は回らない。取り外しもできないようだ。何のための棒かと付近を見てみれば大きな蓋の裏に棒の先ほどの大きさの窪みがついている。棒の先をそこに合わせて蓋から手を離せば案の定、それは蓋のつっかえ棒としての役割を果たした。なるほど面白い。中を掃除するときのためのものか。いや、音が響くように蓋を開けながら演奏するのか。どちらだろう。

内部を覗きながらもう一度鍵盤を落とす。

 

ポーン

 

先程よりずっと綺麗な音が聞こえたと同時に、弦を何か白いものが弾いたのが見えた。よし、仕組みは何となく分かった。

取り敢えず今から中の埃を完璧に取り除こう。音程の変え方はそれからだ。

 

 




日本初のピアノはかの有名なシーボルトが持ってきたそうですよ。意外にも結構前からあったんですね。

次回は兄の視点から始めます。お楽しみに。
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