シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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寒いと眠い


雅実の、預かり知らぬところの話

平行世界へ渡る事が出来る聖遺物、ギャラルホルンの前に3人の装者が立っており、1人はギアを纏っているが他2人は私服。

ギャラルホルンにより世界を渡るにはギアを纏わなければならないので、渡ろうとしているのは1人だと分かる。

 

その1人とはこちらの世界を訪れていた天羽奏、2人とは風鳴翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴの両名。

奏は定期連絡としてこちらに来ており、当初の予定なら弦十郎に報告をして帰るつもりだったのだが、装者が本部にいると聞いて…………………なんやかんやあった末に帰還することとなった。

 

 

「ねぇ奏。 結婚するかもって言ってたけど、結局は何時のつもりなのよ! 絶対にお祝いに行くから、当たりだけでもつけてほしいわ!」

 

いそいそと帰り支度をする奏に1人盛り上がっているマリアが吠えた。

2人で翼をからかった直後に軽い調子でコイバナを聞かされたマリアは大はしゃぎしたのだが、そこからどれだけ話を広げようとしても帰る時間だと奏に切り払われてしまって今に至る。

 

 

「はは、さあね?」

 

芸能リポーターよろしく鼻息荒く迫る友に笑いながらも、至極アッサリと返す奏からはどこか他人事を話しているような感じがした。

少なくとも翼はそう感じられた。

 

 

「さあねってなによ、結婚するかもってことはプロポーズはしたのでしょう? 返事待ちなのかしら?」

 

ハッキリとしない奏の言葉に首を傾げて腕を組むマリア。

 

 

「プロポーズはあっちからだよ、あたしが保留してんの」

 

「保留って、どうして?」

 

「どうしてって……」

 

質問攻めとも言える友の言葉に、多分装者の中でもあんただけなら分かるかも知れないけど、と前置いて奏は続ける。

 

 

「あたしらの商売なんていつ死ぬかわからないだろう? なのに結婚なんてしてて良いのかなって、思っちゃってね」

 

「私と貴女で……あぁ、そういうこと」

 

「だからまぁ、検討してるってとこかな」

 

 

酷な話ではあるが、この時の奏とマリアが抱いていた感覚を翼が本当の意味で理解できる日は来ないだろう。

同じシンフォギア装者だが2人と翼では、置かれている立場と言い方は悪いが適合者としての性能がまるで違う。

 

 

平行世界も含め、世界広しと言えどもシンフォギア装者は8人しか――重複した人物を除き――いない。

その中で正式な適合者と呼べるのは翼、クリス、セレナの3人だけ。

LiNKERを使わずにギアを纏うことできる者が正式な適合者であるというのなら、響もそこに入るだろうが結局の所はそれでも半数しかいないのだ。

 

そして残る半数は皆LiNKERが無ければ不安なく戦えないため、切歌と調は2人で動き、未来は未来で他の装者と一緒の時にしか基本的には出撃をしない。

この3人は誰かと一緒で、活動がほぼ日本なので何かがあっても本部からフォローができる。

 

 

しかし奏とマリアは違う。

 

共にLiNKERが必須の時限式、デュオレリック込み込みで考えても長期戦に耐え得るわけではない。

 

奏はあちらの世界では唯一の装者で、ソロモンの杖が見つかっておらず通常ノイズはいまだに出現し、しかもはぐれ錬金術士たちが日本でも跋扈しているなど本編世界並みに面倒な状況。

マリアは世界を股に掛けての活動のために単独出撃が多く、なおかつ海外で出撃する場合は本部からのバックアップも期待できないことがままある。

 

その為、この2人は他の装者達よりも危険度が段違いに高いのだ。

奏に至っては、翼と再会するまでの2年間で身体を削りすぎているせいで色々と表面には出ないダメージも残っている。

 

確かに2人には障害となるものが多く、家庭を持つには躊躇も出るというものだろう。

 

しかし、だ。

 

 

「そんなことを気にしてどうするの」

 

マリアとはしてはそこまで気に掛けていては何もできまいと思う。

今でさえ、こちらの事情を知らない人間と大事な関係性を築いたりしているのだ。

自縄自縛で身動きが取れなくなるだろう。

 

 

「そんなことって……あたし、結構本気で悩んでるんだぞ?」

 

「でも、そんなことよ」

 

不本意だと主張するように肩を竦める奏に、強めの口調で詰めるマリア。

常のマリアならば此処まで絡まなかっただろうが、翼のお見合い練習に付き合っていたことや、雅実を無駄に気に入ってしまって2人をくっ付けても良いのではないかと思考がぶっ飛んでいたこともあり、今の彼女は極めて頭のおかしい状態である。

 

奏の背中を押すことになっているので、今回に限ってはそれも良かったのかも知れないが。

 

 

 

「あのね、別に戦って死ぬだけが私たちにありえる死因ってわけじゃないでしょう。 ギアを纏わない私たちなら通り魔にでもテロにでも、巻き込まれたら死んじゃうし、なんなら病気でだって死ねるのよ?」

 

「そこまで単純な話じゃ」

 

「単純よ! 貴女が気にしすぎなの。私たちは確かに他の装者たちよりは危険かもしれない。けどね、戦える手段があるだけ一般人より遥かに安全とも言えるわ」

 

「そりゃまぁ、そうかも知れないけど……」

 

「じゃあ悩む必要なんてないじゃない、貴女は此処から帰ってその人の所へ行って、プロポーズを了承してくれば良いの!」

 

マリアの強烈な勢いに圧されて前向きな方向へと意識が行ってしまっているのか、服も普通のやつだし……とか、心の準備が……とか、そもそももう少し情熱的にプロポーズをしてほしい……とか、もじもじし始める奏。

この槍クッソ可愛い!とマリアはきゃるんきゃるんだが、蚊帳の外どころではないくらいに放置された翼としては初めて見ると言っても良い片翼の乙女チックな姿に唖然としてしまっている。

 

 

「ふふふ、じゃあ奏。次に会うときには朗報を聴かせて貰えると願っているわね!」

 

「わ、わかったよ。期待しないで待っててくれ……じゃあ翼もまたな」

 

「うん、また……」

 

こうして、ホクホク顔と真っ赤な顔と呆然とした顔の三装者が締まらない別れを遂げた。

昼食時とは正反対の機嫌になったホクホク顔の装者はもう用事は済んだとばかりにヒールの音高らかに本部を後にし、呆然とした顔の装者は混乱した頭を抱えたままで司令部に居るであろう叔父の元へ。

 

真っ赤な顔をした装者が元の世界に戻ったとき、二課のスタッフ達から風邪の心配をされたのはご愛敬というものだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる2月16日AM0時、長く気疲れの多かった1日を終えた翼の姿は自宅マンションの風呂場にあった。

見合いに着た服を返しに向かった風鳴本邸にて弦十郎から改めて軽めのお叱りを受けたあと、遅めの夕食の誘いを9時以降云々と辞して帰宅。

いつも通り服を放り投げてシャワーを浴び、いつも通り湯船に浸かって百を数え、数え………

 

 

「……ぶくぶくぶく」

 

口まで湯に浸かりながら行儀を忘れたように泡を吐き続ける翼。

4度目の百を数え終わっても出ようとしない彼女の頭には、今日1日の後悔が湯水のごとく溢れ出ていた。

 

見合いのために費やしたこの1ヶ月。

その1ヶ月の集大成とも言える今日、果たして自分は何が出来たのだろうか。

 

 

何も出来なかった!

 

(翼としては)真面目に練習したのに、練習の手応えも(翼としては)あったのに、本番では全くダメだった。

良いところなんてまるで無い。

 

緊張で頭がいっぱいで、全てが頭から抜けてしまっていた。

失礼無礼迷惑、し通しかけ通し!あちらからすれば何度怒鳴り付けても足りないくらいの体たらくであっただろうに、最初から最後まで優しくおおらかに構えてこちらを許してくれていた。

 

 

 

自分のファンだから?

だから甘いのか?

 

 

それは違うと、翼は思う。

 

きっと相手の、久我雅実という男の大きさなのだろう。

叔父と肩を並べるほどの立派な体躯には、やはり叔父と同じくそれに見合う心が宿っていた。

 

懐の広い、尊敬出来る人だと思った。

あの祖父繋がりでの見合いであるからと疑心に駆られ、心に隔たりがあったままの自分が恥ずかしい。

 

 

言い訳だが、尊敬出来る人間だと最初から知っていれば見合いも失敗しなかっただろう。

お付き合いに至っていたかも知れない。

 

 

 

「ぶくぶくぶく」

 

 

 

これで良いのだろうか、知らなかったという言い訳を抱えたまま、失礼だけを重ねて終わらせてしまって、本当に良いのだろうか。

 

わざわざ見合いのために時間を取らせてしまったのに、そのうえ自分のせいで本部に連行まがい(まがいではない)のことをして長時間拘束してしまった。

謝罪をした、お詫びにチケットを渡した………そんなことで終わらせてしまうなど、非礼の上塗りではないだろうか。

 

そもそも、このお詫びは自分ではなくマリアから言い出した物で、そんなものが本当にお詫びにと言えるのか?

心の底から申し訳ないとは思っている、しかし、それは相手に伝わらねば意味が無い。

 

 

しっかりと謝罪とお詫びをしたい。

 

義務感ではなく、事務的でもなく、風鳴翼の心のままにそう思うのだ。

 

 

 

しかし、ただ謝罪をしたいということではあの心優しい御仁のことだ、丁重に固辞されてしまうだろう。

 

…………埋め合わせ、そう埋め合わせと言えばどうだろうか。

 

 

だが、埋め合わせといっても何をどうすれば良いのか……………

 

 

 

 

 

湯船に浸かる身体と同様に、翼の思考は揺蕩い続けた。

 

その長考が一応の結論をみたのは百を都合10度数えた時である。

 

 

翼の頭に浮かんでいたのはかつてクリスを相手に絶唱した後、アーティスト活動を再開する直前に響と未来に連れられてデートに行ったことだった。

とても楽しかった思い出。

 

楽しかった思い出だったことは確かだが、あれは女3人で行ったからこそ軽くデートと言えてしまえる類いものなのだが…………

 

 

 

 

 

「そうだ、埋め合わせに、デートに誘おう」

 

 

見合いで知り合ったばかりの男女2人でデートするということが、どれだけ敷居が高いことなのかを、翼は知らない。

 

生涯激推しの存在とデートさせられることがどれだけの心労なのかを、翼は知らない。

 

自分が過大評価されていて、何故か好感度高めになっていることを、雅実は知らない。

 





埋め合わせにデートとか、何処から目線よって話。

なお、翼は大真面目な様子。
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