シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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風邪と侮って雨のなか作業してたら、普通に死に掛けるので止めよう。


切歌と調の話

こんなの誰も求めていないと誰かが言った、そんな冬に逆戻りの寒さの中で3月23日の正午は訪れた。

3年生卒業祝いパーティーの買い出しのために雪音クリスの家を出たのは、唯一時間が空いていた暁切歌と月読調の2人である。

 

 

リディアンは年生ではなく回生だが、そういう野暮なことを言うのはクリスだけなのでそのまま3年生卒業祝いパーティーと題打たれることとなったこの祝いの席。

大学の卒業式関係で忙しいクリスはここ数日朝から夕まで大学へ行っており、家主不在を良いことに勝手知ったるなんとやらとばかりに切調がコンビで部屋を飾り付けていたのはついさっきまで。

 

数日使った飾り付けも一段落と行ったところで、パーティーでの飲食物を求めて商店街へと足を向けているのであった。

 

 

買ったものを乗せるための小さな台車を押している切歌と、買うもののチェックをしている調の間に会話はない。

時折すれ違う人たちの話し声だけが2人のBGMだった。

 

静かでゆったりとした時間が流れる中、ずっとこうして居たいと思いながらも切歌としては言いたいことも有るわけで……

 

 

「せっかく響さんと未来さんの卒業祝いだって言うのに、全員で集まれないなんてこんなのないデスよ」

 

また始まったと調は思うが、自分としても大体は同じ気持ちなので付き合う。

飾り付けの最中何度も会話の話題として挙がったことではあるが、こういう文句は言っても言っても尽きぬものだ。

 

 

「翼さんもマリアも、それにエルフナインも……残念だけどお仕事だから」

 

「うぅぅ、英国行きって明日に延ばせないんデスかね……せめてパーティーが終わる夜に出てくれれば良いのに」

 

「回収した聖遺物を受け取るために潜水艦で行くって事だし、物が物だから速く行かないと駄目なんだって」

 

「神様とお話するための、祭壇デスか」

 

マリアたちが捕らえた錬金術士に対する装者たちの感情は、なんてことをしてくれたんだ……ただそれだけだった。

 

捕らえられたとはいえ彼らは特に反社会的といえる活動をしていた訳ではない。

あくまで彼らが信奉する宗教観と、そこに根差した知恵への渇望を元に地球の外に存在する高次元の存在を求めていただけであって、世界の破壊だの因果逆転だの国家転覆だのという大それた野望などなかったのだ。

 

だから神を名乗る存在との交信がなされた後にアジトへ踏み込まれても抵抗などしなかった。

交信した時点で彼らの目的は果たされたと言っても良いのだから、それも当然と言えば当然か。

 

 

押収された証拠品と構成員の足取りからの推定では、人的物的どちらにも加害は無く、言うまでもなく極めて無害な集団。

ただただ、捜査中に目立った動きをしたために捕まっただけ。

 

 

交信に成功していなければ監視を付けられるだけで済んだだろうが彼らからすれば幸いなことに、そして英国政府とSONGからすれば面倒なことに、交信はなされてしまう。

 

彼らはキリスト教的な意味合いでの神と信じているのだろうが、その神が実在しているのであれば間違いなくそれはアヌンナキ。

シンフォギア装者が揃って相手をしなければならないほどの存在だ。

 

 

いくら悪気が無かろうが、シェム・ハのような存在とまた戦わされることになるかも知れないともなれば、装者たちは苦い気持ちにならざるをえない。

戦闘特化でなかったということらしいシェム・ハであっても大いに苦戦させられた。

 

ならば、我が敵手を見つけたり、などと好戦的なことを宣う輩はどれだけの強さなのか。

 

想像もしたくないことだが、現実問題として戦うことになるSONGとしては考えておかねばならない。

たとえそれが何時、何処に来るかが分からないとしても。

 

 

 

「何はともあれ憂鬱なことに違いないのデス」

 

「そうだね、切ちゃん」

 

「「はぁ……」」

 

2人は揃って溜め息を吐いた。

来るならさっさと来て欲しいと思ってしまうのはいけないことだろうか。

 

来たら相応の被害が出てしまうかもしれないが、それでもやらねばならないのならさっさと済ませてしまいたい。

宿題は早めに終わらせるべきだと、短い学生生活の中で2人はしっかり学んでいた……主にクリスの教育で。

 

 

「アヌンナキと戦うことになったら奏さんたちにも来てもらわないと駄目デスよね?」

 

「シェム・ハと戦った時だって他の世界の装者たちが居てくれたから勝てたわけだし、それはね……でも突然来られたら、こっちの装者も揃えないこともあるだろうし」

 

「ヘタしたら1人2人で相手にしないといけないかも知れないってことデスよ……」

 

「「はぁ……」」

 

2人はまた溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足取り重く商店街に着いた2人はその場の喧騒がいつも以上であることに気付いた。

クリスの家にたむろすることが多いために結果としてこの商店街にも多く立ち寄っているのだが、どこを見ても人人人などという今現在のような状況は見たことがない。

 

何かのイベントでもやっているのか?

 

首をかしげていると商店街の中心部からガランガランと大きめのハンドベルの音が響いてきて、歓声があがる。

それで何が行われているのかを理解したのは調だった。

 

 

「福引をやってるんだね」

 

「福引……おお、噂の福引は今日だったんデスか!」

 

「切ちゃん知ってるの?」

 

「先月チラシが配られてたんデス。豪華商品てんこ盛りで、大きなテレビとか新型ゲーム機とか、ハワイ旅行とか……まぁアタシたちには関係ないデスけども」

 

夢がありますねーと他人事の様に言う切歌に調は何故なのかと問う。

 

今からそれなりにお金を使うから、ある程度は引けるのでは?と。

 

 

「だって、1日から一昨日くらいまでにお買い物しないと駄目だったはずデスし」

 

相方の疑問に、しっかりとチラシの内容を覚えていた切歌は特別残念そうにするでもなく軽く答えた。

 

 

「確か3千円購入したレシートで1枚福引券が貰えるってやつだったかと」

 

「残念……でも、良く覚えてたね?」

 

「一緒にいた未来さんが、何か計算して5回なら~って言ってたんデス。だからデスよ」

 

「へぇ」

 

5回ってことは1万5千円デスかぁ、大金だよねと切調は話す。

SONGから貰っている給料からすれば高すぎるほどの金額ではないのだが、未だに貧乏性の抜けない2人には雲の上の話だった。

 

マリアがこの2人の生活水準を上げるために色々とはたらきかけているのはSONGのスタッフには周知の事実であるが、それが功を奏しているようには見えないのが辛いところである。

 

 

賑やかな周りを尻目に買うべきものを買うために店へと踏み入れた2人は、混雑する店内をするりと抜けていく。

買うものが多いから素早く済ませないと、料理の仕込みやらなんやらで時間が間に合わなくなってしまう。

 

響の胃袋を相手にそれは不味い。

作る側から足りなくなってしまう。

 

 

「えっと、お米ってこれで良いんデス?」

 

「隣の10キロのやつ。クリス先輩はいつもそのブランド米を買っているから……あと、そっちの1キロの雑穀米も」

 

「はいはーいっと」

 

「次はジュースを買って、お野菜とお肉と……そういえば、本当にお金は大丈夫なの?」

 

「臨時収入があったから全然平気デース!今回はアタシがお財布係ということで、太鼓船に乗ったつもりでいてくれて大丈夫なのデスよ!」

 

財布に忍ばせた8枚の諭吉が切歌を強気にさせていた。

 

 

「多分それは大船だし、太鼓判って言いたいならここでは使わないと思うよ?」

 

「およ」

 

「まぁ、お金が大丈夫なら良いけど」

 

「ふっふーん、なんならちょっとお高いお肉でも行っちゃいますか?100グラム300円とか!」

 

「おお、贅沢だね切ちゃん!」

 

基本質素な食生活の2人に対しそこまで贅沢ではないという突っ込みは不粋の極みか。

ただ、マリアはもう少し頑張らねばならないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとごめんなさいね?」

 

「「はい?」」

 

買う物リストをチェックし終えて台車一杯カゴ一杯に商品を詰め込んだ2人がレジ待ちの列に並んでいると、顔見知りの店長が怪訝そうな顔をしながら2人に近くに寄って来た。

 

 

「今日買い物をしても福引券は貰えないのだけど、大丈夫?」

 

どうやら2人が福引券欲しさに大量の買い物をしていると思ったようで、とても心配そうにしている。

納得いった切歌がニコリと首を縦に振って答えた。

 

 

「大丈夫なのデス。これはパーティー用に買っていくだけなので!」

 

「あらそうなの。でも、随分と沢山買うのねぇ」

 

「沢山食べる人がいますから」

 

「うふふ、男の子?」

 

「いえ、アタシたちの学校の先輩デス!」

 

響の食べる量は尋常ではないから男と勘違いされても仕方がないと考えていたら、ふと正月に一升餅を1人で食べきった姿を思い出した。

いやぁ腹八分目くらいが一番美味しく食べ終われるよねぇと本気で言うので、未来を除く一同が愕然としたものである。

 

一升餅は約2キロあるが、本人曰く醤油、砂糖醤油、きなこ、バター、御雑煮と色々食べ方があるからまるで飽きない!とのこと。

ちなみにその後藤尭特製の干し芋を普通に食べていたことを此処に記す。

 

八分目とは一体………………

 

 

「でもこんなに買ってもらっておいて何もないのは色々アレよねぇ……ちょっと待ってて」

 

「え?」

 

「余ってる福引券、少しあげるから」

 

「それは……」

 

「アタシたちは嬉しいですけど、良いんデスか?」

 

「良いの良いの、常連さんの雪音さんちの後輩ちゃんだもの。待っててね、すぐ持ってくるから」

 

小走りに去っていく店長に、切歌は調と顔を見合わせた。

 

 

「タナボタ?」

 

「デスね?」

 

気にもしていなかった福引だが、引けるとなれば期待も膨らむというもの。

2人は店長を待つ間、レジ脇のチラシに載っている景品を見て楽しむのだった。

 





――――
福引で当たったPS4を今でも使うマン。
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