シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
本日6度目の気絶から目覚めた俺は、意を決して目の前の存在と向き合うことにした。
「か、かなかなかなでちゃん」
「そうだ、奏さんだよ」
「ゆ、幽霊だ……ふぅ」
「またかよ!」
本日7度目の気絶から目覚めた俺は、覚悟を決めて目の前の存在と向き合うことにした。
「かかかかかかかかかかかかかなでぴゃん!」
「あーうん、奏ちゃんだよ」
「え、あの、良いお天気……ふぅ」
「あ、おい!?」
本日8度目の気絶から目覚めた俺は、本当に覚悟を決めて目の前の存在と向き合うにした。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、よし!」
「もう大丈夫か?」
「ひぇ……………ふ、ふ、ふ、はぁはぁ」
「今回は良く、耐えたなぁ」
「そそ、そりゃあ、いい加減俺だって………………」
「ん、どした?……………ってまた気絶してやがる」
本日9度目の気絶から目覚めた俺は、目の前の存在が俺の左腕に触れていることに気がついた。
目の前の存在こと天羽奏ちゃんの幽霊は、幽霊なのにしっかりとした力で腕に触れており、その触れた肌から確かな温もりが感じられたことで俺の中から怖じ気がするりと溢れ落ちていく。
普段の俺なら幽霊に触られているということに恐怖が芽生えて、また気絶でもするんだろうが……何故だか、そういう風にはならなかった。
単に推しの幽霊だからなのか、それとも
「幽霊だとしても触れられるんなら、問題ないんだろ? 3回目くらいに言ってたもんな」
そう言って笑う彼女が、確かに俺の記憶にある奏ちゃんその人であるからなのだろうか……
奏ちゃんが死んだライブ会場の惨劇の2年くらい前に、小規模なスペースを貸しきった握手会が企画されていた。
多分、ツヴァイウィングの2人にとっては最初の握手会になるはずだったイベントだと思う。
これはアニメに無かったイベントだからノイズは来ないだろうと楽観的になった俺は、生きた推しに会いたいと遠路遥々電車を乗り継いで会場まで行ったのだが、残念なことに他の所でノイズが発生したせいで2人は握手会の場に来れなかった。
俺は彼女らがシンフォギア装者として戦っているんだと興奮半分心配半分でいたのだが、それを知らない他の客たち、いや、どちらかと言えば冷やかしに近い人々の多くは、別に残念がるでもなく足早にその場を後にしていたと記憶している。
いうまでもなく俺は物凄く悲しかった。
ノイズ被害に巻き込まれたらいくら鍛えていようが問答無用に炭になってしまうからと、アニメのストーリーが終わるまでは逃げ回ろうと決心して生活をしていた俺には、ノイズにガンガン関わる翼ちゃんや奏ちゃんを生で見る機会なんてほとんどないも同然だったんだから。
開設された瞬間に入ってやろうと勢い込んでFCに入ってはみたものの、俺に出来ることと言えばグッズやCD、映像ディスクを購入するくらいのもので、まだ未成年かつ今ほど親に信頼されていなかった身として勝手に動くことも出来なかったんだ。
翼ちゃんを安心しながら生で見る機会なら、ストーリー中でも終わった後でもたくさんあるだろう。
ノイズが現れないイベントだってたくさんあるし。
だが奏ちゃんはそうではない。
奏ちゃんはライブ会場で死んでしまうのだから、それまででなければ俺は彼女に会えない。
会えなければ、奏ちゃんの歌が好きだとも応援しているとも言えない。
SNSで投稿すれば良いって訳ではない。
応援の言葉は直接口に出さなければ意味がないのだ。
なぜ推しに会いに行ける状態なのにわざわざ書き込むだけの応援をしなければならないのか、俺にはさっぱり理解できない。
理解するつもりも毛頭ないが。
それに、危険や困難へ逃げずに立ち向かう彼女らを応援するのなら直接するのが筋だと思うんだ。
確かにノイズが出ると分かっているイベントには俺は絶対行かない。
だとしても、それ以外なら俺はとことん応援したいと、そう思っている。
彼女らツヴァイウィングのファンとして、そしてシンフォギアという物語に魅了された者としてな。
だからこそ機会の1つが潰れてしまったことが悔しい。
初めてでこれとか幸先が悪すぎて辛い、下手をしたら奏ちゃんとは1度も会えないで終わるかもしれない………そう悲観した俺を運命とやらは見捨てなかった。
握手会が中止になったというアナウンスを聞いた俺は、この土地にいる理由を失ってしまったが、さて今からどうしようかと考えていた。
前世でもこの辺りに来たことはあるのだがいやはや地形も違えば地名も微妙に違うときたため、そこら辺の差異を見聞しつつ飯屋や景観を楽しもう、単純にそう思った。
しかし、だ。
飯屋といっても今の俺では酒も飲めやしないし、飲めても前世の時とは銘柄もラベルも全然違うし、料理も良く分からないタピオカなんちゃらだの明太子チョコ唐揚げだの色物ばかりが流行っていてどうにも食指がなぁ、動かないよなぁ……………なんて言いながら全部食べた、マジで美味しかった()
食うだけではダメだと、腹ごなしと冷やかしがてらにそこら辺の散策に歩き続け2時間半、俺は町を一望出来る古びた展望台で足を止めて黄昏ていた。
夕暮れ時に外でボーッとするなんて全くもって俺の流儀ではないんだが、今の俺は端的に言えば疲れていた、体力的なものでなく精神的なもので。
久しぶりになんの制約も家の者もなく出歩けたのに望みの握手会は無くなって、それではたまらんと未練がましく楽しんでしゃぎまくったのに気分がまるで晴れやしない。
これならさっさと帰って身体でも動かしたほうがマシだった。
前世より西暦という暦上ではすこし昔の30年代後半の今だが、俺が居た世界より遥かに科学技術が進歩していて、歩き回るだけですこしは楽しめたことに否定はない。
ARやVRの応用的なものがそこらに溢れてデバイスを持っていれば、例え持っていなくてもそういうものに助けられる状況が多かったのは、なんというかSFを感じられてそこも良かったと思う。
だがそういうものを感じるたびに、思いだし苛立ちというか、殺意というか、そんな物で頭が痛くなる。
久我の家は古ければ良いとばかりに古くさい慣習やら使い勝手の悪い骨董的な家電やらばかりを尊ぶ――尊ぶというか新しきに順応できないクソ爺婆が幅を利かせているから、そういう新しいデバイスをあまり持ってられないしなによりクソ爺婆がダメだと思うことを全力で否定しやがるのだ。
ちょうど昨日のことだが、どこかで聞き付けたのか俺がツヴァイウィングのFCに入ったことをアイドルの追っかけだと大騒ぎにわざわざ家まで押しかけてきやがって
「久我の男が軟弱にやぁ」
「アイドルの尻を追っ掛けるなど恥がないのぢゃあ」
とかほざいていやがった。
そのくせに連中は、翼ちゃんがあの風鳴の家の人間だと父に告げられると、やけに卑屈そうな顔で
「いやぁ、さすがは御前のお孫様ぢゃあ。いやぁ、いやぁ」
「しかりしかーり八紘殿の娘でもあるーし」
なんて手のひらドリルしてたからな。
良い歳した爺婆が恥ずかしくないのかね………恥ずかくないから前言から5分と経たずに入れ歯くせぇ口を開けるのか。
バカな親類、恥知らずの親類ってのは見てるだけ話すだけで本当にストレスがたまる。
両親は良い親だ。
口煩いが躾や教育の範疇だし、クソ親戚に囲まれているのに常人としての感覚をしっかり持ってる――何より趣味に口出ししないし小遣いたくさんくれるし。
兄達は良い兄だ。
口煩いしちょっかいも出してくるが小遣いたくさんくれるし、理想に燃えた若手政治家ってのはカッコいいから――ただ有力者への手紙を代筆させるのはやめてくれ。
妹Sは可愛い妹だ。
俺と同じとか言って書道始めたし(布教したから)翼ちゃん推しだし、とても可愛いからな――可愛いんだけど小悪魔な感じで罵るのはやめて欲しい、変な扉が開きかねん。
親兄妹以外のうちの親類達はほぼクソしか居なくなる仕様にDNAが作られているようで、古い家だから呆れるほど親類はいるし、呆れるほどいるから当然クソもたくさんいるしで、俺の家庭環境はストレスが溜まりまくる。
たくさんいるからクソと会う機会は多すぎるほど有り、クソからクソストレスのクソ循環。
せめて会うたびでも節目ごとにでも小遣いを出しやがりゃニッコニコの笑顔で相対してやるのに、名門だの名家だのわめきたてる割には金を出さねぇし、出すのは愚痴と悪口のダブルグチって落ち。
親類にも数は圧倒的に少ないが良心的な人間がいるからまだ耐えられているが、そうでなければ全員……
「随分と物騒な空気だな、あんた」
「っ申し訳ない、少し考え事をしていて……」
強い苛立ちのせいで意識が散漫になっていた俺の後背から、女の子が声を掛けてきた。
分かりやすいほどの気配を発した女の子を察知できないほどにイライラしていた自分に羞恥心を覚えながらも、自分のせいで相手を不快にさせたことを謝るためにとそちらに振り向く。
他人向けの取り繕い作った顔で向き直った俺と対面したのは、燃える夕陽に負けぬほどの赤色をたたえた女の子であった。
少女から女性への過渡期ともいえる面貌をしたその子からは疲れというか、体力を根底から消耗した風情が見えるものの、瞳はそれを覆してなお足りないほどの活力に満ちていたのが印象的だった。
「あたしの顔に何か付いているか?」
「あぁ、いや……まさかこんな所で会うとは思わなかっただけですよ」
不躾に見すぎたせいか、彼女は不思議そうに自分の頬に触れているが俺はそれどころではない。
何故、こんな所に居るのか。
何故、このタイミングで会うのか。
何故、もうちょっとマシな感じに会えなかったのか。
「こんな所って、そんなに此処には人が来ないのか? 良い風景だけどなぁ」
「そういう訳ではなくてですね……」
「じゃあなんだよ、私有地って訳でもないんだろ?」
「貴女は……いや、なんでもない。 失礼しますよ」
握手会が中止になって此処にはいるはずがない……と、言おうとして止めた。
今、下手に言葉を交わしてしまえば色々とボロが出るかもしれないから、後ろ髪を引かれる物があるがここは彼女を知らないふりをしてこの場を去ろう。
「待てよ」
言葉少なく横を通り抜けようとしたら、何故か腕を掴まれてしまった。
俺の腕を押さえるのは、鍛えているのだろうと分かるほどには皮膚が硬化していて、それでいて女の子としての柔らかさを保っているような指先だった。
手にとって触れてみたいという危うげな感覚に意識が遠のきかけ、一瞬とはいえ立ち止まってしまった俺に対して彼女は少しだけ笑って言う。
「そんなおっかない面で町中を歩いてたら捕まっちまうぞ。だから、ちょっと話に付き合ってくれよ。 互いに行きずりの関係として、後腐れなんてないだろ?」
断るなんて、出来なかった。
回想当時の雅実は、ストーリーが終わっていないから大人しくしないとと本気で思っている。
ただ雅実の大人しいと他人の大人しいの基準がx軸にもy軸にもズレているので身内や友人以外との軋轢が酷すぎることを、雅実は知らない。
なお、アニメ終了と共に本性を露にして親戚たちの血管をぶちギレさせているのは意趣返しの意味合いが強い。