シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
「俺は翼の姉の……えっと、あ、奏だ!」
「お、おおふ………ソウナンデスネ」
「あー、ガキの頃に養子に出されてて、それで……なんだ……そう、あいつと会ったのも最近でさ、あはは。いやぁ困った困った突然妹ができるんだもんなー」
「ソレハコマッチャウネ」
気絶から目を覚ました俺の前で、翼ちゃんだけど翼ちゃんじゃない翼ちゃんが嘘を吐き続けていた。
他の子達は皆遠くでパーティーの準備をしているようで、時折視線を感じる……本物の立花響はハラハラした様子でこちらを伺っているが、見てないで助けて欲しい。
それにしても、俺の感覚すべてが目の前の存在を翼ちゃんだと訴えてくるが、理性ではこの子が翼ちゃんなんだよなぁ俺ッ娘ショートの活発翼ちゃんなんて新しくて可愛いなぁ………………違う違う、この子は翼ちゃんじゃないんだよ。
あれだよ、翼ちゃんなんだよ。
違う、翼ちゃんじゃないんだよ。
現実として目の前に翼ちゃんじゃない翼ちゃんが居るということで思考がシェイクされ過ぎて、頭が可笑しくなりそうだ………
しかし、コピーされた躯体ってだけでここまで感覚を揺さぶられるものなのか?
俺の翼ちゃんレーダーが狂わされるものなのか?
立花響、雪音クリスのそれと会った時にはそんなに驚かなかったのに。
翼ちゃん2人のスタイルは一緒。
だが、身体のバランスがまったく違うんだよ。
所作を見るだけで分かるもんなんだ。
どんな生き方をしたのか、どんな育ち方をしたのか、利き腕利き脚利き目、そんなあれやこれやが。
あ、可愛いってことも見ればわかるね!
どっちの翼ちゃんも本当に分かりやすい子だ。
まっすぐ生きてきたんだろう、まっすぐ育ったのだろう。
彼女たちは実に分かりやすい、いやぁ可愛なぁ。
だが、本物の翼ちゃんはともかく目の前の翼ちゃんはコピー躯体じゃないのか?
なんでそんなにまっすぐな感じを出せる?
なにより不思議なのは目の前の翼ちゃんの所作と、ソネットを名乗る雪音クリスの所作に共通点があることだ。
コピーなどという植え付けられた物ではなく純粋に磨きあげた技術のそれ、そういった所作。
そして、それはどこか立花響に通じるものがあるわけなんだけど…………あぁ、そうか。
「弦十郎さんに似てるのか」
「先生に似てるって、何がだ?」
呟きに翼ちゃんが反応する……先生?
俺が見るからに怪訝な顔をしていたからなのか、翼ちゃんが頷いて言葉を続けた。
「俺とソネットは先生、風鳴弦十郎に師事してたんだよ。だから先生って呼んでるんだ」
「そうなのか……ん、師事してた?」
「え、あ………あれだよ、一応の合格点は貰ったからさ、後は自分で頑張れ!的な」
あはは、と翼ちゃんはあっけらかんに笑うが、俺はそこにさらなる違和感を持った。
弦十郎さんがこんな不安定な立場の子達から手を放すとは考えにくいが、翼ちゃんの師事してたという過去形の言葉には強い実感が籠められていた。
実際に弦十郎さんの手からこの子達は離れているのかも知れないが………………果たしてどういう意味がある?
ただ単に忙しいだけか?
「弦十郎さんが忙しいのは分かっていたけど、君達に指導出来ないくらいに忙しいのかな?」
「あー、ここんところずっと忙しそうだよ。神様に関係する聖遺物が見つかったとか何とかで今英国に向かって………………なぁ、今のなんだけど」
「あ、うん、オフレコにするよ……………」
相も変わらずガバガバな情報管理………………しかし、翼ちゃんとマリアが任務に行ってるのは知ってたけど神、アヌンナキ関係の話だったか。
しかもSONGの司令である弦十郎さんが直接赴くほどの重大案件……
うーん、日皇大の研究室で開発されている弦十郎さん専用アームドギアと思われる蜻蛉切、XV以降のストーリーが発生してる証拠とも言える装者のコピー躯体、アヌンナキ関連の聖遺物、アニメでも節目節目の度にあった祝いのパーティーが今行われているという事実。
そして何より翼ちゃんが見合いをして、その見合い相手である俺が蜻蛉切の実験に関わっている。
それらにアニメでの展開等々を踏まえて考えた結果、わかったことがある。
【久我雅実】という男は、風鳴訃堂が何らかの理由で用意したXV以降のストーリーに出てくるキャラクター。
俺がそのキャラクターになってしまったことでおかしくなってしまったが、蜻蛉切を用いて何かしらの事件を起こし、それが錬金術士が作ったコピー躯体の装者達の件やアヌンナキの来襲と偶発的に絡み合って大変なことになる。
というのが、本来のストーリーだったのだろう。
おそらく本当の【久我雅実】は蜻蛉切の完成にもっと絡んでおり、今の時期ではとっくに動いていた。
そして早くの時期から暗躍している存在がいたことで、コピー躯体達も本来ならば今みたいに装者達と仲良くなることなど無く、錬金術士の手先として、もしくは錬金術士の手を離れてしまった後で相対していたことだろう。
そんな中で英国にアヌンナキ関連、マリアのアガートラームのような聖遺物が見つかってアヌンナキが来襲。
錬金術士、アヌンナキ、【久我雅実】、コピー躯体と乱雑な様相の中、装者達が戦って勝つ。
多分それが正しい流れだったはずだ。
ともすれば1つ、問題がある。
俺が居ることで【久我雅実】が敵の中から消えた、それは良い。
ストーリーラインに空白が生まれてしまったことになるわけだが、その空白のせいで何が起こるのか分からないことが問題なんだ。
イベントが短縮されるだけならば問題はない………とは言えない。
【久我雅実】が完成させていたであろう蜻蛉切が物語内で重要な役割を果たすアイテムであったのならば、それが欠けるという極めて不味い事態に陥ってしまう。
迫り来るアヌンナキがどんな奴なのかは知らないが、エンキのような人類の味方と言うわけではないだろう。
シェム・ハのように話が付けられる類いの奴でもないかもしれない。
蜻蛉切ってのは、そういうやつに対するカウンターないしメタ的な聖遺物の可能性があるんだ。
「なぁ、あんたさっきから何を考え込んでるんだ?」
「来る未来についてかな」
「未来ぃ?」
何言ってんだこの野郎みたいな、ちんぷんかんぷんな顔をしないで!?
俺、かなり真面目に考えてるんだからね。
まぁ良いや、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。
「あはは。俺、用事を思い出したから帰るね、翼ちゃん」
「俺は翼じゃなくて奏で」
「元気でね、翼ちゃん」
「だから奏だ、ってそっちは窓だぞ。おい、何して……」
さぁ、学友の元へ急ぐぞ!!
蜻蛉切完成にはあいつの伝が必要だ!!
ボッ!ボッ!という爆音と発生させながら客間を飛び出していった雅実を茫然と見送り、翼は腰を抜かして座り込んでいた。
見た目からヤベェ奴だと思ってたけどまじでヤベェ奴だったな……などと考えていると、爆音に驚いた面々が慌てて客間に流れ込む。
「一体なんだ今の音は!」
「雅実さんが居ないデスよ!」
「え、何?何なの!?」
「翼、無事?」
「いや、一気に捲し立てられても聞き取れないって……っとと」
立ち上がったものの音で三半規管をやられていた翼の身体が揺れる。
響が横から抱き付くように支えたために倒れることはなかったが、力が戻らない翼は結局また椅子に座るはめになった。
「で、今の音はなんだよ?」
「急用が出来たってあいつが」
「あのあんちゃんが?」
「そこの窓から飛んでった時に出た音だよ」
「「「………………」」」
「嘘じゃないって!」
そりゃあ、目の前で見てなかったら俺も嘘だと思うけどさ!と息巻く翼を宥めるように切歌が言った。
「人間がジェット機みたいな音を立てて飛ぶわけないじゃないデスか」
「「「うんうん」」」
「本当だって!じゃあなんであいつが居ないんだよ」
「いや、だって……そんなおっさんみたいな事、人間に出来るか?」
「先生だって人間だからな!? 確かに先生もあんな感じだったけど、あそこまであっという間にすっ飛んでくなんて出来なかったからな!?」
そうか?そうかも?そうデスか?ソネットを名乗るクリス以外の誰もが首を傾げて見せる。
弦十郎のとんでもっぷりを知るからこそ彼が人間なのか悩ましく思っているこちらの装者たちは、そんなとんでも野郎が他にいるとは到底思えなかった。
雅実が彼女らの前では紳士的に振る舞っていたのもその一助となってもいるわけだが、実際の雅実はまさしくとんでも野郎の1人である。
今現在雅実のとんでも身体能力に対する認識が少しでも出来ているのはSONG関係の人間では弦十郎、緒川忍群、平行世界の翼とエルフナインだけ。
この辺りの認識の齟齬が何を産み出すのか、はたまた何も影響がないのかは誰も知らない。
下手に知恵のあるバカの考えって、変な方角にワープするよね。
って話。