そもそも僕は男だし、別に魔法少女になれなくても。 作:ハニーフロスト
僕はどこにでもいる普通の男子高校生科学者だ。専門は物理。魔法なんか使えない。決して。
さて、なぜこのような事実を再確認しているかというと、今日一日で常識が崩壊しそうだったからだ。
◇ ◇ ◇
事の始まりは今日の朝、日曜日に発売する週刊誌を買いにコンビニまで行っていたその帰りのこと。……僕が何買ってもいいだろ? 科学者は科学雑誌しか買わないとか、そんなことはないんだ。
話を戻そう。道の真ん中に縫いぐるみが落ちていた。
「ぐるる……おなかすいた」
訂正、何か喋ってる。生き物なのか?
「あー、もしよかったらなんだけど、うちに来る?」
思わず話しかけていた。だってこんな謎の生き物、科学者としては見逃せないし。
◇ ◇ ◇
「ところで君は何か食べられないものはある? というか何を食べるの?」
家まで連れ帰ってきてしまった。テディベアにも似ているが、その背中からは大きな翼が生えている。帰ってくるときに少し触ったけど、とても柔らかかった。ちょっと埃っぽかったが、汚れたところは後で掃除しよう。それよりなによりかわいい。解剖したい。生物学は詳しくないけど。
「食べられる物なら何でも。……出来れば甘いものが食べたい……」
何でもいいけど甘いもの、か。おなかが空いているときに甘いものを食べたいっていうのは筋金入りだね。うちにある物で手早く作れそうな……ホットケーキでも焼くか。
「分かった。ホットケーキでいい?」
「お願いする……」
そうと決まれば早速料理を始めよう。料理は科学だといっていた学者もいるくらいだから、科学者である僕も料理は得意だ。……
材料。こういうものは分量をきっちりと計ることが大事だ。ユーチューバーなら取れ高だなんだって言って適当にやるのかもしれないけど、食べ物で遊んではいけない。
クックパッドを空中投影して調べよ。小麦粉に砂糖とベーキングパウダー……あ、これホットケーキミックス非採用型だ。それは強い、かもしれないけど僕には回せないかもしれない。ホットケーキミックス採用型のモノを探そう。あ、違う。こっちはパンケーキだ。
牛乳は新しいのがあるし、Mサイズの卵……サイズとかあるの!? あるな普通に。というかホットケーキミックスの裏にも書いてあるじゃん。
あとは……評価が高いやつだとレモン果汁が入ってるな。レモンはある。ヨーグルト採用型と豆腐採用型……ホットケーキと合わせるなら蜂蜜かチョコレートシロップとか? 蜂蜜と豆腐の組み合わせは聞いたことないな。ヨーグルトにしよう。
具材はこれで全部か。……具材? 素材?
順番に入れて混ぜる、と。泡立て器……うわ、そういえばパワー系の料理だっけ。
混ぜる……混ぜる。疲れた。ハンドミキサーじゃダメなの?
熱したフライパンに油を敷いて……加熱するからオリーブオイルか。てかサラダ油ってサラダ用っていうけどサラダに油かける? どんな料理?
生地をフライパンに流し込む。
ふつふつして来たらひっくり返すと。目測! 僕さあ、適量とか目分量とか超苦手。今かな? よし、くっつかない。
あとは蓋をしてじっくりと。
串を刺しても生っぽくないから、完成かな。
「はいどうぞ」
そうして作りだされたホットケーキはまさに黄金比。いやホットケーキの黄金比とか知らないけど。
ぬいぐるみも(……ぬいぐるみの名前聞いてないな)「おぉ~」と目を輝かせている。
「これ、食べていいの?」
「どうぞ召し上がれ。蜂蜜とチョコレートシロップあるから使う?」
「ありがとう……」
そう言ったぬいぐるみが食事をしているのを見ていた。蜂蜜とチョコレートシロップで網の目を作ったホットケーキを美味しそうに頬張っている。縫いぐるみのような身体なのにちゃんとナイフとフォークを使えているし、言葉も通じる。実は人間を素材にして創りだされたホムンクルスだったりするのかもしれない。
◇ ◇ ◇
「ごちそうさま……」
おかわりはいる? と聞いてみたけれどもう入らないって。すごいおなかが空いていそうだったけど、ホットケーキ一つでいっぱいになるなら燃費のいい身体かな。いや、むしろ見た目からするとよく完食したなっていう感想にもなるけど。無理させちゃった?
「ありがとう。この恩は必ず……」
めっちゃ
「いいっていいって、僕の興味本位でやったことだから。ついでにシャワーも浴びていく? かなり汚れているでしょ」
「それは確かに。しかし私どうにもシャワーというのは苦手で……」
「なら僕が洗ってあげる」
「ふえっ?」
よく考えると犬より小さいし、洗面台で洗えるよね。
◇ ◇ ◇
温めのお湯で縫いぐるみを洗い、やけどをしないように気をつけながらドライヤーで乾かす。
「隅々まで洗われた……もうお嫁にいけない……」
えっ、何かやたらと恥ずかしそうにしてたけど、性別♀だったの? 中身が? ……っていうか。
「初めから何も着てなかったでしょ」
「それでも!」
「はいはい」
それにしても見違えたな。最初は一年経過した玄関マットみたいなオーラだったのに、今なら神獣として崇められていてもおかしくないくらいの神々しさだ。
「あの……そんなに見られると恥ずかしい……」
「ごめん」
でも、これくらいはいいよね?
「それじゃあ聞かせてもらえる? 君が何者なのか、とか。どうしてあんなところで行き倒れていたのか、とかさ」
気になるよね。科学者はそういう生き物だもの。