シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
雅実をシャワールームへ押し込めた後、さすがにやらかしが過ぎると弦十郎からお説教を食らう装者一同とエルフナイン。
響はシャワールームが空くのを待っているだけなので怒られてはいないが、自分だけ怒られないのもなんだか落ち着かないのでとりあえず神妙な顔をしていた。
翼は元凶であること、マリアはアシストパスを出したこと、エルフナインがコーヒーをぶっかけたこと、クリスは土下座させたこと。
叱られた事はこの辺りである。
雅実が出るまでに済ませようとしていたので話自体は短めで終わったのだが、翼の心にはかなりのダメージがあった。
――せっかく皆が自分の見合いのために骨を折ってくれたのに……不甲斐ないせいで全部無駄になってしまって……あんなに気苦労もあったのに……急拵えとはいえ仕立てた着物も、受け答えの練習も本当に無意味になってしまって………――
内心、というか普通に涙目になっているが幸い誰にも気づかれなかった。
いや、気付かれたほうが今の感情的には良かったかもしれない、慰めを求める意味合いで。
「あのー」
説教が終わって少しピリピリした空気を変えるために、響が口を開いた。
こういうとき物怖じせずに声を挙げられるのは響の美点でもあり欠点でもあるのだが、今回は良い働きと言えるだろう。
実際、これがきっかけで皆が思い思いに話を始めたのだから。
「わたし、お客さんだとは聞きましたけど、あの人が翼さんのお見合い相手とは思いませんでしたよ……」
「響もクリスも知りようが無かったものね。こっちも、貴女たちが今日ここに居ると知っていれば他にやりようもあったのだけど」
「マリアさんも朝からここに居たんですよね?セレナちゃんも来ていたみたいだし、分かってれば会いたかったのになぁ……」
「最近はギャラルホルンのアラートも鳴らねぇし、定期連絡ぐらいしか行き来する理由もないしな……あたしもまたパパとママの所行きたいんだけど」
「定期連絡といえば、そろそろ奏さんも来る頃じゃないでしょうか? 前回からちょうど1ヶ月になりますし」
「あー、そうだったな。あのときは先輩が見合いの練習だからここに居なくて残念がってたけど……あ、そうだ先輩」
「……………ん、なんだ雪音?」
内心のダメージが抜けない翼は、クリスの言葉に一瞬反応が遅れる。
「いや、奏さんがあんたに伝えたいことがあるって言ってたぞ」
「奏が私に? なんだろう」
「さぁ? でも翼にだから言わなきゃいけないことだ! ってさ。良いことだって話だけど」
「そうか、それは楽しみだな」
ふふ、と遠い目をする翼に流石におかしな物を感じる一同。
しかし、それよりも捨て置けない言葉がクリスの発言にあったから、一旦脇に避けていく。
「ねぇクリス………なんで私はマリア呼びなのに奏はさん付けで呼ぶのよ?」
「は?」
「別にさん付けで呼んでほしい訳じゃないけれど、そのあたりどういう基準なのかしらね」
「いや、特に意味はねぇんだけどよ……」
言葉通り、クリスの中では理由などなかった。
あえて理由付けをするなら、翼と同じく年上であるが別に先輩ではないから先輩呼びはおかしいし、名前を呼んだタイミングではそこまで仲が良かったわけでもないからいきなり呼び捨てというのも座りが悪い……くらいのものである。
だからマリアがそこに食いつくとは思っていなかったクリスは、なんとなく言いよどむ。
そのせいで他の人間まで入れ食い状態になるのだが、それはそれ。
「確かに、クリスさんがさん付けで呼ぶなんて弦十郎さんをオッサンって言うくらいですよね」
「それはさん付けとは言わなくないかな……って待って? さん付けとか以前に、わたし一度も名前で呼んで貰ってないよ!? どうして!?」
「私も気になるな、奏さんってなんだ。なぜ立花を名前で呼ばない」
「そんなにあたしが人にさんって付けるのオカシイかよ!? てか、あんただってマリアとエルフナインだけ名前呼びじゃねーか!」
「あー!またマリアさんとエルフナインちゃんを名前で呼んでる!わたしも、わたしも名前で呼んでよーー!!」
「私は昔から名前で呼ぶことはしていないからな。 そもエルフナインは名字がないし、歌姫マリアと呼んでいた人間をカデンツァヴナ!などと呼ぶのもあれだし、ついでに言うならセレナも名前で呼んでいるが」
「ねーねークリスちゃーん? 良いから名前で呼ぼうよー」
「クリス、ためしにマリアさんって呼んでみない?」
「うるせーうるせー! そんなにいっぺんに騒ぐんじゃねーよ、聖徳太子かあたしは!!」
「「「しょーとくたいし?」」」
「あ、分からねえか……って馬鹿は日本人なんだからそんくらい知っとけ」
「まぁ聖徳太子とは歴史上の人物だな。同時に10人の言葉を聞き分けたという説話があるから雪音はそれに掛けたのだろう」
「「「なるほど!」」」
「ね、ネタを解説されることほどこっぱずかしいことはねぇよ……もう、この話は良いだろ?おしまいだ、おしまい」
クリスは顔を赤くしてテーブルを叩いた。
それで終われないのは響である。
一度も名前で呼ばれていないのはSONGでは自分だけな気がしてならない。
去年どこかで藤尭のことを朔也の兄ちゃんよぉって呼んでた気がするし、友里のことは普通にあおいさんって呼んでた覚えが……あるかもしれない、ないかもしれないそんな感じ。
いや、何かのサンプルボイスとか、ゲームだと自分も呼ばれていた気がするがそういうメタ的な話はおいておくとして……なんとしても名前で呼ばれたい。
タイトルをつけるならそう「立花響は呼ばれたい!」とかなんとか。
とりあえずちゃんと呼んでもらえるように、響は珍しく理論武装を頭で組み立てて勝負に挑む。
決心が漲る主人公顔にクリスはひきつるし、他は皆空気を読んで口をつぐんだ。
「ねぇクリスちゃん」
「お、おう」
「わたし、クリスちゃんのせいで男の人に裸を見られちゃったんだよ?」
「そ、それは確かにあたしが悪かったよ」
「はぁ、そんな言葉じゃ許さないから。 ちゃんと、どう悪かったのか言ってよ」
「う、うぐ」
ため息を交えて淡々と言葉を発する、最愛のひだまり直伝の詰り方。
その効力は響が身をもってしっているので、それをここで発動する。
そして、なんだかんだ未来に弱いクリスにはこれが存分に効いた。
「わ、かったよ。 えっと、なんだ………あたしのせいでお前」
「お前じゃわからないよ」
そう言ってクリスの手を取る響。
普段の掴み方ではなく、包むような、それでいて逃がさないだけの力強さをもったその熱が、クリスの頭に血を登らせる。
「う…………あの、その、あたしのせいで、ひ、ひ、ひび」
自身をまっすぐ見つめる瞳に、心の奥底までも吸い込まれるような感覚に浸りながら、言葉を捻り出そうと必死で呼吸を挟んでいく。
危うい空気に翼とマリアもマリつばを、否、生唾を飲んで見守り、エルフナインははわわと顔を赤らめて凝視していた。
「お願い、だめ?」
だめ押しに囁かれた言葉が、クリスの障壁を突破した。
もともとクリスとて響を名前で呼びたくなかった訳ではないのだ、タイミングが合えばむしろ呼びたかったくらいなのだから、ここまで真剣に押されればもう呼ぶしかないだろう。
「い、一度しか言わねぇからな? 」
「うん」
「ふぅ………すぅ、はぁ……ひび」
「あぁ、ここに居たのか! 探したぞ、皆」
「「「「「…………………」」」」」
「いやぁどこに居るか分かんなくて探したよ。シミュレータールームにも食堂にも居ないしさ、ってなんだよ翼、今日は見合いだったんじゃないの…………ってあれ? なんか不味かったか?」
「奏、空気を読んでよ……」
もの凄くダメなタイミングで全部をぶち壊しながら現れたのは、定期連絡のためにこちらの世界を訪れた天羽奏だった。
残されたのは手を取り合いながら固まる二人と、あちゃーと天を仰ぐマリア、ほっとしたような残念なような顔をしたエルフナインである。
ピンク色に染まりつつあった場の空気が冬に負けないくらいに冷えきってしまったのは、言うまでもない。
タイトルを通り、噂をすれば影