今回はアニメの3話のエピソードですね。
私は自分の手札を見て思わず笑みがこぼれました。
悪くない、どころか最高の手札です。
これはひょっとしたら勝てるかもしれません……いや勝つんです!
「手札より魔法カード、大嵐を発動! これで貴方が場に伏せている魔法、罠カードはすべて破壊なのです!」
よし、これで相手のリバースカードはもうありません。
壁モンスターもいませんし、あとはモンスターでダイレクトアタックすれば私の勝利です。
さて、破壊した相手の3枚のリバースカードは…
―――ジャックポット
「―――っは!? ゆ、夢か」
ずいぶん懐かしい夢を見てしまいました。
『うなされてたね~。悪夢でも見たの?』
「ええ、ちょっとしたトラウマを」
【ジャックポット
通常魔法
このカードをデッキに戻してシャッフルする。
また、このカードが相手のカードの効果によって墓地へ送られた時、このカードをゲームから除外する。
この効果によってゲームから除外された自分の「ジャックポット7」が3枚揃った時、自分はデュエルに勝利する。
相手に破壊されることによって勝利を確定する特殊勝利条件カード。
これのお蔭で私は手札抹殺とか大嵐みたいな除去カードは二度と使わないという誓いを立てさせられたのですよ。
デッキ破壊なんてもってのほかです。
というか、この手の一掃カードをデッキに入れて、都合よく私の手元に来るときは大抵相手が有利になるパターンなのですよね。
暗黒界とか黄金の邪神像とか……うう、またトラウマが。
おかげで今の私があるわけなのですが。
太平洋上の孤島、デュエルアカデミアでの生活にもだいぶ慣れました。
四六時中デュエルモンスターの事ばかり学ぶのかと思っていましたが、別にそんなことはなく一般教科もちゃんと学ぶようです。
そのあたりは普通の学校と大差ないですね。
体育設備もあるんですよ。
体育館、運動場はもちろんの事、テニスコートや温水プールなんかも完全完備です。
恐るべきマネーパワーです。
教科と言えば、一般的な数学や歴史の時間割の中に錬金術が混じっていることに気づいたときはさすがに度肝抜かれましたね。
担当教員はオシリスレッド寮の寮監でもある大徳寺先生。
最初は何をバカなと思っていましたが、実際受けてみてびっくりなことに意外と本格的でした。
大徳寺先生曰く、デュエルモンスターズというゲームの起源をたどれば古代エジプトの錬金術に到達するそうで。
コンボやタクティクスとは全く違うベクトルからのデュエルモンスターズへのアプローチを試みるその内容はあまりにも新鮮で斬新で魅力的でした。
元から精霊が見えていた私は好奇心のままに大徳寺先生に質問をぶつけまくり、気づけば一番熱心に受講する科目になっていました。
それで、肝心の
担当教員はクロノス教諭です。
オベリスクブルーの寮監でもあるクロノス教諭ですが、どうにも自分を破った110番、遊城 十代がとにかく気に入らなくてたまらないようです。
理由は彼がドロップアウト組のオシリスレッド寮の生徒だから……だけではありませんね。
少なくとも他のオシリスレッド寮生にはそこまでの態度ではないですし。
問題は十代君の授業態度でしょう。
クロノス先生の授業に限らず、どの授業も基本寝てるだけ。
本当なら真面目に授業を受けないと強くなれませんよと叱りたい、でも結果を出してしまっているから叱るに叱れない。
教師からしたら溜まらんでしょうね、自分の存在意義を全否定されたに等しいのですから。
明日香さんの話によれば、夜中にこっそりオベリスクブルーのエリート、万丈目さんと
良い意味でも悪い意味でも手に負えない問題児。
ごちゃごちゃ理屈を並べましたが、要するにまあ、こういうことです。
オシリスレッドの新入生、遊城 十代君は天才なんですよ。
女子寮の設備はどれもこれも豪華ですが、一際ゴージャスなのはなんといってもお風呂場でしょう。
下手な旅館より広いのはもちろん、天上がガラス張りでしかもむっちゃ高い。
開放感が半端ないです。
「本当、明日香さんってばスタイル抜群でうらやましいですわ~」
「そんなにジロジロ見ないでよ、恥ずかしいじゃない…」
「ももえもまた胸が大きくなったんじゃない?」
「もう! ジュンコさんってばどこ触ってるんですか!?」
開放感だけでなく疎外感もまた半端ないですが。
もう身長がどうとか胸がどうとか言う次元じゃありません。
大人と子供です。
「何言ってるんですか! 遊理さんだってこんなに可愛らしいのに!」
『そうだよ! 需要あるって!』
「分かりましたから、ナチュラルに頭撫でるの止めてくれませんかね?」
どう考えてもそれは同い年の同級生に対する愛情表現じゃないでしょう。
ココロちゃんも慈しみの籠った目で私を見るな。
というか、何故ここにいるんですか?
カードは部屋に置いてきたはずですが。
「それにしても、今年入学の男子はロクなのがいませんね」
風呂場の女子のぶっちゃけトークは気づけば異性の話になってました。
「特にあの遊城 十代ときたら! うるさくて下品で生意気で! ねぇ、明日香さん?」
「どうでもいいわ……あんな奴」
「ダウト、明日香さん本当は気になって仕方がないんですよね?」
「えぇ!? 明日香さん!?」
「ち、違うわ!
さあ、どうでしょうかね。
私の見る限り脈はありそうですけど…
『う~んどうだろ? 明日香さんはともかく十代君は朴念仁男子の典型だし……でも他に明日香さんと釣り合いが取れる新入生ってなると、
「ラーイエローの三沢さんも素敵な殿方ですよね」
さりげなく会話に混ざるココロちゃん。
何故に言葉のキャッチボールが成立するのですか?
ひょっとして見えて…
「…………?」
ふと、お風呂場の外。
かすかにですが、強い
「遊理さん?」
「……誰かいる?」
「誰かって…誰ですの?」
「ひょっとして覗き?」
ジュンコさんが目を吊り上げます。
いやさすがにそれはないかと。
鍵だってかかってるし…
「覗きよ!」
「キャー痴漢~!」
マジですか?
女子寮の風呂場の横に現れた人影を取り押さえてみたところ、それはオシリスレッドの気弱な生徒、遊城 十代君といつも一緒にいる気弱な眼鏡の男子、丸藤 翔君でした。
私の感じた
勘違い?
『鍵見てきたよ、鎖が切られてたわ』
「…誰かが切ったんでしょうね」
しかし、件の侵入者である翔君は見たところ鎖を切れるような凶器は持ってません。
どういうことでしょう?
共犯者がいる?
「まあ! 明日香さまからラブレターですって?」
翔君の告白に目を丸くするももえさん。
証言を信じるのであれば、彼はラブレターでここに呼び出されたらしいのでした。
「うん! えへへ、ね?」
ニコニコと明日香さんに笑いかける翔君。
こうして縛られて拘束されていてなお、彼は全く悪びれる様子がありません。
本気で悪いことしたという自覚がないんでしょうね。
すぐに誤解が解けて解放されると信じて疑っていません。
「バカね、オベリスクブルーの女王明日香さんがオシリスレッドのアンタなんかにラブレター書くわけないでしょ?」
「ウソじゃないよ、今夜女子寮の裏で待ってますって、僕のロッカーに…」
「待ってください翔君。ロッカーって更衣室のロッカーですか? 男子の?」
「うん!」
「……そこって女子は立ち入り禁止なのですけど」
普通に考えたら女子である明日香さんが侵入できるはずがないのです。
「そ、それでも手紙がちゃんと…」
翔君はやや慌てた様子で手紙をポケットから取り出し、すぐさまそれをジュンコさんに取り上げられました。
ジュンコさんは私たちの前でその手紙を広げて……
「私、こんな汚い字書かないわ」
ばっさりと否定する明日香さん。
「オシリスレッドの殿方はそんなことも分からないのですね」
やれやれと呆れたようにももえさん。
「ええ? じゃあ、いったい誰が…」
「あら? この手紙、あて名が遊城 十代になってるわ」
「えええ!? う、ウソぉ?」
「ほら」
「ほ、ホントだ」
がっくりと崩れ落ちる翔君。
哀れです。
こんな穴だらけの偽のラブレターにあっさり騙されてのこのこあらわれ、しかも止めに間違いという。
かける言葉が見つからないのです。
「それで? どうします?」
さすがにこのまま覗き犯として学校に突き出すのは酷でしょう。
ある意味彼も被害者です。
はっきりしているのは、誰かが明日香さんの名を騙って十代君を陥れようとしたということです。
「そうね……私に考えがあるわ」
明日香さんはそう言って不敵な笑みを浮かべました。
明日香さんはもともと十代君とは前から戦ってみたかったようなので、今回の事件はまさに渡りに船だったのでしょう。
文字通りの意味で。
翔君を人質に十代君を呼び出した明日香さんは、翔君の身柄をかけて
そこまでは良いんです、やや展開が急転直下な気もしますが別にそこは良いんです。
だけど……
「ねえ! 戦うのは良いんですが、もっと別の場所でやりませんか? 何もこんな不安定な小舟の上で…」
「仕方ないわ、寮の近くじゃ先生に見つかる恐れがあるもの」
明日香さんと十代君は、それぞれ不安定な小舟の上に立って湖を挟んでお互い向き合っています。
いつでも何処でも誰とでも
湖に浮かんでいる小舟は全部で3つ。
1つは十代君と翔君が乗っている小舟。
翔君は座っていますが、十代君は
さらにもう1つは明日香さん、ジュンコさん、ももえさんの3人で乗っている小舟。
こちらも十代君と同様、明日香さんがデュエルディスクを構えて立っているので不安定です。
そして最後の1つは、私が1人で乗っている小舟です。
さすがに4人乗りで1人立つみたいな無茶はできなかったがゆえの余りですね。
明日香さん側に近い、両者の小舟に挟まれる位置で漂ってます。
この場で一番不安定なのは3人乗りの明日香さんたちの小舟でしょう。
転覆しないといいんですが…
「「
私のそんな心配をよそに、2人は
遊城 十代
LP 4000
天上院 明日香
LP 4000
「さて、どっちが勝つでしょうね…」
「そんなの明日香さんに決まってます!」
「オシリスレッドなんかに負けるはずがありませんわ!」
さあ、どうでしょうね。
私の見る限り、両者の実力は拮抗しているように見えます。
『
「安定感なら明日香さん有利、でも瞬間的な爆発力なら十代君ってところですかね」
要するに、どちらが勝ってもおかしくないってことです。
あ、先行は明日香さんみたいですね。
「私のターン、ドロー! エトワール・サイバー! 召喚!」
【エトワール・サイバー】
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1200/守1600
このカードは相手プレイヤーを直接攻撃する場合、
ダメージステップの間攻撃力が600ポイントアップする。
明日香さんに負けず劣らずスタイリッシュな女性モンスターが湖の湖面に現れました。
……派手な水しぶきとともに。
「だから、こんな場所で
『おお~水も滴るなんとやらだね~』
ちょうど近くにいた私は水しぶきを頭からかぶる破目になりました。
相も変わらずの
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
しかも
酷い…
まあ、いいか、こういうことは昔から慣れっこで今更気にしていません。
それにこういう目に度々遭っていたからこそ、私は精霊の存在をいち早く認知できたとも言えますし。
ただの立体映像だったらこんなのこと絶対にありえないのですから。
とりあえず、場所を変えましょう。
このまま明日香さんの近くにいたら、モンスターを召喚するたびにスプラッシュ直撃です。
私はオールを慣れない手つきで動かして十代君側に移動して…
「次は俺のターンだ! ドロー! E・HERO スパークマンを召喚!」
「!?」
【
通常モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1600/守1400
様々な武器を使いこなす、光の戦士のE・HERO。
聖なる輝きスパークフラッシュが悪の退路を断つ。
全身に青白い稲妻をまとったヒーローモンスターが出現しました。
バリバリバリッ!
まき散らさられる電撃。
「ほぎゃあああ!?」
直撃する私。
『しかも事前に水を浴びせることによって、電導率まで完璧という……なんという無駄のないコンボ』
「そんなコンボがあってたまりますか!」
ハネクリボーもこっち見て笑うな!
『遊理もある意味神に愛されてるよね~、笑いの神に』
「笑えません!」
あ、スパークマンさんがこっち見て申し訳なさそうにしています。
別にいいですよもう。
誰が悪いって、
そして十代君は明日香さん同様、私の存在に気づいてませんね。
大した集中力です。
「スパークマンで、エトワール・サイバーに攻撃だ! スパークフラッシュ!」
『リバースカードは警戒しないんだね』
「みたいですね。見た感じ攻撃反応系のトラップ……でも、カウンターでも無効化でもなさそうです」
「リバースカード、オープン!」
明日香さんがリバースカードを発動しました。
さて、何が飛び出すのか…
「ドゥーブルパッセ! 発動!」
スパークマンの手のひらから放たれた電撃がエトワール・サイバーに直撃する前に進路を変えて、明日香さんにぶつかりました。
うわぁ、痛そう。
先に受けたからこそ分かるこの感覚。
【ドゥーブルパッセ】
通常罠
自分フィールド上の表側攻撃表示モンスター1体が相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。
そのモンスターの攻撃は自分への直接攻撃になる。
その後、攻撃対象になったモンスターはこのターン相手に直接攻撃をすることができる。
「何!?」
「ドゥーブルパッセは相手の攻撃をプレイヤーへのダイレクトアタックに切り替える」
天上院 明日香
LP 4000 → 2400
「そして、攻撃対象となったモンスターは相手にダイレクトアタックが出来る! エトワール・サイバーの特殊効果! プレイヤーへのダイレクトアタック時、攻撃力が600アップ!」
エトワール・サイバー
攻撃力 1200 → 1800
「ぐああ!」
遊城 十代
LP 4000 → 2200
『凄いトラップを仕掛けてたわね……でもなんでこんなカードを使ってまであのモンスターを?』
「それだけ、あのエトワール・サイバーってモンスターが明日香さんにとって特別だってことでしょう。初手から手札に来てたみたいですし」
何より、私の知っているOCG版の【エトワール・サイバー】とは効果が微妙に異なるのですよ。
直接攻撃時に攻撃力がアップするのは同じですが、私が知っているのは600じゃなくて500でした。
こういうモンスターは異常に多い……というか、全く同じカードなんてこの世界には存在しないのです。
カードイラストもカードテキストも全部バラバラなんて、工業製品でしかなかった前世のOCGでは絶対にありえないことですが、この世界のカードは精霊の宿るカードです。
全く同じ精霊が存在しない以上、全く同じカードもまた存在しえないのですよ。
同じ効果で同じ名前のカードなら腐るほどあるでしょうけど、それでも厳密には違うんです。
心変わりのカードは世界中にあるでしょうが、ココロちゃんは世界で唯1人なのです。
私の知っている変わり種としては、カードイラストがアフロなワイトとか、やけに目つきの悪いブラックマジシャンとか、召喚されるたびにスッ転ぶドジッコなブリザード・プリンセスとか……最近だと、何故かトラップに引っかかってしまうポンコツ
まるで金のかかった間違い探しのごとく微妙に絶妙に違うので、過去に覚えた効果テキストを鵜呑みにするとひどい目にあいます。
というか、あいました。
無駄に奥が深いゲームです。
と、考え事している間に、十代君はターンを終了したみたいですね。
次は明日香さんのターンです。
その後、
「あんなのまぐれですわ!」
「そうです! 次やったら絶対明日香さんが勝つに決まってますわ」
憤慨しているジュンコさんとももえさん。
愛されてますね明日香さん。
『明日香さん惜しかったね~、あと一歩のところまで十代君を追い込んだのに』
「違いますよ。あれは追い込んだんじゃなくて、削りきれなかったんです」
結果、十代君の逆転勝ち。
やっぱり、天才っているんですねぇ。
明日香さんが惹かれるのも分からないでもないのです。
「ところで、なんで遊理さんは水びだしに?」
「十代君がサンダー・ジャイアントを召喚した時の衝撃でボートが転覆しました」
さらにその後、
本気で溺れるかと思いました。
その時は、湖に現れた謎の影に助けられたんですけど、結局あれは何だったのでしょう?
「そ、それは災難だったわね」
「良いんですよ」
慣れっこですから。
それよりも、お風呂場がもう閉まってしまっていることの方が個人的に大問題です。
謎の影の正体も、翔君を陥れようとした犯人も分からないままですし。
一応、大団円ですが、何1つ謎は明らかになってないんですよね。
まあ、それはさておきです。
今1番の問題は……
『風邪ひかないといいね』
全くです。
今回も主人公デュエルなしです。
設定的にプレイヤーよりも取り巻きとして動かした方が光るんですよね。
能力とかも解説者向けですし。
次は主人公のデュエルが書けるといいなぁ。
今回の考察は要するにブラックマジシャンはいっぱいいるけど、マハードさんは1人ですよってことです。
ポケモンに近いんじゃないかと思いました。