シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
上位者たるアヌンナキとであっても人は分かり合えるということを、エンキやシェム・ハのことで装者たちは理解はしていた。
最初からヒトに希望を持っていたエンキはともかく、ただの装置としてしか考えていなかったシェム・ハでさえも戦いの後にはこちらを認めていったのだから、それはそうだろうとも。
勿論他に存在しているアヌンナキたちの皆が皆そうだとは思わないが、それでも言葉が通じる以上はそこに大きな望みがあることは明白だ。
はぐれ錬金術士が地球外から受けていた「我が敵手を見つけたり」というメッセージが有っても翼やマリア、そしてたったいま合流した響を筆頭とした装者たちも、その望みを信じていたのである。
「土星の輪っかが小さな氷の塊の集まりだってのは知ってましたけど、そこで溺れるなんてことがあるんですか」
「あぁ、この星に来るまで少しうとうとしてしまってな………ふと目覚めたら氷の海に突入してしまっていたと言うわけだ」
「なんというか、それは大事がなくて良かったですね」
「まったくよ。永く生きたゆえ死ぬのは別に構わんが、宇宙で溺れ死になどしてしまったら、恥ずかしくてあの世にも行けぬという話だわ」
信じてはいたけれど、いくらなんでも一般人と仲良くお話しているのはどうかと皆一様に思った。
「あぁ、翼さんたちが呼んだ子たちも揃ったみたいですから、こちらも本題に入ってしまいましょうか」
「そうだな」
「先ほど漏れ聞いた話から察するに、僕に誰かとの仲介をして欲しいということで良いですか? 」
「まったくもってその通り!」
部屋の外で押し問答をしていた際のアポイントメントという言葉に気がついていた学友にアヌンナキは膝を打つ。
「お主のことだ、相手にも察しはついているのだろう?」
「そうですね、僕の親友である雅実……あぁ、貴方をこの間殴り飛ばした男の名前なんですけど、彼でしょう」
「その通りだ」
知り合いの名前が出たことで口を開きそうになった装者たちだが、流石に割り込むことはせずに我慢である。
「しかしなんでわざわざアポなんて取ろうと? 前みたいに突然会いに来れば良いのではないですか?」
「それをやったら特に反応も無いままに殴り飛ばされたのだが? 気づいたら我、地面と平行に岩山に突き刺さっていたのだぞ。 友好的に話しかけたはずなのだがな」
「あー…………」
「予め行くと宣言しておけば、とりあえず殴るなどとはならん筈であろう?」
「まぁ、それは、確かに」
「ねぇ、ちょっと!? ちょっと待ってちょうだい!?」
バイオレンスまっしぐらな反応は、親友を守るために雅実の気が立ちに立っていたせいである。
それを知るがゆえになんとも言えない顔をする学友だが、流石にこの話には我慢出来なかったマリアが突っ込みを入れる。
「殴り飛ばされってそんなとんでも物理的な話!?って言うか前って何なの! え? 貴方って昨日今日で地球に戻って来たのではないのかしら!?」
「ぶ、不躾に騒がしい女よ……我がこの星に帰還したのはお前たちに分かりやすく言えば………あぁ、2ヶ月以上前のことだが、何か問題でもあるのか?」
「いえ、問題が有るわけではないのだけど……」
迂闊に知り合いだと言えない雅実のやらかしとアヌンナキ出現とその行動のスケジュールを問いただして整理したいところではあるが、何から話せば良いのやらと頭を悩ませるほかない。
後方に控える他の装者たちはもうマリアに任せれば良いやと黙って成り行きを見守っている。
「話、もどしますね。雅実へのアポですけど来週の火曜日の朝イチだったら空いてるので取り付けておきますよ。他だとさらに明後日の夜とかになりますけど」
「来週の火曜…………理解した、それで頼む」
このアヌンナキが地球にいた頃には存在しなかった曜日という概念に一瞬考え、うなずく。
元より時間など有り余る存在だ。
一二年程度であれば誤差のようなものであるし、急ぐものでもないからいくらでも待てようというものであった。
「あ、そう言えば」
スマホを取り出し、スケジュール共有アプリを開いて内容を入力しようとして
「お名前をまだ聞いてませんでしたね」
名前を知らなかったことを思い出す。
「ん、我が名か、我が名は…………………」
「我が名は?」
「……………………イシュクル、そう、イシュクルである!」
たっぷり30秒ほど悩んだ末にアヌンナキの男はそう名乗った。
「……偽名ですか?」
あまりにもあんまりな名乗りであったので、学友がそう聞き返してしまったのは仕方がないことだっただろうか。
「自らの名前を名乗るなど長らく無かったがゆえ、度忘れをしてしまっただけだ」
「名前って忘れるものなんですかね?」
これまで一言も発していなかった響の呟きにイシュクルは少しだけ困ったような顔をしてそちらへと向き直った。
「我らがシェム・ハから逃げるために地球を去ってどれだけの時が過ぎていると思う。名乗る相手も居なかったのだ、名など埒外に決まっているだろう」
言い訳と言い分の合間を縫うような言葉にそれはそうかもと装者一同が納得した様子を見せるが、学友は首を傾げて何やら思い出そうとしている。
メソポタミアの神の名前として伝わっているその名を思い出そうとしたのは、オタクの嗜みとして神話の数々をそらんじていた雅実から聞いたことがあるだけなので、本当に大したことではない。
いや、そんなどうでも良いことを記憶の片隅にでも残していただけ学友は大したものであるか。
思い出すことは早々そうに諦めて、というよりシェム・ハって誰だろう?などと思う学友であったが本件には関わらなそうなのでスルー安定である。
関係ないことには言及しないのも、人付き合いのコツだ。
「あ、そうだ雪音さん」
「え? あ、や、その、なんすか?」
突然水を向けられたクリス。
雪音、お前学友さんと知り合いだったのか!?みたいな強めの表情で見つめてくる翼にビビりつつどもって返すと、学友は微笑みを浮かべる。
「あの日の帰り、大丈夫だった?」
「あの日って……あ、大丈夫、あんちゃんにはちゃんと送ってってもらったから」
防人の眼力に気を揺さぶられながらしどろもどろのクリスに、笑みを深めて学友はうなずいた。
「そう、それは良かった。雅実から大事ない!って聞いてはいたけど、一応君からも教えてほしかったんだよね」
「なるほど?」
「ははは、一応だよ一応。 まぁ、今度時間が有れば他の子たちのことも教えてほしいかな」
目線が他装者のことを指しているのを察し、クリスは小首を傾げる。
今話せば良くないか?という彼女の気持ちを理解しているのかいないのか、学友は席を立った。
「それでは僕はこの辺で外しますね」
「聞いていかないのかしら?」
「え? いや、マリアさんたちとイシュクルさんの話に関しては僕部外者ですからね?」
そういえばそうだった………と意味のわからない勘違いをしていたマリアを横目に見ながら
「むむ、我には話などないのだが………」
とイシュクルが呟いていたのは、学友しか知らない。