シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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失態、失態、そんな話

コーヒーの適温というものをご存知だろうか?

 

一説によれば60度半ば位の温度が最適だという。

 

しかしそれは本当に飲む時の温度であり、コーヒーを淹れる時の温度は80度後半。

 

ミルクや砂糖などを入れて嵩が増えたりそれを混ぜる時間があればこそ、温度も60度近くまで下がるのである。

 

勿論あくまでも一説であって、もう少しぬるい温度で淹れる所も多々あるのだが………

 

 

エルフナインが用意したコーヒーはとても熱いものだった。

 

それは彼女が普段コーヒーを飲むのが、徹夜で調べものをしたり徹夜で錬金術の勉強をしたり徹夜でギアの調整をしたり徹夜でねこちゃん動画を見たり徹夜で流し素麺の改良に勤しんでいるという、ほぼ徹夜の場合に限るからである。

 

 

彼女はエナジードリンクの類いを「元気の前借りに過ぎません!」と鼻息荒く否定しているくせに、熱々のコーヒーで無理矢理眠気をラストイグニッションすることには前向きだった。

 

 

火傷するほどの熱々なコーヒー。

 

 

それがエルフナインの決戦兵装といっても過言ではなく、彼女は(主観的には)それに助けられて来たのである。

 

徹夜は健康と肌に悪いと咎められて最近はこの兵装を使う機会がなくなっていたのだが、それが彼女の腕を誤らせた。

 

 

雅実が被ったコーヒーは、淹れた時点で90度。

 

慎重過ぎるほどにトテトテ歩いていたが故大幅に温度が下がったが、それでも被った時には70度後半。

 

 

 

 

いろんな意味で大惨事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コーヒーを4つも被った俺を、被った俺以上にあわてて医務室に担ぎ込んだマリアとエルフナイン。

慣れない着物で足が遅れた風鳴翼は少し後になって医務室に来たが、その時には俺は着物の上から水をぶっかけられてそのまま良く分からない機械で服ごとスキャンされている状況だった。

 

熱いとは言っても別にそこまでじゃなかったと何度言っても聞いてもらえず、台の上で大人しく転がされているとすぐにスキャン終了を知らせる高い音が鳴る。

機械に映りだされた結果を丁寧に解析していたエルフナインが、画面から目を離すととても真剣な顔で俺に言った。

 

 

「あの、かけちゃったボクが言うのもおかしな話なんですが……火傷どころかその前段階の傾向も出てないなんて、どんな身体なんですか!?」

 

「どんなと言われてもね、こんな身体だよ」

 

「あれを被ってそれって、本当に人間なの貴方……」

 

俺の身体に冷風機で風を当てていたマリアが酷いことを言う……言いたいことは分かるが、もうちょいオブラートに包んだ方が良い事ってあるよな?

コーヒーを被ったらそりゃ火傷してると思うんだろうが、しない奴だっているだろ、個人差だよ個人差!

 

 

 

「マリア、さすがにそれは失敬だぞ。というかまた謝らなければならない事が増えたな」

 

「そうね、ごめんなさい」

 

「いえ謝らないといけないのはボクです、ごめんなさい!熱くさせちゃって!」

 

「いや、その……はは」

 

「「「!?」」」

 

「ふはは」

 

さすがに此処まで謝られ続けると笑えてくるしかないよ。

 

突然笑いだした俺を見た三人が同じような顔で驚いているのが余計にツボで、もう笑いが止まらない。

 

 

 

「あー、げほん、ごほん」

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

散々笑って思いっきりむせる俺の背をエルフナインが小さい手で一生懸命さすってくれた。

介護されてるみたいでまた笑えてきたが、流石にそこは我慢して俺は彼女の頭を撫で付ける。

 

 

「大丈夫だよ、ありがとう」

 

「どういたしまして……?」

 

「さて、そろそろ冷風機は良いかな。冷えてきたし」

 

「そうね、というか冷静に考えて寒すぎる!水に濡れたあとで風を受けるなんて、冬でなくても凍えるわ!」

 

「じゃあシャワーでも浴びてきて貰ったらどうだ?確か今日は誰も使ってないと思うのだが」

 

「き、着替えもないから気にしないで貰えると……いや流石にこのままは有り得ないか」

 

水浸しの着物を着こんだ人間を真冬に放置とか、殺す気しかないよな普通に考えて。

それよかこの着物本当にどうすれば良いんだ……もうコーヒーの染みとかそういうレベルの色付きじゃないぞ、もとからこんな色でしたってレベルだ。

 

うーむ、選んでくれた妹Sがキレ散らかしそうで怖い……………

 

 

 

「司令のストックしている服が有ったと思うからそれを貰いましょう。前に調が貰った時は新品だったから今回も新品だろうし」

 

「あぁ、そうだな。服は私が用意するから、マリアは司令部まで行って叔父様に連絡を頼む。エルフナインは……」

 

「はい!ボクがこの方をシャワールームまでお連れします!いきましょう!」

 

こちらが口を挟む時間すら与えてもらえず会話は終わり、俺の手を引っ張り歩き出すエルフナイン。

逆らわずついていく事にしたが、体格差が有りすぎて腰が、腰が痛い。

 

これ、何分我慢して歩けば良いんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアから報告を受けた弦十郎は、何度抱えたか分からない頭をまたしても抱えた。

客人、しかもただの1人に対して不出来が重なり過ぎていることに何と詫びをすれば良いのか、何度詫びれば良いのか。

 

 

「彼自身は面白がってる節があったけれど、そういう話ではないものね」

 

「それだけが救いだが、こういうのは家も関わるからな。相手方には何と言えば……………胃が痛くなりそうだ」

 

「今聞くことではないかもしれませんけど、翼さんの見合い相手の久我雅実氏はどんな方なんです?」

 

意識を切り替えさせるようにか、先程まで別件で話し合っていた藤尭朔也が意図して話を振る。

彼なりの心遣いを理解した弦十郎がなんと説明したものかと首を傾げていると、二三会話を交わしたマリアが説明のために口を開いた。

 

 

「事前情報と追加情報からの印象とはかなり違ったわ。自分本意で勝手気儘な性格なのかと思ってたけれど、話をしてみた限りではそういう人間ではなかった」

 

「あぁ、あれは普通のどこにでもいる青年といった風情だったな。見合いの場でも翼に負けず劣らず緊張してガチガチだったぞ」

 

「雅実氏は翼さんのファンだって情報ありましたよね?緊張というならそれも関係あるのかな」

 

緒川の調査によって雅実が古くから翼の、厳密にいうのならツヴァイウィングのファンであることは既に知られていた。

プライバシー!!と本人が知れば叫ぶだろうが、残念なことに風鳴訃堂が絡んでいた見合いとなればこういう事も底の底まで洗われるものなのであった。

 

唯一彼にとって救いだったのは、雅実がファンクラブでも最々古参であるということがバレていないくらいか。

前世から風鳴翼と天羽奏を好きだったからライブにはノイズが怖くて行けなくとも、ファンクラブが出来たら即座に入ろうと考えて全力でアンテナを張っていたために、公式ファンクラブ開設と同時に会員登録をしたのだ。

 

これがバレていたら、何故そんなに速くから目をつけていたのかと不審がられていただろう。

風鳴訃堂の計画はその時点で始まっていたのかと邪推されたかも知らない。

 

現時点でそうならなかったのは、極めて幸いと言えた……雅実と翼、双方にとって。

 

 

 

「そうかもしれないわね。翼と顔を突き合わせてもう4時間くらい経っているでしょうに、さっきも翼の方をまったく見ようとしないくらいだもの。見た目と違ってシャイなところは翼と似ているわ」

 

「見た目と違うって、マリアさんがそれを言うのか……あ、いやいや何でもないよ」

 

「誤魔化されないからね、朔也」

 

「はい……」

 

失言はダメ絶対。

 

 

 

「おっほん、それはそれとして響君とクリス君の訓練は終わったのか?」

 

先の心遣いに対する礼として露骨に話題を変えた弦十郎に藤尭も乗る。

 

 

「はい、先ほど終わったと連絡がありましたよ。予定はオーバーしていますが、このところ出撃がないから鈍らないようにと熱が入ったようですね」

 

「ちょっと待って? 今日二人がトレーニングするなんて聞いていないわよ?」

 

失言は流しても、流石にこの話は流せなかった。

 

 

「ん? あぁ、突発的な申し出だったからな。管理は友里に任せていたんだが………」

 

「た、大変じゃないの!」

 

「な、なんだいきなり……大変とはなんのことだ?」

 

「エルフナインたちをシャワールームに行かせたって言ったでしょ!このままじゃ危険が危ない!!」

 

「「あ」」

 

 

 

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