シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
雅実が土下座を開始してから既に10分が経過しようとしていたが、事態は一切進展を見せていなかった。
「そろそろ頭をですね、上げて貰いたいんですけど」
「いいや、俺は一生分の謝罪を此処でしてみせる」
「いやいや、悪いのはクリスちゃんですからね? いい加減本当に勘弁してくださいよぉ、もう怒ってないというか最初からあなたに怒ってなんか居ないんですから」
「ほら、見られた響もこう言ってるんだから。土下座はあとでクリスにやらせるから頭を上げなさい!」
「いいや! 俺は! 一生分の謝罪を此処でしてみせる!!」
「何が貴方をそこまでさせるの!? そこまで義理堅い感じの人なわけ?」
「嫁入り前の女子の肌を見てしまったら、それはもう謝るしかないだろ!」
「だから! 私はもう気にしてませんからね!? 」
「誤魔化されてはいけないぞ! 君はこの場の感じでなんかこう変に騙されているだけだ!! 女の子なんだからもっと怒るんだ! 簡単に許すんじゃない!」
「見た側が言う台詞なの!?」
なぜか被害者の響が必死に懇願して頭を上げさせようとしているのだが雅実はまるで動かず、現着したマリアの言葉を聞いても地面と額をくっつけたまま押し問答が続いていた。
大男の土下座姿は情操教育に悪影響とエルフナインはクリスの手によって退避させられているが、それによって事態を引き起こした張本人であり、なおかつ一番に謝るべきクリスが早々にトンズラをするという斜め上のムーブをかましてしまったせいで収拾が付かないまま、今に至る。
「ねぇ雅実。貴方は知ってるかしら? 土下座とは謝罪ではなく、相手に自分を許させるための手段だと言うことを!」
このままでは、このままだわ!と良く分からないことを思ったマリアは事態を打開するために切り口を変えた。
それはどこかで聞いた土下座の理論をそのまま口に出す、ただそれだけの事であった。
「なん、だと……?」
「だってそうでしょう? 貴方のような立派な人間に」
「俺は立派じゃない」
「え? うん、そうかしら、そうね……んん! えっとね、大の男が地面に頭を押し付けて謝っているのにそれを許さないなんて、周りから見たらどう思われるとおもう?」
「余程酷いことをされたのだな、と思うが?」
「あ、貴方はそう思うのね……普通の人間ならそこまで謝罪されているのに許さないなんて、心の狭い人間だと思うのよ!」
「待て、それはおかしい。謝罪を受け入れるか否かは他人には関係ないだろう。それは謝罪する側ではなくされる側が決めることじゃないか」
「貴方はそうかも知れないけどこれは一般論よ、一般論」
「なるほど…………あぁつまり俺がずっとこうしていると、端から見ればいつまでも謝罪を受け入れないで頭を下げさせているように見えると、そういうわけか」
「ええ!そうなのよ!そうなのよ!」
我が意を得たりとマリアは大きく頷きつつ、想定した話とはすこし違うが、結果として雅実の土下座を止めさせられる流れになったことにほっと胸を撫で下ろす。
マリアとしては雅実がここまで強固に自らの罪を主張するとは思っていなかったが、それは彼の性格が極めて良心的であり、なおかつ婦女子はみだりに肌を晒すものではないという少々古い価値観から来るものだと理解した。
――少しお堅い性格なのかもしれないけれど……なるほどね、うちの翼の相手としては悪くないじゃない。頑固な所とか、お似合いかもね――
雅実の評価が鰻登りに上がっていく。
当初は風鳴訃堂絡みとあって胡散臭い感じがしていたが、こちらの失態には寛容な態度をとりつつ自分の非はしっかりと頭を下げることができる器の大きな、人間の出来たそれこそ弦十郎のような男だとマリアは考えたのである。
雅実本人が聞いたら照れつつもかなり本気で否定し始めるような評価だが、根っこのところがちょろ……単純なマリアは一度好意的に判断してしまえば後は簡単だった。
――家柄良し、性格よし、身体は見るからに健康で、難関大学で研究しているのだから頭も良し! ふふ、良いでしょう久我雅実。翼が貴方を気に入るのなら、私は貴方を翼の夫に認めましょう。 パパさん、安心して頂戴! きっと翼は幸せになるわ――
見合いの練習に入れ込みすぎて頭の中がお節介な仲人おばさんになっているということに気付いていないのは、果たして幸せと言えるのかどうなのか……
拳を握りながら天を仰いでイマジナリー八紘に決意の顔を向けるマリアの側で、響が雅実の手を取って立ち上がらせている。
濡れた身体で申し訳ないと恐縮しながら立ち上がる雅実に笑いかけながらも横のマリアがおかしいことに気がつくのだが、まぁいつもそうかと失礼なことを思い直して響は彼をシャワールームに押し込むのだった。
マリアさんの婚期は30過ぎてから!