『破ァッ!』とか霊媒師みたいな事ができない霊能力者は異世界で静かに暮らしたい   作:新田トニー

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第21話 姉妹と説得、そして強敵と友

「もうセッティングは完了した。後はこのスイッチを押すだけよ。貴方達の努力は水泡に帰したようね」

 

 1号から5号を倒した俺達に、フランが勝ち誇るように言い放った。フランの後ろには丸いドーム型の大きな機械の塊にロケットような物が佇んでいる。

 

「マズイぞ……このままじゃ起動されてしまう!」

 

 俺は焦りながら言った。

 

「その前に俺達が撃つ」

 

 ブルートはリボルバーをフランに向け、引き金に指を置いた。もしフランがスイッチを押してしまうようなら、押す前に容赦なく撃つつもりのようだ。

 

「フラン、もうやめなさい」

 

 そんな時、俺達のよりもフランに一歩二歩近づいたのがモランだった。悠然と自分に近づくモランに対し、フランはスイッチに手を掛ける。

 

「押すわよ」

「ならなぜまだ押さないの?こうやって話している間にもいくらでも押せるでしょ?」

 

 モランが冷静に言うとフランは押し黙る。フランは計画を成功させる前に何か別の目的があるのだろうか、未だにスイッチを押さない。

 

「へっ、どうせ姉ちゃんに構ってもらいたかったから、こんな騒動を引き起こしたんだろ?もう自分の計画はボタンひとつ押せば達成出来るってのに、押さないのが何よりもの証拠だろ」

 

 ブルートは銃を構えながら笑っていった。その言葉に、微量ながら怒りを顔に滲ませたフランは、

 

「私はお姉ちゃんみたいになりたかった」

 

 ポツリと言葉を溢した。

 

「私は別にお姉ちゃんの中にいるだけでも幸せだったのに、お姉ちゃんは私のために身体を作ろうとしてくれた」

「そうよ…!姉が妹の幸せを思うのは当然の気持ちでしょ?」

「私はお姉ちゃんに何もしてあげられていない。いつも貰うばかりだった。だからお姉ちゃんに見合う自慢の妹になるために私なりに、一生懸命考えてここまで来たの」

 

 フランは訴えかけるように言う。彼女は自分のしていることを正しいと思っていた。自分の体を作ってくれた偉大な姉に相応しい妹になるべく、こんな大層で破滅的な実験を繰り返している。

 

「貴方ったら、頭はいいのにおバカだったのね」

 

 モランは呆れたように言った。突然の姉の発言に妹は目を見開いて愕然としていた。

 

「えっ……?なんでそんなこと言うの?私、お姉ちゃんに褒められるためにここまで頑張ってきたのに……!」

「私が貴方に倫理的教育をしてこなかったことは謝るわ。今なら間に合うからこんなこともうやめなさい」

「嫌だよ。この計画は絶対に達成しないとお姉ちゃんに認めてもらえない……!」

「…本当に認めてもらいたいなら、私に一言相談くらいしなさいよ!!」

「えっ?なんで怒ってるの?」

 

 モランは声を荒げてフランに向かって言った。フランはなぜ自分が怒られているのか分からず茫然自失としている。

 

「私はね、貴方が居なくなって本ッ当に心配したのよ!?探しても見つからないし、夜は全然眠れないし、もしかしたらどこか知らない所で迷って泣いてるんじゃないかって気が気じゃなかったわ!」

 

 モランは彼女自身の赤裸々な思いをぶつけた。俺達といる時はあんなに明るく振る舞ってたのに、心の奥底では不安や心配を押し殺していたのか。

 

「やっと見つけたと思ったらこんな人様に迷惑かけて貴方自身も危険に巻き込んで一体何考えてるの!?」

 

 姉のモランに怒られてフランはあわあわと口に手を当てたり目が泳いだりと明らかに動揺している。あまり怒られたことがないのだろうか、慌て様が尋常ではなかった。

 

「それに、貴方は科学者として間違っていることがあるわ」

「な、なに…それってなに……?」

 

 フランは縋るようにモランを見る。

 

「影響力よ。貴方は自分で考えてるよりも他者への影響を考えていないのよ」

 

そんなフランにモランはキッパリと言い放った。

 

「私は私自身の発明を悪用されないために常に徹底しているわ。それで貴方は?もし野心のある悪人に力が渡ったら?何も知らない子供に渡ったら?一般人に与えるあらゆる影響を貴方は考えていない。そんな人が一人で私と同じになるなんて無理よ」

「そんな……」

 

 フランはスイッチを押そうとする手をぶらりと下ろし、両膝を地面に着いた。自分と姉では志の時点で既に姉に負けていた。そう噛み締めていたのか、無念そうに俯いていた。

 

 モランは少しずつフランに近づき、手が届く距離にまで来た。そして───

 

「もう姉妹喧嘩はやめましょう」

 

 と言ってモランは膝を折ってうずくまるフランを抱きしめた。

 

「あっ……」

「これが妹を抱きしめる感触ね……中々どうして、悪くないじゃない」

 

 モランはしみじみと感傷に浸りながらフランを力強く抱きしめていた。フランもそれに釣られて、モランの背中に両手を絡めて抱きしめた。

 

「ごめんなさい、お姉ちゃん。何も言わずに出ていっちゃって……!」

「本当よおバカ……!今度やったら許さないからね……!!」

 

 姉妹はついに再会し、お互いを愛しく感じながら抱きしめ合った。

 

「…どうやら撃たなくて済みそうだな」

 

 ブルートは銃の引き金にかけていた人差し指を離し、ホルスターに閉まった。張り詰めていた空気はいつの間にか解け、2人の姉妹が仲睦まじく泣きながら笑い合っていた。

 

「…俺も兄弟とか欲しかったな」

 

 俺はふとそんな事をを呟いてしまった。一人っ子の心境としては、モランフラン姉妹のような喧嘩や仲直りなどが羨ましく感じた。俺にも兄が弟が居れば俺のこの孤独を分かち合うことはできたのだろうか。

 

「兄弟が欲しいなら、この我が兄になっても良いのだぞ?」

「お前みたいな裸族の王様が兄だったのなら、俺は今以上に鬱になってるよ」

 

 俺の肩を強く叩いて揺らすダンゲル。俺はそんな彼に鬱陶しさを感じつつも、不器用な励ましとして解釈し、俺も不器用ながらもその気持ちを受け取った。

 

「なぁ、この5人のお友達はどうすれば良いんだ?」

 

 ブルートが実験体の5人に指を差す。彼等は未だ倒れ伏し、動き気配がない。

 

「俺達は一応奴らを拘束しておく」

 

 ブルートは銃を構え、気絶している奴等に近づく。

 

「いや、その必要はない」

 

 俺達の背後から、声が聞こえた。どこからともなくいつの間にか男がいた。

 

「…なんだ、アンタ。俺達と同じ観光客ってェ訳じゃじゃなさそうだな」

 

 ブルートは男を睨みつける。男は長身痩躯の白い長髪が目立っていた。髪だけでなく肌も極端に白いため、まるで死人が死化粧をしたような儚さを感じる。

そして何より、真っ黒なスーツを着用している。まるで今日葬式があったかのような雰囲気を含んでいた。そもそもこの世界に日本の礼服までもが存在するとは露程も知らなかった。

 

「フラン、私と交わした契約は覚えているかな。私が施設や資金を提供する代わりに君の技術は全てこちらに帰属するものとすると」

 

 男はフランに語りかける。愛想のかけらもない冷たい氷のような視線がフランに向かう。フランは何故か震え、恐れのあまり、両手で自身の身体を包む。

 

「貴方、何者?私の妹と何の関係があるの…?」

「私は彼女の支援者だ。感動の再会の所悪いんだが、彼女、つまりフランに用がある。そこを退いてくれないか」

 

 男は簡潔ながらも丁寧な口調で言う。退いてほしいという彼のお願いに、俺達は

 

「「「「「断る」」」」」

 

 俺以外の全員が同じ言葉を言った。ちなみに俺は言ってない。だって怖いもん。面と向かってあんな怖そうな顔したお兄さんにそんなこと言えないよ。

 

「…彼女の姉はともかく君達はどう言った関係かな?私は彼女のビジネスパートナーなんだが」

「其方の言葉でフランは怖がっている。それを無視する事は出来ない」

「乗りかかった舟だ、最後まで付き合うさ」

「ダーリンがそういうなら私もね、生きる時も死ぬときも一緒よ」

 

 ダンゲルが胸を張って言う。ブルートやルミールも仲良さげに笑い合っていった。だが銃口は男に向けたままだが。

 

「私、貴方みたいな高圧的な態度の男の人嫌いなのよね。ほら、カナデも私達と同じこと思ってるわ」

「すいません、俺を巻き込まないでください」

 

 メアリーがフンと鼻を鳴らして言う。ブルートやルミール、俺以外の全員が同じ気持ちだった。彼等が感じてるかは分からないがこの男、何か他の奴等とは違う。コイツが現れた瞬間、幽霊達が怯えて逃げ出した。今俺の周りには生者しかいない。

 

「…そうか。では致し方ないが、実力行使で行かせてもらおう」

 

 男がそう言うと、ゆっくりと歩き出す。

 

「おいおい、馬鹿みたいに真っ直ぐこっち来られちゃ、ただの的だぜ」

 

 ブルートは銃口を男の頭に向けながら言った。そして3発男にお見舞いした。弾丸達は真っ直ぐ男の元に飛んだ。だが、それらは男の頭をすり抜け、空を切った。

 

 このすり抜け方、どこかで見た覚えがある。実体は確かに目で見えるのに、蜃気楼のように掴めないこの違和感を、俺は知っているはずだ。

 

「なんだ…?すり抜けやが──」

 

 ブルートが言い切る前に、男は刹那の瞬間にブルートの目の前に近づき、手を胸に添えた。中国拳法の発勁のように、男がブルートの胸を軽く押した。

 

「うっ……!?」

 

 その瞬間、ブルートは大の字で倒れた。意識が持ってかれたような、魂が抜けてしまったような倒れ方だった。

 

「ブルート!!」

 

 ルミールが叫び、男に怒りの視線をぶつける。

 

「気をつけろ!奴の身体は幽体だ!物理攻撃が効かない!」

「テメェ!あたしのダーリンに何してくれてんだァ!!」

 

 俺はたった今確信し、皆に向かって叫んだが、頭に血の登ったルミールは身体の中から全ての武器を出し、照準を全て男に向けて撃ち放つ。彼女の怒りと共に轟音が鳴る。爆弾と銃弾と火炎が男を包んだ。だが、

 

「流石、マッドギアは機械文明が発達している。しかし、ここまで改造すれば自我が崩壊してもおかしくないのに正気を保つとは……素晴らしい忍耐力だ」

 

 男は炎の中から現れ、またもや瞬間移動してルミールの前に近づき、頭を掴んだ。

 

「ぐっ!?離せ!」

「勿論」

 

 男は言葉の通り、ルミールの頭から自身の手を離した。するとルミールはブルート同様同じ倒れ方をした。

 

「ブルート!ルミール!」

 

 メアリーが叫ぶ。ダンゲルやメアリーが応戦しようとするが、男は二人まとめて先程と同じように手で触れただけで二人を倒してしまった。

 

「メアリー!ダンゲルさん!」

 

 モランが叫ぶ。フランはただ震えることしかできない。俺も同様に、汗を拭って震える身体を抑えるしかなかった。

 

 どういうことだ、と俺は混乱していた。だが俺が混乱していたのは、ブルートやルミールの倒され方じゃなく、その後だ。倒された後の四人が()()()()()いる。宙に浮いている。これじゃあまるで──

 

「魂を、抜かれているのか…?」

「何…?まさか君、見えるのか……?」

 

 俺のボソリと呟いた一言に、男は驚いた。見えるのか、という事は奴は実際に彼らの魂を抜いたのだ。

 

「そうか、おそらく君も私と同じ……」

 

 男は意味深なことを呟いた。

 

「だが、圧倒的な力を羽虫に使っても、虚しいだけだ」

 

 男は俺の方に目を向け、近づこうとした。やられる。俺は悟った。心臓が高鳴り、汗が噴き出す。その時だ、その時俺は奴の動きが、スピードが辛うじて見えた。どういうわけか分からないが、実体が消え、煙のように動く姿が見えたのだ。高速移動の正体がその時点で分かった。コイツは幽霊だ。だから物理攻撃が効かない。

 

 俺は男の手を払い、距離を取った。触れる事が出来た…?俺だけが奴の身体に物理的接触が出来た。俺だけが奴に攻撃手段がある。いざとなれば、俺の持っている剣だけでやるしかない。物理攻撃が効くかわからないが、それでも死なないために抵抗はしなければならない。

 

「私の攻撃を見切った…?しかも私に触れただと……?」

 

 男は自分の手を見つめ、あり得ない、と呟く。それと同時に男の喉元には笑いが込み上げていた。

 

()()()と同じ能力者か……!ならこちらも手加減はしない。全力で叩き潰す」

「嘘だろ!?今のは偶然だから手加減してくれよ!」

「無理だ」

 

 もう先程の舐めプをする気は微塵もなく、本気の雰囲気を感じた。次は回避できる自信がない。俺はただ霊が見えるだけの、それ以外は普通の男なのに、なんでこんな死の危険に怯えなきゃいけないんだ。

 

「おい」

 

 不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。懐かしい男の声、その声の主が、俺を殺さんとした男の顔をぶん殴った。

 

「俺の親友に何をしようとしてるんだ?」

「ぐっ……貴様は……!」

 

 男、いや、礼服の男は頭に顔を滲ませ、口から血を吐く。対して現れた別の男は、いたずら小僧のように俺を見て笑った。

 

「えっ……?なんでお前が……」

「会いたかったかい?」

 

 突然現れて俺の窮地を救った男の名は封元祓(つかもとはらい)、俺の……親友だった。

 


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