シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
朝起きてご飯をしっかり食べた後、最愛でひだまりな小日向未来が友達と遊びに出掛けてしまって一気に暇になった響。
頃は2月15日、自由登校の真っ最中でわざわざリディアン行くような気もしない……いや昨日、一昨日と行ってはいたが。
友人(相手方曰く先輩)のクリスと同じ大学に進むと決めたのは自分自身なので相応の努力はするつもりだが、真冬のとても寒い中をわざわざスカートな制服に着替えたくはない。
ズボンなら、ズボンならワンチャン……!と担任に怒られそうな事を考えていると、件の雪音クリスからメッセージが届いた。
――今日の11時に集合で、本部で訓練をしませんか――
何故に敬語? とは思わない。
雪音クリスとは文章だとしっかり敬語を使ってくるタイプの女である!
――良いですよ――
別に釣られたわけではないが敬語で返しながら、いそいそとパジャマを脱ぎ捨てて外出用の私服に袖を通した。
下は勿論スカートである、お洒落とは我慢なのだ。
制服で着るのとは訳が違う。
さぁ約束には早いが、先に行って準備でもしておこう。
今日はトコトンやるぞーー!
「と息巻いて来たものの……」
トレーニングウェアに着替え汗ばむ程度にストレッチ。
しっかりと身体を解すことが訓練の基本である。
「な、んだよ」
背中合わせになって頭の上で腕を掴んで相手を持ち上げるというボッチ殺しのストレッチで、クリスを背に乗せて響は大きく伸びをする。
横から見たら色々と幸せなお山が2つ現れているが、トレーニングルームにはこの二人しかいない。
「クリスちゃんまで早く来たら普通に10時集合と変わらないよ?どうしてこんなに早いの!?」
「逆に、なんでお前は今日に限ってこんな早いんだぁ!?いつも通りに来いよ!」
現時刻は10時30分、予定よりかなり早い。
クリスはいつも早く来る人で、響は単純に未来が家に居なかったから珍しく早く来ただけの人である。
クリスの想定では今は食堂あたりでのんびりと茶をしばき倒しているはずだったのだが、本当に珍しく響が早く来すぎたせいでこんなことに………ちなみにセレナが報告に来ていることも、マリアが調と出掛ける前にちょっと寄っていることも知らないのでニアミスしていた。
本部の入り口で出勤してきた友里あおいに遭遇し、どうせならとシミュレータールームの申請を代わりにお願いしてしまったことが後の悲劇に転がっていくのだが、この時の二人は知るよしもない。
「だってぇ、この頃ちゃんと身体を動かしてないからしっかり柔軟しておかないとって思ったんだもん」
自由登校になってから、毎日街中やリディアンのトラックを借りて気ままに10km以上も走っているのだが、本人的には身体を動かしていない扱いになるらしい。
クリスが知ったらあきれ返るが、知らないものはしかたがない。
「だったら動かしゃ良いだろ。ほら、次はお前だ」
「走ったりはしてるんだけどね……んおおお」
「っし、ストレッチ終わりだな。ちゃっちゃとやるぞ………Killter lchaival tron !」
「え、ギア使うの!? よし……Balwisyall Nescell gungnir tron !」
1時間を予定とした、訓練の開始である。
「結局、ガッツリと2時間ちょいコースかよ……」
「どっちもデュオレリックだって言っても、二人で戦う想定でこれはキッツいよ……」
二人のギアを使った戦闘訓練は思いの外捗った。
捗りすぎて小休止を取るタイミングがわからず、終わった時には二人ともぐったりと腰を降ろして息を切らすほどに。
アルカノイズやカルマノイズは勿論のこと、平行世界にいまだ存在するであろうシェム・ハや存在するかもしれない他のアヌンナキ、あまりにも強大無比な存在であったがために倒された後でも数多の世界に分身体のような物を残していった世界蛇ことヨルムンガンド。
それらを想定した訓練は、熱が入ればおよそ1時間で終わるようなものではなかったのである。
そんなこんなで予定を大幅に越えた長時間の訓練となってしまったわけで………
「はぁ、さっさと汗流して飯でも食いに行こうぜ。今日誘ったのはアタシだからな、奢ってやるよ」
「やったークリスちゃん大好き!!! あ、でも少しデータで確認したいことがあるから先行っててよ、わたしもすぐに行くから!」
「お、おう、早く来いよな」
「わかった!」
二人がここで別れたことが、悲劇への最後のトリガーへと繋がる。
データの確認に手間取った響がシャワールームにたどり着いたときには、クリスは既に汗を流し終わり身体を拭いているところだった。
久しぶりに一緒のシャワーなんだからちょっと待っててよと拗ねてみるがハイハイとスルーされるだけ、そもそも自分が確認時間を使いすぎたせいでこうなのだからと渋々諦める。
シャワールームを出ていく後ろ姿を見送りながら、その分ご飯は奮発してもらおうと思い、トレーニングウェアを脱いだその時。
「誰か入ってますか?」
とエルフナインの声で扉越しに尋ねられ
「入ってるけど、大丈夫だよエルフナインちゃん!」
と響が答えた結果シャワールームの扉は開かれ
「失礼しますね、いまこの人をシャワーに……え!」
「え?」
「は?」
エルフナインの後ろにいた巨漢のびしょ濡れ男とかち合ったのである。
「き、き、きゃ」
「うぉぉえあ!? 申し訳ない!」
やばい変質者に気づいた響が叫ぶ前に、びしょ濡れ男は大きな奇声をあげながら壁にぶつかる勢いで背中方向へ飛びずさりて顔を背けた。
機先を制されて叫ぶタイミングを失った響は、びしょ濡れ男が首を痛めんばかりに横を向いているという事実と、エルフナインが男を伴っていたこと、そして自分が晒した格好がまだ致命的なものではないと思ったこともあってタオルで上を隠したまま声をかける。
普通に考えればトレーニングウェアを脱いだせいで身に付けているのはブラジャーとアンダーを履いていないスパッツだけ、そのうえに汗にまみれた姿は終わったレベルで致命的なのだが、この娘は混乱していて理解が追い付いていない。
「あ、あ、あの、えっと、まだ服を着てると言えば着てるので、その、えっと、気にしないでください?」
「え、あの、響さん響さん、どうしましょう!」
「わかった、わかったからとりあえず扉を閉めてくれ! 頼む!」
そして混乱しているのはびしょ濡れ男もそうであり、エルフナインもそうであったから、しばらく扉が閉まらなかった。
エルフナインがなんとかかんとか扉を閉めるとようやく全員が落ち着きを取り戻し、扉を挟んで意思の疎通を試み始める。
「ごめんなさい響さん、ボクがちゃんと確認しないから」
「俺からも、申し訳ない。中に人がいるとわかった時点で顔を伏せるべきだった」
びしょ濡れ男の名誉のためにいうなら、中に半裸の少女がいるとわかった瞬間に眼を逸らしていたため肌色が多いな、くらいにしか見えていなかった。
見てしまったとはいえ、まだ救いがあった……主に男の自己弁護として。
「いえ、服を着てないのに入って良いって言っちゃったわたしも悪いですから!……ていうか誰ですか? なんでびしょ濡れなんですか?」
「翼さんのお見合い相手の方です! ボクがコーヒーを掛けました! それで、シャワーをと思ったんですが……」
「なんでコーヒーを掛けただけでそんなに濡れて……ううん、わかった! 汗だけ拭いたらすぐ出るね!」
「いやいや、俺は大丈夫だ。訓練上がりなんだろ? 待ってるからちゃんとシャワーで汗を流さないと風邪を引くって」
「冬場に濡れた服を着てる方が風邪を引きますよ!」
「大丈夫、大丈夫だから。馬鹿は風邪を引かんから」
「私も馬鹿だから風邪を引きませんって」
「今の声はなんだよ!?」
謝り通し、遠慮し通しで埒のあかないびしょ濡れ男と響の会話に、びしょ濡れ男の奇声を聞き付けたクリスが駆けつけてきた。
先ほどまで自身がいた場所に見知らぬ大男がいて、なおかつ和装にびしょ濡れという前衛的、そして大胆なニュートレンドな装いをしているのを見てしまい、頭が混乱してしまう。
状況が状況ゆえに仕方がないとはいえ、誰も彼も混乱し過ぎである。
「何を大声で馬鹿馬鹿言い合ってんだ? てか、アンタ誰だ? なんでびしょ濡れなんだ? 流行ってるのか?」
「クリスちゃん、お客さんだよクリスちゃん!」
「川柳みたいな語感で言うんじゃねぇ。あれか、濡れてるからシャワー浴びに来たんだな?」
「そうです!」
「じゃあ、さっさと入れよ。風邪引くぞ、ほら」
「あ、待っ」
言うや否やエルフナインの制止を振り切って、中の響に確認することも一切せずに、クリスは開けてはいけない扉をさも当然のように普通に開けた。
苦しいながらもクリスの行動を擁護するなら、装者専用と言っても良いくらいに装者しか使わないシャワールームだったから確認しながら扉を開けるという習慣がなかったからとか、扉越しとはいえ男がすぐそこにいるのに服着ないで話しているなんて思わないとか、まさかびしょ濡れの【お客さん】とやらがいるのに汗を拭うためにブラジャーを脱いでいるなんて思わないとか、言えるかもしれないかもしれない。
なにわともあれ再び開いた扉から、ついさっきよりも肌色面積の増えた立花響は現れ、巨漢のびしょ濡れ男こと久我雅実と対面することになった。
完璧に油断していた雅実は今度はしっかりと半裸の少女を見てしまう。
驚きすらできず、平素の顔でこちらを見つめる少女。
下以外に着ている物が何もない………瞬間、陰ったひだまりがフル装備で自身を追いかけてくる様を脳裏に描いた雅実は、まるで逃れ得ぬ死期を悟ったかのように眼をゆっくり閉じ、ため息を大きく吐いてその身を地面に投げ出した。
はち切れんばかりの巨躯からは想像も出来ないような、水が流れるかのごとき滑らかなその動きは祈りのようにも見えたが
「申し開きのしようもございません。なんなりと罰をお与えください」
それはどうしようもなく、ただひたすらの土下座であった。