シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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はいよらない、はいよらないよ。


喫茶店と写真と進展している話

ショッピングモールから離れた所にある喫茶店 つきのわねこ。

日皇大から小走り(雅実基準)5分の位置にあるこの喫茶店は、学友にすら教えていない雅実の隠れ家的なお気に入りのお店だ。

 

雅実が教えていないだけで学友は彼のオキニである事を知っているのだが、知らない方が幸せな物というのも確かに存在する。

 

 

そのつきのわねこに、雅実は翼を連れて来ていた。

 

服を改めた結果、翼のプラン通りにお好み焼き屋フラワーへ行くことなど出来よう筈もなく、悩む彼女に対して雅実がここを紹介するといった形を取ったのである。

 

 

 

さて、入店した2人に近付いて雅実のコートを受取りに来たお婆さん店員。

そんな店員と挨拶を1つだけ交わして店の奥へとずいずい進む雅実と、店員に軽く頭を下げてその後ろに続く翼。

 

足元も覚束ないような薄暗い色調の照明だが店内は狭く、僅かな明かりであってもしっかりとあちこちにある小物たちを照らしていた。

横倒しの樽、種類もわからない観葉植物、大きな帆船のボトルシップとその後ろに飾られている大洋の絵画。

 

乱雑に雑多な物たち。

それが妙な味を出していると翼には思えた。

 

 

 

「此処へは良く来られるのですか?」

 

「あぁ、主人が淹れるコーヒーと紅茶が美味しいからね」

 

馴れた様子への質問に雅実は短く返す。

空いた時間があれば此処に来るのが彼の大学生活の基本であり、ストレスの多い人生での癒しでもあった。

 

一番の人気メニューはお婆さん店員お手製のナポリタン。

 

常連に大人気のナポリタン、みんな大好きナポリタン、もちろん雅実も大好きナポリタン。

きっとこの婆さんはナポリタンの化身なのだろう、雅実はいつもそう思いながらこの店のナポリタンを貪っている。

 

 

そんなお婆さん店員が注文を取りに来た。

雅実の方はまるで見ずに翼だけに対して語りかけてくる。

 

「お嬢さん、ご注文は?」

 

「えっと、そうですね……雅実さんのおすすめって有りますか?」

 

「ナポリタンと言いたいけどこの服だとね……婆さん、今日のサンドイッチは何が入ってんだ?」

 

「アスパラとふきのとうだね。嫌いならベーコンとトマトもあるよ」

 

「だそうだけど、翼ちゃんはサンドイッチで大丈夫?」

 

「はい」

 

「じゃあそれ頼むよ。あ、あと紅茶」

 

気安げな言葉にうんともすんとも言わず去っていくお婆さん店員を見送り、本当に通いの店なのだなと翼は思った。

 

 

 

「ごめんね、本当はもう少し気の利いたお店にでも連れて来られたら良かったんだけど……残念ながら俺はそういう店を知らないからさ」

 

出された紅茶を飲んで落ち着いた所で雅実が対面の翼に謝る。

つきのわねこはお気に入りだが、デートというくくりの出歩きには不向きなものだと感じていたからだ。

 

「いえ、とても良いお店だと思います。私もこの辺りは良く来ますが此処は知らなかったので、とても新鮮です」

 

「はは、そう言って貰えると助かるね」

 

「世辞の類いではありませんが?」

 

「うん、分かってるよ」

 

良いお店なのは間違いないことだ。

ただ、一般的にお洒落と言われるような見た目ではないことも紛れの無い事実。

 

だから翼に気に入って貰えて嬉しいと、雅実は素直に喜んだ。

 

 

 

 

そして、そこから2人は互いのことを長く語り合った。

 

家のこと仕事のこと、家族や友人のこと、大学での生活などなどさまざまな話をした。

 

 

響を始めとした友人たちの話を楽しそうに話す翼の姿に笑みが止まらない雅実と、大した事ではないけれどと語る口から彼のぶっ飛んだ行動が読み取れてくすりと来ている翼。

ファーストコンタクトの失敗が嘘のような和やかな時間で、見合い開始時点でこういう風に話が出来ていたらどれだけ良かったことかと2人は思い合う。

 

話の途中で翼が平行世界の話をしそうになって寸での所でなんでもないですとかなんとか言ったり、自分の自堕落なところはなんとなく誤魔化したりと怪しい所は有った。

雅実自体も流石に伝説と揶揄されるようなところは濁すなど、2人揃って猫を被ってはいたが…………それでも互いへの理解と親交が大いに深まったことに間違いはない。

 

 

 

 

「そういえば雅実さん、先程暁にアドレスを教えていましたよね。あれは一体?」

 

ある程度語り尽くした感が出てきた時、ふと翼がショップモールでの出来事に触れる。

別れ際に雅実と切歌が2人でこそこそ話をしていて、翼に聞こえたのは彼が切歌へ携帯のアドレスを記した紙を渡したということだけだった。

 

 

「あーあれは、その、ないよ? 理由なんて」

 

「む、怪しいな」

 

「あ、あはは…………分かった、分かったからその顔は止めてくれ」

 

笑ってやり過ごそうとしたせいでジト目の度合いが深まっていく翼に、雅実は降伏を示すように両手を挙げた。

 

 

「これを見てくれるかな」

 

「これ?」

 

雅実が懐から取り出したのは1枚の写真。

写真にはショッピングモールでのファッションショーの途中、興に乗った翼が雅実に向かってポーズをとっている姿が写っていた。

どこからどう見ても見事にカップルである。

 

 

「こ、これは……」

 

「切歌ちゃんが撮っていたらしくてね、ポラロイドカメラと言うんだったかな。あの、撮ったその場で現像されるやつ」

 

「知っています。最近、装者の中で流行っているので……しかし、いつの間に撮ったのだ」

 

とある事情から盗撮技術が向上している切調だが、その技術が感覚の鋭い2人をして気付かせないほどの物であろうとは、黒幕の忍じ……緒川某にも分かることではなかった。

 

 

「ファンとしてはあれなんだが、この写真をあげると言われ、とても舞い上がってしまってな………つい、男手が要るような自体になったら何時でも呼んでくれと連絡先を渡してしまったんだよ」

 

「なるほど……」

 

「いや、恥ずかしい話だ」

 

神棚にお供えする感じでお金も沢山渡していたのだが、雅実的には大したこととは思わなかったので何も言わないし、翼も当然気にしない。

 

 

「しかし、どうせならこんな風に撮らずとも普通に撮って貰えば良かったですね」

 

「それは、なんとも」

 

「またファン心理というやつですか?」

 

「そうだよ。俺は有名人が出歩いているところへ押し掛けてサインを求めたり、写真を乞うのは嫌いだ。だから本当ならこういう写真も断るべきだと思うんだが……」

 

ここではっとして、雅実は翼に頭を下げる。

 

 

「いや、翼ちゃんに無断で貰っている時点でこれは言い訳だな。ごめん」

 

「写真くらい、私は何時でも撮りますよ?」

 

「いやでもプライベートだし」

 

「雅実さん、良いですか?」

 

「え、はい」

 

翼は頭を下げる雅実に対して、少し強い語調を作った。

いくらなんでもここまで遠慮が過ぎると、多少腹が立ってもくる翼である。

 

 

「私は嫌なら写真を撮っても良いなとど口にも出しません」

 

「あ、あぁ」

 

「それに、今私達がしていることはなんですか。 デートではないのですか?」

 

「そうだね」

 

「なら今さらプライベートがどうとか、そういう物言いは止めて頂きたい。私は好きであなたとプライベートを共に過ごしているんですから……分かりましたか?」

 

「分かった」

 

「ふ、なら良いです」

 

コクコクと全力で頷く雅実に、満足気に笑って翼は紅茶を啜った。

 

 

 

雅実は、翼ちゃんは誤解されそうな言葉を誤解されそうなシチュエーションで言ったことに気づいているんだろうか、と内心思う。

自分でなければ好かれていると勘違いしかねないぞ、と。

 

 

いや、見合い当日にスピーカーから漏れ聞こえた

 

「本気でお見合いを成立させるために其処に居るわけじゃないのよ? あくまで相手の顔を潰さないようにと礼儀正しく会話して、それでお食事して、さようならすれば良い」

 

というマリアの言葉が無ければ自分でも勘違いしてしまったかもしれない、と。

 

 

 

 

 

 

雅実は知らない。

 

そのマリアが自分と翼をくっつけても良いと思っているなど。

 

 

雅実は知らない。

 

今日の顛末を知ったマリアが本格的に自分と翼をくっつけるために動き出すことを。

 

 

雅実は知らない。

 

翼が断る前提で見合いをしていたわけではないことを。

 

 

雅実は知らない。

 

翼には、見合いで知り合って結婚するという流れに対しての忌避感がないことを。

 

雅実は知らない。

 

外掘りも内堀りも、既に埋められつつあることを。

 

 

 

 

今や無傷なのは本丸だけあることを、雅実は知らない。





――――

家訓的な物を本心から守り抜いて、防人だの護国だのという感じの翼が家同士で行われる見合いを否定するはず無いねって話。
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