シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
「へぇ、今日は先輩の家で立花さんたちの卒業のお祝いなんだね」
「はい」
「本当なら翼さんたちにも来てほしかったんデスけど……任務なので」
「そうなんだ……って、切歌ちゃん?」
「え?あ、任務って言うのもダメデスか」
「まぁ、そりゃあねぇ」
「不注意だよ切ちゃん」
「ううぅ」
商店街を出てからとりとめの無い話を続けてはや30分、両手に花状態だからかやけに周囲の視線を感じる今日この頃だ。
羨ましかろー?可愛い子ちゃんたちに囲まれてるの、羨ましかろー?
なんて思いながら歩いていると、道の先に目的地のマンションが見えてきた。
アニメを見ていたときから良いマンションだとは思っていたが、立地を見てもとても素晴らしい。
新しいし、大通りに面しているし、近くに交番と消防があるし、さっきの商店街もある。
少し歩けば駅とバス停が有って、リディアンへのアクセスも十分に快適だろう。
娘を独り暮らしさせるならこれ以上ないってくらいには素晴らしい場所だ。
弦十郎さんが選んだのかは分からないが、このマンションを雪音クリスの家に選んだのは本当に良いチョイスとしか言いようがない。
「さて、荷物はエントランスに置けば良いのかな?」
「玄関まで運んでくれないんデスか!?」
「いや、いやいや、女の子が独りで暮らしてる部屋の場所を男に教えちゃダメだぞ?」
「雅実さんは翼さん一筋だから、大丈夫じゃないかな?」
「そういう問題じゃないだろう!?」
「「えー?」」
えーって……
「でも、アタシたちじゃ米俵を運び込むなんて出来ないデスよ」
「そう言われてもなぁ」
「響さんの裸を見ても紳士的だったという雅実さんなら、大丈夫大丈夫」
「調ちゃん、初対面の男を信用しちゃいけない。男ってのはオオカミだと昔から言うだろう?俺を招き入れた結果、先輩が嫌な思いをするかも」
「翼さんが雅実さんは信頼できる人だと言ってました。翼さんの信頼を裏切る可能性がありますか?」
「裏切らない!裏切らないけどね?そういう問題じゃないんだって……」
女の子しかいない家、しかもその家主が不在の家に入るなんて不躾にも程があるだろ。
安全管理の面でも流石にそれは認められんし……周りの目がな。
「じゃあクリス先輩に電話で聞いてみるデスよ。それなら良いデスよね?」
「その子がOKを出したならね」
まぁ出ないだろうけど。
「あ、クリス先輩? 今買い出しから帰ってきたところなのデスけれど、色々あってデスね……え、もう上に居るんデスか? じゃあ丁度良かったデス!実は荷物が思いっきり増えてしまって、知り合いの人に荷物持ちを手伝って貰ってエントランスまで帰って来たのデスが………… え、いや通りすがりにたまたま会って頼んだとかではなくてデスね、いつでも頼って欲しいって言われてたのでお願いをして……ハイ、ハイ、ハイ、クリス先輩も知ってる人で………分かったデスよ、連れていくのデス」
え、通ったの?
「お礼をしたいから上がって貰えとのことデス!」
「は?いや良いよ礼なんて。俺が君と約束してた事なんだから」
「クリス先輩は口は悪いデスけど礼儀にはうるさいデスから、そういう所はしっかりしたいのデスよ、きっと」
「うーん」
「ひょっとして、クリス先輩のせいで土下座したから会いたくないんですか?」
「違う。親しい訳ではない女の子の家に行くっていうのが、そもそも俺は好きではないんだよ。俺はともかく相手が変に噂されたら嫌だろう?」
世間様とやらは色々煩いからな。
だが……
「家主に招かれているのに断るのも、失礼か」
「「そうそう」」
「じゃあさっさと運び込んでしまおうか。案内よろしく」
「「はい」デスよ!」
「電話、誰からだったの?」
通話を終えたクリスに直前まで話していた未来が声を掛ける。
今日のパーティーの主役の1人であるはずの彼女と、形ばかりのホストであるクリスは一緒に簡易的なツマミを作っていたのだが、そこに電話が来たので作業が中止されていたのだ。
飾付けの道具が散乱していた玄関とリビングの掃除を平行世界の響とクリス2人がしており、腹ペコ魔神と平行世界の翼が風呂を洗っている。
なぜパーティー前にそんなことしているかというのは、今出ている後輩たちがいつ帰ってくるか分からなかったからというのもあるが、場所を借りるんだからせめて掃除くらいはと平行世界の響が言い出したから。
そして掃除をしていたらお腹が減るよねと、この2人が軽いものを用意していたのだが……
「馬鹿な方の後輩」
「そうなんだ。切歌ちゃんはなんて?」
「なんか予想以上に買い込んだのかは知らねえけど、アタシも知ってる奴に荷物持たせて一緒に帰って来たんだと。今そいつと下にいるらしいから上がらせようと思ってさ」
「クリスが知ってる人で、切歌ちゃんが荷物持ちを頼める人って……」
「お前らの同級生トリオのどれかしかいないだろ。いやぁ丁度よかった、タイミングが会わなくて卒業祝いも渡せなかったし、とりあえず1人だけでも祝いを先に渡しとかないとなぁ……」
先輩としての威厳がと呟くクリスに小さく吹き出す未来。
怪訝そうに見られたのでにこやかに誤魔化して、彼女は言った。
「じゃあお料理増やさないとね……でも、時間は大丈夫なのかな」
「荷物運びを頼めたくらいなんだ、ちったぁ余裕も有るだろ。無ければ無いで祝いだけでも持たせて帰らせる」
「うん、わかった」
2人の間で話が完結したその時、玄関からチャイムの音が聞こえてきた。
待ち人来たりてと言った感じで2人がそちらに向かおうと思い、汚れた手を拭いていると……
「「あぁぁああ!!」」
と後輩達が放つ魂の叫びが聴こえてきた。
自分達か買い出しに言ってる間に主役が到着していたのだから驚くのも無理はないかもしれないが、それにしても驚きすぎだろう。
「お前らな、そんな声出したら近所迷惑だろ………うわぁ」
「どうしたの?」
クリスが先んじて目にした光景を続いて見た未来は、一瞬弦十郎が玄関先にいるのかと瞠目してしまった。
巌のように頑強で、恐怖より美しさを感じるほどに鍛え上げられた大きな身体を持った男など、未来の記憶の中には弦十郎しかいない。
しかし、いや違う。
そう思ったのは男の髪が弦十郎とは似つかない色をしていたからというのもあるのだが、そもそも今この場に弦十郎が居るわけがないということを思い出したからでもある。
更に言うなら
「馴れ馴れしい口を利いて、申し訳ありませんでした」
などと土下座しながら言う人間だとは、到底思えなかったからだ。
言われている平行世界の響など、目の前で大男に土下座されて露骨に狼狽えている。
「…………家に入って貰ったら?このままご近所さんに見られたらクリスの体面的にマズイよね?」
土下座する男になんと声を掛ければ良いのかわからず、とりあえず未来がそう言った。
やりたいことが、多すぎる。