シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
翼ちゃんとデートした日から結構な時間が経った今日この頃。
あの日以降何をどうしてなのかはまるで分からないが、翼ちゃんから電話やお出かけの誘いがちょくちょく有った。
用事があれば断れもするんだけど、間が良いのか悪いのかそういった時に限って予定が空いていて……もちろん嫌な訳ではないんだが、やっぱり翼ちゃんとの付き合いがあることにめっちゃ違和感がある俺なのです。
つい昨日も翼ちゃんに誘われて飯屋に行った。
そこは彼女自身初めて訪ねた店らしく、しきりに頷きながら
「このスープが……」
とか
「あの人が店主か……結構年上なのだな」
とかなんとか言っていたな。
所々俺には意味が分からない発言だったが、それらをまとめてみると翼ちゃんの知り合いが懸想している男の店といった感じか。
まぁ俺には関係ない話なんだけども。
で、その店の料理は量が多くて値段も安く、味はとっても美味しかったからこれから予定が空いてるときには1人で行こうかと考え中だ。
ただ、日皇大からだと遠いから昼には行けないんだよ……帰りだと夕飯になって家で食えないしさ。
あ、考えてたら腹が減って来たなぁ、などと呆けていると
「設備が足りない、予算も足りない!」
と、突然中村教授が叫びだした。
言い忘れていたが俺は今、聖遺物研の実験室で蜻蛉切の実験調査中である。
さらに言うと中村教授のこれは本日2度目、ここ1週間で30度目の発狂タイムだ。
多いよね!
「雅実君!」
「はい、教授」
「どうしたら良いかな!?」
「来年度の予算を待てば良いと思います」
この1週間で8度目となる質問に、俺は8度目の答えを返した。
おそらく明後日には10を越すことになるだろう。
「来年度の予算が貰えるのは何時さ!?」
「4月馬鹿の日以降です」
「今何月何日!?」
「3月23日です」
「最短で1週間もあるじゃないか!!!」
ララライッシュウカンーと歌い出す教授。
無駄に良い声をした女性が音程を外して歌うのでとても耳障りなんだよなぁ。
いつもはおっとりして知的クールな人なんだけど、この時期になり予算の事になると頭がおかしくなるんだと助手さんや先輩方が言っていた。
去年はここまでじゃなかったから、俺としては今年が初遭遇である……一生遭遇しなくて良かったのに。
「もう少しで1段階前に進めるんだ、もう少しで……それが完成するんだよ!!」
教授は俺の手に巻き付けられている金属の手甲……どちらかと言えば手袋に見えるそれを指差して叫んだ。
これが完成したから何になるんだと思うが、それを訊ねればきっと俺は2時間ほど拘束されるに違いなかったから問わない、決して。
前に先輩が迂闊な発言をしたせいで大変な目に有ったというのは確認済みさ。
「はぁ……ところで雅実君、それを着けてて体調に変化などはあるかな?だるいとか、吐き気とか、そんな物が」
突然元に戻った教授が良くわからないことを聞いてくる。
手甲着けた位で具合が悪くなるわけないだろうに。
「問題ないです」
「全く?」
「はい、全く」
「……君、やっぱりおかしいよ。聖遺物より余程君の身体のほうが特異だ」
「流石に失礼では?」
「失礼なものか」
やれやれと首を振る教授は、やはり変な人だ。
この人は櫻井了子亡き後の日本における聖遺物研究の第一人者と言われるほどの研究者だが、俺が思うに櫻井了子以下は皆どんぐりの背比べでしかないんだろう。
櫻井了子に匹敵するのは変人具合だけなのでは……と、半ば本気で推察している。
蜻蛉切の刃を削り取ってこんな手甲に作り替えただけでも色々あれなのに、それを俺に装着させたあげくに体調がどうとか聞いて。
それに手甲を着けたままで木だの石だの鉄だのを握り潰させるのも意味が分からない。
今日の実験の名目は、確か掌部の耐久実験、だったか。
この手甲がなんなのか知らないけど、なんとなくアームドギアみたいだなと俺は思っていた。
「うーん、柔道部とアメフト部の子達は持った瞬間に気絶したのにね……」
「え、何か言いましたか?」
「いいや、何でもないよ………さぁ実験を続けようか!」
「「「はい!」」」
元気良く手を叩いた教授に俺以外の生徒や研究員たちが同じく元気に答えた。
他の連中、教授が発狂してるときは遠巻きだったくせになんでそんにスルりと近付けるんだよ……
「さぁ雅実君、これを握って欲しい」
「了解です」
そうして指し示されたのはおそらく何かの圧縮木材。
助手さんに聞いた話では鋼鉄以上の堅さが有るって話だけど………木材は確かに強い素材だが圧縮しただけのこれが本当にそこまで堅いのか?
「ふん!」
興味が湧いたから少し力を込めて握る。
如何程のものかと期待したんだが木材は力を込めた瞬間にはへし折れてしまい、それだけではなく手甲の掌部も裂けてしまっていた。
鋼鉄より堅いってのは思い切り誇張だったか……鋼鉄はもう少し持ったのに。
「…………データ、取れた?」
「一瞬だったので正確には分かりませんが、推定で800キログラムはゆうに越えるかと」
「800……雅実君、どうかな?」
「そうですね、少し脆いと感じました。これくらい柔い木を握った程度で破れていたら、どうにも使いようがないですね」
俺以外なら別に困るような耐久性でもないはずなんだろうが、俺に実験させてるってことは……………まぁつまりはそういう意味なんだろう。
俺が着けている手甲は弦十郎さん用のアームドギア、きっとそれのプロトタイプなんだ。
俺にはあの人程ではないが相応の力がある。
だからあの人の為の装備の実験には持ってこいの人材ってことなんだろう。
そうでもなければ1年の頃から聖遺物を使った実験に参加など出来る筈もないし、今もこんな事をやらされている筈がない。
「最新のナノカーボン素材を使用しているんだけどね……これ以上の強度となると」
「なると?」
「予算がない! 足りない! 設備もない!! 全く足りない!!つまり………わかる!?」
「はい、来年度待ちってことですね!」
「その通りだよ、雅実君!」
「「はっはっはっ」」
本当は笑い事じゃないんだけどな………
シンフォギアのイベントは季節の節目付近に起こることが多かった。
だから立花響が今年卒業ということで、この手甲と原作とを併せて何かが起こるんじゃなかろうかと戦々恐々としているってわけだ。
考えすぎなら良いけど、翼ちゃんの復帰ライブもあるから不安要素はなるだけ消しておきたいファン心。
つまり、この手甲には早く完成して貰いたいんだが。
ただまぁお金と設備の問題はいかんともしがたく……
「「はっはっはっ!」」
笑えちゃうねって話!
底冷えするような冷たい眼差しを向ける立花響に対して
「馴れ馴れしい口を利いて、申し訳ありませんでした」
床を舐めるような土下座を敢行した俺は、きっとがっかり目のOTONAモドキなのだろう。
笑えよ、ほら、笑えちゃうんだろ…………………無理だ、死にそう。