シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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遅くなっちゃったのは、最初に考えてた話だとバッドエンド一直線になりそうだったから話の流れを変えてしまったからです!


前世の一族とか、飲まれるなら飲むな?みたいな話

突然だが前世の話をしよう。

 

 

 

西暦で数えて2000と20年、なんたらと紙一重でない位に圧倒的な才能を有して俺が産まれたのは何の幸運か、もしくは不幸か、時代錯誤の武芸者一族として名を轟かせる狂った家系だった。

狂ったとは、赤子が立てるようになって直ぐに立ち方だの歩き方だのを叩きこむという阿呆の所業を、さも当然のように行うようなことだと分かって貰えればそれで良い。

俺もそういう感じで育てられた……幼すぎて自分では覚えてないんだけどさ。

 

で、物心ついたころにはその一族は皆俺の才能に惚れ込んだ、というより取り憑かれた。

 

何かを教えれば当然のようにそれを会得していく、叩き方や抉り方、掴み方、折り方、弓も、剣も、鉈も、槍も、一族が持てるありとあらゆる戦技をそれこそ最初から知っているかのように、だ。

天才、などという言葉では表せない規格外の存在。

 

誰もが俺を自分の技の後継者として欲しがっていたが、一族の武芸者は沢山――後になって調べたら、なんと俺が産まれた頃は300人くらい居たらしい――いて、当然だが奴等が後継者にしたい俺は1人しか居なかった。

 

 

パイの取り合いと言えば分かるだろう。

美味しいパイは独りで食べたいもんな、誰にも渡したくないもんな?

 

普通に分けろよ、なんて言葉は馬鹿には通じない。

 

通じないから、俺が10歳になった日を境に一族の馬鹿どもは俺を独り占めにしたいと殺し合いを始めたんだ。

それも、妙に律儀に日程を決めた決闘の様式で。

 

いやぁ笑えるね、当時は自分に良くしてくれる人間たちが殺し合っている姿になんぞ笑えなかったけど、今なら笑える。

 

馬鹿は救えねぇってな。

 

 

目の前で行われた数多の死闘には一族の技の粋が詰まっていたんだろう、見ていた俺はその技をしっかりと吸収していった。

 

武芸者が正しく死ぬ気で技を絞りだしたためその技は極めて純度の高い物となり、結果として俺の血肉となったのだから後継者を巡る殺し合いも功を奏したと言えるのかな………本当に皮肉なことだが。

 

 

一族たちの殺し合いは最後の一人になるまで行われた訳じゃない。

始まってから数年経って、残り十人くらいになったあたりで俺が止めたんだ、もう学ぶことも無くなったし。

 

そいつらはまだ見せてない技がどうとか、奥義がどうのと言っていたが俺にはどうでも良かった。

そんなもの見るまでもなくどういう技か分かったし、奥義とはいっても他の技の延長線に有るものでしかないというのも理解していたからな。

 

それでも止まらなかった数人の馬鹿を、その他の数人の奥義を想像した技で俺が殺した時、残った奴等は絶望したような顔をしていた。

 

 

この馬鹿どもは俺がスポンジか何かでしかないと思っていたかのようだった。

自分たちの技を吸収するしかないんだと、俺とは見て憶えられるだけの存在だと、そう思っていたらしい。

 

だから自分の後継者にしようと思ったのだろう、技を正確にただ受け継いで次に渡す存在だと勘違いしていたから……そんな俺が自分たちの技全てを理解した上で、見せてもいない奥義の、その更に先を見せつけて来たことが恐ろしかったのだと後に聞いた。

あとは単純に俺が怖いとも聞いたな。

 

その連中から直接聞いたのではなく、一族の孫やら弟子の弟子やらが後年になって教えてきたんだが。

 

 

 

 

まともに学校にも通わせてもらえず、まともな人間関係を教えてももらえず、生きているのだから殺し殺されても仕方なし!なんて馬鹿げた思想を実地で見学させられて植え付けられた俺だ。

 

噂を聞き付けて襲いかかってきた一族以外の武芸者だって散々殺したりしてきたし、インテリヤクザが一族の土地を地上げに来た時はそこの系列会の会長組長の首を10個ばかりネジ切って断ってやった。

一族の子供がクスリの売人に仕立て上げられたことがあったが、その時はお返しにクレ◯ザーを100グラム1億で売り付けにわざわざ香港まで行った事もある。

 

そいつらの流儀に則ってそこらにいた下っぱの耳を沢山千切って持ってきた俺に敬意を払ってか、1グラムだけ買おうとほざいたそのマフィアだが、商魂逞しい俺が首を握ってもう一声!と言ったらク◯ンザーをちゃんと買ってくれることになった。

しかもお友達のマフィアまで紹介までしてくれて、そっからそいつらは俺とも友達になってくれて、年に1回ク◯ンザーを買ってくれることになったんだ…………持つべきものは友達だとは翼ちゃんとマリアの言葉だが、まったくその通りだよ。

 

まぁ10年でその約束を反故にしやがったから、まとめて岩に埋めてやったけども。

 

 

 

そんなことを喜寿過ぎてまで平然とやってた俺だから一族の連中が怖がるわけだよな。

親から俺の話をやばい話を聞いていた息子世代はビビって近寄って来ず、逆に孫たちは俺の奇妙さがとても面白かったらしく「ウケる」と近いてきた。

 

そしてそんな孫たちが、一族の連中が俺を怖がっていたと教えてくれたんだ。

 

 

いや、俺は驚いたね。

 

俺は俺の上から教わった通りの生き方をしているつもりだったから、その通りに生きていてただけで何で怯えられないといけないんだ!一族の頭領ともいえる立場に立った俺が、一族を守るために殺し回ったことはおかしなことではなかったはずなのにどうしてだ!ってな。

 

今ならやりすぎ、もとい殺りすぎだと分かるが当時は分からなかったんだよ。

でも、分からなかったから分かるようになろう、くらいは当時の俺でも思えたんだ。

 

少しとはいえ、孫たちとの交流で俺にも変化はあったようだからさ。

で、本当ならそこから俺の情緒を構築する壮大な旅が始まるんだが、ひとまずそれは置いておこう。

 

大事なのは何故こんな話をしたか、だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもの話は学友に連れられて来た合コンに端を発する。

 

 

この合コンは弓道をやってる連中が主体のインカレが主催したものだった。

最初、この合コンがインカレ関連の物だと聞いた時に俺は変な声を出してしまったんだが、多分それを非難する人間は少なかろう。

 

インカレサークルっていうのは下半身で物を考える阿呆と、政治屋宗教屋の下請けがやるっていうイメージが一般には強く有ると思う。

まぁ実際にそういう事件が多々起こっているわけで一概に偏見と切り捨てることも出来ないイメージだ。

 

勿論まともに活動している所も有るだろうが、言っちゃあ悪いが前者のほうが圧倒的に多い……悪貨は良貨を駆逐する、良いたとえだな。

だから俺には悪いイメージしかなかったし、何よりやりたくもない合コンということで二重に嫌な感じだった。

 

 

ただ今回のインカレは稀に見るまともなサークルだったようで、日皇大側の参加者も他の大学生側の参加者たちも指や掌にマメやらタコがちゃんとある連中ばかり。

それだけだったらいやぁ良かった良かった!と言えたんだが……………

 

 

 

 

「あんちゃんよ、先輩っつー女が居ながら合コンとはなぁ?」

 

いや、その、俺は連れられて仕方なく来たって言いますか……

 

「はぁん?ほぉん?ふぅぅん?」

 

あ、あははは……

 

怖い顔をした雪音クリスに睨まれている身としては良かったとは言えないんだよなぁ。

この子、音大の先輩にタダ飯を食べにおいでと誘われて来たらしいんだが…………まさか知り合いに会うとは。

 

居酒屋の通路に正座した俺をギョッとした顔で見ながら通りすぎていく店員さん、ごめんなさいね、邪魔だろうけど許してね………あ、なんだコラ酔っぱらいが、こっちを見るんじゃない。

 

 

「おい」

 

はい、すみません………おう学友、見てないではよ助けろ!

 

 

「はいはい。ねぇ雪音さん、雅実と知り合いだったのかい?意外だなぁ」

 

俺としては学友、お前がこの子と知り合いだったのかって言いたいよ。

本当にお前は顔が広いな……

 

「学友さんがこのあんちゃんと友達だった事のほうが意外だ。あんたとこれだとタイプが全然違うし」

 

「はは、僕らは小さい頃からの親友なんだ。それで、今回僕が雅実に合コンに来て貰ったんだよ」

 

そうそう、俺は連れられて来ただけなんだ。

 

「でも見合いしてるんだからさ、普通は来ねぇって」

 

俺もそう思うけどさ、借りがね、有ってね……お金の為とはいえ、あんなつまらん大会で借りになっちゃうなんて嫌な世の中だ。

 

「雅実は貸し借りに煩いから、僕に物を頼んだ後で断れなかっただけなんだよ。見合い相手に悪いってずっと言ってたけど、僕が無理を押したのさ」

 

そうそう、ほんとそれ!

 

「あー、そうなのか………じゃあしょうがねぇか」

 

「でも、君の先輩ってことはリディアンの人かな?雅実の見合い相手って」

 

「え、あ、あぁ、そんな所かな……ほら、ほら、もう良いから立てよ、ははは」

 

 

さすがに俺の見合い相手が翼ちゃんだとは言えなくて、雪音クリスは変な風に誤魔化した。

この子の様子に学友は違和感を覚えたようだが流石に女の子に突っ込むことはしないらしい、良いことだな。

 

 

「だが、こんな事なら断れば良かった」

 

「そんな事を言っても、借りが有ったら断れないだろ雅実は」

 

「………あ、飲み物が来てるぞ。はやくしろ、乾杯するんだろ?」

 

「君まで変な誤魔化し方をしない」

 

「ぐぬぬ」

 

敏いやつめ!

 

 

「それにしてもリディアン出身で雪音さんが名前を出しづらい人って事は、もしかして相当有名なアーティストなのかな?雅実の相手は」

 

「いや、その」

 

「もしかして、風鳴翼さん?」

 

「え!?」

 

「は!?」

 

「あははは、あり得ないか。仮にあの人だったら、雅実はこんなに長く付き合えないよね」

 

あ、あ、バレたわけじゃないのか。

コイツならそこら辺のライン繋げちゃいそうだから少しビビったわ。

 

 

「そんなにあり得ないのか、学友さん」

 

「雅実は彼女のファンを越えた信者だからね。彼女と付き合うなんて心臓が持たなくて死んじゃうさ」

 

「あ、あは、あはは、そうだよ雪音さん。俺の心が持たないって」

 

「「あははは」」

 

「ふぅん?」

 

そんな物言いたげな顔は止めてくれ………コイツにバレたら色々弄られそうで怖いんだよ。

万が一にも知られたくはない。

 

 

「ねぇねぇ学友くん、もう始めちゃわない?」

 

「あぁ、そうだね。ほら2人とも、行くよ」

 

参加者の女の子から声を掛けられた学友が席に戻って行くのを見ていると、横から脇腹をつつかれた。

何やら言いたげな顔の雪音クリスがそこにいるが、はて?

 

 

「あんたさ、本当に先輩と付き合う気ねーのかよ?」

 

「は?」

 

「だから付き合う気がだな………………いや、あたしが言うのもおかしな話か。当人同士で、まぁゆっくりやってくれ」

 

最初から付き合う気なんてないんだよ?と言う暇も与えずに、彼女はさっさと学友の後を追っていった。

なんかあっち側の皆が俺と翼ちゃんをくっつけようとしている気がするんだが、流石にそれは俺の思い上がりなんだろうか。

 

うーん……………

 

 

 

悩む俺を尻目に合コンはしっかりと始まった。

 

発起人である学友(お前が発起人かよ)の乾杯の挨拶の後に、おそらくは合コンの定番である自己紹介を挟んでワイワイと話をしていく。

ある程度顔見知りが多かったらしくちょくちょく内輪ネタがあったものの、だいたいはまじめな合コン的会話だ。

 

 

「今度合同で練習しようよ」

 

だとか

 

「どこそこのだれそれが五輪の代表になるかも」

 

だとか

 

「どこぞのメーカーの矢がいい感じ」

 

だのと、とてもとても合コンらしい………合コン、らしい………

 

 

「なぁ、これが合コンってやつの会話なのか?サークルの会合って感じしかしないんだけどよ」

 

知り合いと対面の方が良いよねという女子の気遣いから向かいに座らされていた雪音クリスが、こそっと俺に話し掛けてきた。

ただ、残念なことに俺も知らないんだよな。

 

「さぁ?」

 

「さぁ?」

 

「合コンに参加するのなんて産まれて初めてだからね。らしい会話っていうのが良く分からないよ」

 

「へぇ、慣れてるのかと思ってたけど案外そうでもないのな」

 

「慣れてるって、俺そんなイメージあるかな?」

 

だとしたらショックだな………翼ちゃんにもそう思われているかもしれない。

俺は健全な遊びしかしないのに!

 

 

「だって、さっきから普通に店員呼び止めて注文してるからさ。こういう居酒屋に良く来るんだなって」

 

「なんだそういう事か。注文なんてどこでも一緒だよ、ファミレスと一緒さ」

 

「そういう物か?」

 

「そうそう」

 

余程格式の高い店でもない限りは、注文のしかたなんて大して変わらない。

まぁ注文ボタンとか呼び出しボタンがないと注文しづらいって人間も居るらしいけど………あぁ、この子もその口か。

 

 

「何か頼むかい雪音さん?」

 

ならば俺が呼んであげましょう、そうしましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の街を俺は歩く。

元々俺の身体は良く目立つが、今宵はそれ以上に良く目立っていた。

 

「あんだよぉこっち見んなよぉ」

 

「それは看板だから………はぁ」

 

真っ赤な顔でグッテグテのクリスちゃんが俺の背中で唸り続けている。

彼方此方、目のつく全てに喧嘩を売られたような感じでグダを巻き続けているので、通りすがりの人々からヤバイものを見る目をされているのだ。

 

酔っ払った女の子を背負った巨漢という怪しい俺を職務質問しようとした警官にまで

 

「なんで青いんだよ!先輩かよ!」

 

と絡んで苦笑いされた。

とても恥ずかしかったので文句を言いたいんだが酔っ払いに文句は自殺行為なので、後で弦十郎さんにチクろう。

 

 

 

合コンの最中に何か頼むかいと言ってから、色々頼んで飲み食いして話をしていたんだ。

結構仲良くやってて、時たま横から他の参加者に突っ込み入れたり入れられたりで楽しい時間だったと思う……名前で呼べって言われた し。

 

で、宴もたけなわそろそろ終わるか?なんて時に事件が起きた。

 

クリスちゃんの隣の席にいた女の子が頼んだウーロンハイが、なんの手違いか彼女の席に届いてしまったんだ。

美味しい美味しいと言うのでウイスキーボンボン幾つもクリスちゃんに食べさせていたのが災いしてか、チョコとアルコールで舌が鈍っていた彼女はウーロンハイをお茶と勘違いしてゴクゴクとひと飲み。

 

大いに酔っぱらってしまったわけだ。

 

 

酔ったクリスちゃんはそれはもう絡む絡む、蛇かってくらいに絡む。

俺、彼女の先輩、俺、皿、靴べら、皿、俺、コップと絡みに絡んで、店員に絡み始めた辺りで急いでお開きになった。

 

俺以外の男連中で会計を済ませた時に、クリスちゃんをどうするかの話になったんだが……

 

 

 

「「「君に決めた!」」」

 

って女の子先輩たちに言われてしまい

 

「男に酔った美少女を預けるな!?送り狼になったらどうすんだ!」

 

と反論したところ……

 

「風鳴翼さん一筋だから大丈夫って学友君が」

 

「翼ちゃん以外の女の子に興味ないからって学友君が」

 

「全人類の中で翼ちゃんだけが女だと思ってるって学友さんが」

 

「「「言ってたから安心だなって!」」」

 

と妙に反論できない畳み込みを受けてしまったんだ。

勿論それだけでなく、クリスちゃんが

 

「あんちゃんはあたしんち来たことあんだから、大丈夫大丈夫」

 

と全く大丈夫じゃないことを口走ったために、もう、あれだよ、明日がこえーよ、絶対雅実伝説が更新されてるよ……………じゃなくて、俺が送ることが確定しちまった。

 

 

 

 

「いやぁいい眺めだな、あたしもこれくらいタッパが欲しかった」

 

「そうかい」

 

アトラクションとして俺の背中を楽しむのは良いんだがあまり胸を押し付けるもんじゃないぞ、まったく………

 

「襲われるとは思わないのかね……」

 

「思わねー」

 

「さいですかぁ」

 

なんて言うかさ、装者の子たちは本当に男を疑わなすぎるんだよ。

誰もが誰も俺みたいじゃないんだから、もっと警戒して欲しい。

 

 

「うっ」

 

「どうした?」

 

「気持ち悪ぃ…………うっぷ、あれ見たら………うぅ」

 

あれ?え、あ、そこの公園のトイレか。

吐くことを想像しちゃったんだな、仕方がない。

 

決壊しないよう、揺らさないよう、ゆっくりゆっくりと公園に入った俺は、唸っている彼女をベンチに座らせる。

丁度町と町の中間ともいえる所の公園だからか街灯も少なくて薄暗いのだが、それでも分かるくらいにはクリスちゃんの顔色は悪かった。

酷く酔っているのにさっきまで騒いでいたから、余計にアルコールが回ったんだろう。

 

さっきの店はどれもアルコール度数が高かったから………ウーロンハイもそうだったんだろうな。

 

 

「うう…………」

 

「大丈夫?」

 

「………いや、は、吐きそう」

 

「吐いたほうが良い。楽になれるから」

 

「うん……あ、いや、でも」

 

分かるよ、トイレでって言っても俺が居ると思ったら吐けないよな。

俺はやった覚えがないが、こういうのは気恥ずかしいらしいんだ。

 

 

「コンビニで水を買ってくるから、落ち着いたら此処に座って待ってて。10分くらいで帰ってくるから」

 

「悪い………」

 

「気にしない、気にしない、じゃあまた後で」

 

さて、コンビニはどこかな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっちり10分でコンビニから戻ったとき、さっきまで居たはずのベンチにクリスちゃんが居なかった。

まだトイレに居るのかと視線を動かしてトイレの入口を見れば壁にもたれて座り込むクリスちゃんと、それを挟むように2人組の男。

 

男の片割れの手が彼女の服に掛かっているのを見た瞬間に頭が沸騰しかけたものの、介抱のためにボタンを緩めようとしているだけかなと思い直し………小さく、ラッキーと聞こえてきた。

 

 

「よう、面白そうな事をしてるじゃないか」

 

「なんだ?」

 

「あっちいってろよ」

 

近寄って声を掛けた俺を見向きもせず、2人組はめんどくさそうな声で返してくる。

普通ならこんな事をしている時に話しかけられたなら多少はたじろぐものなんだが、こいつらは平静そのものであり、こういった行為に慣れているのだろうと良くわかった。

 

不細工なタトゥーを入れている、無駄にじゃらじゃらしたアクセサリーを身体に巻いている、と、見事に良くいる不良で俺が嫌いな人種だ。

片割れは金でも盗ろうとしているのかクリスちゃんのバックに手を突っ込んでいるわ、片割れは俺を気にもせずにいるわで……許すまじ、そう思った。

 

 

「おい」

 

「うるせぇな、いい加減に」

 

「いい加減にはこちらの台詞だ」

 

振り向きもしない男どもの頭に手を置いて軽く握ると、痛みで2人の身体が硬直した。

怒りで手が震えるが、だからといって頭蓋を割るようなへまはしない。

 

 

「質問だ。下半身で物を考える者に頭は必要だと思うか?」

 

「え、いや」

 

「そうだな、必要ない。正解だ」

 

力をゆっくり込めていくと男どもの口から悲鳴があがる。

殺しはしないからそんな聞き苦しい声を出すな。

 

 

「頭で物を考えられない、そんなお前たちに俺が分かりやすい選択肢をやろうと思う。その子への慰謝料代わりに有り金全部と、貴重品を置いて消えるか、腕と脚を1本ずつへし折られて全裸で街中に捨てられるか…………どっちが良い?」

 

「き、消えます消えます!」

 

「そうか?俺としては後者の方がオススメなんだが」

 

「消えさせてください!お願いします!」

 

「そこまで頼まれたら仕方がないな」

 

俺が頭から手を離すと、それはもうすごいスピードで男どもは財布を逆さにしたりアクセだの指輪だのを差し出してきた。

いや、良いんだけどイケイケの格好しておいて反抗しないのかよ。

 

出すもの出した奴等はペコペコと頭を下げて走り去っていった。

ああいうバカどもはまたやるだろうから、免許証をスマホで撮って学友に連絡を回させるか………その後は叔父に取得物ってことで渡しておこう。

 

 

「あー……サンキューな、あんちゃん」

 

「ん、起きてたんだね。いや、俺がもう少し早く戻って来ていれば良かった話だから」

 

「あんちゃんが帰ってくるまでトイレの中に居れば良かった話でもあるけどな」

 

「そうかな………とりあえず、服を直してくれ」

 

「え、あ、あぁ悪い……………なぁ」

 

服を直している間に奴等が置いていった物を改めてめようと思って身体を後ろに向けていると、クリスちゃんが声を掛けてきた。

 

 

「どうかしたかい?あ、水が飲みたい?」

 

「水も欲しいけどそうじゃなくて……」

 

「ん?」

 

言いづらそうというより、言うのを躊躇ってる感じだな。

 

 

「あのさ、あんちゃんって」

 

「うん」

 

「人殺したこと有る、よな?」

 

「うん………うん?」

 

疑問系ながらそれなりの確信を持って問われた質問に、俺は固まった。

勘の良さはアニメでも分かってたことだけど、しかしなんで俺がそうだと思ったんだろう。

 

 

あ、冒頭の前世云々はつまりこういう話だったんだぜってな!

 

 

 

「あたしは、色々あってガキの頃にヤバい連中ってのをさんざん見てきたんだ」

 

「……」

 

「それで、さっきのあんたはそいつらと同じ目をしてたから、そう思ったんだけど」

 

「……目、目かぁ。そんなに怖い目をしてたかな?」

 

「怖いとかじゃなくてさ、何て言えば良いんだ……えっと、普段は何気なく普通に生きてるのに、必要だと思ったら顔色も変えずに相手を殺せる目っていうか、殺し殺されが常にある目っていうか………」

 

多分、クリスちゃんが言ってるのは軍人の話なんだろうな。

バルベルデの軍人ってのにはモラルが無いのはちょっと調べれば良く分かるから、この子は本当に大変だったのだろう。

 

言葉にはされていないし明確になっているわけでもないが、彼女が受けたであろう行為や、誰がそれを成したかなどはあそこの国を知っていれば容易に想像がつく。

軍事クーデターによる政変で軍人が力を持ったなら、当然荒れるし箍が外れるんだ。

 

文民統制が働かない国では往々にしてあることだが…………

 

 

「どうなんだ、久我雅実さんよ」

 

「……………どうもこうもないよ。久我雅実はクソみたいな親戚どもを殺してやろうと思った事は数知れずだけど、実際に殺した事なんて無い」

 

再度のクリスちゃんの問いかけに対して返した答えは、嘘ではない。

俺の殺しは前世で死ぬ2年ほど前に殺した男で最後だからな。

 

 

「……本当か?」

 

「嘘をついてなんてないよ」

 

久我雅実として生を得た今の人生では人を殺したことなど無いから、まぁ、本当に嘘ではない。

 

あぁ本当に嘘はついてない。

 

あくまで本当のことを言ってないだけだ。

 

 

「そっか、そっか。そうだよな……仮にあんたが人を殺してたら、おっさんとか緒川さんあたりが黙ってないもんな」

 

「そりゃそうさ、あはは。あ、水飲む?」

 

「飲むよ」

 

安心したように息を吐いたクリスちゃんに笑いかけながら、俺はホッと胸を撫で下ろすのであった。






―――――


雪音クリスが目覚めると、そこは自分の家のリビングであった。
来客用………正確に言うと立花響用の布団にくるまれている自身と、その目の前で呑気そうに寝ている暁切歌に対して酷い頭痛を覚えながらの目覚めであった。


「いたたたた、あー……あたしはなんだってこんな所で寝てるんだ?てかなんでこのバカが居るんだ?」

「うぅ、もう朝デスか……」

「おい起きろ後輩」

「おはようデスよ、クリス先輩」

「おは、よう!」

おはようと言いつつ未だ眠そうに目をすぼませる切歌の頭に軽くチョップを叩き込むクリス。
それで意識が完全に覚醒した切歌は、ハッとした様子で先輩から距離を取った……取ったといってもせいぜい布団の端までだが。


「なんだよ、とって食いなんてしねぇって」

「ジーっ………」

「な、なんだよ、なんだってんだよ」

「覚えてないんデスか?」

「そんなことはーないんだけどな?」

メダリスト並みの泳ぎを見せる視線に、切歌はジト目を強くする。


「わかったよ。あたしは何をやらかしたんだ」

「はぁ。先輩は昨日の合コンで間違えてお酒を飲んでしまったらしいのデスけれども、それはそれは周りに絡み散らかしたとのことデス!」

「は?まじか?」

「はまじデス!」

「うわぁ、来週ぜってぇ先輩たちにからかわれる………でも、お前が迎えに来てくれたのか?」

「いえ、押し付けられた雅実さんがここまで送ってきてくれたのデス。それで、アタシに鍵を持ってないかと連絡が」

聞き逃せない情報にクリスは待ったをかける。


「なんであたしの家の鍵を持ってるかお前に聞くんだよ、あのあんちゃんは!」

「翼さんに「雪音の家の鍵は皆が持ってる」って聞いたらしいデスよ?」

「あの惚けた先輩は本当になんでも話すのな……!?」

「まぁ、翼さんデスから……」

雅実に情報が漏れまくる現状、一番漏洩させている女のズバババンな顔に遠い目をする2人だが、実際は2人もかなり漏らしていることに気付いていない。


「しかし、雅実さんは紳士デスねぇ。送り狼にならないとは!」

「先輩にしか興味ないだろっ、ててて」

「大丈夫デスか?カリカリ梅とスポーツドリンク持ってくるデス?」

「あぁ頼む……って、家にあったかそんなもん?」

「雅実さんが買って来てくれてたんデスよ。クリス先輩、吐いちゃったって聞きましたし」

「ほわあ!吐いたのか、あたしが!?」

うわぁ、うわぁ、迷惑かけっぱなしかよ!?と騒ぐクリスを放っておいて、切歌は台所にドリンクと梅を取りに行っている。


「確かに心なしか匂うな。この服はクリーニングにだして、シーツも新しいのにしないと……………」

使い馴れたシーツが!?と変なショックを受けるであろう響を脳内に浮かべながら、クリスはシーツをごみ袋に叩き込む。
そもそも人んちのシーツに使い馴れてんじゃねぇよと1人で突っ込むクリスを、切歌が変な物を見る目で見ていた。


「なんだよ」

「イイエ」

「まったく。あのあんちゃんには何かしらの礼をしないとなぁ…………」

翼の見合い相手ということで、あまり会いたい人間ではなかったのだが……………まぁ、たくさん話して知らぬ仲では無くなったことだし、と、クリスは思うのだった。




余談だがマリア経由でクリスに呼び出された雅実は、何も覚えていない彼女に再び大いに胸を撫で下ろすこととなる。



――――



雅実がこの世界で人を殺さないのは親兄妹がいるからという理由だけなので、仮に親兄妹が居なくなったら親戚の爺婆たちの8割9割は彼の手で死にます。
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