シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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時間が飛んだ話

6月1日、日本皇道大学の総長俵山秋貞はただ今、かつてない程に荒れ狂う胃と馬鹿みたいな数のアタッシュケースに悩まされていた。

アタッシュケースの向こう側には、長い日皇大の歴史上でもそうは居ないレベルの問題児兼色々な意味で救世主と言える久我雅実がいて、とても偉そうに――俵山にはそう見えた。勿論俵山自身も穿った見方だと思ってはいるが… ……――ふんぞり返っている。

 

 

「つ、つまり何かね……この出所不明な15億円を寄付するから君が所属する研究室の資金にしろと、そういうことかね?」

 

「15億ではありません、18億です総長。それと出所不明ではなく言う必要がないだけと、先ほど私は申しあげました」

 

「う、うむ……」

 

口調が丁寧なだけ、余計に煽られている気がするのは被害妄想だろうか。

いや、名門久我家の人間に大口の寄付をしたいから話聞いて欲しいなどと言われて、一も二もなく飛び付いたらそれが明らかなヤバい金……………なんてことになれば誰でも疑心暗鬼になろうと言うものだ。

 

 

「悩む必要がありますか?確かに表で堂々と持ち歩ける金ではありませんが、きちんと裏付けのある金ですよ」

 

「普通の金は堂々と持ち歩けるのだ、常識で物を言いたまえよ!

いや、せめてこれをどうやって手に入れたのかくらい言われねば怖くて受けれん!」

 

「はぁ、そういう物ですか?」

 

「当たり前ではないかね!?」

 

後ろ暗い金だった場合、受け取っただけで俵山が罪に問われかねない。

問われなかったとしても、総長の座から追い出されること請け合いだ。

 

 

「幾度か拳を振るったら手に入りました。以上」

 

「……なるほど、まともに答える気は無いということか」

 

「嘘は言ってませんよ。それでも詳しいことを聞きたいのなら学友にお訊ね下さい」

 

埒が明けない問答をするよりはそちらがマシかと思い、俵山は至急学友を呼ぶことにする。

学友ならば彼が納得出来る答えが出てくるだろう、少なくとも雅実よりは確実に話が通じるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学友が到着してすぐ、最初から呼んでおけば良かったと雅実と総長の2人が本気で思うくらいにはスムーズに話が進んだ。

頭がおかしいくらいに他人とすぐに仲良くなれる学友は、初めて直接会った総長とも当然のように打ち解けてお金を受け取らせることに成功。

学友が総長と携帯の番号を交換して、学友が総長から孫を嫁にと在り来たりな文句を言われ、その後でなぜか蚊帳の外にされた雅実と2人、にこやかに総長室を後にしたのだが。

 

 

 

「まったく、受け取るのなら最初から受け取れよ……」

 

「君がもう少しちゃんと話していれば、総長先生も受け取ってくれたと思うんだけど」

 

研究棟の1階にある休憩室。

半ば聖遺物研の私室と化してしまっているそこで、本当にふんぞり返りながら雅実が愚痴を漏らしていた。

 

学友の言う通り彼がしっかり説明をしていれば良かった話で、学友としてはもうちょっとちゃんとして欲しかった所である。

 

 

「いや、大丈夫な金だって言ってるんだぞ?普通に受け取るだろ」

 

「いや、いやいや。 説明もなく大丈夫なお金ですって渡される金額じゃないからね? 18億はさ」

 

「ふん」

 

鼻息荒くそっぽを向く雅実に、そんなにイラつくことなのかと学友は思う。

1、2か月程前からやけに余裕が無いような素振りを見せる親友だが、最近はそれが顕著であるように感じられた。

 

大学に入って少しするまでは、確かにずっとこんな感じだったけど……などと昔を思い出してしまう。

学友はシンフォギアなど知らないので、雅実が原作が終わるまでは安心できないと気を張っていたことなど分かるはずもなく、原作が終わったから安心だと気を緩めたことも当然分かるはずがなかった。

 

だから何か有ったのかな?とは思いつつも、深くは突っ込めないでいるのである。

 

彼が分かることと言えば、2人で初めて飲んでいるときに突然雅実に用事が出来て飛び出していったことと、そこから帰ってきたと思えば突然裏の格闘技大会に出るから優勝賞金を寄越せと言ってきたことくらいで……いや、格闘技大会に出られると決まった時は少しだけ嬉しそうだったか?

念のために少し鍛えると言って2週間ほど音信不通になったと思ったら、やけに大きな熊を担いでひょっこり戻ってきて………横じゃなくて縦に10センチ大きくなって帰ってきた時には正直本当に人間なのか疑ったものだが………

 

 

格闘技大会に参加したとき、雅実はまた不機嫌になった。

なんならここ数年で一番不機嫌だった、そう学友が断言してしまえるくらいの不機嫌。

 

学友から見ればとてもヤバそうな格闘技者が沢山いたのに、大体の連中が雅実に露骨に怯えていた。

実はこの世界には自分を脅かすことの出来る者がまだ居るのではないかと淡い期待を持っていた雅実も、自分に怯える者と自分の強さを分からない者しか居ないことですぐに期待を捨てたのである。

 

雅実の不機嫌は、無意味な期待をしてしまった自分への苛立ちであっただろう。

 

 

学友は幼い頃から雅実の近くにいて感覚が麻痺しているから理解出来ていないが、雅実の身体能力は人間のそれではない。

どこの誰なら重さを感じずにトンクラスの物を片手で持てるのか。

 

格闘技の知識などからっきしだとしても戦いが体格だけで決まらないことくらいは知っている学友であるから、雅実より小さくても雅実より強く雅実より力持ちは居ると思っていた。

当然、居る筈などないのに。

 

 

司会の大仰な煽りと参加者たちの大層な肩書きでさぞかし凄まじい大会になるのだろうと予想していたのに、結局は棄権されたせいで2回しか試合になってないのだから、学友からすれば拍子抜けという他ない。

方々で自分に勝てる者などそう居ないと放言する親友の鼻を明かしてくれる格闘技者が存在するだろうと思っていたのに、居ないどころか逃げる腰抜けばかりで………

 

 

まぁそれは良いや、雅実が不機嫌ならどこかでガス抜きでもさせよう!と、学友は思考を一気に切り替えた。

格闘技大会のアレやコレはあくまで知り合いから頼まれたから参加しただけで、終わってしまった以上彼からすればとっくにどうでも良い話なのである。

 

その知り合いは知り合いで雅実のおかげと喜んでいたし、そちらからの伝でアメリカの政治家にも繋ぎができた……ここまでで十分だ。

 

 

 

「まぁ後は待つだけだ。翼ちゃんのライブまではのんびりと学業に励んでるとするかな」

 

学友が考えている間に雅実が椅子を並べて寝転んでいた。

いつの間にか彼の脇に重ねてあった椅子がごっそり無くなっている。

 

 

「んー、励むのも良いんだけどさ、最初の約束を延期してるの覚えてるよね?」

 

「は?………………あぁ」

 

心底嫌そうな顔で頷く雅実に忘れてたんだね、とは言わなかった。

ガス抜きと考えた次の瞬間にこれだが、元々していた約束であるから仕方がない。

 

 

「忘れてはない、忘れてはないが、お前……俺が見合い相手との付き合いがあること知ってて合コンセッティングするとか、普通あり得んからな?」

 

「でも見合い相手に君は乗り気じゃないんだろ?」

 

「あー、それはそうだけどさ」

 

どうにも歯切れの悪い雅実に前々からの疑問がもたげてくる。

 

 

「君、実はお見合い相手のこと気に入ってる?」

 

「当たり前だが?」

 

「え?じゃあどうして乗り気じゃ……相手が問題なの?」

 

「いや、別にそうでもない」

 

「……?」

 

なら、なんなのだろう……頭がこんがらがる。

 

 

「相手の立場と俺の立場的に、俺が嫌だってだけだ」

 

「うーん、なんだか難しそうだね」

 

単にファンと付き合うアーティストが解釈違いなだけであるとは思いもよらない学友。

見合い相手が翼であることを知らないからどうしようもないが、雅実がそれだけは知らせまいと全力で防御している。

 

雅実の考えだと翼が相手と知った学友は面白がって2人をくっつけようとするはずなので、知られてはならないのだ。

 

 

「でもさ、だったら合コンはなんの問題もないんじゃないかな?」

 

「不義理はしたくねぇんだよ」

 

「誘われたらホイホイ出掛けるってのを何ヵ月も続けてるのに、まったく付き合いを成立させる気がないのは不義理じゃないの?」

 

「あっちだって俺と付き合う気なんてないからな?マリ……あの子の友達もそう言ってたし」

 

「なんで友達が……」

 

「見合いの日にあっちの電話から声が聞こえてきてたんだよ、家の都合なんだから見合いを成就させる必要はないんだからってな」

 

「はぁ、なるほど……?」

 

互いに気に入ってるなら付き合ってしまえば良いのにとは言わない。

それは彼も一応良い家の人間だからこそ、そういうしがらみが存在することを知っているから。

 

 

女の影など微塵も見えなかった親友のことなのでどうにか上手く行って欲しいと、心の底から思う学友であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古い邸宅……知る人ぞ知る風鳴家の本家で、2人の男が顔を突き合わせていた。

関係先から送られてきた映像媒体を見て言葉を失った男たちは、一体自分達に何が出来るのかと悩み続けている。

 

 

「あれが見合い相手か」

 

「相手のことは、弦十郎から人間離れした男らしいとは聞いてはいました。が、人間離れどころではないとは……思いもしませんでしたな」

 

「あちらの弦十郎にしてもそうよ。飛んできた巨岩を拳で砕いたなど戯言だと決めつけておったが、これを見る限り事実であるのだろうな……」

 

映像の中には彼らの身内以上の体躯を誇る男――雅実がいた。

 

雅実は仏頂面のまま鋼鉄で出来ているであろう分厚い板を拳で打ち抜き、指でつまみ上げながら引き裂いている。

周りでそれを見ている者たちの顔は皆引き笑いの様相をしていたし、なんなら引き裂かれた鋼鉄を手渡されて青白くなっている者もいた。

鉄を握り飯よろしく丸めたとの情報も書いてある。

 

 

「掌で鉄を潰せる物なのか?」

 

「出来るのでしょう。この男なら」

 

「………」

 

「………」

 

平行世界の翼が見合いをしたと聞いて居ても立ってもいられず、こちらの弦十郎にデータを貰ってこいと騒ぎ立てた2人。

貰ったデータを見た途端に見なければ良かったと思うことになるとは思わなかったが、見たからには気になってしまう。

 

 

「この大男、果たして真に護国の血筋になりうるのか?」

 

「緒川忍群の所感には少し過激な人格者とありますな」

 

「信じがたい話だ。致し方がないが、あの娘を呼ぶしかあるまい」

 

「あの娘……あぁ彼女ですか」

 

「久方ぶりに話を聞くのも良かろうよ」

 

「そうですな。それに、丁度呼び出す用事もありましたし」

 

「うむ。そちらは貴様に任せるぞ、八紘」

 

「お任せを、御前」

 

男2人、風鳴訃堂と風鳴八紘は互いに頷きあうのであった。

 

 





賞金が高いのは学友が雅実に賭けて儲けたから………

――――

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