シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
中東における学友のビジネス話は結局、大変上手く行った。
話の中身自体にまったくといって興味を持たなかった雅実が威圧感を抑えもせずに付いて回っているせいで相手方が折れたことを上手く、と言って良いのかはさておき、元々今回のトラブルは現地の宗教組織と現地の商売人、そして裏の格闘大会で学友と交友関係を持った裏の貿易組織がぶつかりそうになったことが大元であった。
雅実は聖遺物関係というかそういう研究を仕事にしたいのかな
?などと思っていた学友は、前々から自分で聖遺物を手に入れて親友に渡せないかと模索していたのだが、関係を持てた裏の貿易組織が渡せそうな聖遺物に心当たりがあると言ってきたのだ。
欲しいな、となんとはなしにおねだりした学友に応えるために組織が手を出したのは、なんでも古代の中東に存在した聖人が保持していたナイフだそうで…………それを保管していた宗教組織とそことの話を仲介をしていた商売人の間で交渉が縺れに縺れ、貿易組織が現地へ飛び纏めようとしたが駄目だったという。
勿論三方ともに大事にするつもりなど微塵もなかったが、変に拗れかけたためドンパチの気配がむんむんと立ち込めはじめていた。
そのことを聞いた学友がどういう対応を取ったのかはお分かりの通りだろう。
雅実を連れて現地入りし、解決である。
本当ならば武力絡みということでアメリカ軍の友人を頼みにしようと思っていたのだが、裏の貿易組織とアメリカ軍が出会って何事も起きないはずはなく、仕方がなく雅実に頼んだ。
雅実の為にというお題目で動いていたのに、結果は雅実に迷惑を掛けてしまっただけということになってしまったのは痛恨のミス。
親友が楽しみにしていた風鳴翼の復帰ライブを諦めさせてしまったということも、学友的には大きい。
ナイフが手に入ったことは良しだが、それが果たしてこのミスを消すほどの成果なのかと言われれば勿論No!だ。
雅実はライブに行けなかった事などそこまで気にしていないだろうが、だからと言ってそれに甘えては親友の名が廃る。
じゃあどうする?となって学友は…………………
夏も終わりかけの9月。
今日から2日にかけてウチの学祭である皇道祭が行われているということで、構内の空気は明るく楽しげに弾んでいた。
あちらこちらにテントが並び、建物は飾り付けられ看板がくくりつけられていたりなどして、普段とはまるで違った姿をしている。
去年の今ごろは馬鹿な連中がまだ少し残っていて危なかったから色々とシラミ潰に回っていた俺だが、今年はもう本格的に参加しても大丈夫だろうと色々な所の出し物に顔を出すつもりだ。
空手部が割った板をくべて豚汁を作るだとか柔道部が畳を外に並べて茶道チックな店を出すだとか、中々愉快な出し物があるようで今からとんでもなく楽しみにしているんだが、俺以外の参加者が一番に気にしているのはシークレットなサプライズゲストの存在だった。
構内の中心にある広場に設けられた特設ステージ。
そこで誰だかは知らないが大物歌手がライブをする!と話題になっていたんだ。
その話を聞いたとき実行委員会に入っている学友に聞いてみたんだが、誤魔化すように笑うだけでなんにも分からなかった。
まぁ教えられないよな、シークレットな訳だし。
そう納得していた俺だったんだが、偶然その大物歌手の正体を知ってしまったんだ……知りたいか?知りたいだろう?
実はな、その歌手ってのはマリアの事だったんだよ。
先日翼ちゃんと出掛けた時にふとシークレットなサプライズの話をしたんだが、そうしたら彼女
「え、え、あ、そ、そうなんですね、あはは、楽しみですね……私も楽しみです」
とか言ってた。
翼ちゃんも楽しみってことはきっとこっそりと日皇大に来るつもりで、そうしてそのステージを見るんだろう。
だったら、もう選択肢はマリアしかいない!
サプライズ楽しみーとか、誰だろうね?とか言ってる道行くそこのあなた方、俺は知ってるんだぞ!
スゴいだろ?偶然だけど!
ふははは、実は俺、マリアも大好きだから初めて生歌聞けるってんでずーっと楽しみにしてたんだよなぁ。
CDもライブのディスクも全部持ってるし、いやぁ本当に楽しみだ。
「し、知り合いを発見したデスよぉ!」
「ん?」
浮かれた俺の耳に飛び込んできたのは、会うのがちょっと久しぶりな切歌ちゃんの声だった。
声の方を見ると、やっぱり切歌ちゃんが立っていたんだが……1人だな。
「こんにちは切歌ちゃん」
「こんにちはデス!あの、調かクリス先輩、というか誰か見てないデスか?」
誰かって誰だろう?
「立花さんとかかな?」
「そうデス!今日は皆で来てたんデスけど、はぐれてしまいまして」
面目ないデスよと笑う切歌ちゃんを可愛く思ったから一緒に探そうかと提案したら
「お願いしまーす!」
と元気にお願いされたので、お願いされることにした。
さてと切歌ちゃんを引き連れて構内を歩き回っていたんだが、歩けども歩けどもどうにも見つからない。
話によると一緒に来ているのは立花さん、小日向さん、クリスちゃん、調ちゃん、他の先輩1人ともう2人だそうだ。
他の先輩というのは誰かわからないが、もう2人の片割れは多分エルフナインだっりするのだろう。
切歌ちゃんは俺がエルフナインと遭遇していることを知らないから、名前を出していないようだ。
「うーん、いないデスねぇ」
「結構探したんだけどね。どこか回ってみる、とか言ってなかったの?」
「えーっと、そういえばクリス先輩が弓道サークルのほうに行くとか何とか言っていたような、言ってなかったような?」
「あ、曖昧すぎる……」
もうちょっと人の話は聞こうね?
「じゃあそっち行こうか」
「はいデスよ!」
と、また歩きだそうとしたところで、切歌ちゃんが止まった。
「誰かいた?」
彼女の視線の先には少なくとも俺が知る人物は居なかった。
「いました!おおーい!」
大声をあげて手を振った切歌ちゃんに道行く人々が顔を向けるが、誰かを呼んでいるのだと理解した途端に顔を戻して行って、最後に残った視線は彼女よりも年下の女の子からの物だった。
「あ、暁さん!見つけました!」
「えへへ、ごめんなさいデスね。で、他の皆は」
「少し手分けして探したらサークル棟に集合しようって話になって、バラバラに動いてますよ。ところで、えっと?」
「俺は久我雅実だ。切歌ちゃんとはちょっとした知り合いなんだ」
切歌ちゃんと仲良く話していた女の子がこちらを見上げて困惑しているから、軽く自己紹介をした。
この子が装者たちとどういうレベルの付き合いなのか分からないから、差し障りのないところだけど。
「久我雅実さん……?」
「そうだよ」
「えっと……あ、知ってます!姉さんから聞きました!」
姉さん?
誰か知り合いの妹なのか?
「あ、あの、セレナ? その話はちょっと」
「セレナ?」
「はい、私はマリアの妹のセレナです」
セレナ、セレナってセレナ・カデンツァヴナ・イヴか?
は?
なんだ? どういうことだ?
「セレナ、ちょっとセレナ待つデス!」
「え?」
「つかぬことを聞くんだが、マリアの妹って1人だけだよな?」
「はい、そうですけど……?」
「ちょ、まっ」
マリアは、その経歴というか来歴がかなり有名な女だ。
シンフォギアGにおいてテロリストとして現れたくせに実は国連のエージェントでした!なんてカバーストーリーが用意されたこともそうだが、インタビューなんかで度々家族の事を答えていたりもした。
だからまとめ掲示板にはそういうマリアの設定、というかプロフィールが載せられていて結構知られているんだよ。
俺も、当然知ってる。
アニメでも見たし、この世界でも調べたからな。
マリアは、親は知らないが妹が1人いたと答えていた。
いた、なんだよ。
いる、とは言ってなかったんだよ。
「……」
「あ、あの雅実さん?セレナはですね、その」
「いや、大丈夫だよ」
「ほえ?」
「うん、大丈夫だ」
またコピー躯体か……………翼ちゃんや立花さん、クリスちゃんのそれみたいな。
しかもあの子達とは違って、自分をマリアの妹のセレナだと思い込まされているのか。
あ、いや、しかしあの子達は明らかな偽名を………………やはり、皆自分をコピー元と思い込まされていたんだろうか。
「セレナちゃん」
「は、はい」
「困ったことがあったら俺に言いなさい。俺は力だけならあるからね」
「「え?」」
仲良く出掛けているということはきっと、マリアも切歌ちゃんも調ちゃんも、この子のことをセレナだと受け入れた後なのだろう。
俺とて、クローニングのような物を否定する気は一切ない。
だが故人のコピーを作り、あまつさえ故人本人なのだとコピーに刷り込むなど外道極まる!
きっとこの子達は受け入れるまで相当の苦悩があったに違いないんだ!
このような卑劣の極致ともいえる蛮行を働いた者は俺が直接潰してやりたいが、それはこの子達がやるべきことだろう。
ならばせめて、露払いはしたやりたいな……………
「な、なんか壮絶な勘違いをしているような………」
「もしかして、私は名乗らなかった方が?」
「いやまぁ勘違いしてくれてますし、良いんじゃないデスかね?多分、きっと、おそらく?」
なにか2人が話しているが、俺の耳には入らなかった。