シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
少し仮眠するね、起きたよ(AM1時)
去年もこんな感じでした、新年おはようございます。
突然だが俺が籍を置く日皇大の第一特定古物研究室、学内での通称聖遺物研は、本来なら日皇大に所縁のある人物や組織から提供を受けた古文書や歴史的な物品を解読保存するための研究室だったらしい。
所縁と言うわりにはドイツやらアメリカやら無節操に様々な国から物品を貰って来ているがそれはさておき、その状況に変化が生じたのはフィーネこと櫻井了子が記した櫻井理論が世界に披露された時のことだ。
ノイズの脅威を打ち破ることが可能な理論として、世界の国々や組織がこぞって研究を開始。
勿論、というより何故か、日皇大もその研究に力をいれるために大幅な資金を投入していた。
学部内外のパワーバランスが崩れかけたレベルの資金投入と、何故か櫻井了子のサポートがあったかいもあり聖遺物研は日本でも随一の研究室として知られるようになる。
俺が日皇大に来たのも此処ならば万一の事にも備えやすいと思ったからなんだが、アニメで見た二課やSONGの設備には劣っているような気がしてならない。
特に実験室の中で聖遺物を扱う今みたいな状況だとそれが顕著だ。
「雅実君、刃を少し水平から傾けてくれるかな。左右はどちらでも構わないよ」
「はい先生」
俺は今蜻蛉切と名付けられた聖遺物を手で持ちながら、良くわからない装置の上にそれを翳していた。
蜻蛉切だけではないが、ボロボロの聖遺物を固定するような設備がないので、そういったものを装置に掛けるには研究員が大事に抱えるしかない。
アニメのデュランダルなどは固定ではなく空間に浮いていたと記憶しているから、今サポートしている中村教授にそれをなんとかく尋ねたところ、物を浮かばせて保管出来るのならそれこそが聖遺物だよと笑われた。
それは記憶違いだったんだろうか。
「……やはり君が持つと、微弱とは言え反応が見られる部位がある」
装置から読み取れる数値に目を通しながら中村教授が言う。
だが、胸の歌なんて物が存在しない俺にフォニックゲインを発生させられるとは思わないので、反応が有るのだとしたら聖遺物が反応する理由は他にあるはずだ。
「あー………………俺に、というより何人かで持つと反応しないだけでは?シンフォ……FG式なんたらも人の歌と聖遺物の相性が合わなければ纏えない物らしいですし」
「もうシンフォギアで良いよ。君がシンフォギアシンフォギアと言うからFG式回天特機装束よりそっちが耳に残ってしまってるしね」
「どうも」
「しかし、複数人で持つと反応しなくなるというのは面白い着眼点だね。金属部分だけで半トン近い物を1人で持てるのなんて君位だという点を考慮しなければ、是非とも試してみたいものだよ」
研究員は基本的に貧弱だからなぁ……いや、資金を此処に入れてくれれば問題はないはずなんだけど。
聖遺物の暴走で事故、なんて世界中で起きてるんだからさ?手で持ったりするより固定できる設備を設けろよ、マジで。
でも、この良くわからない装置だって先月仕入れたばかりだもんなぁ……高くて教授会でかなり嫌味を言われたらしいのに、新しい設備なんて無理かな。
このシンフォギア世界で下手な運動部に金を入れるくらいなら、ノイズ対策の研究に入れた方が良いんじゃないかと思うんだが。
「じゃあ次は違う部位の反応を知りたいから、柄の方を装置の上にしてくれるかい」
「はい」
言われるがまま蜻蛉切をくるりと回して柄を装置に翳すと、教授が微妙な顔で俺を見ていた。
何かを言いたげに口をパクパクさせていたが、やがて諦めたように装置に向き合う。
「どうかしました?」
「いや、なんでもないよ。ただキミハチカラモチダネ!って話さ」
「いえいえ、それほどでもありませんよ。そこまで重く無いですし」
「……聖遺物より君の身体のほうが不思議だよ」
「え?」
「おい久我、お前の端末に電話入ってんぞ」
「ん、誰からです?」
「ディスプレイに名前出てないから、わっかんね!」
教授が何かを呟いたので聞き返そうとしたとき、外から先輩が声を掛けてきた。
未登録ってことはどうせ親戚の電話だろうし、そんなの放っといて構わないのに……
「手が離せないので無視して良いですよ」
「いや、さっきから何度も何度も掛かってきてるから、かなり重要なんじゃね? 教授、借りて良いすか?」
「今は困るね……あぁ、雅実君の耳に端末押し付けて通話させて下さい。それなら手を離さなくても大丈夫でしょう」
「それもそうですね、先輩お願いします」
「お前がそれで良いなら良いけどさ……ほらよ」
「どうも」
通話ボタンが押された携帯に耳をくっ付けると、高音のハウリングを伴った雑音が流れてきた。
どうやら相手側が騒がしい所から発信しているらしい。
なにやら言い争い?のような事をしているのか、聞き覚えのあるようなないような、そんな声がわたしがわたしがと言い合っている。
「おい、こちらは久我雅実の携帯だが、そっちは誰だ?」
「良いから翼、私に任せて……あ、もしもーし雅実? マリアだけど、今大丈」
「先輩切って良いですよ、たいした用事じゃないみたいです」
「わかった………おい、また掛かって来たぞ?」
「間違い電話ですよ!いやぁ困ったもんですね!?」
マリアがなんで俺の番号知ってるんだ……というか、なんで俺に電話を。
い、いや、きっと他人だろう。
マリアという名前なんてどこにでもいるし、雅実という名前も世界各地にいるんだから。
あの声をしたマリアもどこにでもいるし、そのマリアが翼と呼ぶ相手もたくさん、たくさん…………
「はぁぁ、先輩」
「ほい」
「あ、繋がった。なによ雅実、忙しいの?妹さんたちが今なら暇だろうって言ってたのだけれど!」
再び携帯を耳にすると騒音に負けないようにするためか、マリアがが大声でそう言った。
これだけで妹Sが電話番号を売ったことが分かったがそれは一先ず置いておいて、俺は俺が聞きたいことだけを聞くことに。
「今研究室で実験中だよ、忙しいに決まってるだろ。それで、俺に何の用だ?」
「実はね、翼が貴方にちゃんと謝りたいのですって」
「は?謝りたいって、前に散々謝って貰ったろ。もう気にしてないと伝えてくれ」
謝られまくってこちらが恐縮したくらいだ。
あれ以上はいらんよ、と思いながら蜻蛉切を傾ける。
「それなんだけど、この子ったらあれじゃ足りないって」
「つば……彼女が?」
「そうなの!でも、謝罪したいって言っても貴方は今みたいに断るでしょう?」
「そうだな。謝られまくるのも大変だし」
「そうでしょうそうでしょう! だからね、他に埋め合わせがしたいから貴方の時間が欲しいって提案なのよ」
「はぁ、そりゃ一体どんな?」
もうチケットも貰ってるし、埋め合わせって言われてもなぁ?
復帰ライブの記録メディアに直筆サインなんて言われたら確かに欲しいが、別に埋め合わせとかいう話ではないもんなぁ……時間が欲しいってのも良くわからないし。
あ、次は反対側?回します、回します。
「実はね?」
「実は?」
「ふふ、貴方とデートがしたいのですって」
「なるほど、デートか………デート?」
「そう、翼が貴方とデートしたいって言ってるわ」
「眼が、眼がぁぁ!!」
「と、蜻蛉切が!蜻蛉切が光って……!!」
翼がデートをしたいと言ってるのとマリアが伝えた数瞬後、携帯を床に落とした音と雅実ではない男たちの絶叫が聞こえた。
今マリアがいる音響スタジオの雑音も気にならないくらいの大音量の絶叫に、彼女は大いに慌てる。
実験中とのことだったが、雅実が聖遺物の研究をしていることからまさか暴走事故なのか!?と最悪が脳裏をよぎった。
「雅実、どうしたのよ!そっちは大丈夫なの!?」
「………」
「雅実?雅実!?」
「どうしたマリア!何かあったのか!?」
電話を掛ける勇気が出せずもじもじしていた結果、マリアに携帯を奪われて電話を代わられた翼。
自分で言うよりマリアに任せれば安心かと思った彼女はスタッフと打ち合わせをしようと一旦はその場を離れたが、必死な様子の友に気づいて急ぎ戻ってきた。
「それが……」
「……今端末を拾った、心配をかけて悪い」
「雅実!?大丈夫なの!?」
「俺はな。至近で発光を受けた2人が転げ回っているが、まぁ大丈夫だろう」
「それは本当に大丈夫なの……?」
脇で聞いている翼は漏れる言葉に首を傾げるが、FISの記憶が根底にあるマリアとしてはなら大丈夫ね!という感じで温度差がある。
ちなみに雅実も至近で閃光を見ていた筈だがダメージはなかった。
「それで、なんだって?デートだと?」
「えぇ!」
「こ……こ………こ、ことわ、断りゅ!」
「噛むくらいに悩むなら断らないの!」
「断られたのか!?」
翼的には自分のファンでもある雅実に断られるとは微塵も思わなかったのか、愕然とした顔でマリアの腕にすがり付く。
任せてと言ったのはどうしたのと、身体を揺らしてくる翼の額にデコピンを食らわせながらマリアは雅実に言う。
「翼が勇気を出してデートしたいと言っているのに、それを断るの?」
「いたた……勇気?」
「あなたは黙ってなさい……どうなの雅実。デートの誘いを断られるなんて恥を、翼に掻かせるつもり?」
「恥か…………………………ファン的には推しとデートというのは夢の1つだ」
「なら」
「けどな、ファン的にはファンとデートする推しなんて見たくないのも事実なんだよ」
「面倒な拘りね」
「普通のファン心理だ! ファン感謝デー的な催しで、そういう意図のイベントならまぁ百歩譲って良いさ。複雑だが公式の遣り方をとやかく言うもんでもないしな。だが私的なものなら勘弁願いたいものだ」
プライベートでファンとデートしたなど、万が一でも知られたらイメージダウンも甚だしい。
ファンに手を出したなどと翼が言われるのは、雅実の望むところではなかった。
デートしたいかどうかだけで聞かれれば、間違いなくしたい。
ツヴァイウィングとかシンフォギアとかを無視したとしても雅実の好みに翼はドストライクだ、前世の記憶が無ければデートに誘われた瞬間に飛び付くだろう。
「でも今回はアーティストとしての風鳴翼じゃなくて、一個人としての風鳴翼が一個人としての久我雅実にデートの誘いをしているのよ?受けても良いじゃない」
「……そもそも、どうして埋め合わせがデートなんだよ可笑しいだろ」
「そんなの翼がそうしたいって言ったからよ、決まってるじゃない」
「翼ちゃんが本当にデートしたいと言ってるかどうかなんて、俺には確かめる術はない。お前が嘘を吐いてる可能性もあるだろう」
「疑うなら良いわよ、翼にちゃんと言わせるから……はい翼」
「ま、マリア!?」
携帯を突然に渡された翼は、お手玉しながらもしっかりと端末を握りしめ耳に押し当てた。
もともと自分で電話をするつもりだったのだから大丈夫、大丈夫、私は出来る子だと自らを鼓舞する。
大きな深呼吸を1つして、良いですか?と相手の反応も聞かずに口を開いた。
「私とデートをしませんか!?私は来週の土曜と日曜ならあいてますので、ご検討ください!! ちなみに私がエスコートしますので服装はカジュアルにお願いします!それでは!!!!」
と挨拶無用のガトリングを大声で言い切った翼。
そのままの勢いで電話も切ったあと、やりきったとばかりの笑顔でマリアに向き合った彼女はぐっと親指を掲げて見せ……
「言えたぞマリア!」
と満足そうに笑ったのである。
バカな子ほど可愛いという言葉の意味を深く理解しながら、マリアは笑顔で翼の頭を引っ叩いた。