シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
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翼ちゃんが可愛いのは周知の事実である、異論は認めない。
翼ちゃんは笑うと可愛い、笑わなくても可愛い、とりあえず可愛い、トニカクカワイイ、あら可愛い。
優しい笑顔も可愛いし、真剣な顔で犬猫を眺めているのも可愛いし、俺が席を外している間にストローの入っていた袋を結んでつついているのも可愛い、やっぱり可愛い。
友人たちの話を一生懸命してくれるのも可愛い、八紘さんの話や奏ちゃんの話をしんみりしてくれるのも可愛い、時折奏ちゃんが生きてる感じの流れで話をして慌てて取り消しているのも可愛い、奏ちゃんの幽霊と多分会話をしているのだろう……霊感の強さも可愛い、俺も剣を使えると聞いて手合わせをせがんでくるのも可愛い、料理を失敗することを恐れずに作ってマリアと調ちゃんに食べさせた話も可愛い、まぁ可愛い。
何度でも言えるがとてもとても翼ちゃんは可愛いのである。
しかしそんな翼ちゃんが今、とても怒った空気を出して俺の向かいに座っている。
あと、目も据わっている。
でも可愛い。
元々合コンの数日後の予定としてデートの誘いを受けていたんだが、合コンから数日経って会った時には既にこんな感じだった。
誘いの電話の時には普通だったのに…………誘われた時に合コンに行くと予め伝えておいたんだが、やっぱり合コンに行ったこと怒ってるのか?
いやそうだよな、見合い相手が合コンなんかに行ったら怒るに決まってる。
「雅実さん」
「うん」
「私が怒っている理由、お分かりですか?」
「勿論だ。合コンに行ったことだね?」
「違います」
「え?」
いや違うのか?
「それは電話で聴いていましたから問題ありません」
「えっと、じゃあ何かな?申し訳ないんだけど思い当たりが……」
「………私は先日20歳になりました」
「そうだね」
「成人したのです」
「うん」
「………」
え、なに、翼ちゃんが成人したことに対して俺が何かやったのか?
誕生日は予定が合わなかったからお祝いの連絡とプレゼントを贈ったんだが、足りなかったか?
勘違いとかでもなく、あの時は喜んでくれてたと思うんだが。
「分かりませんか?」
「ごめんね」
「……」
「……」
「お酒」
「はい?」
「私とより先に、雪音とお酒を飲み交わしたと聞きましたっ」
「飲み交わしたって……」
言うのか、あの状況は…………?
「あれはクリスちゃんが間違って飲んでしまっただけで」
「それにも怒っているんです!」
「ええ?」
どれだ?どれがそれにもなんだ?
「最初は私のことだけを名前で呼んでいたのに、今では皆のことを名前で、しかもちゃん付けで呼んでいます」
「う、うん?」
「私としてはあまり他の……………え、あ」
「?」
「その、何でもありません…………すみませんでした」
なに?なんで謝られた?
直ぐに女の子の名前を呼ぶような軟派な真似はするなと君は怒っていたんだろう?
なのになぜ謝る?
「えっと、はは、気にしないでください。あはは…………」
翼ちゃんは顔を赤くして恥ずかしげに笑っていた。
照れてる?でもどこに照れる要素が………怒るような事ではないことに怒っちゃったから、とかなのか?
結局、その日は少し噛み合わない感じで別れることになってしまった。
俺が何かを言ってもあたふたと返される感じで話にならなくて、早めの解散になってしまったんだ。
少しでも俺に恋愛経験とやらがあればなぁ…………でも、こういうまじめな付き合いなんて前世も通して初めてだし、どうしたら良いのやら。
かつての俺には形式上、もしくは事実上、妻と呼べる女が4人ほど存在したのだが
1人は分家の娘で、俺を巡る殺しあいで一族が減ったから増やそうと、互いに親世代から押し付けられただけの関係――子供は5人。
1人は同じく分家で、同じく互いに押し付けられただけの関係――3人。
1人は同じく――2人。
1人は、上の子供らが成人してかなり経った時期にいつの間にか俺の隣にいた女――2人。
という感じで、こうして見るとまともな関係なんて誰一人として築いてないな。
まじで種馬と変わらん気がしてきたぞ、いやその通りなんだけども。
悲惨なのは女どもだよ、俺なんぞに宛がわれてさ。
今の俺なら大切にしようと思えるだろうがあの俺はそんな人間的な考えなんてなかったからな、さぞ辛かっただろう。
俺と翼ちゃんは一応自分達の意思で関係を保ってはいるが、見合いでもなければ交わることのなかった2人なわけで……その上で成り立つ関係など上の5人とたいして変わらないんじゃないだろうか。
翼ちゃんのことは好きだ。
結婚したくないのかと問われたらしたいと、はっきり答えられる。
だが、翼ちゃんは違う。
風鳴訃堂のせいで見合うはめになっただけ……確かに好意を持ってくれてはいると思うが、それは恋愛などではなく友愛の類いだ。
俺と彼女の関係は、あくまで見合いの延長線。
いつか離れる、ただ一時交わっているだけの関係に深入りし過ぎたら、終わった時のダメージがでかすぎてきっと俺は死にたくなる。
だからこれは、ちょっとした戯れのような時間に過ぎないんだ。
そうとでも思わなければ俺は勘違いをしてしまうだろう。
俺と他の子が仲良くなることに翼ちゃんが嫉妬をしているなんて………そんな大層おかしな勘違いを、だ。
『これこれこういう訳なのだが………』
デートが終わった後、その日の報告をするのがいつの間にか常態化してしまった翼が電話口越しから話し終わると、長い長い溜め息の後でマリアが言った。
「つまり、なに………一瞬とはいえクリスたちに嫉妬した自分に気が付いたら、そのまま思いの外雅実に惚れ込んでることにも気がついてしまって、とても恥ずかしい……と?」
『う、うむ』
「………」
ここから先はわたしが踏み込んで良いのかしら?と今更なブレーキ感に苛まれながら、マリアは頭を悩ませる。
初デートから数えてもデートの回数はかなりの物になっているし、最初の体たらくとは違って中身もしっかりとデートらしいデートをしている今、果たしてマリアの助言が翼のためになるのだろうか。
だが、この辺りで突き放してしまうと色々と不味い気がするのもまた事実。
翼が見合い相手への好意を明確に持ち、更にはそれを自覚したということはマリアとしても大変喜ばしいことなのだが、変に意識してギクシャクしてしまえば2人の関係に尾を引くこと間違いなしだ。
「まず、そうね………嫉妬しちゃうのは良いんだけどね、翼。嫉妬っていうのは、相手が貴女のことを本当に好きでいてくれなきゃ嫌われてしまう原因になるのよ」
『え?』
「当たり前じゃないの。好きでもない相手が勝手に嫉妬してくるなんて、迷惑以外の何物でもないんだから」
『そうなのか………』
「そうよ! 考えてもみなさいな、俺はこんなに貴方のことが好きなのに他の子と仲良くして!ってただの他人から言われたら普通「何を言ってるんだ」ってなるでしょう」
『た、確かにそれはそうかもしれないが……見合いをして、こんなにもデートをしているのだぞ?ただの他人だなんて』
「甘い!」
ガオオオと吠えたてるマリアに翼は身を竦ませた。
甘いだろうか?と疑問に思う彼女に気が付いたか定かではないが、マリアは続ける。
「貴女たちの関係はね、端から見たら一方通行なのよ」
『なん……だと?』
「雅実は貴女の事が好きだと言っている」
ファンとして、というところをマリアは敢えて無視。
「でも翼は、好きって言える?」
『うむ、好きだぞ』
「本人の前で?」
『が、頑張れば……』
「頑張らなくても言えるようにならないとダメよ。あっちは普通に言ってくるでしょう?」
翼はこれまでのデートや電話、メールのやり取りを思い出す。
そして、たしかに雅実が事ある毎に翼のあれやこれを好きだのなんだのと言っていて、最初は真っ直ぐな言葉に照れてしまったが今では普通に聞いてしまっている自分に気がつくのだ……雅実の好きは、何度も言うがファンとしてという前提の言葉である。
『雅実さんは普通に言う……言うが、私にはどうにも恥ずかしくて』
「言えないなら関係は進まないわよ!翼にだって、雅実がこれ以上貴女の方に近寄ってくる気が無いのくらい分かるでしょう?貴女が近付かないとダメじゃない」
デートの回数が重なり仲だって深まってきているのに一向に進展がないのは雅実のせい。
だが、それは同時に翼のせいでもあるのだ。
ゲーム的な例えをするのならば既に2人の友好度とか親愛度の値はMAX近くで止まっていて、次は愛情度などを上げねばならない。
雅実の愛情度を上げたいのなら、当然翼が動く必要がある。
『しかし、むぅ……』
「……良いわ、気長にやりましょう?」
『そうだな』
「でもまぁ当然といえば当然だけど、雅実ってば結構モテるらしいから、油揚げをさらわれなければ良いけどね」
『えっ、それはどういう』
「じゃあね翼、お休み」
『お、おいマリ』
どうにも煮え切らない翼へ爆弾を放り投げて、マリアは電話を切った。
雅実の周りに女の影がチラホラしているのは慎次の調査や雅実の妹Sの話からも明らかで、マリアとしては翼にうかうかしていて欲しくない。
雅実の数少ない友人である少女にマリアは見覚えがあり、更には親友の親戚たちの中にも見覚えがある少女がいるという、かなり気を揉む事態になっている。
その他にも大学の女子連中にもある程度の人気があるらしく、餌付けをされているという情報もあるのだ。
もっとも、前者は雅実とそういう関係になるような付き合いではなく、後者は悪い意味でイケイケな日皇大の体育会系どもをシメて治安を良くしていることへの人気であるのでマリアの心配は的を外しているのだが、マリア視点から見る雅実は好漢なのでモテるという過大評価もやむ無しといえばやむ無し。
「あの男ほどの優良物件なんて中々居ないんだから、翼には頑張って貰わないと」
これほどまでに翼が気に入るような男が簡単に現れるはずもない。
お見合い相手が雅実であったことを幸いだと思うのと同じくらい、今回の見合いがポシャってしまったら怖いとマリアは思うのだった。
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前世で近くにいた女たちは皆、極度の筋肉フェチだったり強い男大好きだったり傷つけて欲しい系女子だったり古強者好きだったりで、極めて満足していたことを雅実は理解できていない。
今の世界でも、雅実自身が眼中にないために感知していないが遠巻きに彼を見ている女はそこそこいる。
マリアには伝えていないが、そういった女たちを遠ざけたり別の場所へ誘導してデートを発見させないように緒川慎次はしていたりなんだり…………
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