シンフォギア習作 振れば風の鳴る翼的な女の子 作:レノボのカナリア
みんなの優しいお母さんアイドルことマリア・カデンツァヴナ・イヴはとんでもなく気分が良かった。
今なら切歌と調を抱えて踊り出せると鼻歌混じりに呟く程度には良かったのである。
今日は翼の見合い当日であり肩の荷が降りたこと、練習相手お疲れ様会などと称して調と二人で「少し早めのお高いランチ」を計画していたこと、英国でも格式が高いとされるTVSHOWに招待されたこと、遊びに来ていたセレナとエルフナインが仲良くしていてニヤニ……いや微笑ましかったこと、精神的にプラスの状況が一気に出来上がったのだ。
これ程までに祝福された日があろうか!いやない!とヒールを鳴らしながら廊下を闊歩するマリアに、すれ違うSONGスタッフ達も大統領的なオーラを感じて道を譲る。
世界は優しい、むしろ甘い!とマリアは笑っていた。
翼から電話が入るまでは。
見合いをしているはずの友からの着信に、マリアは小首を傾げたものの何か危急の話かと思い通話ボタンを押した。
「マリア、マリア! 助力を頼む」
繋がった瞬間に小声で迫真のSOS。
すわ一大事か!とマリアは話を聞く体勢をしっかりと作る。
相手になんらかの問題があるというのなら、練習に漏れが有ったとしても可笑しくはない。
不承不承とはいえ練習相手としての責任もあることだから、その漏れに対応しようと腹に力を込めた。
「何よ!? 一体どうしたと言うの!?」
「それが……かくかくしかじか、こういうことなんだが」
「まるまるうまうま……え? つまり何? 貴女、今とてつもなくテンパってて失言パーティーした挙げ句、後ろに相手を待たせて私に電話していると言うの? 」
「つまりはそういう訳なのだ」
状況を理解したマリアは脱力したように壁にもたれ掛かった。
練習に付き合った身としては不満のひとつも言いたくなるような体たらく、ため息くらいは吐かせて欲しい。
「何やってるのよ翼。そんなに難しい話じゃないでしょう? 貴女は別に、本気でお見合いを成立させるために其処に居るわけじゃないのよ? あくまで相手の顔を潰さないようにと礼儀正しく会話して、それでお食事して、さようならすれば良いって練習でも言ったじゃないの」
「そ、それで緊張しないなら苦労はないでしょう!?私としても、何で自分がこんなになっているのか、良く分からなくて……」
ふにゃふにゃしてる剣、クッソ可愛い! と、思いながら言葉を続ける。
「大丈夫よ、落ち着いて翼。まったく、いつも通りに相変わらずなぶきっちょさんね。まだ致命的なミスをしたわけじゃ……いや、突然語気を強めたり電話をし始めた時点で色々アレだけれど、うん、まだ、大丈夫? じゃないかしら、多分」
「どっちなの!?」
「うろたえるな! いい翼?貴女はこの後電話を切って、相手に謝ったあと、何でもなかったと言えば良いの。 今の段階で黙って後ろに控えてくれてる以上、相手も知らぬ存ぜぬで済ませてくれると思うから」
「う、うん」
「よろしい。でも気を付けなさい? 聖遺物云々のことや天羽々斬がどうとかは良いとしても、貴女がアーティスト活動と平行してSONGでシンフォギア装者をやっていることは普通は知られてはいけないのだから、それだけは間違っても口に出さないように!」
「わかった!ありがとう、すまなかったマリア!」
「良いわよ、これも練習相手の責務だもの。 でもそうね、終わったらショッピングにでも付き合って貰おうかしら」
「ああ!荷物持ちでもなんでもしよう!では……!!」
「健闘を祈るわ……………まったく、手の掛かる子なんだから」
精神的に持ち直した翼との通話を終え、マリアはふぅと息を吐いた。
理解していたつもりであった翼の生真面目さと気弱な部分を、自分はまだまだ理解しきれていなかったようだと思い、面倒なだけの練習相手のおかげでまたひとつ彼女を知ることが出来たと多少の喜びを覚えたマリア。
さて、それじゃあ調と出掛ける準備をしようかと壁から離れた時、再び携帯に着信が入った。
「じ、実は携帯のスピーカーモードがONになっていたようで…………聞かれてしまった」
反射的に通話ボタンを押したマリアの耳に飛び込んだのは、べそを掻く寸前の翼の声と聞きたく無かった言葉であった。
何を聞かれたのだとか、そもそも聞かれたのではなく聞かせたのだとは言うまい。
「…………………………今すぐ司令に判断を仰ぎなさい、今、すぐに!」
ただそれだけの言葉を告げるのに、マリアは一分近く深呼吸を強いられたのだった。
みんなも気を付けよう、スピーカーモード。