シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子   作:レノボのカナリア

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またしても無駄に血生臭い感じ&とても痛いメアリースー的な感じになってしまったので嫌な方は


前世で神格化されてるよ!

前世の孫ちゃんたちのおかげで人間らしくなったよ。

学友大好き!だから何でもしちゃうよ!


とだけ覚えてこの話は飛ばしてください。



あ、お久しぶりです。


友の話

朝早くに雅実から連絡を受けた時、実のところ翼は不満を持った。

 

気持ちよく寝ていたのに起こされたから!などという事では当然なくて、それは連絡の内容が翼的には大変宜しくない物であったからだ。

 

 

 

 

「申し訳ないんだけど、明日のライブには行けなくなった」

 

から始まったその連絡。

何か身内に不幸でも有ったのだろうかと尋ねれば、友人に乞われたので国を発つのだという。

 

中東へ、護衛として!

 

 

友人のために!と言うのは……まぁ仕方がないことは理解しよう、友の危機に立たぬ方が最低であると翼は思う。

学友が雅実に話を持ち込んだことも、雅実は見た目相応の実力を持っているらしいので確かに用心棒だの護衛としては最高だろうし、頼りたくなるのもよく分かる。

 

 

だが、大ファンだと知っているアーティストの復帰ライブに、それもその前日にそれをキャンセルさせる話を持ち込むとはなんなのだろうか!

何度も言うが、翼はそれが仕方がない事なのは分かっているのだ。

 

分かった上で不満を持っている。

 

 

学友があちらこちらの軍人やら特殊部隊やら傭兵部隊やらと親交を持っているのは、既に翼も知っているのだ。

初めて雅実から聞かされた時はなんの冗談かと笑ってしまったが、それを調べていた忍者から事実であることを教えられた時には絶句したことを覚えている。

 

何が言いたいのかといえば、雅実に頼らずともそういった本職のプロたちに頼めば良いではないか!!と、いうことだった。

 

 

勿論そんなことは相手に言えるはずもなく、翼は電話口から聞こえてくる雅実の言葉に相槌をうっていた。

 

仕方がない、本当に仕方がないのだから、仕方がないのだ!

 

翼の内心をチープに、馬鹿っぽく表すのなら、わたしとともだちどっちがたいせつなのよ!といった所だろうか。

せっかく復帰ライブ前に気分が揚がっていたのに、朝からこんな話を聞かされて!とでもしようか。

 

 

 

 

「でもね、たとえ今回のライブが復帰ライブではなく引退ライブだったとしても、俺は同じ選択をするよ」

 

電話越しのその言葉には、そんな翼の不満を吹き飛ばすに十分な力が込められていた。

 

 

「学友は俺の生涯で最初の……生涯で唯一の親友だ。俺は他の友が殺されたとしても、まぁ我慢出来るし、法に則った対応だってしてやろう。しかし、もしも奴が悪意でもって殺されたとしたら……………俺は絶対に下手人を赦さん」

 

もしもの話に対するものとは思えない怒りと殺意が、その力の源であった。

相槌が止まってしまった翼に気づきもせずに言葉は続く。

 

 

「何処へ隠れ潜んだとしても、俺の手で必ず殺してやるつもりだ………だとしても奴は俺にそれを望まないだろうから」

 

だから……と、雅実。

 

 

「そうならない為に、俺は君より奴を優先するんだよ」

 

内包した殺意と圧力の強さに反比例するかのように、その声自体は終始平坦だった。

通話相手である翼に対する気遣いだったのかもしれないが、だからこそ、それを理解できた翼が受けた衝撃は凄まじいものであったのだ。

 

出会いから今に至るまで常に優しく穏やかな態度を崩さなかった雅実と、半年近くの付き合いでそんな男に完全に馴れてしまった翼。

関係の継続など望んでいなかったくせに好きな相手だからと猫を被って穏便に終わらせようとした雅実サイドが悪いのか、得ていた情報とは違う性格の男に違和感を覚えなかった翼サイドが悪いのか…………今となってはどうでも良い。

 

 

怒りの感情など微塵も出さなかった相手が一投足にその辺りのメーターを振り切った姿を見せた時、翼は………………

 

 

「つ、つまりね、本当にごめんねって話なんだ。せっかく貰ったチケットだし、大切な復帰ライブなのにこっちの都合で行けないなんてさ」

 

翼の無言をどう取ったのか、慌てたように謝罪を重ねていく雅実に

 

「事情はわかりましたので、気にしないで下さい……では、御友人ともども怪我など無いようご自愛を」

 

と、多少不自然ではあるが無事を祈る言葉を吐き出す事が出来たのは、雅実のマシンガン謝罪が始まってからたっぷり2分が過ぎた後のことである。

2人はこの後、二三他愛ない言葉を交わして通話を終えた。

 

 

 

 

「ふぅ、そこまで怒ってなかったかな…………しかしまぁこんなことになった今だから言えるが、マリアに新しいステージ衣装を見せてもらって良かったなぁ」

 

と、雅実が胸を撫で下ろす一方で

 

「雅実さんがあそこまで惚れ込む男か。一度、直接お会いせねばなるまいな」

 

と、知らぬとはいえをこの関係を終わらせてしまう決意をする翼であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

前世において百と三十ちょっと生きて、それなりに満ち足りて死んだ男が唯一得られなかったもの、それは対等な友情であった。

 

男の産まれた家が気狂いした武芸者一族だったことは、かつて記した通り。

男がどんな生き方をしたのかも、少しだけ記したその通り……血と死の匂いに満ちたものである。

 

 

産まれが奇特で、育ちが奇特な男に友など作れようか?

他の人間だったならば作れたのかもしれない、だが男には到底無理だった。

 

 

――――

 

 

 

産まれた時から周りには師の門下生や一族の部下、自身を利用しようとする一族、自身を恐れる一族がいて、成長してからは自身を敬遠する息子たちや、あまりにも沢山の敵だらけ。

世間一般で言われるような学びを知らず遊びも知らず、殺す術だけを学び生きて、まともという言葉を遥か彼方へと置き去った凄惨な日々。

 

東に走っては敵を殺し西に走っては敵を殺し、北や南に走ってもやはり殺した。

海を渡って敵を殺し、町に砂漠に森に谷に、隠れ潜んだ敵を探し出して殺しに殺した。

 

世界の大多数の誰も彼もが男の足元に及ばぬ取るに足りない存在であったが、反抗心過多の者や思い上がりが著しく酷い武芸者、世界征服などを宣う政治家など、悪の芽生える勢いだけはそれこそ天に昇る竜の如くあったので、男が血を浴びる生活は本当に長かった。

 

 

ヤクザを殺し、忍者を殺し、海外マフィアを殺し、宗教家を殺し、軍人を殺し、研究者を殺し、独裁者を殺し、男も女も老いも若きも殺すべきと定めた者を殺して続けて……敵と言える存在が消えて無くなったのは、結局九十歳を過ぎた頃。

最近愚か者が現れないな……と、5年6年と様子を見てもやはり敵が出てこなかったので、もはやこれまでと見定めて一族の頭領を退くに至る。

 

 

頭領を辞めたこの時点で、いまだ影も形もない最後の内縁の女以外の妻は悉く死んでいた。

だからというわけではないが、男は自身の身の振り方について特に悩むことなど無く、一族所有の小さな平屋にて余生を静かに過ごすことにしたのだが。

 

 

 

 

「お爺! 暇なら遊ぶべ!」

 

「暇ならじゃなくて暇だよね、遊ぼう!」

 

「前々からひいお爺様と遊びたかったの!」

 

「「「「やいの! やいの!」」」」

 

「は? …………………む? ……………………そうか? 遊びたいか? 私と? ……正気か?」

 

「「「「勿論!!!」」」」

 

 

予定していた静かな余生プランは、孫曾孫たちのおかげでその日の内に消しとんでいた。

不承不承というより困惑が先に立つような感覚に陥った男だが、そんな男が物怖じという言葉が存在しない世界線に産まれたようなこの孫たち曾孫たちに絡まれ、連れ回され、引きずりだされるようになってしまい、そこから妙な第二の人生が始まるのである。

 

 

 

 

前提の話としてこの子ら――年齢的には子供ではない――の大金持ちの遊び人……いや、趣味人だった。

 

 

かつては男によってセルフ族滅しかかっていた一族だが、マッチポンプよろしく今では男によって隆盛を極めていたので大層な資産を有する一族となっている。

というのも、人間らしさというものを余り持ち合わせていなかったくせにやけに義理堅い行動基準を持っていた男が、上記の通りに暴れまわった土地やら国で立ち行かなくなった者たちを一族や部下、弟子などに迎えることが多かったから……そういった者たちが頑張ったのである。

 

自分たちを救った男のために!と奮起する連中を訝しげに眺めつつ、なんだか嫌だから、というわずかばかりの嫌悪感を理由に暴れまわり続ける男の下には更に人が集まっていた。

 

 

男は久我の家に生まれ変わる以前から根っこの所では善人なのである。

打ち倒した連中は善良な者ではなかったし、殺した連中とて悪と認

定することに躊躇いが出ない者たちであったことからもそれはわかるかもしれない。

 

 

人としての常識をある程度学んだ久我雅実の感覚としては、前世の男を悪だと思ってしまっているのだが、人らしい性格を余生に至るまでは得られずに居ただけで、敵に対するアプローチの仕方が暴力であっただけで…………救われたことでこの男を肯定し、この男に敬服する人々はたくさんいたのである。

 

 

上記のままに世界規模で治安が悪く、悪党が跋扈していた男の世界。

ゴッサムシティが世界中に広がっているだとか、手配レベルマックスのGTA世界だとか、とにかくそんな世界なのだと理解して貰った上で考えてほしい。

 

 

か弱く、善良で、抑圧され、怯える日々を送っていた人々が、

どこからともなく現れた人ならざる巨躯と人ならざる絶大な力を持った救い主をどう見上げるか。

悪や圧政者を討ち滅ぼすだけでなくその後には手を差しのべてさえくれる救い主をどう扱うか。

 

 

男のこの世の物とは思えない技は、それを向けられない者たちにとっては神の御業であった。

 

男が実働を部下任せにした救済措置は、結果として男と民衆の間に壁を作り、それが厳かなる権威付けの様相をもたらした。

 

 

 

神とその高弟がいて、高弟たちが民衆を導き、民衆の中から高弟にと迎えられ神の御言葉を直接聴くことができる立場の者が現れた。

 

それはどうしようもないほどに宗教の成り立ち、そのままであっただろう。

 

 

乱れに乱れた世界に降り立った荒人神とその一派だ、人と金が集まらぬ道理はなく…………………男の一族は財閥と宗教が合体したような組織になっていったのである。

 

 

 

 

 

そして、そんなやんごとなき一族に産まれ育った孫曾孫たちは当然金持ちで、苦労しらずの坊っちゃん嬢ちゃんたちだ。

息子世代はそれはもう勤勉かつ生真面目に男の後を追っていたが、この子供らはそんなこともなく遊び呆けていて、年長の一族に呆れられる有り様。

 

ただ彼ら彼女らは、遊びを妙に大きな規模の話にしてしまう才覚を皆して持っていたので、あらゆる所でスケール違いにも程があることをしでかしていた。

 

 

一人はサッカー好きが極まりすぎて新たなプロリーグ設立と複数のスタジアムを新設し、一人は理想を体現した船を望んで腕利きの職人を集めた造船所を設立し、一人は恐竜の化石を集めに集めた博物館が欲しいと世界中の発掘現場や研究者たちに多大なお金をばら蒔き新種の化石を大量に発見、自分が考案したスポーツを世界規模で流行らせたいとあちらこちらに布教する者、過去現在未来のすべてのアニメやマンガを収集するミュージアムを造る者、統一された言語が欲しくないか?と言語を造る者、新たな書道の流派を立ち上げる者、荒野から切り開いて牛やら馬やらを生産する牧場を造った者エトセトラ、エトセトラ……………さすがに宇宙に永住可能なコロニーを造りたいという夢は当代では叶わなかったし、マリアナ海溝の最深へと至る潜水艦を造る夢もまた叶わなかった。

それでも宇宙と深海への進出に大きな進展を見せたことは、以降数世紀に渡るフロンティア開拓ムーブメントの礎として後の世まで語り継がれる事となる。

 

 

そんな孫ら曾孫らは、荒廃した世界に染み渡り行く風を、例え本人たちにその気はなくとも送り込むことに成功した。

男や息子世代が残していた血生臭さを一掃し、新しい世の中へと進む風である。

 

男を神聖化しなかった者たちもこの風には乗らざるをえず、結果として一族の成長に繋がったことは呆れていた年長たちも認めるところであった。

 

 

 

そういった連中が娯楽のごの字も知らない男を引きずり回すのだから、それはもう大変なことだろう。

 

あれは知ってる?知らない?じゃあ知ろう!という有無を言わせぬ連携技にあっちへ行きーのこっちへ行きーの、波にゆられる海藻のごとき男。

身体を使った物は男には簡単過ぎたので早々に除外されたがそれでも多くの趣味を叩き込まれ、三十年弱で男は半自動殺戮マシンからなんちゃって人間へと変貌を遂げた。

 

 

くだらないジョークを真顔で飛ばすようになった男を見た長男は古の芸人のようにずっこけ、曾孫の子を背中に乗せてお馬さんごっこをしている男を見た次男は卒倒し、アロハシャツを着ながら書道に励む男を見た三男は激しい頭痛に頭を抑え、どこからともなくやってきた女を内縁の妻に迎えていた男に息子世代は皆天を仰いだという。

 

男の事を怖がり過ぎたのだろうかと年長者たちが省みたどうかは分からないが、少なくとも息子世代は男に対してほんの少しだけ親しみを覚えたことは言うに及ばない。

 

 

 

さて当然といえば当然のことであるのだが、孫らの数が多い以上趣味の布教には勿論順番というのがある。

年齢順でも背の順でも名前の順でもなく、単純にじゃんけんで決まったその順番で、男への布教を最後に追いやられてしまった孫が布教したのはアニメ他サブカルチャーと呼ばれる物であった。

 

 

「お爺の産まれた年にやってたアニメでも見んべ!」

 

と、宣った孫が見せた物がシンフォギアだったことは――最初に見せるものがそれか?もっと差し障りのない物は無かったのか?とかなんとか、色々言いたいことはあるのだが――とりあえず置いておくとして…………男はそのシンフォギアに心を奪われた。

それまでの趣味探訪で超が付く技量の歌手やら演奏家に会ってきたし、劇やアートなどその他もろもろの芸術にも触れて眼が肥えていたのにも関わらず、ただのアニメにハマったのである。

 

 

既に歴史上の産物であったDVDプレイヤーをどうにかこうにか手に入れ、既に過去の異物ともいえるDVDをやっとこさ手に入れ、消え去って久しいHDMI端子が使えるモニターを必死こいて手にいれ、そんな感じでそれらを用意した孫のため、男は全神経を集中してシンフォギアを視聴した。

 

引退からそこまでの間、孫たちによる趣味探訪と情緒の開拓によって男の中には綺麗事というか夢物語を心の底から受け入れる下地が出来ていた。

荒んだ世界で荒んだ生き方を続けてきた男にとって、友情努力勝利だのボーイミーツガールだの日常系だのといった物語は受け入れ難いものだったはずなのだが、元の価値観を更地にするだけの威力があった穏やかな三十年であった。

 

そんな全てを受け入れられる心持ちの人間が、世を絶するほどの集中力で生かして全力で視聴したのだから、ハマってしまっても仕方がない。

例えそのアニメがサザエさんだのドラえもんだのでも、おそらく同じくらいにハマったであろうが………………今さらである。

 

 

シンフォギアを見終わった男は、DVDと同じく死に絶えていたCDとそのプレイヤーを所望し集め始めた。

金に糸目を付けず可能な限り良い状態の物を、本気で集め始めた。

 

その時点で男は沼に片足を突っ込んでいたが、手応えを感じた孫が背中を押すようにあらゆる伝を使ってその収集を手伝い、手伝いつつ他の名作アニメやら漫画やらを渡すものだから、速攻で沼に落ちていた。

他の孫たち曾孫たちは自分たちが布教したもの以上に男がハマったことを憤慨しつつも

 

「だったら自分たちの布教したものを題材にしているアニメでも渡そう!!」

 

と攻勢をしかけて巻き返しを図っていった。

 

古いアニメだがサッカーならキャプテン翼があるし、競馬ならマキバオー、書道ならばらかもん、スペースオペラなら銀英伝!

過去のジャパニメーションだけに限って見ても豊富なのに、海外の作品を含めればまさに選り取り見取り!といった状況である。

 

勧められた作品群は名作揃いで、男はその全てを楽しく飲み込んでいった。

 

 

 

 

時代が移ろって行こうとも名作が名作であり続けるのは常識であり、それらを嗜むのは楽しい、本当に楽しい。

 

だが、そうしてアニメや漫画ドラマに映画に小説その他もろもろ、大量の物語に触れるようになって男の中には誰にも言えない想いが産まれた。

 

 

 

――友が欲しい。対等な、胸を張って友といえる者が――

 

別に、己の背を預けるに能う武力を持つ人間!などという誇大妄想の具現化ともいえる存在を望んでいるわけではい。

立場も能力もなにも関係なくただ隣に座って笑いあい酒を酌み交わす、そんな友が居てくれたらどれだけ幸せだろうかと、思ってしまった。

 

色々な作品に友人が出てくる。

それらは喧嘩もしよう、仲違いもしよう、そのまま別れもすれば仲直りもしよう。

 

対等な友情を持ち会えばばこそ喧嘩も出来るし仲直りもできる。

その対等な友情というのを、男には持ち得なかった。

 

 

産まれ落ちた時から武の道におり、己の才能故に、一族の性質故に、皆が皆格下で、倒すべき敵か部下や弟子しか周りには居なかったのだ。

誰もが誰も男には追従はしても追い越そうとはしなかったし、男を越えようとも、男に並び立とうともしなかった。

 

 

そんなこと今までは気にもならなかったが、気にするようになってからは、これまでの人生が酷く惨めなものだったのではないかと思うようになってしまったのだ。

市井の者たちは己よりも遥かに弱々しいが、皆、友や仲間と必死に生きているだけで、己よりも遥かに上等な存在なのではないかと、

思うようにもなってしまった。

 

 

 

勿論、どこからどうみても現状の生活は幸せそのものだろう。

 

経緯はどうであれ周りには沢山の可愛い孫たちがいて趣味も充実しており、荒れくるっていた世界は今では平和なのだから……そう思ってはみても、やはりシコリは残った。

 

そうしてそんな想いを抱いたまま、そこそこ生きたある日のこと、男はふと、今日寝たらきっと死ぬのだろうと直感し、毎度のごとく曾孫たちに連れ回された翌朝、布団の中でコロッと息を引き取っていたのである。

 

一番下の曾孫が嫁を貰うのにも、一番下の孫が嫁に行くのにも、それぞれ立ち会うことが出来たことで心残りは無い。

 

 

仕方ないのだ、自分は、自分が得られる分の物は得たのだから対等の友くらいは諦めよう。

土台自分のような人非人が友を欲することが間違っているのだ………………そう割りきった往生であった。

 

 

 

 

 

 

だというのに、なぜかは知らないが久我雅実としてシンフォギアの世界に生を受ける。

 

産まれた意味など知らない、産まれた理由など知らない。

 

ただ、産まれ落ちたそこには優しく尊敬出来る両親と良き兄がいて、更には可愛い妹たちも自分の後に産まれるという家庭であった。

その頃はまだ親戚の糞さ加減は見えてこなかったので、自分はなんと素晴らしい家に産まれたのであろうと大歓喜したものである。

 

 

そんな、死ぬ前に抱いたシコリの解消を望むならならばこれ以上はないと言うほどの上々な境遇は、幼い身体に精神を思いっっっっ切り引っ張られた男の性格をあらぬ方向へとねじ曲げた。

 

有り体に言えば、男をバカにしてしまったのだ。

 

 

 

思い返せば顔が茹で上がることなのだが、男にとって人生初の入学式は、始めて通う学校が楽しみ過ぎて前日に熱を出して欠席することになるというアホの極みで潰れた。

翌日に熱が引いたのと同時に少しだけ冷静になって恥ずかしくなった男は、己は本当は老人なのだからと落ち着くことにして……………ものの見事に孤立したのである。

 

 

子供は異質な物を嫌い、遠ざける。

なぜか入学初日におらず、さらには独特の空気を纏う雅実が子供たちの波を掻き分けてしまうのは当然だった。

 

前世においてはなんだかんだと小さな子供たちに懐かれることが多くなっていた経験上、そのうちなんとかなるだろうよ……とのほほんと構えていた男だったのだが、実際には一切の進展もなく1人で学校生活を送ることなってしまう。

実時間2ヵ月が過ぎたあたりで流石に寂しい物を感じてきた男だが、そこで学友と出会うのであった。

 

 

この頃から人たらしの才覚を遺憾なく発揮していた学友が自分のクラスの次に仲良くなろうと思い狙ったのは、隣の男のクラスであった。

休み時間にクラスメートと別れて隣の教室に入ってみると、そこに居るのは男1人だけ、しかも窓の外をぼーっと眺めている。

 

これは話しかけねば!と学友が話しかけ、他人との会話に飢えはじめていた男がそれに応えた結果、あれよあれよと言う間に2人は意気投合。

他人とすぐに仲良くなる学友ですら後に振り返ってあれ以上な感じはほかに無い、と断言するほど噛み合った2人であった。

 

精神年齢で言えば遥かに離れた2人だが、バカになった男と大人びている学友ならば釣り合っているのかもしれない……

 

 

 

「私にとって、君が始めての学友だな」

 

会話の中で放たれた学友という子供にはどうにも聞き馴染みのない言葉の響きに面白味を感じたことがきっかけで、この友は学友と名乗るようになってしまった。

そのせいで男が他の人間をクラスメートと呼ぶはめになったのは内緒の話である。

 

コミュ力モンスターな学友と親友になったのをきっかけとし、男の交遊関係もほどよく広がっていった。

ほんのり感じていた寂しさも当然、なくなっていた。

 

 

 

 

男にとって幸運なことは、一番最初の友人が一番相性の良い友人であったことだろう。

 

男にとって不運なことは、一番最初の友人が一番相性の良い友人であったことだろう。

 

 

男にとって、学友という存在はとてつもなく大きな存在になっていた。

 

餓えていたところに与えられたエサが極上の代物であった獣は、もはやそれ以上を望めないし、望まない。

 

 

男はこれ以降、友は増やしても親友と呼べるものを増やそうとはしなかった。

学友に出会うのがあと数年遅ければ、学友に出会うのが普通に友人を作った後だったなら、男……久我雅実の生き方は変わっていただろう。

 

 

 

 

 

「…………」

 

少なくとも、遠く日本を離れた中東の地で、空から突然現れた人形生命体を有無を言わせず殴り飛ばすようなことはなかったはずである。

先手必勝が戦の常とはいえ、明らかに異常な行動であった。

 

 

「え、え? 何で殴ったの?」

 

「怪しいからな」

 

「いやまぁそれは、そうだけどさ」

 

人形生命体が物凄い勢いで吹き飛んで行った方向に目をやっている現地ガイドを横目に、学友は頭を抑えて続けた。

 

 

「おぉ!貴様が新たな同胞か!って言ってたから、友好的な人だと思うんだけど」

 

「あの状況で友好的な態度を取るのは、逆に敵だろうよ」

 

吐き捨てるように返す雅実に、学友は頷いて良いものかどうか悩む。

学友の人付き合いセンサーではあの人形生命体は間違いなく友好的だったのだが、彼の親友がそこまではっきりと言いきる以上、敵対者の可能性も無くはない。

 

 

「居なくなった奴のことを考えても時間の無駄だ。はやく目的地へ向かおう」

 

周りに被害を出さないように手加減したので死んではいないだろうと殴った感覚的に確信していた雅実の頭には、すでに人形生命体のことは欠片も残っていなかった。

再度向かってくればもう一度殴ろう、とすら考えていない。

 

 

今現在の雅実は学友の安全と目的だけにしか重きを置いていない。

周りに被害を出さない、などという配慮が出来るだけでも誉めて良いくらいには学友の事だけを考えているのだ。

 

時刻的には翼のライブが行われている、ということすら忘却の彼方であると言えばその視野の狭さが分かるだろう。

 

 

「そうだね、そうしようか」

 

自分の為に親友がそうなっていることを重々承知している学友は、ひとまず人形生命体の事を完全に忘れる。

カーブル国際空港に着いた時からすでに殺気だっていた親友の心労を思い、早めに終わらせて元に戻したいという気持ちはもともとあったのだ。

 

親友に比べれば他人の安否など……………結局のところ、類友と言うしかない2人であった。

 

 

なんだこいつらという現地ガイドの表情は、残念ながらそんな2人には届かないのである。







中東の空港までは学友が借りたプライベートな飛行機で来ました。
飛行機の中で目茶苦茶食べた結果、雅実の体が縦横に大きくなりました。


アヌンナキがログアウトしました。


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