大魔道士の異世界迷宮譚 作:コント
「盾ェ、構えぇッーー!」
号令と共に打ちあがる、数多の衝突音。
怪物たちの進撃を掲げられた何十枚もの大盾が受け止める。
その突撃の威力を物語るように、盾を構えた者達の踵が地に埋まった。
「前衛、密集陣形を崩すな!後衛組は攻撃を続行!」
凶悪獰猛な怪物(モンスター)を迎え撃つのは複数の種族からなるヒューマンと亜人の一団だった。
二枚の巨盾を構える筋骨隆々のドワーフ、矢と魔法を間断なく打ち込むエルフと獣人。
褐色の肌のアマゾネスの姉妹は戦場を駆け巡り、味方の射撃をかいくぐりながらモンスターへと切りかかる。
前衛後衛に二分される部隊の中、陣の中心でばさばさと風にあおられるのは、一本の旗だ。
刻まれているのは滑稽な笑みを浮かべる道化師のエンブレム。
一柱の『神』と契りを結んだ、「眷属」の証。
「――――――っっ!」
「ティオナ、ティオネ!左翼支援急げ!」
この戦場にて誰よりも小柄な少年(小人の団長)の指示が的確かつ矢継ぎ早に飛ぶ。
戦いの趨勢を見極める統率者の声は高く鋭い。目まぐるしく移ろい傾きかける戦況を、彼の指揮が幾度となく立て直す。
「あ~ん、もう体がいくつあってもたりな~いっ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」
命を受けたアマゾネスの姉妹が疾走し、三体のモンスターを一瞬で切り伏せる。
事実、悪夢のような光景であった。
どこからともなく現れるモンスターの大群。屠れども屠れども途切れることなく押し寄せ、その数を持って呑み込もうと襲い掛かってくる。
一匹一匹が大のオトナを易々と越すその巨体は、化石の骨にも似たこん棒型の鈍器を振り回し、最前線で盾を構える者達の顔を苦悶に歪めた。
肩を並べ密集しあった彼らの防衛線はじりじりと交代していき、半円を描く陣形がその規模を小さくしていく。
「リヴェリア~ッ、まだぁー」
アマゾネスの少女の声が向かう先、前衛組が庇うその背後。
魔法と矢を連発する魔導士や弓使いに囲われた中心から、その美しい声は絶えず紡がれていた。
「【―まもなく、焔は放たれる】」
翡翠色の長髪に白を基調とした魔術。浅く水平に構えられるのは白銀の杖。
細く尖った耳を生やした、絶世の美貌を持つエルフ。
この戦場で誰よりも美しくある彼女は、その玲瓏な声で呪文を紡ぐ。
力強く、流麗な旋律を持つ『詠唱』。
足元に展開された魔法円は翡翠の色に輝き、無数の光粒を舞い上がらせる。
「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」
「―ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォゥッ!!」
流れる詠唱の一方でモンスターが吠える。
群れの中でもひと際巨体を誇る一体が仲間さえも蹴散らしながら驀進し、自らが持つ得物を大上段に構えた。
「【汝は業火の化身なり】」
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
紡がれていた長大な詠唱が完成へ至ろうとする。
「【焼き尽くせ、スルトの剣――我が名はアールヴ】!」
弾ける音響ととともに魔法円が拡大し、仲間達の、モンスター達の足元にまで広がった。
超広域の効果範囲。白銀の杖を振り上げ、エルフの魔導士、リヴェリアは己の『魔法』を発動させた。
「【レア・ラーヴァテイン】」
大焔。無数の炎柱が魔法円から噴き出し轟音と共に仲間達を避け、モンスター達を串刺しに、大上段に構え向かってきていた姿のまま
炎の中に消えていき、絶叫が折り重なる。熱気と火の粉に見たされ、世界が灼熱に包まれるかと思った矢先に一部の炎が不自然に途切れている箇所が表れる。
「うわぁ!あぶねー!!」
モンスターの後方、魔法の効果範囲内から人のものだと思われる声に眉根を寄せる。
一瞬の躊躇もなく、念のためにと団員の確認を素早くおこなわせると共に前衛に確認に向かわせる。
遊撃として大盾の傍まで下がっていたアイズ、ティオネ、ティオナ、ベートの4人が団長のフィンの声に反応して素早く駆けだす。
「なんだ?なんだ!?」
困惑した声が道化師の眷属達のもとにまで届く。
数秒の後に、オラぁ!という声と衝撃音が聞こえ先程の声がもう一度聞こえる。
「あっコラ、ベート!!」
「あんたちょっとは考えなさいよ、バカ狼」
「………ヒューマン?」
「は? 女の子と狼男!?」
不思議そうに響く男のものと思われる声に厄介ごとの予感で団長の親指がひとりでに動き出した。
狼の獣人でレベル5、第1級冒険者と言われるオラリオでも数えられる程度の人数しかいない強者である。
その足は世界の中心と呼ばれるオラリオでも1・2を争う素早さを持ち、その速さを生み出す強靭な脚から繰り出される一撃は大岩を砕き、モンスターを容易く殺す。
そんな彼の連続する攻撃は地面を抉りながら突然の闖入者を襲う。
「なんなんだテメェは!?」
「お前こそ何なんだ! …もしかして魔族かテメェ」
「あぁッ!何言ってやがんだテメェ!!」
ベートの攻撃が上下左右に振るわれるのを闖入者は避けて避けて避けて避ける…。
それは彼の強さを知る者からしたら驚愕すべきことであった。一緒に確認に来た少女達も闖入者がヒューマンであることと、実力を認めているベートが攻めあぐねている事実に動けないでいた。
「オラぁ!」
「くっッ!」
ベートの蹴りが闖入者の腹にめり込み吹き飛ぶ。
そのまま吹き飛んでいくと不自然に着地し闖入者が腕を振り下ろす。
「べタン」
その瞬間、ベートが上から押しつぶされるように前に倒れる。周辺の大地も一緒に上から巨大な質量でも乗っかったように陥没しその在り方を変えている。
「…ッ、くっ、テ、メェ」
「ったく、なんなんだテメェはよ。いきなり襲い掛かってきやがって、狼男」
服のほこりを払うかのように叩いた後、ゆっくりとベートの方へ向かっていく闖入者に再起動したアイズ達が慌てて動き出す。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったーー!バカ狼がごめんねー、私たち話をしたいだけなんだ」
「あんた、何者?」
「…ヒューマン?」
かしましいといった感じで近づいていくがそれでもすぐに対応できるような距離で話しかけてみると至って普通のヒューマンであり、オラリオで見た事のない強者であった。
外見はカッコいいわけでも、可愛いわけでもなく、その他大勢に埋もれる程度の普通さ。
だが、ベートとのやり取りで見せた近接戦闘と今もベートを地面に縫い付けている魔法の強固さは普通からは、かけ離れている。
「あんだぁ?この狼男の仲間で、後ろにいる団体さんもご一緒ってことでいいか?」
「そーなんだよねー。ほんとごめんね、このバカ狼が突然襲い掛かって」
「まぁ信じられないかもしれないけど、私たちはあなたと争うつもりはないのよ。そこのバカが勝手にしでかしたことなの謝るわ」
「……うん、そう、だと思う」
申し訳なさそうな雰囲気は一切ない。
「ホントかぁ? お前ら話に聞いた魔族のサキュバスとかっていうのじゃねぇのか? 2人はボイーンって感じだしよ」
にへへっと笑いながら上から下へと顔を動かし、揉み手をしながら3人の方へと進んでくるのを見て、1人は俯いて2人は「何言ってんだコイツ」って顔で近づいてくる男を見ている。
直接確かめさせて頂きますか~。と笑いながら近づいてくるヒューマンにティオナが俯きながら同じように近づき顔面に拳がクリティカルヒットする。
「へぶぅあ」
先ほどのベートに蹴られたよりもダメージを負ったように見える顔は地面とキスを尻が天に向かって伸びている。
「どうせ、ボイーンでも、バイーンでもないよ!こんにゃろ!何でみんな胸の話をするのさ!関係ないじゃんか!」
「ちょっと、ティオナ!話をややこしくするんじゃないわよ!!」
「関係なくないよ!ロキも言ってたもん。胸の話をしてくる男は喧嘩売ってるんやから、ぶっ飛ばせって!」
「…そうなんだ」
「そんな訳ないでしょ!あぁ、もう。取り敢えず団長を呼ぶから大人しくしてなさい、アイズもよ」
「………えっ」
ヒューマンの男がウーウー言いながら起き上がるときには「団長~♪」と呼んでいたティオネの傍にフィン、ガレス、リヴェリア、ラウル、アナキティ、それに数名が近くまで来ていた。
アイズは表情は変わらないが自分も一緒に注意されたことにガーン!といった背景を背負っている。
「っで。あんたが大将かい?」
さっきまで鼻の下を伸ばした姿を晒していた闖入者のヒューマンは胡坐をかいて道化の眷属達へと問いかける。
先程までのおちゃらけた雰囲気が一変していることに思わず息を飲んでしまうティオネ達は知らずに一歩さがり、頭を振って毅然とした態度を示す。
「ああ、ロキファミリアの団長をしているフィン・ディムナという。君は?」
「よっと! っとっとと」
胡坐をかいていた姿から立ち上がり羽織っていたマントが揺れ、悠然とした態度でフィンを見つめ告げる。
「俺の名前は『大魔道士』ポップ! さぁて、情報交換といこうぜ。団長さん。」