シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
2月17日、冬真っ盛りといった雪景色に染まる日皇大。
その敷地内の格技サークル棟にて、ただいま死屍累々が量産されていた。
死屍累々が量産とは変な物言いだが、それは言葉の通りにあちらこちらでカーペットになっている男たちや壁の装飾にされた男たち、干された布団のような男たちが沢山いて、しかもそれが格技サークル棟全階で見受けられているからこその表現である。
事の起こりは1時間前。
「研究棟の俺だ。心当たりのある奴ら、オレサマ、オマエマルカジリ」
突如としてこの放送が日皇大に響き渡った時、何故こんな放送が行われたのか、そして何が始まるのかを理解した男たちは全力で避難を開始した。
結果として無駄な努力で、死屍累々の一員へ。
心当たりに相当するくせに理解出来なかった男たちは悪戯か何かと誤認し、当然こちらも死屍累々の一員へ。
本来関係の無い数少ない男たちも格技系の人間と見られたが最後、たぶん心当たり有るんだろうなと皆まとめて死屍累々の一員へ。
女たちは下手人に飯のおかずを提供することで手を打つと昨日のうちに話がついているので、今回のコレの被害には遭わないことになっている。
肉じゃがが提供メニューに上がっているので下手人のテンション爆上がりであり、量産のスピードが3割ほど加速したのはおそらく誰も知らない。
さて、おおよその格技サークルを死屍累々へと還したこの殺戮劇だが、ただいま最終局面を迎えていた。
サークル棟5階に残る男たちが避けられぬ結末から逃れようともがいては、残酷に往くべき所へ往き着いてしまっている。
「にょわーーー!」
諸星的な叫びと共に窓をぶち破って大木(樹齢二百年)の天辺に引っ掛かったのは4年生の柔道部主将である。
100kgを余裕で越える身で空を飛んだことで、彼は後に軽業師と渾名されるほど軽快な戦いかたを身に付けた。
「いらっしゃい」
その下で逆さになっている優雅な男はプロテストに合格したばかりの1年生ボクサー。
自身を放り投げて正確に大木へと引っ掛ける技術に感服したことで技術を磨きあげることを決意し、数年の先にはみごと世界に羽ばたく逸材となる。
「私も、そっちが、良かった………ぐふっ」
大木の下で延びているのは実戦空手を標榜する道場の師範でもある教員だ。
下手人の攻撃を一発だけではあるがいなしてしまったために返しの一発で宙を滑り、大木に激突して地面に滑落するはめに……
「「「「理不尽……!!」」」」
固まって対応しようとしたためタックルでまとめて壁に叩き付けられた剣道部一同。
高段者が多く警察への出稽古も頻繁に行っている実力者揃いの
ため、バラけていれば2分くらいは長生きできたはずである。
「………ぬ、ぬ!」
高校時代にレスリングで世界大会出場、大学入学した今年の秋にはアマチュアとはいえMMAのスーパーミドル級世界3位という輝かしい経歴を持つ男。
運悪く下手人をよく知らなかったが故軽率にタックルを仕掛け、それをものの一瞬で切られて腰を掴まれてしまい、そのまま天井にぶん投げられて突き刺さった。
こうなっては意味がないが今回の件と、まったく関係の無い男の1人である――先輩の1人に面白い体験が出来るぞと唆されてサークル棟に居座ったのが悪いと言えば悪いのだが。
開始から1時間10分後、そんなこんなな死屍累々の量産パーティーが終わった。
各階各部屋では救護のために女子たちが忙しく動き回り男たち(ただしイケメン、人気者に限る)を介抱しているが、5階の隅に位置する空き部屋だけは違った様相を見せている。
段ボールと様々なサークルの備品が所狭しと置かれたその部屋に、男が2人。
1人は仁王立ち1人は正座と対照的な姿のそれは、下手人と下手人にしてしまった男であった。
「友よ、俺が言いたいこと……わかってるよな」
友に向けるべきではない威圧感でもって、仁王立ちした下手人こと久我雅実は正座する学友を見下ろしながらそう尋ねた。
「えーっと?」
「わからないとは言わせないからな?」
「いいや、心当たりが有りすぎてなんとも……わからないなぁ」
心底わからないというふうに学友は首をかしげた。
事実学友の頭には心当たりが9つ10つあって、雅実が何用で怒っているのか検討がつかない。
「お、お前一体いくつストックが……あえて何も言わないがあるだろ、ここ数日のことなんだから!」
「見合いを黙っていたこと? でもさ、僕もそれ知ったの当日なんだけどね?」
「それにも怒っているが、それは違う」
「あ、雅実伝説を更新したことかな」
「おま、もう更新するなって言って………それも違う!」
「コレクションの靴紐をきつく縛ったことか!」
「あれお前だったのか!?自分でやったのかと………違う!違うけど、あとで覚えてろ!?」
「じゃああれだ、君の友達に「雅実は女に興味がない」って言ったことだ」
「友達……板ちゃんがやけにBLアニメ薦めて来てるのそれのせいか!?それとも違うけど!!」
「じゃあなんだよぉ」
はぁやれやれ、と学友はため息を吐いて困った顔をしていた。
何を怒ってるんだヒステリーかよ、とでも言いたげな様子に雅実の額に青筋が盛り上がる。
14年におよぶ付き合いはすでに親類の域だが、雅実はこの不敵な学友に振り回されてばかり。
外から見ればたしかに雅実自身も学友を振り回しているようだが、割合で言えば雅実:学友で3:7。
雅実が動くと大事になるので逆に見えてしまうが、基本的に雅実は学友のとばっちりを受けて動くことが多いのである。
「お前、一番あれなのが残ってるだろ」
「え……………え?」
「俺を賭けのタネにしたろうが……なんでそれをわからないんだ!?」
見合いから帰って物理攻撃と引き換えに小遣いUPを脅……交渉して勝ち取った直後、研究室の後輩からの連絡で学友が自身を賭けに使っていると知った。
それだけだったら怒らなかった。
前にも自分の行動をタネにした賭けをしていたし、それによる儲けはしっかり還元されていたから。
しかし賭けの内容、そして選択肢でキレた。
見合いを知っていたのに教えないとは何事だ。
てか、見合いから逃げる前提の賭けだなんて自分をなんだと……なんで1番遅い逃走時間でさえ開始から10分なんだ!!
家ぐるみの見合いで逃げるほど、自分は身勝手じゃないぞ!
そうキレたのだ。
「そこまで怒るほどじゃ……イエナンデモナイデス」
雅実が逃げられずに最後までいて、しかもここまで怒るなんて余程ひどい見合い相手だったんだなぁ。
哀れみの感情からしっかり怒られてやろうと反論を引っ込めた学友に反省の色が見えないことを理解した雅実は、物理的な怒りではなくもっとダメージのある方法を使うことにした。
「俺も鬼じゃない、身体を鍛えていないお前を外にぶん投げたり叩きのめしたりはしない」
「前ボコボコにされた覚えがあるんだけど?」
「だから他の方法でお前に仕返しをしてやろう!」
「無視かな?」
「オフレコだが、実は翼ちゃんが今度復帰するんだ。それで復帰ライブもやるらしい」
「え、本当!?」
雅実の布教でツヴァイウィングと翼のファンになっていた学友は、その言葉に喜ぶ。
喜んだところで色々手遅れであることは知らない。
「それでな……これ、なんだと思う?」
「そ、それは?」
1枚の書類をヒラヒラと顔の横で動かす雅実に不穏な気配を感じ、なんとなく謝らないといけない気分になるが、やはり手遅れ。
「復帰ライブのチケットの申請書だ。とある関係者から貰っていてな………お前にやろうかと思ってたんだ」
「いやぁ持つべきは友達だなぁ!ありがとう雅実!」
「やらない」
「くれよお!謝るから、謝るからー!!」
「ふははははは!!!………ダメ!!」
勢いで誤魔化そうとした学友にNO!を突き付けた雅実は、アの付く水のダメ神が如く発狂してすがり付く学友を爆笑しながら蹴倒して、部屋を出ていくのであった。